小高氏がもっとも苦労した『ダンガン』キャラは?

 2015年6月6日、京都・立命館大学にて、スパイク・チュンソフトの小高和剛氏による講演会“関西ミステリ連合・春の総会 小高和剛講演会”が行われた。この講演会は、立命館大学 推理小説研究会から、『ダンガンロンパ』シリーズの生みの親である小高和剛氏へ呼びかけられて実現したもので、立命館大学に集まった学生や一般の方からの質問に答える形で、小高氏は約3時間に及ぶ貴重なトークをくり広げた。講演会の冒頭は、事前に用意された質問に答える形で進行。本記事では、質問ごとに区切ってお届けしていく。

『ダンガンロンパ』小高和剛氏の立命館大学講演会リポート――小高氏の原点、ゲームへの想い、『ダンガンロンパ』の秘話が満載!_01
▲小高和剛氏。まさに講義のようなシチュエーションでトークを行った。

■質問:小高先生が、ミステリに興味を持ったきっかけ。好きな作品は?

 小高氏は、子ども時代はそれほどミステリ一辺倒というわけではなかったようで、小学生時代に江戸川乱歩、中学生時代に『金田一少年の事件簿』を読んでいたものの、熱心にミステリ小説を読み漁ってはおらず、仕事にするにあたって勉強として読むことが多くなったとのことだ。小高氏がミステリとの出会いでターニングポイントになったのは、『メフィスト』(講談社)の新人賞である“メフィスト賞”との出会いだという。西尾維新氏、佐藤友哉氏、北山猛邦氏など、そうそうたる面子を輩出したメフィスト賞だが、小高氏はメフィスト賞作品の多くが、ミステリをエンターテインメントの題材のひとつにして、間口を広げていることに驚きを覚え、それ以来注目しているのだとか。ミステリの王道と言うと、ロジックで固められたパズルミステリなどが想像されるが、メフィスト賞の多くは、ストーリーを彩るもののひとつにしている。小高氏は、ミステリはよくドラマなどの題材になることからも、一般の多くの人が見るのは好きだというものの、小説などの純粋なミステリには高い敷居を感じているはずだと指摘。そんな中、メフィスト賞の受賞作は“これはミステリなのか?”と言われることがありつつも、エンターテインメントの切り口としてミステリを使っており、小高氏も「この切り口で攻めればゲームでも多くの人に受け入れられるものができるのではないか」という思いから、『ダンガンロンパ』の着想にいたったのだという。

■質問:小高先生のトリックの好み、こだわりは?

 『ダンガンロンパ』シリーズで数々のトリックを生み出してきた小高氏いわく、小説で見せるトリックと、ゲームでプレイヤーに解かせるトリックは、そもそも狙いが異なるという。ミステリ小説のトリックは“ハウダニット”(“How done it”。どのように犯行を成し遂げたか)が重要で、トリックを暴くギリギリまで読者には答えを気づかせず、ネタばらしをする際には、1、2ページで短く衝撃を与えることが重要になる。だが、その構成をゲームに持ち込むと、ギリギリまでヒントがなく、急にヒントが出て答えがわかることになり、爽快感がなく、あまりおもしろくないものになってしまう。一方、ゲームで大事になるのは“フーダニット”(“Who done it”。誰が犯行を行ったか)で、段階的にトリックの中身をわかるようにする構成。小説のような衝撃を与えるものよりも、複合的なトリックでひとつひとつはわかるけれど、先の展開をわからせないようにするのが重要で、この場合、ユーザーの多くが“犯人はわかるけど、トリックがわからない”という反応に陥ることが多いのだという。なお、『ダンガンロンパ』は、“がんばればとけるかもしれない”というレベルを目指しているそうだ。

■質問:アイデアが浮かぶときはどんなときか?

