新人賞は重いもの

 2015年3月7日、東京の文化放送にて第九回声優アワードの授賞式が行われた。声優アワードとは、その年度にもっとも印象に残る声優や作品を対象に、その業績を称えるアワード(賞)。声優の地位向上に寄与することを目的とした賞であり、声優に関係する業界各社が協賛している。7日の授賞式では受賞者たちにトロフィーや花束が授与された。

 まず壇上に現れたのは新人賞を受賞した6人。新人男優賞を受賞した逢坂良太さん、斉藤壮馬さん、花江夏樹さん。そして新人女優賞を受賞した雨宮 天さん、上田麗奈さん、洲崎 綾さんのフレッシュな面々だ。
 6人は緊張した面持ちで、プレゼンターを務める名優・キートン山田さんからトロフィーを受け取っていく。ちなみにキートン山田さんにとって、6人は一番上のお孫さんと同じくらいの年ごろとのこと。「新人賞とは重いものです。ずっと胸に抱いて、今後も励み続けてください」と、6人にきびしくも暖かい言葉を贈っていた。

逢坂良太さん
(『シドニアの騎士』谷風長道役など)

 「デビューから5年でこのような賞をいただけて本当に嬉しいです。これを機にさらなる努力をし、声優の持つ力を、さらに広く世の中に伝えていけたらと思います」

斉藤壮馬さん
(『アルドノア・ゼロ』詰城祐太朗役など)

 「高校生のころ、苦しい気持ちのときにアニメや映画をたくさん見たことで救われました。そのときに志した夢がかなっただけでなく、こうしてこの壇上に立てているのは、ファンの皆様をはじめ、事務所の皆様、諸先輩方、友人たちとの縁や出会いのおかげです」

花江夏樹さん
(『アルドノア・ゼロ』界塚伊奈帆役など)

 「デビューからただただ楽しく過ごしてきたつもりが、図らずもこのような賞をいただけて光栄です。いまは何より両親に感謝したいです」

雨宮 天さん
(『東京喰種トーキョーグール』霧嶋董香役など)

 「2014年は初挑戦だらけの年でした。このステージに立てているのは、たくさんの方に応援され、支えられたおかげだと思います。自分の未熟さを忘れず、これからも学んでいくつもりです」

上田麗奈さん
(『てさぐれ!部活もの あんこーる』園田萌舞子ほか姉妹12人役など)

 「私は自分自身のことがずっと嫌いでした。でも、この仕事では、その自分の嫌いな部分も活かすことができるんです。自分を必要としてくれるこの場所に、一秒でも長く留まれるよう、日々がんばっていきたいと思います」

洲崎 綾さん
(『艦隊これくしょん -艦これ-』暁、響、雷、電、最上、鳳翔役など)

 「受賞を知って母にメールを送ったら、すごく喜んでもらえ、すごく幸せな気持ちでベッドに入れました。賞をもらうのは中学生以来でくすぐったくもありますが、初心を忘れず精進して参ります」

ゲームに歌唱にラジオ 広がリ続ける声優のフィールド

 続いてはキッズファミリー賞と、シナジー賞の授与。登壇したのは小桜“ジバニャン”エツコさん、戸松遥さん、関智一さんの3人。さらにジバニャンとケータの着ぐるみも登場した。

小桜エツコさん
(『妖怪ウォッチ』ジバニャン役など)

 「昨年は『妖怪ウォッチ』とジバニャンにさまざまな夢を見させていただきました。きっとその夢がお子さんたちに届き、このような素晴らしい賞をいただけたのだと思います」

戸松 遥さん
(『妖怪ウォッチ』天野景太役など)

 「『妖怪ウォッチ』がたくさんの人に愛される作品になって嬉しいです。ケータとの出会いは人生の宝物だと思っています。『妖怪ウォッチ』が受賞できたのは“妖怪の仕業”ではなく、キャストさんやスタッフさん、全員の努力の賜物です」

 歌唱賞を受賞したのは『ラブライブ!』でおなじみ、声優ユニットμ's。代表して登壇したのは新田恵海さん、内田 彩さん、飯田里穂さん、楠田亜衣奈さんの4人だ。

新田恵海さん
(『ラブライブ!』高坂穂乃果)

 「『ラブライブ!』という企画がスタートしてから5年、このような賞をいただけたのは、作品に関わったスタッフとメンバーの熱意、そして応援して支えてくださった方たちのおかげだと思います。これからも作品や歌を通して皆さんに笑顔を届けたいです」

内田 彩さん
(『ラブライブ!』南ことり役)

 「『ラブライブ!』はCD1枚から始まった企画でした。私たちも初めてのことだらけで不安でしたが、それでも一生懸命取り組んできた作品です。がんばっていれば誰かが見てくれていることを、知ることができました」

飯田理穂さん
(『ラブライブ!』星空凛役)

