ホラーゲームはあるのに、なぜコメディゲームはないのか?

 2015年3月2日~6日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のカンファレンス、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2015が開催。ここでは、開催初日の3月2日に、Game Narrative Summitの一環として行われた、“Comedy Games: An Underexplored Genre”の模様をお届けしよう。スピーカーは、ゾーイ・クインさん。Steamで配信中の“インタラクティブフィクションゲーム”『Depression Quest』のクリエイターさんだ。“コメディゲーム:脚光を浴びてこなかったジャンル”とでも翻訳すべきこちらのセッションは、なぜゲームにコメディというジャンルが盛んでないかを紐解くという内容だ。

ゲームに“コメディ”というジャンルはなぜ存在しないのか? 笑いがゲームを救う!?【GDC 2015】_03
▲ゾーイ・クインさん。

 ゾーイさんは、「私のことを知っている方は、私がコメディゲームを作っていることを少し不思議がっているかもしれません。基本鬱なので(笑)。でも、コメディアンでもよく鬱な人がいますので、あまり変なことでもないかと」とコメントし、まず笑いを誘う。いま動いているプロジェクトは、“遊べるB級映画”のようなゲームなのだという。

 「ゲームのジャンルでコメディと言うのはレアな存在です。ゲーム内でのコメディはメインディッシュにはなりえなくて、“味”の一部といったほうがいいですね」とゾーイさん。ゲームのジャンル分けは、「ゲームプレイに左右されるっぽい」と続けたゾーイさんは、「ホラーゲームのように、コメディが中心のゲームが存在してもおかしくないのでは?」と提起する。

ゲームに“コメディ”というジャンルはなぜ存在しないのか? 笑いがゲームを救う!?【GDC 2015】_01
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▲Steamにも“コメディ”というジャンルは存在しないようだ。
▲数少ないが、コメディタッチの人気ゲームはある。

 となると、勢い話題は“何がおもしろいのか?”ということになるわけだが、「皆さんは、どんなコメディがおもしろいと思いますか?」と質問したゾーイさんは、「重要なのはタイミングであり、どのように伝えるか」だという。「つまらないジョークでも、それなりにがんばって伝えれば、本当におもしろくなります。ある人が伝えるジョークはつまらなくても、ほかの人が伝えるとおもしろくなるなんてことはザラです。つまらないジョークでも、芸人の話術やスタイルで、まったく違った意味を持ち得るんです」(ゾーイ)という。

 また、お笑いはもっとも“主観的”な部分を含むために、ものすごくリスクが伴うという。たとえば寸劇を披露するときに、そこそこうまい演技をしたとしても、「笑いを取ることに失敗したときほど(いわゆる“スベる”)災害レベルで恥ずかしいことはないと思うんです」とゾーイさん。そのリスクを取るのは、すごく怖いことだと感じられるという。まあ、“笑いは難しい”とは、よく言われるとことだ。

 では、どうやってお笑いとゲームを混ぜあわせればいいのか? 漫才などであれば、お笑い芸人と観客がいれば、そこに笑いは生まれる。でも、ゲームの場合は、不特定多数のユーザーが参加するインタラクティブエンターテインメントだ。そこでは、「プレイヤーの位置付けも重要になってくるのでは」とゾーイさん。

 笑いとは、相手の期待値を裏切ることであり、ゲームで笑いを作るには、ゲームデザインがプレイヤーの期待を裏切ることが重要だという。コンテンツのアプローチ数をメチャクチャ多くする方法もあるという。2014年にSteam向けに配信され話題になった『Jazzpunk』は、この手法を採用しているという。「ふつうにゲームが始まって、ミニゲームがたくさん出てきて、カオスの世界になるさまは、まさにこれです」(ゾーイ)。

 そして、さきほども言及したタイミング。くり返しになるが、ジョークを出すときはタイミングがとても大切になる。そんなタイミングは、ホラーゲームから学ぶことができるという。ユーザーの動きは、ある程度ゲームデザイン側で予測がつくので、“このボタンを押すとこうなる”というプレイヤーの予測を完全に裏切り、とんでもないことをすればいいというのだ。

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 あるいは、最初から笑いの要素を取り入れているゲーム。たとえば、『Pachinkoman』というゲームには、“Cage Match mode”というミニゲームがあり、そこではプレイヤーはニコラス・ケイジとして行動するのだが、ボスに殺されたあとは、天国に行き、そこで過去に殺した敵の幽霊を成仏させるためにハグをしなければならないのだという。と書くと何が何やらわかりづらいが、たしかにシチュエーションだけ聞いても楽しそうではある。

 また、笑いの成功は声優にもよるという。これは先ほどの“どのように伝えるか”とも重なってくる部分かと思われるが、声優が役柄やギャグの本質をいかにしっかりと理解しているかが大切になるということなのだろう。

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 「コメディは基本的に、ちゃんとしたビジョンがないと難しいです。一回しか相手を笑わせることができないので、事前のQAなどは必ずやる必要があります」とゾーイさん。泣かせることよりも難易度が高いと言われる“笑い”。“コメディゲーム”制作の敷居もけっして低くはないと思われるが、やっぱり遊んでみたいところ。とくに日本はお笑い大国なわけだし……とぼんやり考えていたところで、通訳&翻訳をお願いしている河合大呉さんが「笑いほどローカライズしづらいものはないですよね」と、ひと言。今回の講演で、ゾーイさんはけっこうな笑いを取っていたが、その多くは翻訳が難しいという。“コメディゲーム”の難しさは、そんな文化密着型のゆえもあるのかもしれないなあ……と思いつつ、日本発のコメディゲームをもっと遊んでみたい!