自作のゲームを持ち込んで、実際にアドバイスしてもらいました!

自作ゲームは、遊ぶだけでなく自作してこそおもしろい!? “自作ゲームエリア”体験リポート【闘会議2015】_01

 2015年1月31日、2月1日の2日間にわたって千葉幕張メッセで行われた闘会議2015。ゲームファンの祭典……という華やかなお祭りムードの闘会議2015会場内にあって、ほかのブースとは一種異なる熱気を放っていたのが、niconico提供の“自作ゲームエリア”。エリア内には、PC-8001mkII(NEC)をはじめとする1980年代のパソコンから、最新ウィンドウズPCまでがずらりと並び、各時代を代表・象徴する“自作ゲーム”を試遊できるようになっていた。

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▲『東方Project』の第2作目『東方封魔録』(1997年/PC-9801シリーズ用)も実機でプレイヤブル展示。現在も高い人気を誇る『東方Project』縦スクロールシューティング路線の“元祖”ということで、多くのファンが順番待ちの列を作って楽しんでいた。
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▲昨年末にリリースされたプレイステーション Vita用ソフト『LA-MULANA EX(ラ・ムラーナ EX)』の原型にあたる、ウィンドウズPC用フリーゲーム『LA-MULANA』(2005年)。1983年発売のMSX規格パソコンのスペックを再現したグラフィック&挙動に、並ならぬこだわりを感じる。
▲過去の“ニコニコ自作ゲームフェス”受賞作も、近年を代表する作品として展示されていた。また、現在開催中の“ニコニコ自作ゲームフェス5”の応募作の中から、運営が厳選した5作品が出展されるなど、次代を担う自作ゲーム制作者支援も行っていた。

 ゲーム実況動画に端を発する、昨今のインディーゲーム・PC用フリーゲームの認知度の高まりもあって、エリア内はつねに、幅広い世代の男女でひしめいていた。

 1970年代前半生まれで『ゲームセンターあらし』育ちの筆者にとって、『平安京エイリアン』、『SPACE MOUSE』といった展示ゲームは、放課後、近所のマイコンショップのデモンストレーション用パソコンに粘着していた小学生時代の感覚がよみがえる思い出深いタイトル。グラフィックがほかの展示ゲームと比較してもシンプル過ぎて、これはさすがにおっさんゲーマー限定の世界だろう……と思っていたのだが、実際は小さな子供がこれらを熱心にプレイする姿が、多く見受けられた。レトロPCの無骨なキーボードに小さな手を添える少年にかつての自分を見た、というとあまりに酔っている感じがするが、“フリープレイで公開されているPCゲーム”というものには、いつの時代も、特定方向の趣味嗜好を持った若者を惹きつける何かがあるような気がした。

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▲マイコン雑誌『I/O』に投稿されたオリジナルゲームで、後に販売もされた『SPACE MOUSE』(1981年)。ハードもさることながら、ゲームソフトが収録されたメディア(カセットテープ)の保管も大変なのでは……と担当スタッフに尋ねたところ、「今回展示しているのは、雑誌に掲載されたプログラムを改めて入力したものなので大丈夫です!」とのこと。“生プログラム”の実機稼動……という事実に、密かに興奮した。
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 エリアの壁面には、ゲームの自作環境の土台となるコンピュータ業界の重要な出来事と、代表的な自作ゲームの公開日が列挙された“自作ゲーム大年表”が展示されていた。

 “コンピュータの父”と称されるチャールズ・バベッジが1840年代に製作したといわれる三目並べゲームから、昨年のニコニコ自作ゲームフェス受賞作までが、全長15メートルにわたって連なっているさまは圧巻。自作ゲームという括りの広汎さゆえ、トピックの選定にある程度の恣意性が含まれるのはやむを得ないものの、私と同世代のゲームファンが、自身のゲーム史と照らし合わせながら振り返るには十分すぎる情報が網羅されていた。

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▲年表の手前には付箋とペンが用意され、来場者がトピックを自由に書き足せるようになっていた。個人的な思い出を語るコミュニケーションノート風にも使われ、多くの人にとって自分史とゲーム史が密接に関わっていることが、期せずして視覚化されていた。