 「μ's結成から5年、9人のメンバーでがんばってきました。5年前を考えると、ここに立てていることが不思議です。今度は私自身がここに立てるように、精進して参りたいと思います」

楠田亜衣奈さん
(『ラブライブ!』東條希役)

 「私は『ラブライブ!』がデビュー作だったので、さまざまな初経験をさせていただいきました。今日は4人しかいませんが、9人揃って賞をいただけたことが本当にうれしいです。ありがとうございました」

 つぎに授与されたパーソナリティ賞は、ラジオ番組などのパーソナリティに贈られる賞。今年は小野大輔さん、神谷浩史さんのおふたりが受賞となった。なお神谷浩史さんは、スケジュールの都合で登壇できなかった。

小野大輔さん
(「神谷浩史・小野大輔のDear Girl~Stories~」)

 「神谷さんとふたりで取った賞だと感じます。8年前、神谷さんといっしょに『DearGirl Stories』の番組を始めた当時は、じつはとても苦手だと思っていたラジオのお仕事ですが、この番組でラジオのおもしろさを教わることができたと思います」

名優たちはコメントも味わい深い

 富山敬賞は、声優という職業を各メディアを通じてもっとも世に広めた男性声優に贈られる賞。今回授与されたのは、まったくアニメを観ないという方でも知っているであろう、大塚明夫さんだ。大塚さんは軽妙なトークを交えつつも、いまは亡き富山さんへの思いを語った。

 また、声優という職業を各メディアを通じてもっとも世に広めた女性声優には、高橋和枝賞が贈られる。今年は主に洋画の吹き替えで“いい女”を演じる高島雅羅さんが受賞。

大塚明夫さん
(アントニオ・バンデラス、スティーブン・セガールその他の吹き替え、『メタルギアソリッドシリーズ』スネーク役など)

 「今日呼ばれたのは歌唱賞かと思っていたら、なんとこの賞でした。敬さんとはずいぶんいっしょにお仕事をさせていただき、お世話になりました。今夜は敬さんに一献捧げたいと思います」

高島雅羅さん
(デミ・ムーア、ジュリア・ロバーツ、シャロン・ストーンなどの吹き替え)

 「私にとって表現者として憧れであり、目標だったのが高橋和枝さんでした。まさに身に余る光栄を感じています。これを励みに今後もがんばっていこうと思います」

 功労賞は多くの作品やメディアで長年活躍をされてきた声優に贈られる賞。本年度は大竹 宏さんと白石冬美さんが受賞。やはりというか、そのコメントにも生きてきたときの厚みや、熟練の芸が感じられる。

大竹宏さん
(『マジンガーZ』ボス役『ドクタースランプ』ニコちゃん大王役など多数)

 「ジャンジャジャーン! ボスだわよ! 会場に兜甲児がいないのが残念だわね!(会場から拍手) ……昔、大塚周夫さんといっしょにゴルフに行ったとき、いっしょにラウンドしたご夫婦が声優という仕事をご存じなく、その日一日、西友ストアの人だと思われ続けたことがありました。いまは、声優になりたがる人がたくさんいる時代です。本日登壇された方々は、努力を続け、100人に1人という確率で残ってきた凄い方ばかりです。私もあと17年(100歳)、現役の声優でがんばりたいと思います。そのために、どうかお仕事をいただければと思います」

白石冬美さん
(『機動戦士ガンダム』ミライ役『巨人の星』明子姉ちゃん役など多数)

 「長いあいだ、すばらしい作品、素晴らしい方たちに巡り合うことができました。なのに、まだまだその恩返しをしきれていない思いがあります。今日のこの受賞を境に、また新しい夢を、白い大きなキャンバスに描いていきたいと思います。……ホワイトベース、発進します!」

 名優たちへの授与のつぎは特別賞。東日本大震災の被災地のひとつ、仙台を舞台に展開し、復興への一助となったアニメ『Wake Up, Girls!』と、同名の声優ユニットWake Up, Girls!から代表の3人が登壇した。青山吉能さんはコメント中に感極まり、涙ながらの言葉となった。

吉岡茉祐さん
(『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』島田真夢役)

 「私たちは作品の舞台の仙台に何度も足を運びました。それが復興の力になればと思っていましたが、今回、私たちも今後の糧となる賞をいただくことになりました。これからも精進していきたいと思います。ありがとうございました」

田中美海さん
(『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』片山実波役)

 「地元の方はもちろん、ファンの方たちにも舞台の仙台に聖地巡礼していただけて、たくさんの方と触れ合うことができました。これからもWake Up, Girls! 、がんばって参ります!」

青山吉能さん
(『Wake Up, Girls! 七人のアイドル』七瀬佳乃役)

 「私は大震災のあの日以来、故郷の熊本で自分も復興に役立つ何かができないかと悶々としていて、このWake Up, Girls! のオーディションに参加して、たくさんの人の笑顔を見ることができて……。本当にこの活動に関われてよかったと思います」

