安彦総監督「初めて満足と言えるものができました」

 2015年2月15日、日比谷公会堂にて『機動戦士ガンダム THE ORIGIN I 青い瞳のキャスバル』のプレミア上映会が開催された。ここでは本作の声優である池田秀一さん、田中真弓さん、潘めぐみさん、原作コミックの著者でもある安彦良和総監督が登壇したトークショウの詳細をお届けする。

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN  I 青い瞳のキャスバル』池田秀一さん、田中真弓さん、潘めぐみさん、安彦良和総監督によるトークショウのすべてをお届け_16

 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、アニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインとアニメーションディレクターの安彦良和氏が手掛けた、累計発行部数1000万部を誇るコミックが原作。今回の『青い瞳のキャスバル』では、少年時代のキャスバル・レム・ダイクン(後のシャア・アズナブル)と、その妹であるアルテイシア(後のセイラ・マス)の流転の物語が描かれている。

 上映前には、キャスバル役の田中真弓さん、アルテイシア役の潘めぐみさん、シャア・アズナブル役の池田秀一さんが、アニメ『ガンダム』シリーズのダイジェスト映像とともに登場し、ファンに向けてメッセージを贈った。

池田秀一さん(以下、池田) 久しぶりにシャア・アズナブルと再会して、こうしてみなさんとお会いすると、“手の震えが止まりません”。今日は世界最速、“通常の3倍の早さ”でのプレミア上映です。『THE ORIGIN』、歴史的な第一歩を、今宵はおつきあいください。

田中真弓さん(以下、田中) 『ガンダム』という歴史ある作品に初参加させていただき感激しております。シャアがなぜああいう人間になったのか、その起源を私も劇場で見せていただくのを楽しみにしています。

潘めぐみ(以下、潘) 会場にいる皆さん、ガンダムを愛する皆さんとともに、この空間を感じられることを光栄に思っております。新参者ではありますが、精いっぱいアルテイシアとして演じさせていただきました。皆さんがガンダムとともに過ごしてきた時間と、その想いを作品と照らし合わせながら楽しんでいただけたらいいなと思います。私は足の震えが止まりません。よろしくお願いします。

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▲左から、安彦良和総監督、田中真弓さん、池田秀一さん、潘めぐみさん。

 本編の上映終了後、登壇した安彦総監督は「やっとここまで来ました。『機動戦士ガンダム』が始まってから36年、日比谷公会堂という歴史ある場所で、『THE ORIGIN』という『ガンダム』の新たな歴史が公開されたことに運命的なものを感じます。優秀なスタッフのおかげで、私がアニメの現場から離れてから25年が経って、初めて満足と言えるものができました」と語った。

 以下より、トークショウの内容をお届けする。


――いまはデジタルのアニメ制作が主流となっていると思うのですが、安彦総監督がアニメの仕事をされていたころとの違いはありましたでしょうか。

安彦良和総監督(以下、安彦) 違いは大ありです。本作を作ったとき、アナログ人間の僕は“浦島太郎状態”でした。デジタルのことは何もわからないので、スタジオでは完全に見学していただけでしたね。ストレスのない幸せな生活をさせていただきました。

――今回初めて『ガンダム』に参加したおふたりにお聞きします。『機動戦士ガンダム』から36年という月日が経ちましたが、その作品のひとつに関わることができたいまのお気持ちを教えてください。

 私は『機動戦士ガンダム』がこの世に出たときはまだ生まれてもいないのですが、私の母(潘恵子さん)が『ガンダム』に携わっていました。その娘である私がこうして作品に関わらせていただき、『ガンダム』を愛する皆さんの前にいることができて、感無量です。

田中 私はそのときに生まれていたかな? わかんな~い(笑)。もう還暦ですけどね。私は安彦さんがキャラクターデザインを手掛けていた『白い牙 ホワイトファング物語』という作品に出演したことがあるのですが、こうして再び安彦さんと、『ガンダム』という特別な作品に関わらせていただくことができました。私は長く声優をやっていますので大抵のことでは緊張しなくなったのですが、今回は『ガンダム』という特別な作品ですから、ものすごく緊張しましたね。

 『ガンダム』のGは、重力(Gravity)のGだと思っています。私も重圧に負けそうなくらい緊張していました。

――安彦総監督は、原作コミックをアニメ化されるという前提で描いていらっしゃったのでしょうか。

安彦 そんなことはありません。それどころか、ありえないと思っていました。今回は無事アニメ化することができましたが、ひと言では表せない大人の事情がいろいろあって大変でした。

