赤裸々な裏話も飛び出したショートセッション
2014年9月2日から4日まで、神奈川県・横浜のパシフィコ横浜にて開催されている日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”。会期2日目となる9月3日、サイバーコネクトツー 業務部 戦略企画課 宣伝広報室チーフ・山之内幸二氏によるショートセッション“ファンも会社も大喜び!ゲーム開発の副産物で年間3000万円稼ぐ宣伝広報室のヒミツ”が行われた。
非開発部署でありながら、年間3000万円もの売上をあげるデベロッパー(開発会社)・サイバーコネクトツーの宣伝広報室。こちらのショートセッションでは、宣伝広報室でチーフを務める山之内氏によって、ゲーム開発の副産物を利用したオリジナルグッズ販売のノウハウやファン獲得のための実例が、数字を交えて赤裸々に語られた。おもにこれから自社でオリジナルグッズの展開を考えている“中の人”に対してのセッションとなったが、ゲームやブランドのファンとしてもグッズ展開の内実が覗ける刺激的(!?)なものだったので、概要をリポートでお届けする。
立ち見の来場者も多く見受けられ、盛況を博した本セッション。「小難しいことはなしで、ざっくばらんに」と山之内氏が言うように、時間にして約30分の本ショートセッションはスピーディーに進行。アジェンダは下記の4項目となる。
(1)デベロッパーがグッズ制作する理由
(2)安定したグッズ展開を可能にする社内体制
(3)グッズとイベントが生み出すファン増加サイクル
(4)すべてはファンを増やすため
(5)まとめ・質疑応答
それでは、順を追ってセッションの概要をお届けしよう。
◆(1)デベロッパーがグッズ制作する理由
サイバーコネクトツーは2008年から自社グッズの展開を始め、現在150点を超えるオリジナルグッズをラインアップしている。山之内氏は「デベロッパーがグッズを展開することは珍しいと周りの他社さんから言われる」と言うが、ではなぜ開発会社であるデベロッパーがグッズを制作するのか。答えは簡単、“誰もグッズ化してくれないから”だ。往々にして成功したタイトルでない(=ビジネス的に妥当性がない)限り、ファンからのニーズがあってもグッズ展開は行われないことが多い。そんな中、「誰も作らないのであれば自分たちで作ってしまおう!」と鶴のひと声を発したのが、サイバーコネクトツー代表取締役・松山洋氏だったとか。
ではどんなグッズを展開するかという際、同社は「デベロッパーが作るグッズにこそ、いちばんのニーズがあるんじゃないか」と考えたという。ゲームを作っているのは開発会社であるということは、その作品にいちばん近い距離で、作品を深く知るデベロッパーならではのグッズを作ることもできる。ここがいちばんの強みだと山之内氏は言う。
そんな“デベロッパーならでは”のオリジナルグッズの最たるものとして挙げられたのが、設定集などの冊子だ。“社内にこんなものありませんか?”と聴講者に提示されたスライドには、世界観設定資料、アフレコ台本、ラクガキ、デザインラフ、没案……などなど、開発の過程で少なからず発生するモノがズラリ! 山之内氏は「こういったものがありましたら、いますぐ冊子にまとめて販売しましょう!」と力強く断言。これらの世に出ていない資料は、ファンからすると喉から手が出るほど見たいものだ。そんな“宝物”が開発室には山のように転がっているという。「そういった宝物を眠らせておかないで! 注意しないとデザイナーさんがシュレッダーにかけちゃったりとか、なくしちゃったりしてしまうので、そういったものを捨てずにとっておいて、まとめてグッズ展開をする。こういったことを開発の段階から意識することが大切です」(山之内氏)
つぎに、サイバーコネクトツーが実際に発売してきたオリジナルグッズの売上推移(!)など具体的な“数字”の話へ。2011年からの3年、同社のグッズ販売事業の売上はいずれも3000万円から4000万円の推移を記録し、利益率はご覧の通り。2014年前期分を合計すると、3年半でおよそ1億2700万円の売上を達成している。これはもちろん“ゲーム開発以外”の売上として計上されるものだ。
本セッションでは、その具体的な事例も発表。犬や猫を擬人化したキャラクターが登場する『Solatorobo それからCODAへ』の冊子“THE KEMONO BOOK”は、2013年冬のコミックマーケットで販売され、初週ですでに約600冊を売上、経費回収も済んでいるという。
