台北ゲームショウでのキャッチコピー“史上最強の遊園地”のワケとは?

 2015年1月28日(水)~2月1日(日)、台北世貿中心(台北ワールドトレードセンター)にて、台北ゲームショウ2015が開催中だ。開催2日目にあたる1月29日(木)には、日本の取材陣を対象にした、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア デビュティプレジデント(アジア総括) 織田博之氏とソニー・コンピュータエンタテインメント台湾(SCET)総経理(プレジデント)の江口達雄氏への合同インタビューが行われた。ここでは、その模様をお届けしよう。

SCE台湾ビジネスのカギを握る、織田博之氏と江口達雄氏に聞く ゲームを通して、いろいろな体験を台湾のゲームファンに届けたい【台北ゲームショウ2015】_01
▲織田博之氏(左)と江口達雄氏(右)。

――今回の台北ゲームショウでは、SCETさんは“史上最強の遊園地”というキャッチコピーで展開されているのですが、出展のコンセプトや狙いなどを教えてください。

江口 我々は2005年から連続して台北ゲームショウにプレイステーションブースを出展しています。年々規模を拡大しておりまして、今年も去年に比べて1.5倍のサイズで、大規模なブースを展開しています。ショウのやりかたはいろいろとあると思うのですが、うちの場合はとにかく試遊台をしっかりと揃えて、お客様に遊んでいただく方針でいます。今回は100台以上の試遊台を揃えています。数々の発売前のタイトルを試遊していただくということを中心に据えてやっていますので、そういった意味でもゲームファンが来ていただければ、「本当に遊びたいタイトルがたくさんあるよ」という意味で遊園地。もうひとつの側面としては、今回ステージイベントがすごく充実しておりまして、たくさんのクリエイターの方に来ていただきました。で、一方的な情報発信をするだけではなくて、ユーザーさんとコミュニケーションをするような、そういったインタラクティブなショウの演出をしていますので、そういった意味でも“遊園地”かなと思っています。

――今年もたくさんのクリエイターが登壇しますが、その狙いを教えてください。クリエイターさんも台湾のゲームファンの熱気に触れて、喜んでいらっしゃる方も多いようですが。

織田 アジアはビジネス的に言いますと、言語ローカライズに締めるインパクトが大きくて、数年前から言語ローカライズ、とくに中国語のローカライズには積極的に取り組んでいます。アジアで中国語化したものが、確実に売れるという実績が上がってきていまして、日本のライセンシーさんも、アジアのローカライズの効果を実感していただいています。それで、積極的にアジアのローカライズという話をするライセンシーさんが増えてきているんです。「アジアでビジネスを伸ばしたい。そのためにはローカライズも含めていろいろとがんばりたい」というライセンシーさんが増えているんです。台湾を筆頭にしているのですが、非常に“パッション”があって、それはステージを通してクリエイターさんにも伝わると思うのですが、「自分の作品がこれだけ愛されている」ということを感じるようなんですね。それで、「アジアに向けてもっとがんばっていきたい」と思っていただけるようです。
 そういった意味では、たくさんのクリエイターをお招きする理由はふたつあります。まずは熱心なファンの方に、自分が憧れとするクリエイターさんに来てもらって交流していただく。もうひとつは、アジアがいますごく盛り上がっていて、ビジネスとしてうまく行っていることを、クリエイターさん、デベロッパーさんに感じていただくというふたつの目的があります。
 そのために、今回ステージを特別に大きくしています。レイアウトとしては、例年ステージは外に向けて作るのですが、通路だと収容できないだろう、ということで、今回はブースの中にステージを持ってきて、ステージをいちばんメインにしています。さきほど“遊園地”と申しましたが、お客様も開発社様もみんなで楽しんでいただこうということで展開しています。

