“究極対戦”開発陣インタビュー
個性的な戦闘システムを多数搭載し、1対1で展開する対戦のおもしろさを追求したスクウェア・エニックスの新作アーケードゲーム『スクール オブ ラグナロク』。数多の“学園”によって構成された世界観や、バトルを盛り上げる楽曲の制作秘話などを、本プロジェクトの中枢を担う3人のキーマンにうかがった。
※インタビューの内容は2015年1月29日発売号の週刊ファミ通で掲載したものと同様のものとなります。
初心者でも気軽に楽しめる1対1の対戦ゲームを模索
――メーカーの垣根を超えて実現した、本作の開発経緯を教えてください。
柴 近年、アーケードゲーム業界は市場としてきびしい傾向にあります。ですが、世界の
市場としてみると、EVO(アメリカで開催される、世界最大の格闘ゲーム大会)などは1日に8000人近い参加者がエントリーして、ものすごく盛り上がっています。日本でのアーケード市場とは真逆で、優勝者や上位にランクインしたプレイヤーのほとんどは、日本人なんです。この結果には、日本のアーケードゲーム文化の影響が強いと思うんですね。ローカルなコミュニティーの中で、ゲームがうまい人がまわりにいて、その人たちと戦ったり、教え合ったりしながら技術を磨いていく。この文化は世界のプレイヤーたちに通用するすばらしいものです。最近のアーケードゲームの主流がマルチ対戦になっていて、逆にユーザーさんから1対1の対戦ゲームを望む声が多かったので、現在のような形に落ち着きました。
――本作は、いわゆる“対戦格闘ゲーム”とはまったく異なる1対1のゲームですね。
柴 一般的な対戦格闘ゲームの形にしてしまうと、それまで対戦格闘ゲームに触れていたユーザーさんとそれ以外のユーザーさんで大きな差が出てしまいます。誰もが同じスター
トラインに立って対戦を楽しんでもらいたかったので、まったく新しいジャンルの対戦ゲームにしようというコンセプトがありました。
――なるほど。小高さんが開発に加わったのは、どのような経緯で?
柴 アーケードゲームは、1プレイの満足感が重要です。その満足感を高めるためには、音楽や世界設定なども大事な要素となります。現状のアーケードで、そこに力を入れているタイトルは少ない。小高さんは、ゲームのシナリオを手掛けられている経験が豊富で、尖ったシナリオも書ける方でしたので、適任だと思い、お声がけさせていただきました。
――小高さんは、柴さんからオファーが来たとき、どのような心境だったのでしょうか?
小高 私自身、学生時代がアーケードゲームの全盛期だったので、この業界に入ったからにはいつか携わりたいと思っていました。ですので、お話をいただいた瞬間に「やります!」と、即答させていただきました(笑)。
――具体的にどんな作業をされたのですか?
小高 世界観設定とシナリオを担当しました。キャラクターデザインの藤坂公彦さんと相談しながら、学園やキャラクターの設定を詰めていった感じですね。
柴 こちらから注文したのは、「ゲームシステムが決まっているので、それに当てはまる設定にしてください」ということくらいですね。後はテーマとして、“学園どうしの戦い”という要素を盛り込んでもらいました。
小高 各キャラクターの個性を際立たせるために、それぞれが存在する世界の設定そのものもガラッと変えてみました。イヴォールなら耽美な世界、スマイルハートなら魔法少女
がいそうな世界、バルハラデスなら、まさに『ファイナルファンタジー』のような世界……といった具合に、学園神たちが住む世界はバラバラで、それらをつなぎとめるのが“学園”というキーワードなんです。
――まさに学園神は『スクール オブ ラグナロク』を象徴するキャラクターですよね。学園や学園神の設定に関しても、もう少し紹介をお聞きしたいです。
小高 街や国という概念がなく、すべてが学園で区切られた世界になります。世界は学園
単位で分かれていて、各学園を支配しているのが学園神という存在です。そんな学園神た
ちが、世界を掌握する唯一の学園を決めるために戦いをくり広げる……というのが大まか
なストーリーですね。実際にプレイヤーが操作するのは、学園にやってきたばかりの転校
生で、このキャラクターに各学園の学園神が力を授けることで、独自の武器や能力が備わ
り、戦えるようになるというわけです。
歌入り楽曲は10種類以上アーケードとの親和性にも注目
――岡部さんは、どういった経緯で本作の楽曲を手掛けることになったのでしょうか?
柴 岡部さんは『ドラッグ オン ドラグーン3』でもごいっしょさせていただきましたが、そのとき手掛けられた楽曲が印象に残っていて。本作では、学園ごとに歌入りの楽曲を用意したかったので、歌ものはもちろん、対戦ゲームのBGMも制作経験のある岡部さんは適任だと思い、お声がけさせていただきました。
――歌入りの楽曲は、どういったタイミングで流れるのでしょうか?
