“最高のコンテンツをお届けしたい”という思いの先にプレイステーション4への参入はあった

 2014年9月3日に行われたCEDEC 2014の講演にて、Cygamesがプレイステーション4向けゲームを開発中であることを取締役 CTO芦原栄登士氏が発表し、内外のゲーム関係者から大きな注目を集めた(⇒関連記事はこちら)。

 Cygamesと言えば、いまもっとも勢いのあるソーシャルゲームメーカーの1社。2011年5月の設立以降、スマートフォン向けアプリとして、『神撃のバハムート』や『グランブルーファンタジー』、『三国志パズル大戦』など数々のヒット作を輩出し、その高い開発力には定評がある。そんなソーシャルゲームメーカーの雄であるCygamesが、なぜ家庭用ゲーム機での開発を決意したのか? 参入の真意を確認すべく、発言の主である芦原栄登士氏を直撃した。

Cygamesはなぜプレイステーション4用ソフトの開発を決意したのか? ソーシャルゲームメーカーの雄の決断_03

Cygames 取締役 CTO
芦原栄登士氏

家庭用ゲーム機とスマートフォン 開発の違いがなくなってきている

――ずばり、プレイステーション4での開発を決意した理由を教えてください。

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▲PS Vita用ソフト『Airship Q(エアーシップキュー)』。Cygamesが発売元となる。発売日は未定。

芦原 じつを言えば、そんなに皆さんが期待されていることを考えていたというわけでもないんです(笑)。そもそも当社では、研究用途でPS VitaやWii Uなどの家庭用ゲーム機の開発機材を所有していたんですね。さらに、クラウドファンディングサービス“makuake”での資金調達をきっかけに、当社がミラクルポジティブさん開発によるPS Vita用ソフト『Airship Q(エアーシップキュー)』のパブリッシャーを担当することになり、ソニー・コンピュータエンタテインメントさんとライセンシー契約を結ぶことになったんです。そこで、「せっかくライセンシー契約を結んだのなら、プレイステーション4でも何かやりたいね」ということになりまして。

――ずいぶんとフットワークが軽いですね(笑)。
芦原 そうなんです。CEDECで講演をするにあたって、家庭用ゲーム機畑の開発者の方が集まってくださるだろうから、その方たちに向けて何か刺さる話をしなければ……ということで、研究開発をしていたプレイステーション4で「開発をしています」と発表したら、ものすごく話題になってしまったんです。そのうちCEDECの記事がいろいろなところに拡散していって、最終的には海外でも記事になったんですね。私は、アラビア語とかぜんぜん読めないのですが、“Cygamesとプレイステーション4”と書いてあるのだけはわかる(笑)。あまりに反響が大きくて、「Cygamesも、こういう期待をされていたんだな」と改めて実感しました。

――昨今は、家庭用ゲーム機向けソフトの開発費も高騰化しており、ハイリスク・ハイリターンという現況があるわけですが、リスクが高いとは判断しなかったのですか?
芦原 そもそもCygamesでは、設立当初から“最高のコンテンツをお届けしたい”ということをポリシーとしてきたんです。つまり、最高のコンテンツをお届けするためであれば、プラットフォームは問わないというスタンスです。ですから、あまり抵抗はなかったですね。また、いまの取締役陣は家庭用ゲーム機向けソフトの開発をしていた者たちばかりなので、「いずれ家庭用ゲーム機の開発もやれたらいいよね」と、家庭用ゲーム機に対しては敷居が低かったという事情もありました。

――という意味では、会社の設立当初から、家庭用ゲーム機は視野に入っていたと?
芦原 そうですね。有望なプラットフォームのひとつとして、柔軟に見ていました。それが、プレイステーション4やXbox Oneといった新世代機が発売されてから、家庭用ゲーム機もまた盛り上がってくるかな……という期待値の高まりもありました。

――具体的にはどのようなところに期待できると思ったのですか?
芦原 家庭用ゲーム機でもF2P(フリー・トゥー・プレイ)のビジネスモデルがちゃんと機能していくのであれば、ソーシャルゲームで培ったノウハウを活かせるのではないかと思ったんです。家庭用ゲーム機におけるF2Pは、いまの段階ではまだ成功するかわからないのですが、1年後、2年後にはその流れが来るかもしれない。だったら、やる意義は十分にあるのではないかと、判断したんです。

