“歌って踊れるデベロッパー”CC2のいままで&これから
19年間、他社にはマネのできない、独自性の高いタイトルを作り続けてきたサイバーコネクトツー(以下、CC2)。近年では、従来通りファンの度肝を抜く家庭用タイトルを手掛けつつ、スマートフォン向けにもCC2らしいタイトルをリリースし、さらにファン層を広げている。そんな極めて順調に見えるCC2だが、20年目に突入したこのタイミングで、新たな挑戦に乗り出すとともに、大きな変化を遂げるらしい……!? ここでは、同社代表取締役社長の松山洋氏に、いままでの19年間を振り返ってもらいつつ、20年目からのCC2が取り組む新たな“挑戦”と、“変化”の真意について語ってもらった。
(聞き手:本誌編集長 林克彦)
※本記事は、週刊ファミ通3月26日号(2015年3月12日発売)に掲載した記事を加筆・修正したものです。
松山洋氏(文中は松山)
いつものジャージ上下な“ピロシ社長”とはちょっと雰囲気が違うような。じつはこの装いにも意味があるらしい……?
目的はひとつ――“すんごいおもしろいゲーム”を作り続けること
――20周年イヤーに入りましたが、振り返って、率直にご感想はいかがですか?
松山 よく、今年1年は早かったとか、10年があっという間でした、とかいう言い方をしますよね。でも弊社の19年は、ちょうど19年でした(笑)。毎年思うんですが、1年はちょうど1年。それは毎年変わらないですね。
――なるほど。その積み重ねなんですね。
松山 ただ、最初は私を含めてわずか10名だったサイバーコネクトが、20年目になったいまは、福岡で約170人、東京で40~50人。のべで200人以上です。これは20年前にはイメージしていなかったことですね。
――かなりの規模ですよね。
松山 でも、いままで会社を大きくしたいと思ったことは、一度もないんです。弊社はデベロッパーで、“作っているヤツがかっこいい”って思ってる会社だから。とはいえ、自分たちがやりたいことをやり、作りたいものを作れる会社であるためには、ある程度の規模は必要です。人数が少ないと小さいゲームしか作れないし、ましてやPS4のタイトルなんか、誰も任せてはくれません。しかもそれが同時に1本ギリギリしか作れない会社だと、お客さんを長く待たせることになるし、いざというときに別チームが助けに入ることもできない。
――会社をある一定規模にすることは、必要な“手段”というわけですね。
松山 はい。そして目的は、“すんごいおもしろいゲーム”を作って、世界中の人たちに驚いて、夢中になってもらって、一喜一憂してもらうことです。それが我々の生き様、楽しみなので、そこは変わらないと思います。
CC2の歯車は『.hack//』から回り出した
――そんなCC2にとって、ターニングポイントとなった作品というと……?
松山 やはりそれは初代『.hack//』シリーズです。会社を作って4年が経ったときに、前社長が、「ほかにやりたいことがある」と出て行ってしまって。そのタイミングで、スタッフに「すべての責任は自分が取るから、私にすべて預けてほしい」と宣言したんです。結果として、みんなが賛同してくれたので、私が中心になり、社名も変更して、新たに“サイバーコネクトツー”が誕生しました。そこで私が監督として、初めて手掛けたタイトルが、『.hack//』シリーズだったんです。
(C)Project .hack (C)BANDAI NAMCO Games Inc.
――当時のバンダイとのタッグで、かなり大きなプロジェクトでしたよね。
松山 はい。あれは、ちょうど鵜之澤さん(※1)が、事業部長として、ビデオゲーム事業部に就任されたころで。最初は、「『.hack//』はおいといて、これをやりなさい」と、とあるキャラクターもののタイトルを作るように言われたんです。まず原作もので実績を出してからオリジナルをやるのが筋だ、と。
――確かにそれも、もっともな話ですね。
松山 はい。その場は「考えさせてほしい」と持ち帰りましたが、最初から腹は決めていたので、誰にも相談せず、鵜之澤さんに「やっぱり『.hack//』をやらせてほしい」と言いに行きました。
――それでよくオーケーが出ましたね(笑)。
松山 鵜之澤さんは激情の人なんです。私が「これをやらないと前に進めない。命がけで、大成功させるつもりでやります!」と話したら、そういう思いを汲んでくださったんですね。ただ、「そのかわり絶対に成功させろ。そのために必要だと思うことは、全部やれ!」と言われました。脚本家でもアニメーターでも、好きな人を言えば、俺がくっつけてやるから、と。
――頼もしい!
