バンダイナムコエンターテインメント大下社長インタビュー
2015年4月1日付けで、バンダイナムコゲームスはバンダイナムコエンターテインメントに社名が変更された。“ゲームス”から“エンターテインメント”と社名を変更した意図、 社名に込められた意味とは? そして、 社名変更にともない、今後はどのように事業展開を行っていくのか。代表取締役社長である大下聡氏に、お話をうかがった。
(聞き手:週刊ファミ通編集長 林克彦)
代表取締役社長
大下聡(おおした さとし)氏
(文中は大下)
1976年バンダイに入社。バンダイネットワークスの代表取締役社長、バンダイビジュアルの代表取締役社長を経て、2012年4月に、 バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)の代表取締役社長に就任。
エンターテインメントという広い領域での事業展開
――2015年4月1日から、 社名がバンダイナムコゲームスからバンダイナムコエンターテインメントに変わりました。 まずは、 社名変更の狙い、目的を教えてください。
大下 私は3年前の2012年に着任したのですが、 それ以前のバンダイ時代は家庭用ゲーム事業にも携わっていました。 久々に家庭用ゲームに戻ってきて率直に感じたことは、 ゲーム会社の代表者、 ゲームに携わっている方々の多くを存じていて、 あまり変わっていないということでした。 一方で、 私がネットワーク業務を担当していたこともありますが、人々の生活環境はものすごい規模で変わっています。やはり、 ネットワークの普及によるところが大きい。 同時に、 お客様自身も多種多様な嗜好を持つようになっているわけです。
――確かに、 ネットワークが日常生活に溶け込んだことで、 コミュニケーションの取りかたやゲームの遊びかたなど、 あらゆるところに影響を及ぼしました。
大下 まさにそうで、 ゲームについても従来のゲーム機に加えて、PCやフィーチャーフォン、 スマホと、 裾野が広がっています。 いま世の中にはさまざまなプラットフォームがありますが、 ネットを楽しんだり、 映像を見たりと、 それを使ってゲーム以外のコンテンツも楽しんでいるんですよね。 我々にとってゲームは非常に重要なコンテンツですが、 お客様にとって必要なのはゲームだけではなく、ほかにもおもしろいことが提供できる時代になってきた。そこで、"ゲームス"という冠よりも、もっと幅広い意味合いを持つ"エンターテインメント"という名前に変えることにしたのです。
――ゲームという主軸は変わらないにしても、エンターテインメント全般を広く手掛け、 存在感を発揮していくという意思表示でもあるわけですね。
大下 我々はゲームで培ったノウハウを活かして、 もっといろいろなビジネスができるはずだと思っています。 バンダイナムコエンターテインメントと社名を変更することで、 社内の意識が変わるだろうし、 外からの見た目も変わっていくだろうと思います。 社名を変更したことで、「ゲーム作りをやめてしまうのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。"エンターテインメント"というのは非常に幅が広いですよね。 ゲームで遊ぶにしても、 現在はデバイスは多数あります。 そうした時代に臨機応変に対応していくのが、 今後のビジネスには必要不可欠だと思っています。
――社名変更にともない、 社内の体制はどのように変わっていくのでしょう。
大下 ネットワークコンテンツを扱うNE事業部、家庭用ゲームソフトを展開するCS事業部、業務用ゲーム機を展開するAM事業部、パチンコ・パチスロからさらに事業領域を広げたゲーミングエンターテインメントを展開していくGE事業部の4つを軸にした、 事業部制となります。 統合時には3事業だったところからNE事業が増えたように、 これからの時代、 世の中に対してスピードをもって対応できるように、新事業を生み出しやすい組織に変更しました。
ビジネスの進化が最重要課題
――新生したバンダイナムコエンターテインメントにとって重要戦略となるのが、IP戦略、ビジネスモデルの拡張、 地域拡大とのことですが、 それぞれの戦略の方針を教えていただけますか?