 なお、本年は特別功労賞の授与に変えて、本年度ご逝去された声優が顕彰された。来場者は皆黙祷を捧げ、会場は厳粛な空気に包まれた。

トリをつとめるのは助演賞と主演賞

 続いては、優秀な演技で作品へ貢献した助演男優賞者へのトロフィーの授与。小西克幸さんと森川智之さんが登壇した。

小西克幸さん
(『東京喰種トーキョーグール』亜門鋼太朗役など)

 「まったく想像もしてなかった賞をいただき、光栄です。来年で声優を始めて20年になるので、初心に戻ってがんばっていこうと思います」

森川智之さん
(『幕末Rock』土方歳三役など)

 「どうもトム・クルーズです。……こういう挨拶ができるのも声優ならではということで、声優30周年を迎えたタイミングで、こんな素晴らしい賞をいただけたことを感謝しています。すべての声優ファンの皆さん、本当にありがとうございました」

 助演女優賞への授与では、沢城みゆきさんが登壇。残念ながら花澤香菜さんはスケジュールの都合により、欠席となった。

沢城みゆきさん
(『PSYCHO-PASS サイコパス』唐之杜志恩役など)

 「峰不二子を演じるようになって3年経ちましたが、私を知らなくても、峰不二子を知らない方はいません。おかげで本来居場所がなかったような場所にも、なんとなく私の居場所があることが増えて、諸先輩方が作ってきた文化の上に、自分がいることを痛感しています」

 声優ファンからの投票で決まる最多得票賞は、4年連続で神谷浩史さんが受賞。果たして記録は何年連続で続くのか、そして彼の牙城を崩すのは一体誰なのか? ファンならずとも興味は尽きないところ。

 授賞式の最後を飾ったのは、主演男優賞と主演女優賞の授与。小野大輔さんはパーソナリティ賞とのダブル受賞となり、この日二度目の登壇およびトロフィーの受領となった。『アナと雪の女王』でアナ役を演じた神田沙也加さんの歌唱力はもちろん、その演技力の評価が高く、今後も声優に限らない幅広い活躍が期待される。

小野大輔さん
(『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』空条承太郎役など)

 「本当に、身に余るほどの光栄です。思えばこの1年で演じてきた役は、過去の人物の思いを受け継ぎつつ、つぎの世代に繋ぐ人物が多かったと思います。古代進しかり、承太郎しかり。僕たちの仕事も、決してひとりの力ではできません。作品に関わるすべての方、諸先輩方、ファンのみなさん。そのすべての“好き”という気持ちのおかげでお仕事ができていることを感じた1年でした。僕もこの声優という仕事が本当に“好き”です。ありがとうございました」

神田沙也加さん
(『アナと雪の女王』日本語吹き替え アナ役など)

 「本当にありがとうございます。私は14歳でデビューしましたが、その前になりたいと思っていた職業は声優でした。尊敬する声優の方もたくさんいます。そしてこれまで、声優のお仕事だけをしてきたわけではありません。これは本来取れるはずのない賞だというのが正直な気持ちです。一年を通して『アナと雪の女王』という作品をたくさんの人に見ていただき、歌っていただき、愛していただいたことをここで本当に感謝したいです。素晴らしい皆さんとまたごいっしょにお仕事ができるように、今後も勉強を続け、オーディションなどを受けさせていただければと思います」

 というわけで、少々駆け足気味にはなったものの、最初から最後までお伝えしてきた第九回声優アワード授賞式の模様。ゲームにおいても声優の果たす役割はゲームジャンルを問わず、ますます大きくなっていくことだろう。声優の世界についての知識を深めることもまた、ゲームの楽しみを広げる一助となるはずである。

受賞者一覧

第九回声優アワード受賞式の模様をリポート 主演男優賞は小野大輔さん、主演女優賞は神田沙也加さんに_27

主演女優賞:神田 沙也加
主演男優賞:小野 大輔
助演女優賞:沢城 みゆき、花澤 香菜
助演男優賞:小西 克幸、森川 智之
新人女優賞:雨宮 天、上田 麗奈、洲崎 綾
新人男優賞:逢坂 良太、斉藤 壮馬、花江 夏樹
歌唱賞:μ's(新田 恵海、南條 愛乃、内田 彩、三森 すずこ、飯田 里穂、Pile、楠田 亜衣奈、久保 ユリカ、徳井 青空)
パーソナリティ賞:小野 大輔、神谷 浩史
功労賞:大竹 宏、白石 冬美
シナジー賞:妖怪ウォッチ(代表登壇:戸松 遥、関 智一)
富山敬賞:大塚 明夫
高橋和枝賞:高島 雅羅
キッズファミリー賞:小桜 エツコ
最多得票賞:神谷 浩史
特別賞:Wake Up, Girls!
(受賞者50音順・敬称略)
※今回は、特別功労賞に代えて、本年度ご逝去された声優を顕彰しました。