――なるほど。F2Pであれば、家庭用ゲーム機でも可能性が広がるということですね。
芦原 あとは、家庭用ゲーム機向けソフトとソーシャルゲームの違いがなくなってきているという昨今の流れも大きいです。いまは、スマートフォンのネイティブアプリが主流で、ソーシャルゲームの開発も、より高い技術と時間が必要になってきました。もちろん、資金も……ですが。そういった意味では、ソーシャルゲームの作りかたが家庭用ゲーム機に近づいてきたというのはあります。

――いずれにせよ、お互いのノウハウを共有できる状況になった?
芦原 それはあります。ソーシャルゲームのよさを家庭用ゲーム機向けに活かせる部分も出てきました。たとえば、家庭用ゲーム機の開発をしていると、開発が終わってからリリースされるまでにけっこう時間がかかったので、ユーザーさんのフィードバックを得るのにかなり間が空いたんです。作って、ひと月後にリリースされて、ユーザーさんの反応が来て……となると、すでに昔の話みたいになりがちだったりするわけです。その点、ソーシャルゲームはユーザーさんのレスポンスが早くて、作りながらどんどん改良できる。ユーザーさんの嗜好に合わせて、おもしろさを変えていくことができるんです。そこは、ソーシャルゲームを開発する上での醍醐味だったりするわけですが、家庭用ゲーム機もオンラインゲームやF2Pタイトルが増えているので、そういったソーシャルゲームの魅力を盛り込んでいけるのではないかと、期待しています。

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▲“ちょゲつく”ブランドのスマートフォン向けアクション『秒撃の王国』。3人のキャラクターを駆使して、敵の攻撃を防ぎながら、一瞬のチャンスを掴んで反撃していく。

――お話を聞いていると、Cygamesのプレイステーション4参入は、どうやら必然の流れだったと言えそうですね。
芦原 タイミングがうまく合致したということはあります。あとは、Cygamesがベンチャー企業気質だというのも大きいです。たとえば、当社には“ちょゲ部”という部署があって、“ちょゲつく”というブランドを展開しているんです(“ちょゲつく”公式サイト)。これは、“ちょっとしたゲームを作る”、“おもしろいアイデアのゲームをそんなに時間をかけずに作る”という趣旨のプロジェクトで、ある程度採算は度外視して取り組んでいるんです。“おもしろいコンテンツ”を作るということに対して、Cygamesは本当に貪欲です。こういった土壌があるからこその、プレイステーション4参入だったと言えるのかもしれません。

――ちなみに、大手ソーシャルゲームメーカーが家庭用ゲーム機のビジネスに参入するという流れは、今後増えてくると思いますか?
芦原 どうなんでしょう(笑)。うちの場合で言うと、“おもしろいものを作りたい”だけ、と言えばそれだけなんです。くり返しになりますが、最高におもしろいゲームを作りたいと思っていて、それがスマートフォンだろうが、家庭用ゲーム機だろうがこだわらない。社長もその辺は柔軟なので、少しくらいコストがかかっても、やったほうがいいとなったらやる。そういう意味では決断の早い会社です。売れるか売れないかでいったら、参入しづらいかもしれないのですが、いまの家庭用ゲーム機市場が、おもしろいものを作り得る環境が整っているのかな……とは思っています。そこにユーザーさんがある程度いるのであれば、“作ったものを楽しんでもらえる”という点は、どの市場でもいっしょです。

気になるゲームの進捗状況は実験をくり返している段階

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――さて、肝心のプレイステーション4向けタイトルですが、具体的にはどのようなものを予定しているのですか?
芦原 じつは何も決まってないんです(笑)。6月にプレイステーション4の開発機材を入手して、「家庭用ゲーム機の開発の経験ある人で、プレイステーション4をやってみたい人いる?」と募集をかけたところ、何10人も集まってきたので、「いけるね!」というところから始まって、いまは少人数のプログラマーで実験をくり返しているところです。そのスタッフも、ほかのタイトルが火を吹いたら手伝いに駆り出されてと、なかなか進まない感じではあります(笑)。

――基本は、スマートフォンとプレイステーション4で同時展開する感じですか?
芦原 まったく同じものというのは考えていません。プレイ対象によって、ゲームの作りかたを変えたほうがいいのかな……とは思っています。

――キャラクターや世界観は共通で、操作性は変更するといったような?
芦原 そうですね。そのイメージに近いです。ご存じの通り、家庭用ゲーム機では当然とされているコントローラが、スマートフォンにはありません。タッチとスワイプでゲームを成立させないといけない。