――またこうして『ガンダム』という作品に関わるとは思っていましたでしょうか。

安彦 関わるとはまったく思っていませんでした。僕は『ガンダム』のコミカライズを長年やってきたので、このままじゃ自分の人生はほとんど『ガンダム』だけになってしまう、それは冗談じゃないって思っていました(笑)。でも、25年ぶりにアニメの現場に戻ってきて、僕の身の丈を超えるものを作っていただきました。これは分厚いスタッフのおかげです。

 ここで、安彦総監督の自宅での仕事の風景がVTRで紹介。安彦監督は“第1原画”のチェックを鉛筆で丁寧に行っていた。制作スタッフの進行役は、安彦総監督の指示を聞き、それを現場へ伝えるメッセンジャーとなっていたそうだ。安彦監督は「スタジオに伝わっているか不安だったけど、僕の注文よりよいものができていました」と振り返っていた。VTRを見た藩さんは、その作業量の多さを想像して「スタッフの皆さんには頭が上がりません」と口にしていた。

 さらに、今西隆志監督、総作画監督の西村博之氏、メカニカル総作画監督の鈴木卓也氏からのビデオメッセージも公開された。鈴木氏は「ガンタンクの重圧さを出すことができました」、西村氏は「安彦キャラの豊かな表情に注目してください」、今西監督は「第2作目も鋭意製作中ですので期待してください。もう一度見るとさらに見どころが多くなる作品だと思います」と語った。

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――本作のアフレコは1日で終わったとのことですが、どのような収録現場だったのでしょうか。

池田 僕の出演シーンはアフレコが15分で終わっちゃいました(笑)。ただ、その短い時間でも、流れるようなシャア専用ザクの動きは素敵でしたね。今回はアフレコするときに、画を7~8割がた作っていただいていたので、とてもやりやすかったですね。

田中 私は『ガンダム』初心者なので、潘ちゃんに原作コミックを現場に持ってきてもらって、いろいろと教えてもらいました。

 私は真弓さんの隣にいることができたので、ただただ幸せでしたね。また、アフレコ現場には4本しかマイクがなかったので、どうやって限られた時間で回していくかを試行錯誤していました。

田中 20~30人くらいの声優さんが出たり入ったりしていましたね。私はそんな現場で疲れ果ててしまって、飲みにも行けなかったくらいでした。休憩室にいた池田さんは元気だったようですが(笑)。

安彦 僕はこのキャスティングがいかにぜいたくかということがわかっていなかったのですが、後でスタッフにそのことを教えてもらいました。ただただアフレコを見学させてもらって幸せでしたね。じつは、田中さんだけは唯一僕がどうしてもやってほしいということでゴリ押しさせていただいたいんです(笑)。僕がそう言ったのに、田中さんがわざわざオーディションを受けていたのが納得いきませんでしたけど(笑)。
 また、意外とキャスバルのセリフが少なかったので、後で田中さんに謝りました。そばにいるアルテイシアがほとんど言いたいことを言ってくれているんですよね。キャスバル坊やはこんなに無口だったんだって、アフレコを見て初めて気づいたんです。でも、ここぞという時に発するお声は素晴らしかったので、田中さんに演じていただいて本当によかったです。

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――潘さんが演じるアルテイシアは泣いたり叫んだりと感情豊かなキャラクターでしたが、演じていていかがだったでしょうか。

 無我夢中だったのであまり覚えてはいないのですが、演じているというよりはアルテイシアになりきっていたような気がします。作品の中で、周りの大人たちは自分のやりたいことに突き進んでいるのですが、アルテイシアはそうではないんです。彼女はうれしいときは笑う、悲しいときは泣くという、作中では唯一無二と言っていいほどに素直でした。彼女の感情表現は、この物語を観ている人の気持ちを代弁していると思います、

――池田さんは冒頭の戦闘シーンでシャア・アズナブルを演じられていましたが、戦闘シーンは感情が高ぶったりするものなのでしょうか。

池田 周りの声優さんたちがどんどんテンションを上げてくれるので、そこでボソッと言えばすむので、楽でした(笑)。でも、気持ち的にはテンションは大いに高まっていました。