ブームを起こすためにアレコレ考えた

 2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催。4日に開催されたセッション“「祭り」のゲームデザイン ~フリーダムウォーズのゲームデザイン・コンセプト~”のリポートをお届けしよう。

 2014年6月24日に発売され、大きな話題を呼んだプレイステーション Vita用タイトル『フリーダムウォーズ』。そのゲームデザインはどのようにして築かれていったのか、開発者が赤裸々に語るセッションだ。ソニー・コンピュータエンタテインメントの吉澤純一氏、シフトの保井俊之氏、シフトの征矢(そや)健太郎氏の3名が講演を務めた。

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▲左より、吉澤純一氏、保井俊之氏、征矢健太郎氏。
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▲「ソニー・コンピュータエンタテインメントの松岡修造こと吉澤純一です!」と元気すぎる挨拶を行う吉澤氏。いきなり「宝物とかけて飛行機のパイロットと解く。その心は、どちらも貴重(機長)でしょう」と謎かけを行い、会場の笑いを誘っていた。

 『フリーダムウォーズ』の企画はPS Vitaの発売前、まだVitaという名称すら決定していない時期からスタートしたという。きっかけは、吉澤氏からの「PS Vitaでブームを作れ」とのオーダー。「エンターテイメントのゴールはブームを起こすこと。ソニー・コンピュータエンタテインメントは、プレイステーション、プレイステーション2、『みんなのGOLF』、『グランツーリスモ』といったハードやソフトでブームを起こしてきた。PS Vitaでもブームを起こしたい、そのソフトを作りたいという気持ちからプロジェクトを立ち上げた」と吉澤氏。

 そのオーダーを受けて保井氏をはじめとする開発スタッフの心境は「どうしよう……」であったという。そこで、まずはオーダーの分析から行い、ブームとは“祭り”のことではないか、とひらめいた。ゲームの得手不得手、ユーザーと開発者、誰もがいっしょに遊んで盛り上がる“祭り”こそがブームであるとし、ゲームのデザインを進めていったそうだ。

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 この祭りは、“戦略”と“戦術”というふたつのテーマで実現を目指したという。戦略では、ユーザーのモチベーションのど真ん中になるようなものをここに置きたいと思い、“大勢で成立する非同期の遊び”を考えた。このときのキーワードは、“ゆるい連帯感”。これによってハードルを低くできるのでは、として話を進めた。

 この遊びを、どのようにブーム化させていくか。重要視したのは4つのポイントだ。ひとつめは、参加してもいいかな、と思わせる“ハードルの低さ”。ふたつめは“スキマ時間を使えること”。リアルタイムの遊びばかりではテンションを維持するのが難しかったり、そもそも遊ぶ時間がなかなか取れない人もいるためだ。3つめは“テンションで遊びが選べること”。今日は素材集めをしよう、今日は戦闘をガッツリしたいなど、その日の気分で遊び方を変えられるようにする。4つめは“チーム構造”。能動的に関わろうというモチベーションが強くなるからだそうだ。

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 また、開発中の2010年では、すでにマルチプレイアクションはユーザーが体験できた。ここにプラスαを加えたいと考え、導き出したのは“愛するモノのために戦う”ことだという。これをどのようにゲームに落とし込むかを考え、キーワードの“ゆるい連帯感”と合わせて、あまり重すぎず、かつモチベーションを維持するモノとして“国・地域を代表して戦う”というコンセプトが生まれたのだ。

 実際のゲームでは、“愛するモノのために戦う”は都市国家対戦で、“ハードルが低い”と“ゆるい連帯感”は都市国家順列(ポイントランキング)で、“スキマ時間で遊ぶ”と“好きなテンションで遊ぶ”ことはリアルタイムバトルとポイントランキングで、それぞれコンセプトを実現させたそうだ。

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戦術面でも根底に流れるテーマはおなじ

 話題は、戦術について。ここでも根底のテーマを“愛するモノのために戦う”に設定したが、ではどうすれば戦ってくれるか。「愛するモノを奪えば戦ってくれるのでは?」というロジックから、“愛するモノを奪い返す”というキャプチャー・ザ・フラッグ構造をとることに決定した。人材という資源を奪い合うということで、人質が入った動く宝箱といえるモンスター“アブダクター”をデザイン。またこの“奪い返す”は、世界観の設定にもつながったという。

