作品の魅力、コンシューマー事業への展望とは?

 ハードの枠組みを越えたコラボレーション要素などで、多くのファンやゲーム業界関係者が大注目している『ポポロクロイス牧場物語』。作品の魅力、そして新しい取り組みにチャレンジするコンシューマー事業部の展望を、キーマンに語っていただいた。

【マーベラス新作特集】スペシャルインタビュー キーマンが語る『ポポロクロイス牧場物語』&家庭用ゲーム機への取り組み_01
【マーベラス新作特集】スペシャルインタビュー キーマンが語る『ポポロクロイス牧場物語』&家庭用ゲーム機への取り組み_02
▲マーベラス執行役員 CCO
デジタルコンテンツ事業本部 CSコンテンツ事業部長
はしもとよしふみ氏(文中ははしもと)

 プロデューサーとして、『牧場物語』シリーズを始め、『ルーンファクトリー』シリーズ、『朧村正』、『グランナイツヒストリー』など、マーベラスを代表する多くの作品を手掛ける。2013年より、現役職に就任。
▲マーベラス顧問
佐々木誠義氏

 プレイステーション立ち上げ時から2014年9月までソニー・コンピュータエンタテインメントに在籍し、コンシューマー販売部門の責任者として活躍。3月より、アドバイザリーとしてマーベラスに参加。

“冒険”の要素でふたつの作品が融合

──まずは、『ポポロクロイス牧場物語』のお話からお聞きします。『ポポロクロイス物語』(以下、『ポポロ』)と『牧場物語』とが融合し、新たな作品が生まれた経緯をお教えください。

はしもと ニンテンドー3DSで初めて『牧場物語』を開発する時期に、『ポポロ』の開発に携わった方々と会議を行う機会があったのですが、その場がきっかけですね。お互いの作品の報告などをしていたときに、ピエトロ王子は「町を歩いた場合、作物を踏まないように避けて行動するタイプで、牧場で作物を作っていても違和感がないな」と思ったんです。しかも、『ポポロ』のタイトルには“物語”が付いているので、『牧場物語』を加えても『ポポロクロイス牧場物語』と自然な感じでつなげられます(笑)。そのこともあり、先方にコラボのイメージをお伝えしたところ、いい反応で盛り上がったんです。そこですぐに企画書を用意し、『ポポロ』原作者の田森庸介先生にも話をしていただき、本格的にスタートさせました。

──ふたつの異なるゲーム性を融合させるために、苦労されたのではないでしょうか。

はしもと じつは、作り始めと最終バージョンでは融合具合が違っていて、最初は『牧場物語』に『ポポロ』を融合させるゲームをイメージしていました。『ルーンファクトリー』のようなゲームシステムを活かし、四季を感じながら同じところで作物を作って生きていくといったシミュレーションゲームだったのですが、ゲームを作り続けるうちに、「何かが違う」といった意見が多く出て、そのたびに作り直していきました。そこからうまく融合させる方法として、『ルーンファクトリー』とはまた違った、“冒険ができる『牧場物語』”を作ることに行きついたわけです。

──冒険が、お互いのゲーム性をうまく融合させるためにもっとも適していたわけですね。

はしもと それに、ファンの反応も大きな理由です。一般の方に初めて披露したときに、「冒険をしてみたい」といった意見が多く目に留まりました。もちろん、開発メンバーからも、「やはり、『ポポロ』といえば冒険ではないか?」といった声もあり、双方の意見を活かして、冒険に力を入れる方向に修正しました。

──ちなみに、情報を公開されたときに、ゲーム業界からの反響はいかがでしたか。

はしもと そのころ、聞いてどうでした?(笑)

佐々木 当時、私はこの企画に携わっていなかったので、発表を聞いたときは本当に驚きました。あのゲームをニンテンドー3DSで発売するわけですから。同時に、当時のプレイステーションのタイトルは、おもしろさを象徴するようなタイトルが多かったので、発売形態はともあれ、どこかのタイミングでそれらが復活してほしいと真剣に思っていました。ですので、『ポポロ』の復活はうれしかったです。

はしもと じつは、このプロジェクトを会社へ報告する際に、当社の社外取締役である久夛良木健さんに「絶対、『ポポロクロイス』という名前でできるように!」と強く言われ、裏切れないし、全力で実現させなければと思って進めてきました。そういう意味では、この発言が力となって奮起するきっかけにもなりました。

