“3次元空間の知覚的歪みとコンテンツの再構築”とは

 2014年10月24日、東京・お台場にある日本科学未来館にて開催された“デジタルコンテンツEXPO 2014”にて、“3次元空間の知覚的歪みとコンテンツの再構築”というシンポジウムが開催された。名前だけ聞くとなにやら難しそうだが、平たく言うとゲームファンにとってもおなじみの“立体視”をテーマとした研究発表会だ。そのシンポジウムに、『セガ3D復刻プロジェクト』のプロデューサーであるセガの奥成洋輔プロデューサーと、開発を担当するエムツー代表の堀井直樹氏が登壇。元々2Dであったゲームを立体視化させる際に得た技術や成果を、実例(=プロジェクトでリリースされたタイトル)を元に解説していった。学術的な討論会ということで専門的な話も多かったが、なるべく噛み砕いたうえで詳しくリポートしていこう。

『セガ3D復刻プロジェクト』の立体視ノウハウが語られた“デジタルコンテンツEXPO 2014”のシンポジウムをリポート_01
『セガ3D復刻プロジェクト』の立体視ノウハウが語られた“デジタルコンテンツEXPO 2014”のシンポジウムをリポート_02
『セガ3D復刻プロジェクト』の立体視ノウハウが語られた“デジタルコンテンツEXPO 2014”のシンポジウムをリポート_31
渡邊克巳氏

 シンポジウムではまず、登壇者による研究・実例の成果発表が行われた。最初にマイクを握ったのは、東京大学先端科学技術研究センター・准教授(認知科学)の渡邊克巳氏。心理学者である渡邊氏は、「立体視の原理は昔からわかっていたが、映画やゲームといった産業での実用に耐えうるようになったのは最近」と、その歴史を簡単に説明。その上で、動画での立体視では人間の知覚による“歪み”が生じてしまうと、実験映像を用いながら解説した

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▲渡邉氏が図説した“歪み”の例。頭で思っているのとは違って見える様子に来場者からは「おお」、「本当にずれている」といった声が漏れていた。

 また、絵画に見られるパースペクティブ(パース)の発明も、3次元の世界を平面(2次元)に落としこむテクノロジーの歴史だとし、有名な絵画を例に「レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は消失点がひとつだが、ジョルジョ・デ・キリコの街の『神秘と憂愁』には複数の消失点がある」と説明。
 といったように、クリエイターが3Dを2Dに変換するために試行錯誤した知恵や技はとてもおもしろく、同様に“3D復刻プロジェクト”は、本来2Dで作られたものを立体視を持つ3Dに作り変えることは興味深いと研究者の目で語った。

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河合隆史氏

 続いて登壇した早稲田大学 基幹理工学部 表現工学科 教授の河合隆史氏は、専攻する人間工学からのアプローチから、立体視についての見識を披露。「同じ映像でも、平面と立体視では、人が注視するポイントは変わってくる」、「映画『アバター』の奥行き情報にはシーンごとに濃淡があり、エモーショナルなシーンほど奥行き情報が増す」といったことが研究により判明し、その成果は映画『怪物くん3D』や『STAND BY ME ドラえもん』といった映画に活かされていると語った。

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 また、静止画の一部に奥行き情報を付加する“局所3D”を使うことで、その画像に対する認知がより高まるという実験結果も披露。3D映像に再構築した『葛飾北斎の富嶽三十六景』を例に、来場者に赤青メガネを配布して、実際に体験してもらいながらの具体的な説明がなされた。

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