 「仕事ではない、別のことをしているとアイデアが降ってくると言う人はいるけれど、僕は机に向かっていないと出てこないタイプ」と小高氏。ただし、シリーズを重ねるうちに、アイデアが浮かぶ方法は体系化してきたそう。その方法としては、まず最初に資料を集める。その後、集めた資料をひたすら調べて頭に入れ、それをもとにいろいろ考えるのだという。しかし、そこでアイデアが出るわけではない。考えたもののアイデアは出ず、一度、そこから離れ、別のことを考えたのち、再度、資料で調べたものを考え直すと、いいアイデアが生まれることが多いのだそうだ(小高氏いわく「アイデアはレイヤー(層)化して、つぎはぎで作っている」)。体系化でき始めたとはいえ、いいアイデアを浮かべるには産みの苦しみがあるようで、小高氏は「小説家の方々は楽しみながら小説を書いているというけれど、楽しんでいる人たちはすごい。僕はつねに、自分のシナリオをつまらないなと思いながら何度も何度も書き直して、最終形にいたる1、2回前に、やっと少しおもしろくなってきたかなと思えるくらい。仕事じゃないと投げ出している」と語る。ちなみに、アイデアが浮かぶ瞬間のことはほとんど覚えていないそうだが、『ダンガンロンパ』の原型が生まれる瞬間は覚えているという。推理ゲームをいろいろと考えるなかで、推理ゲームが売れない時代だったため、売るためのフックとして、『バトル・ロワイアル』風の推理ゲームはどうだろうと閃いたのがきっかけで、その瞬間は身体に電撃が走るようなイメージだったそうだ。

■質問:シナリオはどんなところから書き始めますか? そこで注意していることは?

 「『ダンガンロンパ』は、話の筋、キャラクター、推理と、大事なものがものすごく多いので、複合的に考えている」と小高氏は語る。プロット、キャラクター、トリックを別々に考えると、そぐわないものが生まれることがあるため、すべてを並行して考えているそうだ。だが、その中でも、とくに大事にしているのがキャラクター。というのも、どんな突飛な展開、トリックでも、そのキャラクターが立っていれば、許せてしまうという。『ダンガンロンパ』の4章で、登場キャラクターのひとり、朝日奈葵が、仲間を裏切るような行動を取る場面がある。小高氏は、そこを例に、「多くの人に“朝日奈がやっていることはひどい”、“みんなを犠牲にするのか”と言われましたが、最終的には彼女がかわいそうという感想が多くなった。それは、そこまでしっかりと朝日奈を描いていたからこそ、かわいそう、しょうがないという感想になったのだと思う」と分析。ちなみに、小高氏は、キャラクターは、外見、口調ではなく、何をしたかという行動でキャラクター性が出てくると考えており、物語の展開、トリックでキャラクターの行動が生まれるため、キャラクターを掘り下げようとすると、結果的に、物語の展開も考えざるをえないのだそうだ。なお、最近のライトノベルには、読者の中にト書き(キャラクターの動きなど、会話の合間に挟まる情景描写)を読まずに、セリフだけを読む人が増える傾向にあることから、掛け合いだけで描くものがあるが、小高氏はそういった作品のほとんどは興味を持てないとバッサリ。

■質問:キャラクターを作るうえで、気をつけている点。思い入れのあるキャラクターは?

 この質問に、小高氏は、前述のキャラクター性以外の点として、“自分が好きかどうか”を挙げた。もともとシナリオを書くのが好きではないという小高氏は、キャラクターに対して“楽しいな”、“おもしろいな”と思えないと、筆が進まないのだそうだ。とくに思い入れがあり、筆が進むキャラクターは、いちばんはモノクマ。「そのとき自分が思っていることを書けばいいだけ」(小高氏)とのこと。……やはりモノクマは、小高氏の化身か? ちなみに、モノクマは“そういうルールなの”と言ってしまえばいいというルールを無視することもでき、神様のような存在なのだとか。続いて挙げたのは、腐川冬子と澪田唯吹。ふたりとも、書きやすく、楽しんで書けたそう。一方、おもしろいけど、しんどいキャラクターとして挙げられたのは、田中眼蛇夢。中二病をこじらせすぎているキャラクターだが、中二病の口調がそこまで思い浮かばなかったため、途中で「しまった!」と思ったものの、キャラクター自体の評判はスタッフからもよく、“ペットのハムスターが本体で人間が入れ物”といったネタも考えたものの、それも膨らまず、出オチのような、引くに引けない状況になったそうだ。

 一方、好きなキャラクターの扱いに関しては、小高氏はちょっと過激な表現を口にした。“好きなキャラクターを殺すことに意味がある”。小高氏は、北山猛邦氏から「好きなキャラクターを殺すことに罪悪感を感じませんか?」と聞かれたことがあるそうだが、それに対し「罪悪感はない。僕は、キャラクターは死んで終わりではないと考えていて、死んでも、見た人、ユーザーの心に残っていれば生きているという考えで、フィクションならば、死=ジ・エンドじゃないと思っている」と、小高氏ならではの考えを示した。

■質問:小松崎さんのラフスケッチで、どういうキャラクターにするか意見を出し合っているようですが、ほかの人の案も入りますか?

