開発パネル第二弾は“忍者ができるまで!”

※開発パネルPart1のリポートは<<こちら>>。

 開発パネルは、『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア』(以下、『新生FFXIV』)がどのように開発されているのかをコアメンバーと呼ばれる開発スタッフのキーマンがたっぷり解説してくれるステージイベント。
 今回登壇したのは、リードデザイナーの鈴木健夫氏と、助っ人として登場のアシスタントディレクター高井浩氏。コミュニティーチームの望月一善氏の進行で、パッチ2.4で公開された新ジョブ“忍者”のグラフィックが完成するまでに実際にどのような作業が行われたのかを、初公開となる貴重な開発資料を随所に織り交ぜながら解説していった。

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▲8月23日に行われた14時間生放送の“14時間耐久アートマチャレンジ”以来の3ショット。左から望月氏、鈴木氏、高井氏。

開発スタートは『新生FFXIV』リローンチ前の2013年7月から

 忍者の開発に着手したのは、なんと『新生FFXIV』のβテスト第4フェーズが行われていた2013年7月。吉田直樹プロデューサー兼ディレクターから「新クラスとジョブをパッチで足したい」という要請を受けたことによってスタートしたという。

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 土台が完成したのは2013年の10月ごろ。

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▲『新生FFXIV』のグラフィック製作は、大きく8つのセクション(班)に分かれている。このほとんどにデザイナーという職種が関わっている。
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▲忍者のグラフィックが完成するまでの過程をまとめた資料。あまりの細かさに「これ仕事で出てきたら読まないパターンの書類ですよ」と高井氏も思わずボヤく。

 『新生FFXIV』の開発で何かを新しく作り始めるときは、キャラクターに限らず、イメージから入る場合が多い。忍者もまずはアート班がジョブ専用装備(いわゆるアーティファクト装備)、レリック武器、PvP装備のイラストを作成。ジョブ専用装備などの重要なものになると、吉田直樹プロデューサー兼ディレクターのチェックを受けながら、かなりの量のラフが描かれる。高井氏いわく「『新生FFXIV』のプロジェクトは、アートの数が半端なく多い」とのこと。
 以下は製作途中に浮上したデザイン案だ。

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▲忍者のアーティファクト装備のラフ。中には日本刀を背負ったり、頭防具が頭巾になっていたり、『FFVI』のシャドウっぽいデザインのものも!
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▲こちらが最終稿。

 キャラクター班とモーション班は、キャラクターをデザインする上での決まりごとである“レギュレーション”を決めるためのガイドモデルの製作に入る。これを最初に決めないと、たとえば走っているときは大丈夫だが、何かエモートをすると武器が体にめり込んでしまうなど、デザインに破たんが生じてしまうため、非常に重要な作業なのだ。

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▲武器や防具の大きさの限界を決めて、その枠組のなかでモーションなどのいろいろなデザインを決めていく。

 ガイドモデルができると、モーション班が基本動作を製作する。ここでは実際にモーションを作っていたときの動画が公開された。いわゆる忍者走りや回転ジャンプなど、忍者特有のモーションのいくつかはこの時点ですでにデザイナー発案で盛り込まれていたのだ。

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▲スプリントで走るときに、顔の前に武器を構えているものなど、ボツになった貴重なモーションも観られた。

 イメージ画、ガイドモデル、基本動作など、忍者の土台がある程度整ったのが、開発スタートから約3カ月経った2013年10月ごろ。ここから、武器のアートやモデルの量産体制に入った。

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▲実際にゲームで登場する忍者の武器。

技のネタ出しには苦労がいっぱい

 基本動作が完成したら、モーション班が技のネタ出しを始める。高井氏によると、「基本的に技のネタ出しはバトル班の仕事だが、それを待ってからモーション班が作業に取り掛かると公開に間に合わなくなる恐れがある。そうした事情から、デザイナー発案で先行して動けるものは、ネタレベルでもいいので提案をどんどんしていく」とのこと。

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▲当時、デザイナーからネタ出しされたもの。忍者と聞いてパッと思いつくであろうものは、多少リスキーでも作業を進めることになる。

 技の概要が見えてきたら、モーションのキャプチャーが始まる。この部分の説明では、モーションアクターによるキャプチャーの模様が動画で公開された。

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▲ゲーム内での忍者の動きとほぼ変わらない、プロのアクターの軽やかかつアクロバティックな動きに会場からは感嘆の声が聞こえた。
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▲収録したデータを、モーション班がゲームデータに落とし込む。

 このモーションの収録は、歩く程度の動きなら社員が行う場合もあるらしく、実際に鈴木氏も『バウンサー』や『FFXII』で収録に参加したことがあると語っていたのだ。

 出されたネタについて、ここでいくつかのエピソードも披露された。まず “兵糧丸”というリキャストタイムをリセットするアクションについて。実際にモーションを作ってみると、あまりに地味なのでボツになったという。

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▲高井氏いわく、「実際に動いている動画を見たけどリンゴをかじっているようにしか見えなかった」らしい。
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▲兵糧丸のネタは以降、紆余曲折を経て、最終的に十字を切るモーションの“活殺自在”へと落ち着いた。

 調整に苦労したもののひとつが”口寄せの術”。最初はコントのように上から金だらいが落ちてくるようなモーションにしたかったらしいが、あまりにふざけているということで不採用に。その後は、当時ハウジングで畑が公開された直後だったためか、ジョウロで水をまくモーションを流用して使えないか真剣に討論されたりと迷走段階に突入。企画班のほうから「FFで失敗といえばミシディアうさぎだろう」という強い要望が挙がり、現在のような形に落ち着いたとのことだ。

