主題歌から各BGMまでをじっくりインタビュー!

 2015年4月23日にスクウェア・エニックスから発売された、ニンテンドー3DS用ソフト『ブレイブリーセカンド』。王道RPGの作りでありながら、革新的なバトルシステム、衝撃のシナリオ展開などで話題の本作だが、欠かせない魅力のひとつがサウンドだ。前作『ブレイブリーデフォルト』では、Sound HorizonやLinked Horizonを主宰するRevo氏のサウンドが話題になったが、今回はsupercellのryo氏が本作のサウンドを手掛けている。そんな本作のオープニング、エンディング曲を収録した『Great Distance』(ryo(supercell)feat.chelly)のCDと、サウンドトラック『BRAVELY SECOND END LAYER Original Soundtrack』が、2015年5月20日に発売を迎える。そこで、今回、ryo氏、そして『ブレイブリー』シリーズのプロデューサー浅野智也氏、サウンドディレクターの山中康央氏にインタビューを行った。楽曲の制作秘話や、本作の制作への想いなど、それぞれの想い入れたっぷりのロングインタビュー。最後までお読みいただきたい。(※本インタビューは、『ブレイブリーセカンド』の発売前に行われました)

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■Profile

ryo(supercell)氏最初で最後の演歌作曲!? 『ブレイブリーセカンド』サウンドについて訊くロングインタビュー_01

ryo氏 ※文中はryo
supercellのコンポーザー。前作をいちユーザーとして、全員がレベル99になるほどプレイしていた。

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浅野智也氏 ※文中は浅野
『ブレイブリー』シリーズの生みの親であり、本作のプロデューサー。ryo氏に打診をしたのも、浅野氏。

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山中康央氏 ※文中は山中
前作、そして本作のサウンドディレクター。ryo氏の曲をゲーム内で最適に聞けるように調整した。

■CDデータ

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Great Distance
ryo(supercell)feat.chelly
本作のオープニング&エンディングテーマを収録。ジャケットは、三輪士郎氏による描き下ろし。

2015年5月20日発売予定
初回生産限定盤A(CD+BD):1852円[税抜](2000円[税込])
初回生産限定盤B(CD+DVD):1667円[税抜](1800円[税込])
初回仕様通常盤(CDのみ):1204円[税抜](1300円[税込])

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BRAVELY SECOND END LAYER Original Soundtrack
46曲を収録した、3枚組のオリジナルサウンドトラック。初回生産限定盤は、スペシャルオーロラパッケージ、カスタムイラストジャケット仕様になっている。

2015年5月20日発売予定
初回生産限定盤:3800円[税抜](4104円[税込])
通常盤:3300円[税抜](3564円[税込])

好きなもののためにがんばる人たちのプロジェクト

ryo(supercell)氏最初で最後の演歌作曲!? 『ブレイブリーセカンド』サウンドについて訊くロングインタビュー_06

——以前、ryoさんにインタビューさせていただいたとき(前回のインタビュー記事は→コチラ)は、まだ制作途中のタイミングでしたが、ついに曲が完成して発売を迎えるタイミングになりました。まずは、完成してみてのご感想をうかがえますか?
ryo 感想……(浅野氏、山中氏を見て)どうですか?
一同 (笑)。
浅野 制作終盤のryoさんは、すごい入れ込んで作業されていたので、たいへんだったんじゃないかなと想像していますが……(山中氏へ)間近で見ていて、どうでした?
山中 本当に、ryoさんの体がいちばん心配でしたね。
ryo でも、自分だけじゃなく、制作チームの皆さんは、本当にたいへんだったと思いますよ。『ブレイブリーセカンド』の制作が本格化してから髪を切るタイミングがなくて、この前、やっと切ったんです。でも、浅野さんも髪がどんどん伸びていて、先日お会いしたらさっぱりしていたので、それで、やっと完成したのかなと、ちょっと実感が湧きました。
山中 開発途中は、みんな髪の毛が伸びていってロン毛になっていましたね(笑)。
ryo 自分は、完全に落ち武者状態でした(笑)。人生で、こんなに髪を切らなかったのは初めてですね。

——それだけ暇がないくらい忙しかったと。
ryo 忙しいのもありますが、その時間があったら『ブレイブリー』のために費やしたかったんです。お互い、それどころじゃなかったですよね。
浅野 本当に(苦笑)。僕は1年間切れなくて、お会いするたびに髪の話をしていましたね。

——それで、無事に終わってやっと髪を切ったと(笑)。制作期間はどれくらいになりましたか?
ryo 本格的に始まったのが2014年9月くらいで、終わったのが今年の2月だったので、実質約半年間ですね。