──途中でゲーム性を冒険寄りに変更されたとのことですが、ストーリーなどの調整もたいへんだったのではないでしょうか。

はしもと 田森庸介先生とマーベラスが半々でシナリオを用意したり、こちらで作成したシナリオを監修してもらうといった案などがありましたが、ユーザーは田森先生が描く世界を堪能したいのでは? と思いまして。そこで、先生におまかせして、マーベラスは原作の世界を広げ、それを伝えることに専念しました。ただし、先生にお願いをするだけではなく、プロットを拝見した我々が加えたい要素を提案して、先生がそれを修正するといった、キャッチボールのような流れで進めました。

── そうしたやり取りの中で、新天地“ガラリランド”が生まれたわけですね。ガラリランドでは、各地に特徴的な気候があり、それに合わせた作物が収穫できるそうですが。

はしもと 各地域の季節をすべて同じにすると、冒険に集中するうちに季節がつぎつぎと過ぎて、いつの間にか作物が枯れてしまいます。そこで、地域ごとに季節を用意し、春のものを作りたいときは春の土地で作物を育てられるようにしました。作物の収穫タイミングが気になって冒険に熱中できなくなるなどのマイナス要素は避けたかったんです。また、冒険に行き詰まったときに、牧場に戻って作物を収穫して回復アイテムを作るといった息抜きもできます。“静”と“動”という感じで、冒険と牧場でスタイルを変えながら遊べるのも、本作の大きな特徴です。

世界観を崩さないように『ポポロ』らしさにこだわる

──戦闘シーンは当初からイメージされていたものに仕上がっているのでしょうか。

はしもと バトルは5~6回作り直しています。コマンド選択方式を採用したバトルのほか、フィールドに移動範囲の表示がないバージョンを作ったりもしました。ですが、『ポポロ』らしさを追求したところ、『ポポロ』で昔ながらのなじみ深いバトルシーンを、現代風にアレンジしたものになりましたね。最近のゲーム開発は、作り直しを少なくするために、効率を求めて仕様を構築するケースが多いのですが、『ポポロクロイス牧場物語』は、昔ながらの作りかたで、作っては修正して、作っては変更するといった流れで進めていたので、その点は苦労しました。

──その甲斐あって、バトルでも『ポポロ』らしさが味わえるものに仕上がったわけですね。『ポポロ』らしさといえば、「階段が壊れているから上に行けないね」などのメッセージも表示されますが、『ポポロ』らしさを出すために、どのような工夫をされましたか?

はしもと 開発チームは『ポポロ』好きのメンバーが集まっているので、シリーズ作品を脳の中に染み付くくらいまで遊んでいます。そのため、各場面にぴったりのセリフなども、自然に頭に浮かぶので、自動的にそれっぽくなるんです(笑)。キャラクターのイベントを作るときに、スタッフみんなで意見を出し合いましたが、複数のスタッフから同じ意見が出ることも多かったです。ネタバレになるので、ここでは言えませんが、『ポポロ』ファンの期待を裏切らないような場面を各所に散りばめているので、楽しみにしていただければと思います。

──キャラクターといえば、青いおおかみやカボチャマンなど、本作ならではの新キャラクターも登場しますね。

はしもと 『牧場物語』シリーズを制作して感じていたことですが、ユーザーは自分のがんばりを、誰かに見てもらいたいと思うんです。そして、わかっている人がいることでがんばれる。ピエトロ王子は畑でがんばっていますが、誰からもほめてもらえないと悲しいですよね。そこで、ピエトロ王子のがんばりを見て、理解する役割のキャラクターである“青いおおかみ”を追加しました。謎の存在の“カボチャマン”なども、同じ理由で入れています。

──本作には『牧場物語』シリーズでおなじみの“ヒロイン”たちも登場します。ヒロインを登場させるうえで注意した点などをお聞かせください。

はしもと 新ヒロインについては、非常に多くの回数のキャッチボールをして設定しました。ピエトロとナルシアの関係もありますからね。ちなみに、ピエトロは町の女の子にもやさしく接するので、女の子が勝手に好きになってしまうという設定です(笑)。とにかく『ポポロ』の世界を崩さないように、『牧場物語』の要素を盛り込むことを意識しました。さらに、各地域に季節を用意しているので、季節と女の子がリンクするようにしています。