 本エリアならではの企画として来場者の注目を集めたのが、“自作ゲーム持込相談所”。ゲームのプロフェッショナルたちに自作ゲームを披露し、アドバイスをもらえる……という漫画の編集部持ち込みのようなことを、会場中央寄りの通路に面した特設ブース内で行った。

 現在もゲーム業界の一線で活躍する参加アドバイザーたちは、1セッション1時間という短い時間ながら、持ち込みユーザーの説明にじっくり耳を傾け、納得がいくまでプレイした上で、丁寧にアドバイスを送っていた。

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【参加アドバイザー】

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■ZUN氏 ※1日目のみ参加
数々の『東方project』作品を作り上げてきた、同人サークル“上海アリス幻樂団”の代表。プログラム、グラフィック、サウンドといったゲームのあらゆる要素をみずから構築できる、“自作ゲーム作家”の究極形といえる存在。

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■中村光一氏
“ニコニコ自作ゲームフェス4”で審査員を務めた、スパイク・チュンソフト代表取締役会長。ちなみに、自作ゲーム試遊コーナーには、中村氏が高校生時代に制作し、エニックス(当時)主催のホビープログラムコンテストの受賞作となったアクションゲーム『ドアドア』も展示されていた。

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■多田浩二氏(手前右)、伊東章成氏(奥左)
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアのインディー開発者担当。多田氏はゲーム開発者の視点で、伊東氏はプロモーション視点でのアドバイスを送っていた。

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■大前広樹氏
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの日本担当部長。フロム・ソフトウェアでゲーム開発環境の設計・開発などを行うなど豊富なプログラマー経験を持つ。

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■一之瀬裕之氏 ※2日目のみ参加
KADOKAWA エンターブレインBCの『ツクール』シリーズ担当者。

 各アドバイザーの方々が、どんなムードでどのようなアドバイスを送っているのか、その一端を知りたい!! と思った筆者は、個人的に制作中の自作ゲームを生け贄(?)に、各アドバイザーさんに飛び込みでコメントをもらうことにした。

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 ちなみに、自作ゲームの概要はこんな感じ。

■出しそびれた年賀状の代わりに制作中の、webブラウザ起動ゲーム
■右端から突進する羊をスペースキーでジャンプしてひたすら避ける。羊と衝突するとゲームオーバー。
■ある程度の点数に達すると羊がスピードアップ(4段階)
■点数によって年賀状(ゲームオーバー画面)の文面が変わる(2タイプ)

 ひと言でいうと“シンプル過ぎるミニゲーム”。クオリティー面も、プロのアドバイスを受けるにはあまりに貧弱だ。にもかかわらず“ゲームがうまい人にも苦手な人にも楽しんでもらえるような調整を、プログラミング素人にも対応できる範囲でしたい”という無謀な希望つきでお願いしてみた。このあたり、齢をとって面の皮が厚くなったからこそ可能となった取材といえるだろう。
 各アドバイザーの反応とアドバイス内容は、以下の通り。所要時間は各5~10分程度で、かつ“取材の一環”というバイアスがかかった状態での持ち込み相談だったが、おおよその雰囲気や特徴はつかめるはずだ。

■ZUN氏のアドバイス
 「ジャンプのタイミングがシビアですねー」と言いつつ、しばしくり返しプレイ。そして「まずやってほしいのは、ジャンプの修正。V字軌道が気持ち悪いですね」と、プレイヤーキャラの基本アクションのぎこちなさを指摘した。また、ゲーム性の拡張案として、ジャンプに強弱を用意すること、羊を複数同時に登場させることを挙げた。さらにしばらくやり込み、「もっと気持ちよさがあってもいいかな……」とつぶやくZUN氏。「ぶつかった時にプレイヤーキャラがふっ飛ぶだけでも気持ちよさがアップしますよ」と、初心者でも実装可能な改善策を提案した。「一番きれいにど真ん中で飛べたらスコアが2倍になるかと、プラス要素はいくらでもあります」(ZUN氏)。

