ネットワークコンテンツを革命的に進化させる!? 3つの新技術が発表

 ドワンゴと日本電信電話(以下、NTT)は、2014年11月20日、両社が業務提携して進めている、映像&ソーシャルサービスの高度化に関する技術開発について、現時点での成果を解説する発表会を開催した。

 ドワンゴとNTTの業務提携は、2013年7月から開始されたもの。2014年2月4日には、その成果の第一弾として、360度全天球カメラによるニコ生ライブ配信の取り組みについて発表されており、2014年7月17日には、実際にバーチャルリアリティーLIVE配信が実施された。
※関連記事:ニコニコ生放送でOculus Riftを活用したVRライブ配信サービスを開始、11月17日“50周年記念 小林幸子in日本武道館~夢の世界~”よりスタート

 今回の発表会では、そのVRライブ配信の技術に加えて、視聴者の環境に適した映像を配信する“視聴品質最適化技術”、次世代映像符号化企画“H.265/HEVC”をニコニコ生放送に適用する共同実験についての説明が行われた。

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▲司会進行を務めたNTT 研究企画部門 薄井総一郎氏。
▲ドワンゴ プラットフォーム事業本部 基盤システム開発部 部長 宮崎賢一氏(写真右)、NTT 研究企画部門 担当部長 木下真吾氏(写真左)より、業務提携の狙いと両社の役割が解説された。NTTの開発した先端技術をドワンゴに提供し、ドワンゴがニコニコ動画等のサービスで運用。幅広い分野で連携し、お互いの技術を高めるとともに、互いのメリットを追求していく図式だ。
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VRライブ配信を可能にした映像分割技術

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▲VRライブ配信について説明した、ドワンゴ プラットフォーム事業本部 ニコファーレセクション 岩城進之介氏(写真右)と、NTTメディアインテリジェンス研究所 研究主任 越智大介氏(写真左)。

 続いて、VRライブ配信の技術について、実演を交えての説明が行われた。2014年11月17日に配信されたVRライブ“50周年記念 小林幸子in日本武道館~夢の世界~”で披露されたように、このサービスでは、Oculus Riftを用いることにより、360度好きな方向を自由に見回して観賞することができる。これはライブ会場に設置した360度全天球カメラで撮影されているが、その全方向の映像をそのまま配信しようとすると、膨大なデータ量となってしまう。それを解決しているのがこの技術のキモで、視聴者の目の前の映像だけを高画質にし、それ以外は視聴品質を下げることにより、データ量を小さくし、ライブ配信を可能にしているのだそうだ。
 この技術により、全天球映像を高画質で配信する場合と比較して、データ量は3分の1程度まで押さえられるという。また、現時点ではフレームレートなど映像品質に難がある状態だが、今後数ヵ月を目処に改善していく予定だとのこと。

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▲バーチャルリアリティLIVE 配信時の様子。
▲実演中。見る方向を変える(高画質でない部分を見ようとする)ときは、視点を固定して数秒待つと、低画質の映像から高画質の映像に切り替わる。
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▲映像を複数のタイル状領域に分割し、それぞれを複数台のエンコーダーでエンコード。全体が映った低解像度タイルも合わせて配信することにより、どこを見ても映像がかけることがない。

“視聴品質最適化技術”いつ、どこで観ても快適に

 つぎに、“視聴品質最適化技術”について説明された。これは、動画を視聴する人に対して、利用者のネットワーク品質を精度よく予測し、最適な品質の動画を配信することで、視聴者の体感品質(QoE、Quality of Experience)を高めるという技術だ。
 たとえば朝の時間帯は、電車内などで、モバイル端末から利用する人が多い。この場合、ネットワーク品質は低いケースが大半なため、低ビットレートの映像を配信したほうが、快適に視聴しやすくなることが予想される。逆に夜は、ネットワーク品質が高い自宅内で利用されるケースが増えるため、ビットレートが高い、高品質な映像を配信したほうが満足度が高くなるはず……という具合だ。

 これまでにNTTとドワンゴで実施したプレ評価では、“再生停止発生率の低減”、”体感品質(QoE)の向上”、“通信データ総量の低減”の3つについて、劇的な成果が得られたという。
 さらに2014年11月20日より、niconicoで、この視聴品質最適化技術の実証実験が開始される。これはAndroid端末を利用しているniconicoユーザーから無作為に選定したユーザーに対して、この技術を試験提供。提供されていない一般ユーザーと行動特性を比較することで、評価を行うというものだ。Android端末でniconicoを利用している人は、気に懸けておくといいかもしれない。

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▲視聴品質最適化技術について説明した、NTT ネットワーク基盤技術研究所 主任研究員 山本浩司氏(写真左)。
▲配信レートを高くすると画質は向上するが、一定以上になると効果が薄くなるうえ、映像が止まったりすることも起こる。かといって、せっかくネットワーク環境がいい場所で視聴しているのに、低レートな配信では物足りなく感じてしまう。そこで……。
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▲どんな環境の人にも同じレートで配信するのではなく、ユーザーのいる場所や時間などを加味して、利用者ごとに最適なレートで配信する、という仕組みだ。

H.265の時代がいよいよ始まる!?

 最後に、“H.265/HEVC”技術をニコニコ生放送に適用する共同実験についての発表が行われた。H.265/HEVCは、現在広く利用されているH.264と比べて、半分以下の配信帯域で同じ画質の動画が配信できる、次世代のコーデック技術だ。ただし、エンコーダでの処理量がH.264の数十倍にもなるため、リアルタイムでのエンコードは困難とされている。
 NTTは、H.265/HEVCを高速に圧縮するソフトウェア技術を、4K放送などの大画面向けに開発してきたが、これをニコニコ生放送を想定した小画面向けにチューニングすることで、低レート・小画面動作向けに高画質にリアルタイム圧縮できるソフトウェア技術を確立。これにより、PCだけでリアルタイム圧縮が可能となり、安価なライブ配信サービスを構築可能となった。

 そして、この技術をニコニコ生放送に適用し、処理性能・画質、帯域削減効果を実証する共同実験に着手することが決定したとのこと。まずは、一部公式生放送において、モバイル向け解像度で実施して、実験結果を評価。将来的にはniconicoでの活用を検討するという。なおこの技術は、エンコードする側にはある程度の負荷がかかるが、デコードする端末側にかかる負荷は、H.264とさほど変わらず、それなりのスマートフォンであれば大丈夫、とのことだった。

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▲NTTの“H.265/HEVC”について解説する、NTT メディアインテリジェンス研究所 主任研究員 谷田隆一氏。
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▲この技術のポイントは、小画面に合わせて領域分割処理や並列処理の最適化を図ったことと、データ量の割り当てを細かく制御したことだ。
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▲発表会場にはデモ機も設置されていた。VRライブ配信は、やはり映像品質的に開発途上な感は否めないが、通常の動画視聴とは比較にならない楽しさが味わえる。近々に改善予定とのことなので、大いに期待したいところだ。