——終盤は、徹夜続きだったとお聞きしましたが……。
ryo そうですね。たまにそうなることもありますが、これだけ続くのはなかなかないですね。でも、スタッフの皆さんもがんばっていて、夜中や早朝にメールを出しても、すぐに返事が返ってくるんですよ。その「起きてるのは自分だけじゃない」という連帯感と、みんながんばっているんだから負けられないという感覚でがんばれましたね。
浅野 でも、ryoさんは尋常じゃないスケジュールで仕事をされていましたよ。36時間仕事をして、12時間寝て、また36時間仕事をするから、つぎのミーティングは昼がいいのか夜がいいのか、直前にならないとわからないとか(笑)。「起きてれば大丈夫なので、とりあえず電話ください」と。
ryo ホント、すみません(苦笑)。

——それは過酷な……。では、1週間が7日ではないイメージですよね?
ryo それこそ、『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』で、もともとは1日が26時間で削られて24時間になった……みたいな設定がありましたけど、そんな感じで自分の世界では1日が26時間以上あったという感覚でしたね。人と違う時間を生きるというか。でも、むしろスタッフの皆さんは会社勤めですから、それでよく生活できるなと思いましたよ。
浅野 いやいや、僕らはちゃんと寝ていますから。
ryo 浅野さんたちは、本当にすごいですよ。こんなにワーカーホリックな方々は、あまり見たことがないというか、同類を見つけたというか。自分も音楽がすごい好きですし、浅野さんたちも、ゲーム制作が、『ブレイブリー』が好きなんだというのが、本当に伝わってくるんです。

——仕事というより、好きでやっている感覚が伝わってくると。
ryo そうですね。でも、好きなだけでなく、できあがるものもしっかりしているんです。どちらかの人は多いんですが、それを両立する人はあまり見たことがないので驚きましたね。「これが、スクウェア・エニックスに入れる人なんだ!」と思いました。

——(笑)。浅野さん、実際、そうなんですか?
浅野 どうなんでしょうね。でも、プロデューサーにもいろいろなタイプがあるので、その中でも僕らは制作中のゲームをすごいプレイするし、ちょっとでもよくしようとするし、「発売日延ばしたいです!」と言うし(笑)。
山中 浅野と高橋(高橋真志氏。本作のCo.プロデューサー。※高は、旧字の高)は、人を楽しませたり、驚かせたりすることに、労力をいとわないなあと思いますね。
浅野 そう……かな(笑)。
一同 (笑)。

まるで冒険をしたような濃密な楽曲制作

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——今回の制作で、とくにたいへんだったところはどこですか?
ryo 正直、やっていて「辛いな」と思ったことは1回もなくて、失礼に当たるかもしれませんが、楽しいという表現がふさわしいですね。ものを作るというか、『ブレイブリーセカンド』という作品に自分が音楽でいかに貢献できるか、そのゲームのためにチームの一員として動けた感覚が、辛さを緩和してくれました。

——曲の作りかたとしては、浅野さんや高橋さんから作るべき曲のリストが来て、山中さんを挟んで、やり取りされた感じですか?
山中 直接やり取りしていたのは、高橋ですね。でも、ryoさんとのやり取りは、浅野、高橋、あと二木(二木達博氏。本作のアシスタントプロデューサー)、そして僕も全員同報に入っていたので、みんなでメールをしつつ、僕がデータを実装する流れでした。

——ryoさんがひとつの作品でこれだけ大量の曲を作るというのも珍しいと思うんですが、作業の中でもっとも印象深かったものは?
ryo 本当に1曲ごとに印象深かったんですが、振り返ってみると、費やした時間すべてが、スタッフの皆さんといっしょに冒険をしたようなイメージでしたね。楽曲制作の時間としては長かったんですが、とても濃密な時間だったので、あっという間でした。

——RPGの制作にふさわしい雰囲気だったんですね。以前、リストにない曲をryoさんが作って提案されたとうかがいましたが?
ryo いかに悪ノリするかというところで、もともとのリストにはなくても、“ここに曲があるとよくなるよね”という場面が出てくるんですよね。「ここの1節にメロディーが欲しいんです。その収録が1週間後です」とか、「今度、声優さんのアフレコがあるので、そこにメロディーがあれば歌ってくれるんです」といったシチュエーションがあって、「できればでいいので、お願いします」と言われるんですが、そこで自分ががんばることで作品がよくなるのであれば、それはもう喜んで限界に挑戦しますと(笑)。

——具体的には、どういった曲がリストにない中で作られたものだったのでしょうか?
浅野 “チャラン&ポランのテーマ”はそうですね。あの曲は、もともと“帝国軍のテーマ”として作っていただいた曲がベースになっているんです。ただ、“帝国軍のテーマ”としてはちょっと軽いイメージだったので、もっと重厚でシリアスなものにしてもらったんです。ただ、もとの曲も十分カッコよくて、“チャラン”と“ポラン”というキャラクターがいいコンビだったので、「彼らを押し出すための曲が欲しい」という考えから作っていただいたんです。