 『ダンガンロンパ』のキャラクターデザイナー、小松崎類氏にまつわる質問。小松崎氏は、小高氏の考えたものを最初に絵に落とし込む役目を担っているため、どのスタッフよりも深くやりとりをするという。だが、小高氏の中にいるキャラクターに影響を与えるのは小松崎氏のデザインだけでなく、モノクマ役の大山のぶ代さん、苗木誠役の緒方恵美さんなど、声優さんの声を想像しながら変えることもあるそうだ。このように、小高氏は基本的にいろいろな人の意見を聞くタイプで、我を通したものを作りたいわけではなく、おもしろくなるのであれば、みんなの意見を採り入れる、言い換えれば、人の意見すらも利用するとのことで、この作業は小説家が担当編集者の意見を採用するようなものだという。“ものづくり”としては、人といっしょにやったほうが高いレベルにいけるという小高氏だが、「この方法は誰にでもオススメできるわけではなく、人の意見でブレてしまう人にとっては、あまり意見を聞き過ぎるのも問題かもしれない」とも語った。

『ダンガンロンパ』小高和剛氏の立命館大学講演会リポート――小高氏の原点、ゲームへの想い、『ダンガンロンパ』の秘話が満載!_02

■質問:『ダンガンロンパ/ゼロ』、『神宮寺三郎』のノベライズなど、ノベライズ作品で欠かせないこだわりは?

 “少なくとも自分がおもしろいと思っているかどうか”。『ダンガンロンパ/ゼロ』は、小高氏が『神宮寺三郎』のノベライズから7、8年振りに手掛けた小説で、いざ書いてみると、地の文の書きかたすら忘れており、予想以上に書けなかったそうだ。小高氏は、「正直に言うと、僕が書く小説はほかの小説よりもクオリティーが高くない」とぶっちゃけトーク。しかし、書いているときから“本職の小説家と同じ土俵で勝負してもしょうがない”と考えていたそうで、自分の名前で書いている小説なのだから、自分のオリジナリティーを出さないといけない、と考え、それまで第三者視点で書いていたものを、すべて登場人物の視点、一人称視点に書き直したという。一般的な小説とは異なる書きかたのため、文章としては読みづらくなったものの、おかげでトリックなどのオリジナリティーも生み出し、小高氏らしい味の出た商品として成立をさせたわけだ。“商品として成り立っていないと、買った人に失礼なので、絶対にここでは負けないぞと思える部分を入れないといけない”という意見は、いかにも小高氏らしい発想だ。ちなみに、『ダンガンロンパ/ゼロ』は、下巻をめくっていると、壮大なネタバレのあるイラストが目に入ってしまうのだが、その点については「いかにも素人っぽい作りですよね」(小高氏)と苦笑していた。

■質問:シナリオライターになるために必要なものは?

 シナリオライターに関する説明として、小高氏が挙げたのは“会社員でシナリオを書くか”、“請け負いでなるか”、“自分の色を出す原作者になるか”の3通り。だが、どれも共通しているのは、人とのつながりが大事ということ。たとえば、アニメの脚本家に弟子入りしたり、小説家の原作者としてシナリオを手掛けたりするのも、すべては人のつながり次第。しかし、ここで小高氏から注意点として、原作作家以外の請け負い、そしてアニメのシナリオライターの場合、オリジナル作品を作るのは非常に難しいことだとのアドバイスが。請け負いの場合は、版権物の仕事が多く、アニメはそもそもオリジナル作品を作る場合、シナリオライターではなく、監督の意向が強くなる。シナリオライターが、ほかの小説家、マンガ家と違うのは、ビジネス寄りで、雇われる側というイメージが強く、自分の意向を反映しづらいのだそうだ。小高氏の場合は、『ダンガンロンパ』がみずから立ち上げたタイトルのため、いろいろと自由に意見を出せるそうだが、これはかなり異例のこと。なお、小高氏は、もともとオリジナル志向が強く、オリジナルのゲームを作るために、ある程度の規模の会社で、社員になれる“いちばんチョロそうな(小高氏談)”スパイク(当時)を選び、入社しだそうだ。

■質問:どんな本を読みますか?