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▲開発初期の、パブリッシャーに見せるコンセプトムービーも特別に公開された。これは3ヵ月ぐらいの突貫で作成されたものだそうだが、根幹となるゲームシステムは製品版と大差なく、「目指すゲームシステムを最初に映像化し、プロジェクトで共有することは、大きな成果を挙げていた」と吉澤氏。

 続いて、“愛するモノ”を何にするのか。保井氏は「ゲーム部分において、愛するモノは強さ、武器、自分だと思う。そこで2体のアバターを作り、自分のキャラクターとして愛着を持ってもらう。片方がさらわれ、奪い返したときに生まれるドラマは、すべてユーザーのものである、という前提で設計していった」と開発秘話を語る。この体験は響いてくれた人が多く、嬉しかったそうだ。

 また、ハードルの低さ、チーム構造は、戦術でも意識されている。本作にはワイヤーのような特殊武器“荊”(イバラ)があるが、これは「役割分担を明示化させることが目的」と保井氏。「ある人が荊で戦っているとき、ほかの人はそれを見て、共闘するか、別の場所へ向かうか、その選択の手助けになる」と語る。溶断アクションについては、「原始人がみんなでマンモスを倒すようなイメージ」。戦場で熱い戦いがくり広げられるホットスポットを、いくつも作れることが重要だと語った。こうして『フリーダムウォーズ』のゲームデザインは作られていったのだ。

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 補足として、グラフィックデザインについても述べられた。本作はシフトとディンプスの共同開発作品だが、「何かを語るにしても会社ごとで言葉が違いすぎる」と吉澤氏。そこで合宿を行い、ゲームデザインがいかにあるべきか、共有化を図ったという。

 その家庭で市場性も語られたが、“買い物カゴに入れるかどうかは初見で決まる”という結論に達したという。そこで定性調査を何度も行い、アートや世界観を大きく変え、製品版のデザインに行き着いたそうだ。

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ゲームを外へ広げることも“祭り”の一環

 続いて、“ゲームを外へ広げる”ことについて語られた。まず草の根施策として、ニコニコ動画に専門チャンネルを開設。一般的にはパブリッシャーが行う内容だが、本作ではデベロッパーであるシフトが担当。いわば“公式の同人”として“作り手も祭りに参加”し、ブームを目指したという。「デベロッパーがパブリッシュワークを行うことは、大きなチャレンジだった」と保井氏は語る。

 吉澤氏は、「みんなに楽しいことを体験してもらうためには、新しさを提供することが大事。同時に、いままでと同じことをやっていたらダメ、とも思う。今年は『フリーダムウォーズ』の名でコミケに出展したが、これはSCE初。ソニー・コンピュータエンタテインメントは楽しいことをする会社なので、やってみたいことを、ぜひともぶつけてほしい」と熱く語った。

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 また反省点も語られた。説明不足や難易度、レベルデザインなどが挙げられ、戦術については「かなりまずいものもいろいろあると認識している。この点は次回に活かしていきたい」と保井氏。

 最後に、保井氏は「今回、オリジナルゲームを作る仲間がほしくて、このセッションを開催した。インゲームとメタゲームをいろいろな人と作っていくのが、じつは『フリーダムウォーズ』におけるチャレンジの本質。この2軸の作成をディベロッパー間で主導できれば、もっと新しいゲームが生まれるのでは。みなさん、いっしょに“祭り”を考えてみませんか?」と熱い思いを語り、大盛況のうちにセッションは幕を閉じた。

 ゲームデザインがどのように作られていくのか、その一端が垣間見られたじつに興味深いセッションであった。とくにゲーム外への展開は、今後大きなトレンドになっていくのではないだろうか。

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▲吉澤氏が音頭をとり、来場者全員が手を上げて「Let's貢献!」と叫ぶ一幕も。