大下 IP戦略は、 国内のIPでどう戦うのか、ワールドワイドでどう戦うかが重要ですね。全世界で戦えるIPというのは限られているんです。なので海外戦略においては、"海外の各国の特性に合ったIPを使い、 それぞれの国に合った戦略で戦っていく"ことが重要になってくると考えています。
――すべてを日本発信で展開していくというわけではなく、 地域ごとに、 その地域に合わせて展開していくというわけですね。
大下 ネットワークの普及で世界の距離は縮んでいますが、 重視するのは地域制です。 日本を軸にしてアメリカ、 アジアを攻めようというのでは、 仮に日本がダメになったときに海外もダメになってしまいますから、 それぞれの地域ごとに成功していくことが重要です。仮に欧米がきびしいときは日本やアジアが助け、日本がきびしいときは欧米やアジアが助けられるのが理想で、 それが本来のグローバル企業であると考えています。
――各地域それぞれが成功することで、 真のグローバル企業になると。
大下 そうです。IPや地域展開は、 いままでもある程度はできているのですが、 今後の問題はビジネスモデルです。DeNAさん、 グリーさん、 ミクシィさんといった会社は、 まさに新たなビジネスモデルを構築して急成長してきていますよね。 これらの会社に共通しているのは、 ネットワークの活用です。 我々はIPを持っていて、 各地域にもリーチが効きます。 ただ、 これらがあまりにも大きすぎたためにビジネスモデルが後追いになってしまっていて、3つが同時に動いていなかった。IPも地域も持っている我々の最重要課題は、 これまでの常識にとらわれず、 ビジネスを進化させることだと思います。
――客観的に見ると、 バンダイナムコさんはいまの時流を捉えてビジネスをしている印象を持っていましたが……。
大下 それは訴求力のあるIPをいくつも展開できているからですね。話題のIPをうまく料理できていたということだと思います。ただ、AというIPとBというIPでどういう料理のしかたをしているかをよく見てみると、じつはビジネスモデルはまったく同じだったりするんです。現在のビジネスモデルの成功パターンが永遠に続くとは思えません。ここで新たなビジネスモデルに踏み出すことは、我々が一歩先に行く、飛躍するチャンスにつながると思っています。
――新たなビジネスモデルについて、 何か具体的なビジョンはお持ちでしょうか。
大下 たとえばこれは極論ですが、 お客様からの「こんなゲームが欲しい」というオーダーを受けて、 お手もとにお届けするといったパーソナライズできるような時代になるといいですよね。 夢のような話ではありますが、 将来的には不可能ではないと思います。
――それが実現できれば、 ユーザーはもっともっとバンダイナムコエンターテインメントのファンになっていくでしょうね。
大下 新たなビジネスモデルが生まれたときに、それに対応して新しい商品を生み出していくことが我々の使命であって、 それがエンターテインメントにつながると思っています。 たとえば、 ディズニーさんがなくなったら寂しいと思う人は大勢いますよね。 ただ、 いまバンダイナムコエンターテインメントがなくなっても、 寂しいと思う人はそこまでいないでしょう。 いい商品やサービスを我々が作り、お客様に喜んでいただくことで、10年後には「バンナムコエンターテインメントがなくなったら寂しいよね」と言われような会社になっていたいと考えています。
――ユーザーにとってなくてはならない、 エンターテインメント業界で唯一無二の存在を目指していくと。 そこを目指すための、 中長期的な戦略についてお聞かせいただけますか。
大下 ワンコンテンツマルチユースをやりたいと考えています。 ひとつのコンテンツでゲームを作り、 アミューズメントもできて、 さらには映像やおもちゃも展開すると。 これはグループ全体の話になってしまいますが、 ワンコンテンツによる多彩な展開を強化していきたいですね。 日本ではもちろんのこと、 北米では北米流にカルチャライズされたもので行い、 欧州や中国、 中国以外の西南アジアでも展開していきたいです。そういう形になれば、本当に強い会社になるなと思っています。
――中国はビジネスを展開するのが難しいという話もありますが、どうお考えですか。
大下 そういった話はよく聞きますが、 実際に商売している方がいらっしゃるわけです。ヨーカドーさんやイオンさんは今後店舗を増やす計画もありますし、 ユニクロさんやサントリーさんも展開しています。 表面上は難しい国だけど、 だからこそ突破し甲斐がある。そこでバンダイナムコ上海をこの春から立ち上げて、現地企業と連携して攻めていきます。
――いまが勝負のときですね。 最後に、 御社のタイトルを日々楽しみにしているファンの方々にメッセージをお願いします。
大下 『ゴッドイーター』が成功したのは、 ひとえにファンの方のご意見を数多くいただいたおかげです。 今後も寄せていただいたご意見をビジネスに反映していきたいと考えています。 そうして生まれた作品は、 お客様から愛されるものになると思います。 ぜひ、 これからも皆様からさまざまなご意見、 ご要望をいただければと。 もちろん、 きびしい意見も大歓迎です(笑)。 すべてを受け入れることは難しいですが、 メーカーからの一方通行ではなく、 ファンの方といっしょに歩んでいくビジネスが、 我々の目指す道です。 そして今回の社名変更にあたって、「アソビきれない毎日を。」という企業理念を策定しました。 世界中のお客様にたくさんの楽しさと感動を提供できるような新しいアソビを生み出していきたい、という思いを込めています。 そのような思いで皆さんに楽しんでいただける商品、 サービス作りに社員一同がんばっていきますので、今後もバンダイナムコエンターテインメントをよろしくお願いいたします。