 小高氏は、勉強を兼ねて、ライトノベルなど、いろいろなジャンルを読むとのこと。なかでも、多いのはミステリ。以前は、新刊を追っていたものの、膨大な量の本が発売されるため、最近は作家を追うこともしなくなり、新刊だけでなく、古いものも読むようになったそうだ。ちなみに、小高氏いわく、本にはゲームやテレビと違う文化があるという。たとえば、本の場合、最後まで読まずに評価をすると、“最後まで読んで評価をしろ”と言われる風潮がある。だが、それがゲームやアニメになると、途中で遊ぶのをやめたり、見るのをやめたりしても、ユーザーが悪いということにはならない。この違いは、小説が芸術的側面が強いからこそ起こり得るもので、ゲームやアニメは文化的に歴史が浅いからこそ、そうなるのだろうと分析していた。小高氏が最近読んだオススメの本は、平山夢明氏の『ディナー』。ホラーの第一人者である平山夢明氏がエンターテインメントを強くすると、ああいう尖ったエンターテインメントになるのだと実感したのだとか。また、そのほかのオススメとしては、伊藤計劃氏。伊藤計劃氏はもともとエンターテインメント色が強いものの、もっと年数を経て、エンターテインメントの色が強くなった作品を読んでみたかったと語った。ちなみに、小高氏は仕事でミステリに挑むことになったとき、“『このミステリーがすごい!』に載っている作品を全部読もうと思った”とのこと。話題の『葉桜の季節に君を想うということ』などもネタバレなしで読めたのは、運がよかったと語りつつ、「あれこそ、小説ならではのミステリの使いかただな」と感心していた。

■質問:小高先生の好きなゲーム、オススメのゲーム

 最近好きなゲームとして挙げたのは、2015年6月25日に『ホットライン マイアミCollected Edition』が発売される『HOTLINE MIAMI』。『HOTLINE MIAMI』は、素性も何もかもが謎の主人公が、マフィアの事務所に飛び込み、殺戮をくり返していくアクションゲーム。トライ&エラーをくり返しながらクリアーを目指していく構成になっており、小高氏も何度もくり返しながら先日クリアーしたという。オススメするゲームからもわかるとおり、小高氏は「ゲームは残酷なものが好きで、人が死なないゲームはあまりやらない」と語る。その理由として、「当然ながら、私生活で人が死ぬのはいやですが、そんな現実世界で味わえないタブーだからこそ、ゲームで体験するというのは、作品作りに影響を与えている」とのこと。ちなみに、『HOTLINE MIAMI』は上から見下ろしたドットタイプのゲームだが、小高氏もファミコンのゲームが大好きで、600本くらい、ファミコンのソフトを集めているそうだ。また、そんなゲーム体験について、ゲームの没入感はほかのエンターテインメントよりも優れており、ハマったときののめり込みかたはすごいと、まだまだ可能性を感じているという(一方で狂気もはらんでいると言及)。現在発表されているVRヘッドマウントディスプレイのProject Morpheusを例に挙げ、「ドラゴンから火を浴びせられる映像や、崖から落ちる瞬間などは、恐怖から自然と身体が動くほどだった。あれがすごい。いち早く目をつけないといけないなと感じた」と絶賛。その一方で、「Project Morpheusでエロい作品が出たら、きっと規制されるから、規制される前にすぐに買ったほうがいいですよ」と、小高氏らしいユーモアも忘れずに挟んでいた。

■質問:小高先生の学校時代の思い出

 日本大学藝術学部映画学科で映画の勉強をしていた小高氏。大学時代は、夏休みも含め、ほとんどを映画作りに費やしており、サークルに入るといった学生らしい楽しみは満喫できなかったようだ。だが、最近になってやっと大学時代のありがたみがわかったという。というのも、2014年に開催された舞台『ダンガンロンパ THE STAGE』の脚本を担当したのが大学時代の同期で、メイキング映像を作ったのも同期の別の友人だったりと、大学卒業して15年くらいを経て、一定の地位になった同期とこういった仕事がある程度自由にできるようになったのだそうだ。ちなみに、同じ業界にいる同期の人たちは「僕と同じ学生気分の人が多くて、お金とかいいからおもしろいことをやろうぜ、となる」(小高氏)と、やりたいことの傾向が似ているため、ほかの学生時代の知人よりも、社会に出た後のつながりが濃くなっているのだとか。小高氏いわく、小説家やゲームクリエイターなど、いろいろクリエイターの人と会うと、多くの人がコミュニケーションが好きだという。作家というと、黙々とシナリオなどを書いているイメージがあるが、実際は皆さんおしゃべりが好きで、人と会う刺激が重要になるというわけだ。