つぎの事例は、映画『ドットハック セカイの向こうに』およびゲーム『.hack//Versus』を収録した完全設定資料集。こちらはもとが劇場作品ということもあり生産数は1000部少々と抑え目だが、「ゲーム以外のファンに対してどれだけ売れるかが読めなかった」(山之内氏)ということでこの生産数になったんだとか。
さらにライセンスグッズを制作・販売するにあたっての注意点が語られる。それは“決して出版社・版権元などの商売を邪魔しない”こと。出版社や版権元の展開が終了してから自社グッズを展開することが大切だという。サイバーコネクトツーではゲームの発売から1年以上が経過してから自社グッズを展開しており、結果として「展開終了後もついてきてくれる“濃ゆい”ファンをターゲットにしたグッズとなるので、需要と供給のバランスがとりやすい」との利点も。
(2)安定したグッズ展開を可能にする社内体制
では、安定したグッズ展開をどう行っていくのか。これに対する解決策として、サイバーコネクトツーでは社内にDTP経験者を擁するデザイン室を設けているという。その理由はふたつ、ひとつが“こだわりのあるグッズを作るため”、そしてふたつめが“安定したグッズ展開を行うため”。企画から販売までを自社で行うため、こだわりをもってグッズ制作をすることが可能。さらに制作の様子をSNSなどで拡散告知して、発売前から販促を行うことができるのだ。また社内にデザイン室を設けることで、制作のスピードもアップする。
また、社内体制として“宣伝+広報”のふたつの視点で考えることも大切となる。本来異なる役割の“宣伝”と“広報”だが、同社ではこれらを兼任。そして兼任しているからこそのメリットがあるという。宣伝目線では企業としての売上増加につながる“非開発部門の収益化”そして広報目線では“ファン増加のための広報活動”。これは利益追求だけを目的としたものではなく、「将来的なファンをいかに作っていくか」(山之内氏)、ひいてはゲームタイトルの売上をいかに伸ばしていくかという、先行投資的な意味を持つんだとか。
◆(3)グッズとイベントが生み出すファン増加サイクル
この“広報視点”を掘り下げたセクションがつぎの話題。グッズを販売することで、下記スライドのようなサイクルが生まれる。
◆(4)すべてはファンを増やすため
最後のトピックスは“すべてはファンを増やすため”。「きれいごとに聞こえるかもしれませんが、我々はFanfirst(ファンファースト、ファン第一)の気持ちで考えている」と山之内氏は語る。先にも述べられたように、「ファンは情報に飢えている」(山之内氏)。実際に寄せられた「タイトル発売後、展開が止まって寂しい」、「裏側まで全部知りたい」といったファンの声を取り上げつつ、少しでもグッズ展開を続け、ファンを退屈させないことが大切なのだ。そして山之内氏は、根強いファンを獲得することが回りまわってゲームタイトルの販売につながっていくと解説。同社はグッズアンケートの実施や、グッズ巻末にアンケートコーナーを設けるなどしてファンの意見を拾っているという。
(5)まとめ・質疑応答
最後のまとめでは、“根強いファンを生み出し、タイトルの販売につなげる”という最終目的のためにも、副産物でグッズを制作し、それを販売することで活動の選択肢を広げることが大切だと語られた。山之内氏は「グッズがないと何もできません。我々宣伝担当は立場的にもそんなに強くないと思いますし、お金がないと動けなかったりもします。そういった意味で、自分たちでお金を稼いでいけるということを念頭に置いて展開しています」と宣伝・広報担当としての赤裸々な内実を語りながら、「尻込みせず、社内にある資料をいますぐ冊子にして売りましょう!」と力強く提案した。
続いては、かなり生々しい質問も飛び出した質疑応答コーナーへ。一部抜粋してお届けする。
◆冊子とぬいぐるみなどのグッズ、どちらが原価を抑えられる?
山之内 圧倒的に本です。本は1回作ると何度も印刷をかけられますから。ぬいぐるみは幅をとるので、管理コストもかかります。原価率が低く、販売単価が高いのはタペストリーですね。
◆設定資料集などを販売する際の契約は? また販売チャネルで売上がいちばん高いのは?
山之内 ゲーム開発の契約とは関係なく、新たに契約し直しています。また販売チャネルに関しては、Amazonがいちばんいいです。その前は自社で通販サイトを作っていましたが、発送業務が大変なので、いまはAmazonのシステムで一括で送って、発送などを一任しています。販売本数としてはAmazonがいちばん売り上げます。