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▲たとえキャラクターの体が傾いても、ミシディアうさぎは傾かないようにプログラマーに調整してもらうなど、細かなこだわりが反映されている。「もしかしたらミニオン同盟が絡んでいる可能性がありますね(笑)」。(高井氏)

 また、敵の頭部に乗るという派手なモーションになっている“終撃”も調整にかなり苦労したもののひとつ。そもそもモンスターに“頭の上”というデータが設定されていないと乗れないので、終撃のためにひとつずつ調整。さらに、現場のスタッフが盛り上がって脳髄をまき散らすエフェクトにしたために、倫理規定を審査している部門に高井氏がこっぴどく怒られたりと「終撃にはいい思い出がない」と高井氏に言わしめるほど。

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 これらの調整の方針が決まったころに、エフェクト班が技のエフェクトの作成を開始。カットシーン班も、忍者の存在を匂わせるために、サンクレッドとユウギリに二刀流を使うシーンを製作した。

そして……E3でついに忍者の情報解禁!

 そしてついに2014年6月のE3で、新ジョブとして忍者が追加されることが発表された。<<当時の記事はこちら>>。じつはこの発表の準備に入る2014年4月ごろには、まだ双剣士というクラスの設定はできていなかった。そこで双剣士という名前や、シーフの流れを汲むなどという設定が決められ、宣伝用のクラスイラスト、ジョブイラスト、CGなどの製作に移ったのだ。

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▲海賊風の防具の色を調整して、双剣士のイメージを固める。
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▲クラス&ジョブイラストとプリレンダCGイラスト。

 また、このE3 2014では双剣士と忍者の動画も公開されたが、このときはまだモーションやエフェクトなどがほとんどできておらず、撮影にあたった高井氏がリソースを苦労してかき集めて製作したというエピソードも披露された。

■FFXIV New Class & Job Revealed! (E3 2014)

 高井氏によると「『新生FFXIV』はパブリシティ(宣伝)用の仕事も多く、苦労する」とのこと。実際に、今回のファンフェスティバル初日の基調講演のときに発表された“機工城アレキサンダー”についても、まだ作り始めた段階なので素材がほとんど揃っておらず、現場はドキドキしていたという。

 さらにこのころ、並行してアート班が忍者のアジトのイメージ画の製作に、設定班が双剣士ギルドと忍者のアジトの製作に入った。蛮族デイリークエストの拠点を含め、アジトを追加するときは、エオルゼアのどこに作るかという場所の確保の問題も発生する。双剣士ギルドや忍者のアジトを作れる空き地を選定するために、かなり走り回ったらしい。

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▲アート班は、忍者のアジトをド派手な秘密基地風なデザインにするイメージで盛り上がっていたという。だが設定班から、「忍者のアジトはひっそりとしている」と伝えられ、結果的にかなり落ち着いたデザインになった。

ジョブクエストのカットシーンではカラスのモーションにこだわった

 パッチ2.3公開後から、カットシーン班がクラスクエストとジョブクエストのカットシーンの製作に突入。前廣氏率いる企画班からテキストベースのクエストのプロットが送られてきて、それをもとにカットシーン班がカットシーンのどの部分の演出に力を入れるのかを決めていった。とくに顕著だったのが忍者のジョブクエストに登場したカラスで、特徴的な動きにこだわったという。そのモーションのキャプチャー動画を観ていた高井氏が「このエモート欲しいなぁ」とボソっとリクエストする一幕も。鈴木氏も検討してみると回答。もしかしたら今後公開されるかもしれない。

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▲カラス専用の動きをモーションでキャプチャーしている風景。プロのアクターでも補助なしではできない特徴的な動きとなっている。
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▲高井氏のリクエストに対し、鈴木氏は「カラスのモーション欲しいです?」とみずから来場者に質問。その後で「後でモーション班に怒られる」と苦笑い。

 最後に細かい調整を行い、ついに忍者が完成。「毎回パッチ前には何かが起こるんですよね」と鈴木氏が語るように、この最終調整段階でも、メインステータスをもともとSTRにするつもりで進めていたのがDEXになることに確定し、その調整が大変だったというエピソードが高井氏から披露された。

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次回は『蒼天のイシュガルド』で追加される3つのジョブができるまで!?

 まとめとして、高井氏は「忍者を振り返ることができてとてもよかった。昔のことをすぐに忘れちゃうので懐かしかった」とコメント。鈴木氏は、「開発チームとしても新クラス・新ジョブの製作は、新しいことにチャレンジできるのですごく楽しみ。『蒼天のイシュガルド』でも新しいジョブが3つ追加されるので、ぜひ楽しみにしていてください。」とコメント。
 すると高井氏が「ということは、つぎは“暗黒騎士ができるまで”でお会いしましょうということですか? それとも3ジョブぶん、やる?」と鋭いツッコミ。「発売されてちょっとホッとしたころに、皆さんにお届けできるようにがんばります」という鈴木氏の力強い宣言で、開発パネルPart2は終了となった。

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▲忍者のグラフィック製作の流れ図。ひとジョブでこれだけ多くの労力が割かれている。『蒼天のイシュガルド』で3ジョブ増加……ご苦労が偲ばれます。