死と狂気の香りが漂う呪術的な精神世界を進め
ギリシャのEncryptiqueによる2Dアドベンチャーゲーム『Tulpa』を紹介する。本作は日系パブリッシャーのRising Star Gamesが強化しているインディーゲームパブリッシング路線の1タイトルとしてSteamで配信中。価格は980円。
Playdeadが開発した2Dアドベンチャー『Limbo』の大ヒット以降、数多くのフォロワーが生まれてきたが、単なる見せかけではなく、抽象的なストーリーの提示のレベルまで追い、かつオリジナルな世界を生み出すに至ったタイトルはそうそうない。『Tulpa』をプレイし終わった時、まさに『Limbo』を初めてプレイした時のような、静かに突き刺さる重さを感じた。
『Tulpa』でプレイヤーは、女の子オフィーリアと、彼女の生み出した思念体“トゥルパ”であるオリバーを操作して4つのステージを進んでいく。マップに仕掛けられたギミックを利用してパズルを解いて先に進む、パズルプラットフォームアドベンチャーだ。
オフィーリアはある程度の大きさまでの物を押したり跳んだりすることができるが、もちろんそれだけでは進めない場所が出てくる。そこでオリバーの出番だ。彼はオフィーリアの側を浮遊していて、離れた場所のオブジェクトに干渉し、ステージギミックを発動させることができる。序盤のチュートリアルを除いて、実質パズルのほとんどをオリバーを使って解き、切り拓いた道をオフィーリアに切り替えて進むといった感じ。
しかし「女の子と精霊男子が力を合わせて大冒険」と言えば聞こえがいいかもしれないが、『Tulpa』から伝わってくるのは真逆の、もっと呪術的で恐ろしい何かだ。
病んだステージと背景に秘められた真の物語
トゥルパ(日本ではタルパとも呼ばれる)とは、チベット仏教などに伝承される、行者の意識によって発現する精神的存在。本人から独立した意思を持ち、会話も可能とされる。転じて現在ではスピリチュアル方面のインターネットサブカルチャーでイマジナリーフレンドの一種として扱われ、作り方などが議論されている(インターネット掲示板RedditにもTulpa板があったりする)。
これだけでも「あっ……」と何かを察する人がいるかもしれないが、序盤からオリバーの死のイメージがマップの端々に出てきたり、「オフィーリアがオリバーと離れた状態が一定時間続くと発狂してゲームオーバー」というギミックを聞けば、どうにも病んだ心の闇が明らかに介在しているのに気が付くと思う。
いったいオフィーリアはどんな経緯でオリバーを生み出し、この不安定な世界にやってきたのか? それこそがプレイヤーが追い求める『Tulpa』の真の物語だ。本作ではナレーションやセリフなどを一切排しており、言葉で具体的なストーリーが語られることはない。まさに『Limbo』と同様に、プレイヤーは背景に描かれたものやステージギミックの構造から、真の『Tulpa』の物語を読み取っていくのだ。
背景はパズルのヒントや、さらにはステージギミックそのものであったりもするので、積極的に読み解こうとしなくても、どっちみち自然と目が行くのもポイント。ヒンドゥーやインディアンから悪魔崇拝まで古今東西のあらゆるスピリチュアルな信仰のモチーフをちりばめつつ、マットに塗り潰したアートスタイルは美しく、眺めがいもある。
そういった設計のゲームだけに、手掛かりの見当すらつかなかったりするとハマってストレスが溜まることになるのは致し方なしといったところか。筆者は3箇所どうしてもわからないパズルがあり、2箇所はティザートレイラーをヒントに強引に解き、1箇所は運に任せて解いた程度なので、「背景はオリバーでクリックできることがある」、「ほんの少しだけ前に戻るパズルはいくつかあるが、大きく戻るようなものはない」ぐらいしか助言ができない。
リプレイ性については、単にクリアーしただけではほぼ何もわからず、「こういう話なんじゃないか?」と推測しながらプレイし直すと「もしかしてここに描かれてるコレって……」と見えてくるものもあるので、意外とやり直しがいもある感じ。
逆に「はっきり説明してくれないとやだ!」という人にはあまりオススメできない(なんせエンディング後に流れるクレジットに「さぁ解け」とばかりに暗号文が用意してあるようなゲームである)。
オフィーリアはヤンデレなのか? 開発者に直撃
そんなわけでオフィーリアの甘い狂気の世界にズブズブと踏み込んでしまった筆者。いろいろと聞きたいことがあったので、Rising Star Games経由でEncryptiqueにメールインタビューを行った。真相についてもちょっと触れるような質問をしているので、ここから先はライトなネタバレを気にしない人か、一周プレイし終わった人だけお読みください。