──『ポポロ』らしい出会いが楽しめそうですね。『ポポロ』といえば、感動的な物語も特徴です。

はしもと 昨今、感情に訴えるゲームが減ってきていると思います。感動したり、泣いたりといった感情を揺さぶるゲームが少ないので、『ポポロ』で味わったあの感動を、本作でも味わっていただきたいです。また、『ポポロクロイス牧場物語』は、親が子どもに安心して買ってあげられる作品ですし、『ポポロ』を当時遊んだユーザーさんが大人になったいまでも楽しめる内容になっています。

──ヒントや目的地がすぐにわかる便利な機能も用意されていて、安心して遊べそうです。

はしもと 本作は、遊んでいただくプレイヤーの年齢が低い可能性もあります。つぎの目的地や進む方法がわからなくなるのは避けたかったので、ヒント機能を入れました。また、携帯ゲーム機用ソフトなので、すぐに中断したいという場面もあると思います。いつでもセーブができる機能を入れたのは、そういった理由もあります。

──『ルーンファクトリー』シリーズに登場した要素が、本作にも活かされているわけですね。

はしもと そうです。ほかにも、『ルーンファクトリー』では、住人などの横を通ったときに「おはよう!」などと、住人から声を掛けてくるシステムがありますが、『ポポロクロイス牧場物語』にも、同様のシステムを盛り込んでいます。通常のRPGでは、主人公が話し掛けて、住人たちは受け答えをするだけですが、現実では仲がよかったら話し掛けてきますよね。そういった理由から導入しました。

──読者も発売を心待ちにしていると思いますが、ぜひメッセージをお願いします。

はしもと 『ポポロクロイス牧場物語』は、開発にかなり時間がかかりましたが、そのぶん、愛いっぱいに仕上がったと思います。『ポポロ』に懐かしさを感じる人は、絶対に裏切られない内容ですし、『牧場物語』をずっと遊び続けている方も、冒険をしながら畑を耕して生活していくなど、きっと新しい可能性を感じてもらえる作品だと思います。もちろん、本作は『ポポロクロイス牧場物語』として作っていますので、これまでの物語を知らないと楽しめないというわけではなく、まったく知らなくても、1本のRPGとして十分楽しめます。ゲーム初心者の方は難易度“やさしい”でも楽しめますし、上級者がガッツリ遊べるやり込み要素も用意しています。物語のエンディングまでは約30時間ですが、やり込み要素を入れると約100時間は遊べますので、ぜひ本作で、RPGの“王道”を楽しんでいただきたいです。

マーベラスが手掛けるコンシューマー事業

──『ポポロクロイス牧場物語』だけでなく、マーベラスのコンシューマー(家庭用)ゲーム作品は、ラインアップが豊富なことでも注目が集まっています。今後のマーベラスの取り組みや展望をお聞かせください。

はしもと これまで、マーベラスは、コンシューマーやソーシャルなどの完全融合を目指していましたが、それぞれのいいところを活かすため、融合するべきところはして、それぞれのコンテンツの高みを目指していきたいです。その輪に佐々木さんにも加わっていただき、これまでの経験を活かしたご意見などをいただきたいと思っています。社内でも、コンシューマー事業は楽しい環境になってきているので、ソーシャルでもコンシューマーでも新規のプロデューサーなどを採用していきたいですね。

佐々木 いまのコンシューマー事業は停滞気味ですが、クリエイターは目を輝かせてがんばっています。彼らの自由な発想を大事にしないと新しいものは作れないし、それにはモチベーションが必要です。作った方々のがんばりを評価し、モチベーションを保つ環境を大切にすることで、クリエイターが育ち、おもしろいゲームができると思います。もちろん、会社の雰囲気も大切で、マーベラスはクリエイターが言いたいことが言える環境にあります。そのため、「我こそは!」というクリエイターは、ぜひ手を挙げてほしいですね。

──最後に、今後の抱負をお願いします。

はしもと マーベラスでは安定したコンテンツはもちろん、尖ったコンテンツも含めて、これまで以上に突き詰めていきたいと思いますので、そこに期待してほしいです。もうひとつ注目してほしいのが、『閃乱カグラ』の高木に続き登場した、『ネットハイ』の田中という新しいクリエイターです。何かを作りたいという若いスタッフが、意見を押し通した企画ですので、ぜひ期待してほしいです。

佐々木 若いクリエイターも含めて、やる気になるとおもしろいゲームが出てきます。今回の『ポポロクロイス牧場物語』を機に、コンシューマーのよさをアピールし、その人気をこれまで以上に広げていきたいです。クリエイターをしっかり育成することが、新しいヒット作につながると思いますので、ユーザーにおもしろいと感じていただける作品を多く出せるよう、我々もサポートしていきたいです。

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