――つまり、端末に合わせて操作性を変えていかないといけないということですね?
芦原 そうですね。そもそも操作性も含めてのゲーム性とも言えるわけですから。そこはいっしょに考えないといけなくて、同じゲームでも、家庭用ゲーム機における方向キーでの操作を、スマートフォンにおけるフリックにそのまま置き換えても、たぶんおもしろさはうまく引き出せない。ちゃんと操作性にあわせたゲームにする必要がある。「フリックだから、スマホはこういうゲームにしようよ」、「コントローラはこういうゲームが合っている」と考えないといけないわけです。

――なるほど。さらに言えば、家庭用ゲーム機とソーシャルゲームとでは、それぞれ持ち味というか、魅力も異なるわけですものね。
芦原 そうですね。たとえばプレイスタイルひとつとっても、家庭用ゲーム機とスマートフォン向けアプリとでは異なりますからね。家庭用ゲーム機は、しっかりと時間をとってプレイするゲームが向いていますよね。そのため、ある程度時間がかかってもいいので、じっくり見せるゲームが適している。一方、ソーシャルゲームは通勤・通学時間にプレイしていただくことを想定しているので、電車ひと駅で遊べるものを目指しています。だいたいワンプレイ2~3分から5分ですね。そういう違いもありますので、おもしろさの出しかたもそれに合わせるべきだと思います。

――そういった意味では、ゲームを遊ぶ層も異なりますしね。やっぱりソーシャルゲームだとライト層になるのでしょうか?
芦原 ライトユーザーが多いイメージですが、最近はだいぶ変わってきているなと思っています。家庭用ゲーム機向けゲームを遊んでいた人たちが、徐々にスマートフォン向けゲームを遊び始めているのではないでしょうか。

――スマートフォンでゲームを遊ぶユーザーそのものが増えているということですね?
芦原 そうですね。最初のうちは、「スマートフォンはゲームを遊ぶものじゃない」と思っていたゲームユーザーの方も多かったかと思うのですが、スマートフォンでゲームを遊ぶことが少しずつ一般的になりはじめた。それで、一般のゲームファンの皆さんにも合うようなゲームがヒットするようになった一因としてあるのではないかと思います。

――ちなみに、いつくらいに出したいと思っていますか?
芦原 そこも、まだ何も決まってないですね。何しろ実験段階なので。ただ、実験して何かが動き始めるくらいの段階にはなっているので、そろそろどういうゲームにするのか、具体的な話を始められたらいいなと考えています。

――ああ! 開発のスピード感はソーシャルゲーム準拠なのですね?
芦原 はい。スピード感はぜんぜん違っていますね。家庭用ゲーム機だと2~3年の開発期間は当たり前ですが、ソーシャルゲームは早いと数ヵ月で終わる。そのスピードに慣れてしまっているので、プレイステーション4向けでも相当なスピード感で臨むと思いますね。そもそもCygames自体が、スピード感のある開発に適性があるんですよ。社長の渡邊らと、前の会社でプレイステーション3向けソフトを開発したときも、半年くらいで作ってしまったことがあるくらいなので……。そのときから早いペースには慣れていて、いまでも決定は早いですね。「悩むくらいなら作ってみよう」、「作って動かしてみてから悩めばいい」というスタンスです。

――失敗を恐れずに?
芦原 そうです。最高のコンテンツを届けるために、作っては崩し、作っては崩しをくり返す。おもしろくするためにはひたすら試行錯誤し、挑戦を重ねるというのがCygamesの開発スタイルです。

――それでは、現段階におけるプレイステーション4向けソフトの方針を教えてださい。
芦原 それは、先ほども述べた会社の方針とも関わってくるのですが、“最高のコンテンツを作る”ですね。これに尽きます。社内でもよく言っているのは、「どの分野においてもナンバーワンを目指そう」ということです。グラフィックも最高だし、企画も最高だし、プログラムも最高というタイトルです。

――たとえば、グラフィックではどういったイメージのタイトルになるのでしょうか?
芦原 もちろん、作る分野の中では最高のグラフィックを目指すことになると思いますが、フォトリアルなほうを目指すのか、アニメ調を目指すのかは、また別の話になってくるかと。どの方向の絵にするかは、まだ決まっているわけではないんです。たとえば最高のドット絵を目指すかもしれないし、最高のフォトリアルを目指すかもしれない。まだ、何とも言えないですね。

――いずれにせよ、“最高のもの”を作ると?
芦原 はい。社内のスタッフ全員が全員とも“最高のコンテンツを作りたい”という意識で貫かれているので、出てくるタイトルに関しては期待していただいていいです。皆さんを失望させることは絶対にありませんよ。