SCE台湾ビジネスのカギを握る、織田博之氏と江口達雄氏に聞く ゲームを通して、いろいろな体験を台湾のゲームファンに届けたい【台北ゲームショウ2015】_04

江口 東京ゲームショウでもそうですが、ステージは通路に向けて作って、通路で見ていただくというスタイルですよね。我々も去年、一昨年とそのスタイルでやってきたのですが、今回あまりにもクリエイターが銀河系軍団過ぎてですね、すばらしい方々にお越しいただけることになったので、豪華ゲスト陣を発表する前から、「これは確実に台湾のゲームファンに熱狂していただけるな」ということで、「これはたいへんなことになるな」ということがわかっていましたので、通路で限られたスペースでやるのではなくて、しっかりとしたスペースを作ろうということで、制作しました。今回650名くらいがちょうどステージ前に立って見ていただけるようになっているのですが、さっそく昨日の初回の『ソードアート・オンライン -ロスト・ソング-』のイベントから、想定外の人に集まっていただいて、おそらく1000人を超えるお客様が、昨日のステージには来ていただいたと思っています。中に引き込んで展開してよかったなと思いましたね。

――昨日のオープニングセレモニーではおふたりが『The Order: 1866(オーダー1866)』のコスチュームで登壇されてびっくりしたのですが、あれも“遊園地”風のおもてなしに?

SCE台湾ビジネスのカギを握る、織田博之氏と江口達雄氏に聞く ゲームを通して、いろいろな体験を台湾のゲームファンに届けたい【台北ゲームショウ2015】_02

織田 私のキャリアで始めてのコスプレでした。過去にしたことがなくて、はじめての経験です。じつはこれは、台北ゲームショウブースのオープニングプランを江口と話したときに、「これだけプロデューサーさんがいるなかで、主催者であるSCEはどうすべきだろう?」ということで悩んだんですね。“楽しんでもらう”というのがコンセプトなので、何をやったらいちばん楽しんでもらえるだろう……ということで、「俺、コスプレをやる!」と決めたんです。

江口 私は大反対したんです(笑)。織田の口からそういう提案が出るとは、思っていなかったんですね。彼はつねにスーツで、ビジネス的な硬い話が多いので、そういった提案を受けたときは衝撃を受けたのと、「我々がやって、果たしてみんな喜ぶのか?」というのもあって、反対したのですが、やってみました。非常に台湾のメディアさんも喜んでいただいて、昨日の記事などを見ると、「織田・江口がコスプレをして」という前置きが必ず入っていましたね。

織田 まず自分たちで喜んで「楽しんだよ」というのを伝えるためにはどうしたらいいかというと、「プレイステーション4売れました」というのも大事ですが、何よりも我々自身がこんなに楽しんでいるんだよというのを伝えたいということを象徴的にやろうと思って、ああいう格好をしていったら、当日は少し笑い声が起きて、少し心が折れかけました(笑)。

――SCEの本気のもてなしぶりが伝わるコスプレでしたね。ちなみに、『The Order: 1866(オーダー1866)』のコスプレだったのは、台湾は『The Order: 1866(オーダー1866)』推しということですか?

織田 今回ファーストパーティータイトルとして展開している『The Order: 1866(オーダー1866)』も『Bloodbrone(ブラッドボーン)』もおかげさまで期待していただいておりまして、それぞれ発売も間近に控えています。予約もたくさん入っているのですが、『Bloodbrone(ブラッドボーン)』のコスチュームでいくと、あまりにもきびしいかな、顔が見えないかな、ということで、『The Order: 1866(オーダー1866)』を選ばせていただきました。

江口 ちなみに、私がエプロンを着てでていったのは、コックさんだからじゃないんです(笑)。あれは、『The Order: 1866(オーダー1866)』の登場人物に武器を供給するという、“武器発明家”のニコラスというキャラクターがいるんです。それなんですけど、たぶんお越しになった皆さんは誰もわからなかったんじゃないのかな……と(笑)。

ゲームを売るだけではなく、いろいろな取り組みを検討中

――台湾のデベロッパーさんのプレイステーションプラットフォームに向けての計画は?

江口 台湾のデベロッパーサポートは、我々はアジアの中でも比較的早くから取り組んできたんですね。その成果もありまして、いまは10社くらいがプレイステーション向けのタイトルを出していただいています。ただ、ディスクになったのはそのうちの1タイトルだけで、それ以外はPSNの配信専用で展開させていただいています。代表的なところでいうと、一昨年のPlayStation Awards 2013の特別賞を、台湾のRayarkの『Cytus Lambda』が受賞しています(⇒関連記事はこちら)。Rayarkも『Cytus Lambda』がヒットしてから、インディーとは呼べない規模になっているのですが、そもそもインディーで出発した開発会社でして、そういったところがPS Vita向けに配信タイトルを作ってくれていますね。結果がようやく出てきたかなと。

――旧正月に向けて何かが作品がでてきたり?

