遊びのみならず、医療機器としての可能性も持つVRコンテンツ

“黒川塾(二十一)”が開催 “本物”のブームがきているVR(バーチャルリアリティー)の未来をスペシャリストたちが熱く語る_01
▲黒川文雄氏

 2014年11月12日、エンターテインメント業界の各所で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“エンタテインメントの未来を考える会”(黒川塾)の第21回が開催された。
 今回のテーマは、東京ゲームショウ2014でも多くの注目を集めた、VR(バーチャルリアリティー)コンテンツ。
 ゲストには、ソニー・コンピュータエンタテインメントワールドワイドスタジオ・プレジデントであり、“Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)”開発メンバーでもある吉田修平氏。話題のVRコンテンツ『サマーレッスン』をプロデュースした、バンダイナムコゲームスの原田勝弘氏。Oculus Rift(オキュラス リフト)の日本でのエバンジェリストとして活躍中の近藤義仁氏。以上の3名が登場し、VRの現在と未来を語った。

■いまVRに求められているのは、いわゆる“一般化”

“黒川塾(二十一)”が開催 “本物”のブームがきているVR(バーチャルリアリティー)の未来をスペシャリストたちが熱く語る_03
▲原田勝弘氏

 スペシャリストたちにより、さまざまな角度からVRが語られた今回の黒川塾だが、その中で幾度なくくり返されたキーワード、それは“一般化”であった。
 「技術者たちがひとりよがりで“すごいすごい”と言っていても意味がないんです。一般ユーザーの方々が声を揃えて“すごい”、“おもしろい”と言えるようなコンテンツを目指さなければならないと思います。そのように一般化されて初めて、VRは価値あるコンテンツになったと言えるのではないでしょうか」と原田氏は語る。また、「VRは、先進国のすごく高次な産業であるのが現状で、有識者にしか理解できない面があると思うんです。なのでまずはその壁を取り払うためにも、僕は“ニュース”を作ることにしました。そういった経緯で、女子校生とコミュニケーションをとる『サマーレッスン』という、親しみやすい、わかりやすいものを作り、うれしいことに大きなニュースになりました」と、『サマーレッスン』制作の裏話を語った。

 一般化ということに関しては吉田氏も、Project Morpheusについて言及。
 会場には、Project Morpheusが展示されており、体験が可能だった。そこで体験できるデモは、『The Deep』という、海中でサメを間近に眺められる内容のものだ。「『The Deep』は、非常に評判がいいのですが、ゲーム性は皆無なんです。なぜあえてゲーム性をなくしたかというと、誰でもできるようにするためです」と、ゲームが苦手な人でも手軽に体験できるものを目指したことを説明。
 まずは誰でもできる、ハードルの低いものを普及させてから、その後さまざまなジャンルのゲームを登場させることで、一大ムーブメントを起こせる。その意見には、黒川氏やほかのゲストも同意を示していた。

“黒川塾(二十一)”が開催 “本物”のブームがきているVR(バーチャルリアリティー)の未来をスペシャリストたちが熱く語る_04
▲吉田修平氏

■今度のVRブームは本物!
 吉田氏は、「ゲームグラフィックに3Dが使われ始めたころ、“新しい時代がくる!”と興奮したものですが、まさにそのときと同じような感覚で、“VRの時代がくる!”と確信しております。これまでにも、幾度なくVRコンテンツはチラホラと登場してきましたが、今回のブームは“本物”だと思います。これから20年間、きっと楽しいことが待っているでしょう!」と、現在のVRコンテンツへの大きな期待を覗かせた。

 また、もともとセガに所属し、3Dゲームの先駆者である鈴木裕氏のもとで働いた経験を持つ黒川氏も、「当時と比べてVRをより身近に感じられるようになっています」とVRの一般化について言及。
 昔は、ゲームやVRを作るには、莫大な資金や知識が必要だった。しかしいまは、UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンの登場により、個人レベルでも制作が可能になっている。クラウドファウンディングで資金も募れるようになったことも、ゲーム&VR技術の進歩に大きく貢献しているということだ。

■事実、VR制作に興味を持つ人は急増している

“黒川塾(二十一)”が開催 “本物”のブームがきているVR(バーチャルリアリティー)の未来をスペシャリストたちが熱く語る_02
▲近藤義仁氏

 近藤氏は、小学生のころ、ファミコンで3Dを実現させるヘッドマウントディプレイ“バーチャルボーイ”に感動し、そこからヘッドマウントディプレイに興味を持ち始めたという。
 近藤氏は、VRに“触る”という概念を組み込んだ人物でもある。大きな話題を呼んだ“Miku Miku Akushu”だ。これは、ヘッドマウントディスプレイと感触インタフェース装置を使って、初音ミクと握手ができるという画期的なシステム。ヘッドマウントディスプレイを体験したお客さんの多くが、眼前の対象に触れようと手を伸ばすところを目撃し、“触れる”コンテンツを思いついたのだという。
 今後の目標を尋ねられた近藤氏は、「VRを制作できる人を増やしたい」と述べた。先日、お台場の日本科学未来館で行われた“ Ocufes”の、制作者会議に200名以上の参加者がいたことを例に挙げ、VR制作への感心が高まっていることを語った。なお、制作者会議に参加したのは、野心たっぷりの大学生から、まだ手軽にゲームを製作できなかった時代に育った年配の方まで、幅広い年代層の人たちだったそうだ。世代を問わず、VRへの注目度が高まっていることが伺える。

 また、吉田氏は、「プレイステーション3やプレイステーション4で、ものすごいお金をかけてものすごいグラフィックを実現しても、ユーザーさんはすぐに順応してしまい、すごいと感じてくれなくなってしまうんですよ(笑)。ですが、密度の濃い体験を提供できるVRでは、ユーザーさんはいつまでも、そして深く感動してくれると思います。なので、一発当てたいと考えている方々にとってはチャンスだと思います。新しい切り口のVRを制作すれば、ユーザーさんは必ず反応を示してくれるはずです」と、VRがクリエイターの卵にとっての一大チャンスであることを示唆。会場を見渡し、「もしかしたら、いまここにいらっしゃっているどなたかが、一大ムーブメントを巻き起こすかもしれませね」と相好を崩した。