 余談だが、羊を10匹以上連続でジャンプしたときに「見えた!!」と、完全にゲーマー視点になっている姿が印象的だった。

■中村光一氏のアドバイス
 まずはじっくりプレイし、「おもしろいですね、こういう年賀状」と、コンセプト自体にお褒めの言葉をいただいた。そして「プレイヤーがやることは、ひたすらスペースキーを押すので十分だと思います」と前置きした上で、羊の動きのバリエーション増加を提案。「羊がちょっと立ち止まってフェイントをかけるとか、反対側から走ってきてもおもしろいかなと」(中村氏)。もうひとつ……と、ZUN氏同様、ジャンプの軌道修正を指摘。「もうちょっと“ぽわーん”としてほしいですね。あらかじめジャンプ移動量のデータを作っておけば、面倒な計算をしなくても疑似的に再現できます」(中村氏)と、質問者の技量を考慮した上での、現実的かつシンプルな改善策を出した。

■多田氏&伊東氏のアドバイス
 現在は国内インディーゲームの統括担当だが、4年前まではスタジオでゲーム開発にあたっていたという多田氏。「フェイントはないの? 持久戦?」と言いながら数回プレイした上で、“プレイヤーの腕前に応じた満足感”に焦点を絞ったアドバイスを展開した。「徐々に羊の移動速度が上がるのは基本として、そのつぎの段階として、出現タイミングをたまにずらすことでゲームテンポに揺さぶりをかけます。つぎにプレイヤーは出現タイミングを計るようになるので、そこで今度は、速度に緩急をつけます」(多田氏)。逆にゲームが不得意な人向けの対策として、シンプルなAIによる自動難易度調整機能を提案。「数プレイ連続してスコアがひと桁台だったら、以降のプレイの基本難易度を下げる。その代わり、年賀状のメッセージ内容もそれなりにして、上達の動機づけにします」(多田氏)。何ていうか、コンシューマ寄りなアドバイスですね……と思わず筆者がつぶやくと「(開発者のときに)だいぶお叱りを受けたので。“誰向けに作っているんだ!”とか……」と笑った。

 伊東氏は「プロモーター視点ですと……」と想定外の切り出しから、本作のコンセプトを「売り物にしたほうがいい」とのアドバイス。「ゲーム容量が小さいのであれば、近年需要が増えている、ウェブやSNS経由での新年挨拶メッセージに、“新年感”をあらわすミニゲームのデータをフリーエントリーで提供できるフレームができるかもしれませんね」(伊東氏)。現在の筆者にそれを実現できるかどうかは甚だ疑問ながら、「ゲームとして完結するなら、単体のアプリではもったいない」(伊東氏)という外枠の視点・価値観を提示されたことは、大きな収穫だった。

■大前広樹氏のアドバイス
 「ワンボタンゲームですか。いいですね、これ」と、ファーストインプレッションは好感触。音楽に合わせてジャンプできるようにするのもいいのでは……という実例を挙げつつ、「ユーザーがどういうタイミングで何をしたらいいのか、ということがゲーム側からちゃんと提示されることが大事」と、アフォーダンスの形成を示唆した。また、何度も遊びたくなる要素として、年賀状メッセージのバリエーションを多くすることを提案。「一匹も飛べずゲームオーバーになったら、(新年が)明けてないじゃないですか(笑)。スコアによって“それほど明けていない”、“明けるにはまだ早い”とか、そういったものが200個くらいあると、プレイヤーの興味が“どれだけあるんだろう?”という方向に向きますよね」(大前氏)と、年賀状ゲームという本来の趣旨に沿ったアドバイスをいただいた。

■一之瀬裕之氏のアドバイス
 「ジャストアイデアですけど……」と前置きの上、スペースキーを押している長さによってジャンプの高さが変わる要素や、2段ジャンプ、プレイヤーキャラの左右移動要素などを提案。プレイヤー自身でタイミングを制御できる余地を増やすアドバイスをいただいた。

 一之瀬氏が担当した持ち込みユーザーの作品が『RPGツクール』製だったこともあり、せっかくの機会だから……と、『ツクール』シリーズの今後について尋ねてみた。すると、「最初のツクールが発売されてから20年以上経って、ある程度認知され、ユーザーコミュニティーも形成されています。現在の最新作は『VX Ace』(2011年リリース)ですが、ここで止まってしまうわけにはいきません」と、力強いコメントをいただいた。「エディタのUIを見たときにストーリーが浮かびやすいのが強み」(一之瀬氏)の『ツクール』シリーズは、ニコニコ自作ゲームフェス出展ゲームの開発環境としても、多くのユーザーに重宝されているだけに、今後の動向は、いち自作ゲーム制作者としても注目していきたい。

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