松山 それが、実際はそうでもなくて(笑)。伊藤和典さん(※2)にしても、貞本義行さん(※3)にしても、住所を教えてくれただけ。後は自分で訪ねて行って、半年がかりで口説き落とすことになりました(笑)。
――それは微妙な助力ですね(笑)。
松山 ただ鵜之澤さんは、そうやって背中を押してくれるんですよ。当時の感覚で言えば、“よく知らないCC2とかいう会社が作って、バンダイが発売する、オリジナルのRPG”って、そんなの売れるわけがない(笑)。普通のことをやっていたらダメで、ガラッと印象を変える必要があるんだと。
――なるほど。それで『.hack//』のような特別なプロジェクトになったわけですね。
松山 ええ。それから、ほどなく“ゲームにアニメを同梱する”というアイデアが実現しました。さらにOVAの企画を進めていると、鵜之澤さんが「まだ足りん。TVアニメの話を決めてきたから、テレビ局に行ってこい」と(笑)。これも「そういうこともあろうかと!」と、用意しておいた企画を持ち込んで、アニメ『.hack//SIGN』が実現して。マンガ『黄昏の腕輪伝説』も、だいたい同じ流れです。
――うーん、鵜之澤さんの辣腕ぶりと、それにキッチリ答えを出すCC2。尋常じゃないですね(笑)。
松山 無茶ぶりですよ(笑)。でも、確かに私も「何でもやる」と言ったし、「ダメなら本当に切るぞ」と言われていたこともあって、鵜之澤さんに言われたことに、ノーは絶対に言えないと思っていました。鵜之澤さんが「足りない」と言うのなら、「ああ、まだ足りないんだ」と。「あれをやれ」と言われたら、我々には「やります」しかない。でもそうして、ある意味、全部やらせてくれたんですよね。
――やはり鵜之澤さんと『.hack//』は、CC2にとっては、本当に特別な存在なんですね。
松山 ええ。うちのターニングポイントは間違いなく『.hack//』で、それがあったから『ナルティメット』シリーズにつながったわけですから。
―― 一方で、その『ナルティメット』シリーズがバンダイナムコゲームスにもたらした影響も大きかったのではないかと思いますが。
松山 もちろん、キャラクターゲームのお手本になるようなものを作ることで、バンダイに恩返しをしようという思いもありました。でも最初は、私たちが作りたくて、勝手に企画書を書いて、勝手にゲームを作って持ち込んだので、えらく怒られましたけど(笑)、そこでも、「版権って何?」というレベルから、たくさんのことを教わりました。
――やはり、バンダイとの仕事の中で得たものは大きかったのですね。
松山 正直、『.hack//』を作る以前、『テイルコンチェルト』と『サイレントボマー』を作った4年間では、本当の意味で、バンダイと向き合えていなかったんですよ。
――というと?
松山 うちにしか作れない作りかたをするのは当然ですが、それだけでは不十分なんだと。バンダイとつきあう以上は、バンダイの強みを活かしたプロジェクトをやらないと意味がない。「じゃあバンダイの強みって何?」と考えると、グループが大きくて、アニメ会社もあれば、カードも作れる。出版ともパイプが強い。そういう強みを活かして生まれたのが『.hack//』で、それがあったからこそ、『ナルティメット』にもつながったのだと思います。これ以降、ある意味、歯車が回り始めたというか、パートナーのメーカーさんとの付き合いかたも変わりました。まず時間をかけてお互いをよく知り、互いの強みを活かすやりかたを採ることで、初めて意味のある仕事になる。そういうやりかたに切り替わるきっかけになったという意味でも、やはりCC2の歯車は、『.hack//』から回り始めたんですよ。
※1 鵜之澤伸氏……バンダイナムコゲームスにて代表取締役副社長などを歴任。今後はアニメコンソーシアムジャパン代表取締役社長 兼 バンダイナムコホールディングス執行役員を務める。
※2 伊藤和典氏……アニメ『機動警察パトレイバー』や映画『ガメラ』などで知られる脚本家。『.hack』関連のゲーム、アニメ作品で脚本を担当。
※3 貞本義行氏……『新世紀エヴァンゲリオン』キャラクターデザインなどで知られるアニメーター。『.hack』関連のゲーム、アニメ作品でキャラクターデザインなどを担当。