柴 “神がかり”の発動に合わせて楽曲が流れます。ゲーム中で聞けるのは楽曲の一部だけですが、これらの楽曲のほか、ストーリーモードはフルボイスで進行するので、非常に満足度の高い仕上がりになると思います。
岡部 曲の雰囲気や歌詞は、キャラクターごとにかなり違ったものになります。小高さん
からいただいたプロットを参考に曲のイメージを固めながら、現在、同時進行で作業を進
めている最中です。歌い手もステキな方ばかりなので、発表するたびに話題になると思い
ますよ。ちなみに、ゲーム内では楽曲の一部だけですが、曲はすべて5分近くあるフルサ
イズで制作しています。
——アーケードゲームと家庭用ゲームでは、音楽の作りかたも違いますか?
岡部 まったく違いますね。家庭用の場合、音楽は“作品の世界観を表現するための一要素”という側面が強いですが、アーケードゲームでは、周囲がうるさくて音楽が聞こえにくい状況の中、いかにして短い時間でプレイヤーのテンションを上げられるか? という点が重要視されます。雑踏の中では、ふわっとしたメロディーよりビート感のある曲や歌声のほうが聞こえやすいので、歌入りの楽曲はじつはアーケードゲームと相性がいいんですよ。
――学園ごとに世界設定が異なるというのは、作曲するうえでたいへんだったのでは?
岡部 その点に関しては最初から、「世界観を統一するより、学園ごとにパンチのある曲を作ってほしい」と言われていました。ですので、むしろ音楽から本作の世界が広がることを目指して制作しました。
――メインテーマソングに高橋洋子さんを起用された理由についても教えてください。
柴 ゲームの世界を統一する、作品を象徴するようなテーマ曲がほしかったんです。そこ
で、ゲームファンやアニメファンなど、幅広い層のユーザーから納得してもらえる歌い手
を探していたところ、高橋さんに白羽の矢が立ったというわけです。ダメもとでご相談させていただいたら、快く引き受けてくださって。シナリオも全部読み込んでいただいて、歌詞も制作していただきました。
岡部 メインテーマの『Evolve』は、高橋さんに歌っていただく意義や、ゲームファン、アニメファンが望むであろう形を模索した結果、メロウな曲に仕上がりました。一度、サビを聴いたら、もう忘れないと思います(笑)。
戦略性と爽快感が魅力! 新ジャンル“5Dアクション”
――本作は“1対1のタクティカル5Dアクション”と銘打っていますが、この意味とは?
柴 “1対1”には、冒頭でもお話した対戦ゲームとしてのこだわりが、“タクティカル”には、ただ殴り合うだけではなく、戦略的な戦いも楽しめるという意味が込められています。具体的に話すと、本作では戦闘前にプレイヤーのカスタマイズが行え、衣装や学園神だけではなく、対戦中に発動するスキルなどもセットできます。またバトルが始まると、ステージ内の数ヵ所に設置された“禁治郎の像”というオブジェに校旗を掲げる(制圧する)ことができ、その数が多くなるほどアバターの能力が強化され、多彩なスキルも使用可能になるんです。ですので、いきなり敵プレイヤーに攻撃を仕掛けてもいいし、まずは校旗を増やし、能力を強化してから立ち向かうのもいい。いくつもの戦略の中から好きなスタイルで戦えるようになっているのが、大きな特徴です。
――“5Dアクション”はどういう意味ですか?
柴 3D空間を自由に移動できる立ち回りと、敵に接近するとキャラクターにクローズアッ
プし、2D対戦格闘ゲームのような画面に切り換わる点を併せて、“5D”と表現しました。
――戦闘では、学園神はどのような役割を果たすのでしょう?
柴 アクションをくり出すたびにゲージが溜まっていき、一定数に達すると、武器に学園
神の能力が付加される神がかり状態になります。神がかり時は、攻撃力や防御力がアップ
するだけではなく、“ラグナロクドライブ”という超必殺技も使用可能になるので、追い詰
められても一発逆転が狙えるわけです。プレイヤーと学園神の体力は別々に設定されてい
るので、先に学園神を倒せば神がかりを封じることができ、有利に戦うことができます。
――筐体のデザインも独特ですね。
柴 ゲームセンターで遊ぶからこそ、楽しめる要素を盛り込みたいと思いまして。モニタ
ーを大きくしたり、3Dの立体的な演出も検討したのですが、最終的に、より快適に遊べる
ボタン配置という案に落ち着きました。とくに、ラグナロクドライブは本作の肝となる要
素なので、より爽快に遊んでいただけるよう、専用のボタンを用意してあります。
小高 そこが、アーケードゲームの夢のあるところですね。ボタンを増やせたり、位置を
変えたり、自由にできるのがすばらしい!
――小高さんは、実際に動いているキャラクターたちを見て、いかがでしたか?
小高 さすがはディンプスさんですね。ゲームとしておもしろいのは当然ですが、後ろか
ら見ているお客さんの興味を引く工夫も凝らしてあって、意欲的な作品だと感心しました。
——では最後に、本作のリリースの予定や今後の展開について教えてください。
柴 2015年中の稼動を予定していて、将来的には全国大会なども開きたいです。また、
リリース後も定期的にバージョンアップを実施して、新ステージやキャラクターなども配
信していきたいと考えています。とにかく、対戦のおもしろさをとことん突き詰めたタイ
トルに仕上げますので、ご期待ください。