江口 そのRayarkさんが、『Cytus Lambda』の続編である『DeeMo』をPS Vita向けに開発中でして、これも音ゲーなのですが、会場で試遊可能となっています。

――台湾のゲーム市場の動向を教えてください。

江口 台湾のゲームファンの嗜好をひと言で説明しますと、基本的には日本のゲームが大好き。心の中心にはやはり日系メーカーのタイトルがある感じです。でも良作であれば、欧米系のタイトルも偏見なく遊びます。で、ジャンルでいうと、やっぱりジャパニーズRPGがいちばん人気で、つぎアクションといったところですね。でもじつは『コールオブ デューティ』のようなFPSだったり、格闘ゲームにはまっていらっしゃる方がいる。とにかくバランスが取れていて、ワイドレンジで遊んでいただけるファンの方が多いんですね。なので、去年プレイステーション4の立ち上げの時期というのは、どちらかというと欧米のタイトルのほうが多かったのですが、それも皆さん充分に楽しんでいただいて、プレイステーション4の普及を引っ張ってくれたところもあります。いよいよこれから日本のタイトルが出揃ってきますので、まだプレイステーション4を買われてない、プレイステーション3のユーザーの方も、つぎつぎとプレイステーション4の世界に入ってきてくれるのではないかなと期待しています。
 携帯ゲーム機についてですが、PS Vitaは日本とほぼ同時の2011年に発売しています。2000シリーズが1回モデルチャンジしてハードが代わりましたが、あのタイミングで価格が若干お手頃になったこと、それとカラーバリエーションがすごくかわいいということで、あのタイミングで普及に加速がついて、現在まで順調に売れています。そのタイミングが、我々がちょうど中文版を強力プッシュするのとときを同じくしていますので、それでカラフルでお手頃な2000シリーズのハードと、中文版のタイトルがでてきたということで、それがちょうといいタイミングがあったということで、ここ3年継続的に拡大を続けています。

織田 補足的にアジア全体の状況を簡単に申しますと、日本タイトルも欧米タイトルも両方ともファンがいらっしゃって、そういう意味では可能性を感じるマーケットだと思います。あと、国によっては、多少特徴がありまして、たとえばスポーツ系で言うと、台湾は当然サッカーは人気がないんです。ワールドカップがそんなに盛り上がらないんです。台湾といえば、野球とバスケットボールなんですね。これがアジアに目を移すとおもしろくて、フィリピンは圧倒的にバスケットボールです。そのほかのASEAN、東南アジア、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムはサッカーです。で、英語圏は比較的欧米タイトルが好きなのですが、台湾は欧米も日本も好まれるということで、すでにご存じかもしれませんが、去年SCEの台湾でじつはjdkバンドのコンサートを主催しまして、大盛況だったんですね。台湾のゲームファンの方は、アニメーションとゲームで日本語を覚えて……という方が非常に多いんですね。となると、入り口がゲームだったりアニメだったりするので、その両方をうまく結びつけて演出をすると、非常にたくさんのお客さんに喜んでいただけるんです。去年の日本ファルコム様の『英雄伝説 閃の軌跡』のjdkバンドの台湾でのコンサートをSCEのほうで主催したのですが、けっして安くはない有料だったにも関わらず1000人くらいお客様にお越しいただいたんですね。昨日も『ソードアート・オンライン』のファンの方が非常に多くて、その主題歌を歌っている藍井エイルさんということで、好きなものと好きなものが重なって1000人以上の方にお越しいただきました。台湾という視点でいうと、日本のアニメやゲームなどのいろいろな文化をメディアミックスでやると話題を集めます。アジア全般で言うと、基本的には欧米タイトル・日本タイトルがバランスよく売れるのですが、国によってはスポーツの嗜好性がありますので、そういうことを考えながら展開させていただいていますね。

