10000文字オーパーで、がっつり聞きました!

 立体視化されたセガのレトロゲーム6タイトルを収録し、2014年12月18日に発売となる『セガ3D復刻アーカイブス』。もともとはダウンロードソフトとしてリリースが続いた『セガ3D復刻プロジェクト』の集大成的タイトルだが、こうしてパッケージ版となるまでには約2年間という険しい道のりがあった。ファミ通.comとしては初の『セガ3D復刻プロジェクト』へのインタビュー取材ということで、これまでの濃厚なエピソードを含めて、たっぷりとお話を伺ってみた。

『セガ3D復刻アーカイブス』はいかにして生まれ育ったのか 約2年に渡るプロジェクトの集大成をセガ奥成氏、エムツー堀井氏に聞いた_08

奥成洋輔氏(左)
セガ所属のプロデューサー。これまでにも『セガエイジス』シリーズといった復刻タイトルを手がけてきており、セガのレトロゲーム番とも言える存在。

堀井直樹氏(右)
開発会社エムツーの代表取締役。奥成氏と二人三脚でプロジェクトの実現に邁進。自身も開発出身ということもあり、技術面からのアプローチも鋭い。

企画からリリースまで約2年の難産さ

――まずは、そもそもこのプロジェクトはどのような流れで立ち上がったのでしょうか?

奥成洋輔氏(以下、奥成) エムツーさんといっしょに、Wii用のバーチャルコンソールでの移植作業を行ってきた中で、任天堂さんから「ニンテンドー3DSという新型ハードを出します。バーチャルコンソールも展開します」という持ちかけがあったので、即座に乗っかりました。そこで「何ができるかな?」と考えたときに、セガの携帯ゲーム機であるゲームギアをやりましょう、と。そこまでは非常にスムーズに決まったのですが、せっかく3DSという立体視がウリのハードなのに、“当時そのまま”がコンセプトのバーチャルコンソールでは、立体視を使えないというところにもったいなさを感じたんですね。また、任天堂さんがハードの発表と同時に、立体視を付加した『ゼビウス』を“3Dクラシックス”として発表されていたんですね。それを見て当然ファンの方……というか、僕もそうだったんですけど「『スペースハリアー』は出ないの?」と思ったはずなんです。

――できるべくしてできた、と。

奥成 はい。『スペースハリアー』みたいな擬似3Dのゲームが3Dクラシックスのラインアップになかったこともあって、「擬似3Dのゲームを3D立体視にしてみたい」という気持ちが、オールドセガファンの中で湧き上がったんですね。ツイッターなどでの声も多く上がりましたし。セガ社員である僕からしても、立体視になった『スペースハリアー』は「見てみないとわからないからやってみたい」し、それまでに何度か移植をしているので、できるんじゃないかという判断があって、バーチャルコンソールの企画を通すのと同時に、それとは別の“立体視を使ったプロジェクト”をやろうという話を加えて、開発がスタートしました。

堀井直樹氏(以下、堀井) 僕も「当然やるべきだ」と思っていました(笑)。『スペースハリアー』、『アウトラン』、『アフターバーナー』あたりまでは出て当たり前、というやりとりをしていました。

――プロジェクトのコンセプトというのは?

奥成 ふたつあります。まずは3D立体視で懐かしのタイトルが遊べるんだよ、という部分です。『3D○○』というタイトル名に統一したのも、3Dであるのを強調したかったのと、タイトル検索でソートしたときに一覧で表示されるようになんです。

堀井 そういう理由か! いまごろ気づいた。

奥成 もうひとつは、3D以外にもなにかひとつ付加価値を加えることです。すでにバーチャルコンソールで100本以上のタイトルを移植しているのだから、オリジナルそのままではおもしろくない。この3D復刻プロジェクト以前に『セガエイジス オンライン』というシリーズを制作したのですが、そのときに原作にプラスアルファして独自のゲームモードを付けたのですが、この方向性はもっと進めるべきと考えていたので、その線も突き詰めていこうと。

堀井 ニンテンドー3DSって、携帯することを前提に効率を追求して設計されたハードなので、プロジェクト当初は、移植とはいえゲームを動かすこと自体が難しかったんです。ですから一作目の『スペースハリアー』では、家庭用の独自ボス“HA-YA-OH”を追加しただけだったんですね。

奥成 第1期としてリリースした8本(『スペースハリアー』、『スーパーハングオン』、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』、『獣王記』、『エコー・ザ・ドルフィン』、『ギャラクシーフォースII』、『ザ・スーパー忍II』、『ベア・ナックル 怒りの鉄拳』)は、3D立体視プラスアルファという作りかたをしています。お客さんがそのプラスアルファ要素を喜んでいてくれたのはネットなどで伝わってきていたので、この要素はさらに突き詰めようと、第2期の5タイトル(『アフターバーナーII』、『ファンタジーゾーン』、『アウトラン』、『ファンタジーゾーンII』、『サンダーブレード』)に関しては、追加要素を伸ばすことでしっかり作り込もうとしたという違いはあります。

堀井 実際に作業していて言えることは、最初の8本って何らかの形で一度弊社で移植をしているんです。それがあるので、別のハードとはいえ移植はできるだろうという見込みはあった。それとは別に3DSというハードに対する練度があって、それは第1期をやったことで相当上がるんですけど、そのお陰で3DSに移植するための手間がちょっとづつ減っていって、余力ができるわけです。そのことで、さまざまな追加要素やクレジット画面での遊びを増やせて、本当によかったと思います。

――企画の立ち上げが、3DS用バーチャルコンソールと同時期だったとは意外です。それにしてはリリースまでに時間がかかりましたね?

