本作のテーマは“父と子”に

 本日2014年12月11日、東宝試写室で『時をかける少女』、『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』などで知られる細田守監督最新作『バケモノの子』の発表記者会見が行われた。タイトルの意味や、アニメで表現することの意義が語られた発表会の模様をお伝えしよう。

菅原文太さんに「映画を作ることに意味はない」と告げられた 細田守監督最新作『バケモノの子』発表記者会見をリポート_02
菅原文太さんに「映画を作ることに意味はない」と告げられた 細田守監督最新作『バケモノの子』発表記者会見をリポート_06

 登壇した細田監督は「本作をひと言で表すと“修行もの”です」と語った。物語は“離ればなれになった少年が、バケモノの剣士と出会って弟子入りして修行する”というもので、その過程で少年が変化、成長していくという“王道でありながら新鮮”な内容となっているとのことだ。以下より、細田監督への質疑応答の内容をお届けしよう。

菅原文太さんに「映画を作ることに意味はない」と告げられた 細田守監督最新作『バケモノの子』発表記者会見をリポート_04
▲細田守監督。

――『バケモノの子』というタイトルに込められた意味を教えてください。

細田守監督(以下、細田) “子”は、主人公の少年が弟子入りをすることからつけられたもので、バケモノの熊徹(くまてつ)と人間の“九太(きゅうた)”という異質なふたりの出会いと交流を意味しています。“バケモノ”は、熊徹のことであり、九太が修行をする“渋天街(じゅうてんがい)”というバケモノの住む世界のことでもあります。

――『バケモノの子』のテーマとはどういったものでしょうか。
細田 前作『おおかみこどもの雨と雪』は“母と子”で、前々作『サマーウォーズ』は“親戚”でした。本作のテーマは“父と子”になると思います。

――本作に熊徹という“動物”を登場させた理由を教えてください。

細田 自分の子どもに絵本を読んであげていたときに気づいたことなのですが、絵本には子どもと動物が触れ合って、子どもが大切なことを学ぶという作品が多かったんです。人間の成長において、動物との触れ合いはすごく意味があるのではないかと考えて、熊のようなキャラクターを登場させました。

――ポスターの九太の肩に乗っているのは、どのようなキャラクターなのでしょうか。

細田 これは“チコ”というマスコットキャラクターです。今回はアクション映画なので、どこかほっとできるパートナーが必要だと思って登場させたキャラになっています。

――監督にとって、本作をアニメーションで表現することの意義を教えてください。

細田 アニメーションというのは、動物を描くのにもっとも適していると思います。動物の顔をした人をCGや特殊メイクで描く方法もありますが、アニメの絵柄ではそうしたキャラクターの“心のつながり”をより深く表現できると考えています。

――脚本を細田監督ご自身が手がけたのには、何か理由がありますか。

細田 これは僕にとってのチャレンジです。いままでは優秀な脚本家である奥寺佐渡子さんに頼ってばかりだったので、自分も修行をするつもりです。

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スタジオ地図 作品

――『バケモノの子』は、なぜ“王道でありながら新鮮”という作品になったのでしょうか。

細田 僕らが子どもだったころは、少年や大人の男が修行して成長するという作品がたくさんあったと思います。ブルース・リーやジャッキー・チェンの映画もそうですよね。でも、いまはそういう作品があまりないかもしれない、いまの子どもは何を観て育つのだろう、と考えていたんです。じつは、前作『おおかみこどもの雨と雪』は“お母さんが大変な想いをして子どもを育てていることがすばらしい!”という作品であり、最近そういった映画がないからこそつくったところがあるんです。

 『バケモノの子』を制作したきっかけは、子どもがたくさんの人から影響を受けて成長していく様を、この映画を通じて考えていきたかったことです。僕も2才の子どもを持つ親なので、子どもたちがどこかで“心の師匠”を見つけたりしながら、誇らしく成長してくれたらうれしいですから。これは “あるようでない”作品であり、これも僕にとってのチャレンジです。

――影響を受けていたり、ベースになっている作品はありますか。

細田 本作には修行、成長、アクションという要素があります。はっきりベースになっているとは言い切れませんが、ジャッキー・チェン主演の映画『スネーキーモンキー 蛇拳』を意識していたところもあるかもしれません。