江口 いま織田のほうから、話があったように、我々が日本ファルコムさんと協力してjdkバンドさんのライブを自主興行で主催させていただきました。ただゲームを売るだけではなくて、ゲームを通していろいろな体験をお客様にお届けしたい。あと、お客様といっしょに遊びたいといった活動を、来年度も継続してやっていこうと思っています。これはコンサートかもしれないですしeスポーツかもしれないと思っていて、我々はプレイステーションプラットフォームで、ああいったたくさんの人たちが集まっていただいて、熱狂できる。みんなでひとつの画面を見て盛り上がれるタイトルって何だろう……ということで、いろいろと考えています。

――3年くらいまえから中国語のローカライズに積極的に取り組み始めたとのことなのですが、どのくらいの成果が?

織田 具体的な数字は差し控えさせていただきたいのですが、台湾にトラディショナルチャイニーズ・繁体字中国語版のローカライズセンターがあるんですね。陣容が人数で言うと、3倍近くになっているんです。

江口 3年間で11人が30人になりました。

織田 それくらい取り組むタイトルが増えたのと、冒頭で申しました通り、ローカライズをすると売れるという実績ができましたので、より多くのライセンシーさんが積極的にローカライズのスキームを使って、アジアに出していきたいという機運が高まっていますので、発売本数などは申し上げられないのですが、非常に多くのタイトルをローカライズすべく、人員を強化しています。

――プレイステーション4が史上最高の伸びを記録しているとのことですが、台湾での手応えはいかがでしょうか?

江口 手応えという意味では、一昨日の12月18日に台湾でプレイステーション4を発売しました。日本よりも若干早めにローンチできたということもあって、非常にユーザーさんの盛り上がりがすごくて、発売日記念イベントを開催したのですが、台北で200人、台中で200人、高雄で100人と3都市合計で400人の方に集まっていただいたんですね。その第1号様が7日間野宿してくれたんですね。野外で。それが新聞で記事になったりして、すごく話題になったのですが、その時点でかなり手応えはかなり感じていまして、「7日前から並んでいただいているんですか?」ということで、カップラーメンなどを差し入れました。12月ともなると、台湾もけっこう寒いんですね。10度くらいまで下がりますので。あのときから感じた手応えが、実際発売と同時に想像を超える形で立ち上がって、あっという間に1年やってきたなという感じで、立ち上がりとしては、期待を超えるスピードですね。

――具体的にはどんな点が台湾のユーザーに受けたと思われます?

江口 台湾はよくご存じの通り、IT立国でして、世界中のノートPCの90%以上を台湾メーカーが作っているという現状です。ふつうの人たちでもITに詳しいんですね。なので、スマートフォンのネット接続時間が世界でも有数なんです。そのくらいネットネイティブな人たちなんですね。で、プレイステーション4のシェアプレイだとか、新しい遊びかたに価値を見出してくださっていて、積極的にブロードキャスティングしたりとか、シェアプレイで友だちに助けてもらったり……ということを楽しんでくださっていますので、そこは大きいのかなと思っています。

――会場を見て、初めて見るキャラクターに驚いたのですが……。

SCE台湾ビジネスのカギを握る、織田博之氏と江口達雄氏に聞く ゲームを通して、いろいろな体験を台湾のゲームファンに届けたい【台北ゲームショウ2015】_03

江口 ああ! アイちゃん。うれしいところに気がついてくれますね! 彼女はアイちゃんというのでうが、SCETでアルバイトしているという設定なんです(笑)。プレイステーションの楽しさを伝える宣伝担当といった位置づけです。台湾って、Facebookの普及率が世界一なんですよね。みんなFacebookを毎日相当な時間やっているのですが、我々のSCETのオフィシャルのFacebookも、いま20万人の登録者がいまして、しかもただ登録しているだけではなくて、頻繁にシェアしてくれたり、コメントしてくれたり、“いいね”を押してくれたりするんですね。稼働率が7割くらいあるような、いいファンが集まってくれるので、そこに彼女は頻繁に登場して、「こんな新作がでるよ」とか、「こんなキャンペーンがあります」ということを紹介してくれるんですね。ちなみに、その絵を描いてくれたイラストレーターさんがVOFANさんという、日本でもおなじみの方なんです。