奥成 言ってしまうと、3DSの発売からセガのバーチャルコンソールが発売になるまで1年かかっていて、そこでようやく3DSでのエミュレーション(擬似ハードウェア)をベースとした移植が行えるようになったということです。本当だったらすぐにでも『スペースハリアー』を出したかったのですが、ゲームギアを動かすまでに1年間が必要で、復刻タイトルをリリースするまでにさらに約1年の期間が必要だった。

――それだけハードの基礎研究に時間がかかっているというわけですね。

堀井 3DSというハードは、きっちり無駄なく作られていて、DSのときに必要だった機能の代わりに、3DSのポリゴンをキレイに出す機能が搭載されていたりする。要は、“いらないものは全部削る”という設計思想で、「それでもやるなら苦労をしてね」という設計なのではないかと。何というか、最先端の携帯ゲーム機でレトロゲームを動かすことという苦労を、身を持って感じました。やる前にそのことを気づけなかったのを悔いたいですけど、気づいていたらまた別のことを考えただろうから、それはそれでよしです。

【収録タイトルその1】

『セガ3D復刻アーカイブス』はいかにして生まれ育ったのか 約2年に渡るプロジェクトの集大成をセガ奥成氏、エムツー堀井氏に聞いた_13

『スペースハリアー』
1985年にゲームセンターで稼働。コックピット型の筐体が動く体感ゲームであるのと同時に、スピード感のあるゲーム性、パステル調のグラフィックで話題を呼んだ。追加要素として、ある条件でマークIII版のオリジナルボス“HA-YA-OH”が登場する。

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ファンタジーゾーン オパオパブラザーズ
1986年にゲームセンターで稼働開始した、横スクロールシューティング。コインを集めて武器を購入するゲーム性や、パステル調のグラフィックやラテン調の軽快なBGMが楽しい。家庭用版に登場した追加ボス2体と、集めたコインを溜めておける“ストックコイン”機能を追加。

スケジュール表にだけ掲載される“幻のソフト”だった可能性も!?

――13本リリースした中で、とくに印象に残ったタイトルは?

奥成 やはり『3D スペースハリアー』ですね。お客さんもそうだったと思うんですけど、“自分のよく知っているゲームが立体視になったことによる驚き”がすごかった。もちろん『スペースハリアー』を自分で作る前に3Dクラシックスの『ゼビウス』や『ツインビー』は見ていたのですが、『スペースハリアー』の場合は、最初から3D向きの画面ですから。3Dボリュームをオフにして、2Dの画面だけを見るとオリジナルと変わりないですが、それが立体視で見られるというのは、新鮮な体験でビックリしましたね。開発初期のバージョンを見た段階で「これはイケる!」という手応えを感じたほどでした。その後のタイトルでは、『スペースハリアー』でのオドロキを超えるようにしていった結果、毎回のようにハードルが高くなっていきました(笑)。

堀井 僕の場合は、出せると思っていなかった『3D サンダーブレード』が出せたことがあるんですけど、それはさておき(笑)。まずひとつは、『3D ギャラクシーフォースII』。これは当初、第一期の仕事にGOサインを出すための予備調査で、どんなに工夫を凝らしても、絶対に動かないだろうという結論が出たソフトだったんですよ。でも逆に、「プロジェクトを進めていったスタッフがノウハウを蓄積していけば、ひょっとしたら行けるかな」とも思えたんです。もし動かなかったらを考えると胃が痛かったんですけど、その葛藤の中で奥成さんに「これで行きましょう!」と言ったのが仕事的には印象深いです。

奥成 もしかしたら、当時の『アウトラン3D』みたく、発売予定のスケジュールにずっと残っていたかもしれないんですね。

堀井 永遠に出なかったかもしれない(苦笑)。もうひとつが『ファンタジーゾーン』で、基本的にはアーケード版をそのまま移植していったわけですけど、隠しでマークIII版に出てきたボスを化粧直しして入れたんですが、その出現条件を結構難しくしたんです。その結果、「ああやったら出るんじゃないか!?」というような、まるで80年代当時に学校でゲームの話をしている少年のような会話がSNS上で取り交わされていて、すごく懐かしい気分になりました。多少は狙っていた部分はあったんですけど、『セガ3D復刻プロジェクト』で感じてほしい気持ちがうまく伝わって、してやったり感でいっぱいでしたね。

【収録タイトルその2】

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『アウトラン』
1986年にゲームセンターに登場した体感ドライブゲーム。かっこいいスポーツカーを運転して刻々と変わりゆくコースを走破していく。復刻版では、車のカスタマイスと選択できるBGMが2曲の追加がなされている。

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『ベア・ナックル 怒りの鉄拳』
1991年にメガドライブ用として登場したベルトスクロールアクションで、2人同時プレイが楽しめる。復刻版では、どんな敵も一発で倒せる一撃必殺モードを用意。短いプレイ時間でサクッと楽しめる。