——なるほど。では、後づけというか、その場のノリで決まったようなイメージだったと。
浅野 そうですね。でも、ノリですますにはたいへんだったと思います(苦笑)
ryo いやいや、本当に悪ノリというか、自分としてはよくこれを認めていただいたなという感じで、驚きましたよ。“チャラン&ポランのテーマ”は、セリフのような掛け合いがあるんですが、もともとのストーリーを読んでいたので、「きっと、こういうことを言いそうだな」という自分の想像から、勝手にセリフを書いて、掛け合い風の曲にして作ったんです。それで、「使わなくてもいいので、聞いてもらってもいいですか?」と提案させていただいたら、すんなり採用していただけたんです。

——チャランとポランのやり取りにしては、ギターサウンドのすごいカッコいい曲で驚きました(笑)。あの曲は、もともと帝国用に作った曲だったんですね。
ryo はい。けっきょく、その曲がチャランとポランの曲になって、同じメロディーを使ったアレンジ版が、“帝国軍のテーマ”になりました。

ニンテンドー3DSからBGMが鳴り響く喜び

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——作った曲をニンテンドー3DSに入れ込むと、原曲からイメージが変わることもあったのでしょうか?
ryo 自分がテレビやアニメの楽曲を担当するときは、実際にテレビから音を鳴らして、音色を決めるんです。それで、3DSもそういう風にやろうかなと思っていたら、作った曲をすぐに3DSで鳴らすことはできなくて、ゲームに入れ込んでからでないとできなかったんです。ですから、自分の環境だけではどうすることもできなくて、山中さんにお願いして、作った曲を入れてもらったら、それを聞いて……というくり返しでテストをしていました。
山中 実機での音色のチェックは、たいへんでしたね。携帯機はスピーカーが小さいので、どうしても低音が聞こえづらくなってしまう。しかも、3DSは擬似サラウンド機能があるので、音の鳴りかたが意図したものにならないこともあって。それを聞きながらryoさんが意図した鳴りかたになるように調整するのが、苦労した部分ですね。

——その調整は山中さんのほうで調整をされるのでしょうか? それとも、ryoさんのほうで音色から変更されるのでしょうか?
山中 実装してみて思った通りの音にならなかったり、ryoさんの意図していない音になってしまった場合は、僕のほうでけっこう調整させていただきます。その調整したものを、ryoさんに実機で確認していただき、さらによくしていく作業が発生します。
浅野 ryoさんにスクウェア・エニックスに来ていただいて、山中と丸一日調整に費やしていただいたこともありましたね。
ryo バランスよりは、音が割れてしまうこともあって。あと3DSでも、最初の3DS、3DS LL、New3DSなど、本体によって音の鳴りかたがぜんぜん違うんですよね。

——そうですよね。ヘッドホンを使っても違うでしょうし。
ryo まったく違いますね。
山中 やっぱり発売時期が新しい、New3DSは音がキレイに鳴るので、『ブレイブリーセカンド』に合わせて買い換えてもらうのもいいと思います(笑)。

——宣伝のような(笑)。New3DSだと、ARムービーの画質も上がりますしね。ryoさんとしては、自分の作ったBGMが実際に携帯ゲーム機から鳴ったときの印象はいかがでしたか?
ryo 本当に感動しましたね。テレビやPCは、マイクをつなげば比較的簡単に音を鳴らせますが、携帯ゲーム機から鳴るのはふつうではありえませんから。ですから、初めて聞いたときは「すげー!自分の曲が3DSから鳴ってる」という不思議な感覚の感動がありました。

——ゲームの一部に組み込まれて、音楽が鳴り出す喜びは格別ですか。
ryo 何て言うんだろう。曲を作っているときというのは、音楽でしかないんですが、ゲームに組み込まれると、効果音などとも合わさって、ゲームをしながらの一部になってくるので、自分が気にしていたことが、思ったよりも気にならないというのを感じましたね。

——なるほど。
ryo 3DSから音を鳴らしたときに気になっていて、ギリギリまで調整した部分も、ゲームに組み込んでプレイしながら聞いてみると、何にも気にならなくなって。むしろ、操作していると、映像のすごさに「すげー!」って喜んでいたりする(笑)。
浅野 インタラクティブになると、いろいろ印象が変わるんですよね。足音が鳴るだけで違いますからね。
ryo そうですね。あと、開発中のARムービーで、スタッフさんが仮の声を充てていたことがあったんですが、それは本番に差し替わった瞬間がおもしろかったですね。「声優さん、すごいな!」と改めて感じて。ゲームになっていく実感がありました。