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――なぜ渋谷を舞台にしたのでしょうか。

細田 本作は渋谷という“都市”を舞台としていて、渋谷区から一歩も出ない作品になっています。『サマーウォーズ』では長野県上田市、『おおかみこどもの雨と雪』では僕の地元のである富山県という“田舎”を舞台にしていました。そこから方向性を一転して、“都市”のど真ん中で冒険する内容にしたかったんです。海外に出かけたりするのもいいですが、冒険というのは、じつは僕らが慣れ親しんだ街の中にもあります。渋谷というたくさんの人が集い、つねに変化がある都市は、冒険の舞台としてすごく魅力的であることを、つくりながら実感しています。

――『おおかみこどもの雨と雪』など、細田監督の作品には“マイノリティー”に属する人がたくさん登場する印象があります。監督は、マイノリティーへの描写へのこだわりはあるのでしょうか。

細田 僕が昔いじめられっ子で、ひとりで絵を描き続けていた経験が反映されているところはあるかもしれません。ただ、人間をマイノリティー、マジョリティーと定義することにあまり意味はないと思います。人間ひとりひとりはそれぞれ違っていますし、僕は人の特別な事情を通じて、みんなが共通して想うことをどう描くのか、ということのほうが重要と考えて、作品をつくっています。

――『おおかみこどもの雨と雪』では、先日訃報が伝えられた菅原文太さんが声優として出演されていました。菅原さんとのアフレコ現場で印象に残ったことがあれば教えてください。

細田 菅原文太さんがアフレコ現場で「映画を作ることに意味はない」ということをおっしゃったことがあったんです。そこで僕は、映画について3時間くらい菅原さんと討論をしていました。いまでは、菅原さんがそうおっしゃったのは映画について真摯に考えていたからであり、「僕らはなぜ映画をつくるのか」、「なぜ人は映画を観るのか」、「みんなが必要とする映画はなんだろうか」とついて考える場を作ってくださったのだと思っています。引退を宣言されたのにもかかわらず、アフレコの仕事を引き受けてくださった菅原さんのこの言葉には、ずっしりとした重さがありました。僕は、このことをいつも考えながら作品に挑むようになっています。

――本作の触れ込みには“家族の新しいありかた”や“新しい大人”とあり、キャッチコピーが“新冒険活劇。”となっています。どのようなところに“新しさ”があるのでしょうか。

細田 時代の変化というものは、僕らが思っている以上に激しいものです。いままでの作品で描いていた“親戚”や“母と子”の価値観も一様ではなく、つねに変わっていっています。映画は、その時代を強く反映する媒体と言ってよいでしょう。本作で子どもを主人公としたことで、僕は“少子化”ということを強く感じていました。子どもが少なく、大人が多いという世の中で、子どもがどう成長していくのか、大人がどう子どもを見ていくのか、ということもどんどん変わってくると思います。そういうところで“新しい”ということを意識しました。つねに変化する時代で、どのように子どもと接していけばよいのかというヒントを、この作品から見つけていただきたいです。

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 登壇した日本テレビ放送網 事業局 ゼネラル・プロデューサーの奥田誠二氏は「本作は大手映画会社GOUMONT(ゴーモン)さんからオファーがあり、フランスでの公開がすでに決定しています。本作をひとりでも多くの方に観ていただくため、これまで以上に広く海外展開をしていきます」と語った。

 日本テレビ放送網 事業局 映画事業部長の門田大輔氏は「日本テレビとスタジオ地図との共同制作となる作品です。来年の夏は日本テレビが“フルマックス”になって盛り上げていきたいと考えていますので、よろしくお願いします」とアピールした。

 スタジオ地図・プロデューサーの齋藤優一郎氏からは「僕たちは映画を1本1本、一生懸命作っております。こうして新作を発表できるのも、前作『おおかみこどもの雨と雪』を観ていただいた方のおかげであり、本当にありがたいと思っています。監督の絵コンテを観て思ったことは”親子で楽しめる夏のアニメ作品”、“王道”、“爽やかな映画”ということでした。ぜひ、楽しみにしてください」と、ファンへのメッセージが送られた。

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▲左から齋藤優一郎氏、細田守監督、門田大輔氏、奥田誠二氏。

 『バケモノの子』は2015年7月11日に公開予定。キャスティングはまだ未定で、今回登場するキャラクターに“おじさん”が多いことから、これまでのような若い人が集まるオーディション形式から変える可能性もあるとのこと。また、本作の30秒の予告映像が2014年12月20日より全国の劇場で公開されるそうなので、こちらもチェックしておこう。

■『バケモノの子』制作スタッフ(敬称略)

監督・脚本・原作:細田守
作画監督:山下高明 西田達三
美術監督:大森崇 高松洋平 西川洋一
音楽:高木正勝
制作:日本テレビ放送網 スタジオ地図 KAODKAWA 東宝 ほか