シリーズ共通の命題は「多種多様なモンスターを少人数で大量生産すること」

『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_01
▲バンダイナムコスタジオの山本佑平氏。

 ゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2014では、エンジニアリングからビジネス・プロデュースまで、さまざまな分野の講演が企画、開催されている。ここでは9月2日に行われたビジュアル・アーツ分野のセッションの中から、バンダイナムコスタジオ HE開発本部 HE技術部 HEソフトウェア1課 プログラマの山本佑平氏による、『Tales Of シリーズにおける自動リギングとワークフロー』をレポートしよう。おもに3DCG制作に携わるクリエイター向けの講演だったが、バンダイナムコゲームスの人気RPG『テイルズ オブ』シリーズのファンにとっても興味深い内容だった。

 山本氏は、2007年にナムコ・テイルズスタジオへ入社して以来、10作目の『テイルズ オブ ヴェスペリア』から、現在開発中の『テイルズ オブ ゼスティリア』まで、シリーズの制作に関わっている人物だ。そんな山本氏が、『テイルズ オブ』シリーズに共通する命題として挙げたのは、「多様な構造を持ったモンスターを、少ない人員で、大量に生産しなければならない」こと。しかし、1作品あたり平均400を上回るキャラクターやモンスターをモデリングしてアニメーションさせる課題に取り組む中、数々の問題点が浮上したという。

『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_02
『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_03

モンスターのアニメーション制作における数々の問題点

 第1に、「複数のツールをまたいで制作が行われていた」点。たとえばモデリングは『Maya』、キャラクターアニメーションは『Motion Builder』というように、モデラーとアニメーターで、また同じアニメーションでもキャラクター担当とモンスター担当で、それぞれ異なるツールを使っていたそうだ。これでは、各担当者間でのやりとりがたいへん。また、ツール間の互換性がないためデータ欠損が発生し、サポートの負担も大きかったとのこと。

 第2に、「人型キャラクターとそれ以外との作成方法がまったく異なる」点。どれくらい違うのかというと、キャラクター担当者とモンスター担当者とで、所属部署まで異なるレベルなのだとか。そのため、ノウハウは共有されることなく各部署ごとにたまってしまい、キャラクター担当にモンスター制作を任せようと思っても、1から教えなければならないという事態となっていた。また、人型のアニメーション制作用ソリューションなら、市販でも洗練されたものが提供されているが、多種多様な体型のモデル向けのものとなると、まだまだという現状もある。

 第3に、「リギングスクリプトのメンテナンスコストが高い」点。リギングとは、骨や関節を設定したモデルに動作させるための機構を組んでいく作業だ。スクリプトは、キャラのタイプ別に用意することになるので、キャラの構造が変わるたびに作り直さなければならないし、バリエーションが増えるたびに新しいものを追加しなければならない。

 これらの問題点から、「モンスターのバリエーションが増やしづらい」、「たとえモンスター担当に余裕ができて、キャラクター担当が不足していたとしても、人材の行き来は困難」、「サポートの負担が多大」、「製品開発のワークフローが統合されていないため、進化していかない」という非効率的な状況を、山本氏は認識していたそうだ。

『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_04
『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_05

独自のシステム“IKSystem”を開発して問題解決を図る

 そこで問題解決を目指し、山本氏が中心となって開発した独自のシステムが“IKSystem”。『テイルズ オブ エクシリア』と『テイルズ オブ エクシリア2』、そして開発中の『テイルズ オブ ゼスティリア』で導入されているという。

 まず、“IKSystem”の導入によって、制作ツールがMayaのみに制限されたため、複数のツールを使うことで発生していた問題が一挙解決。ちなみに、これまでMotion Builderを使っていたアニメーターのため、同様の機能が使えるように配慮したそうだ。

 つぎに、 “IKSystem”では、パーツ(モジュール)を組み合わせてモデルを構築することになった。たとえば、“2Bone”というパーツは、付け根とふたつの関節(計3ジョイント)でつながれた2本の骨で、おもに腕や脚に使われる。また、2ジョイントを持つ1ボーンがいくつも連鎖した“Chain”というパーツは、おもに尻尾や触手に使われる。こうしたパーツがいろいろと用意されていて、人型キャラクターもそれ以外も、すべてこれらを組み合わせて制作することになった。

 そのため、人型であろうとなかろうと、アニメーターは共通の操作体系で作業することが可能になったというワケだ。従来のキャラクター担当、モンスター担当という振り分けもなくなった。

 そして“IKSystem”で構築されたモデルは、命名規則に従って自動的にリギングされる。たとえば、“2bone”というパーツを腕として使いたい場合は、“Arm”と命名すれば、腕用の機構が自動的にセットアップされるといった具合だ。これで、アニメーターやモデラーが各モンスターのタイプごとにリグをせっせと組んでいた手間がなくなり、モンスターのバリエーションを増やしづらいという問題まで解消された。

『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_06
『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_07
『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_08
『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_09
▲頭、翼、尻尾といったパーツで構築されたモデル。尻尾には“Chain”のパーツが使われ、“Tail”と命名されている。

 また、山本氏は、実際に“IKSystem”を使ってのデモンストレーションも行い、開発者に向けて機能などを説明。そのうち、体格の違うキャラクターに同じアニメーションを適用する“Retarget”という機能の説明では、『テイルズ オブ エクシリア2』のエピソードも飛び出した。『テイルズ オブ エクシリア2』のクリア後には主人公のキャラクターチェンジができるおまけ要素があるが、これは“IKSystem”の“Retarget”機能によって、別のキャラクターに主人公と同じモーションをさせているのだそうだ。

『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_10
『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_11
▲キャラクター操作時に体の一部を固定する“Pinning”など、“IKSystem”の多彩な機能が実演とともに紹介された。

「作りやすい」ではなく「見せたい」キャラ作りへ

 こうして、『テイルズ オブ』シリーズの命題を解決するソリューションとなった“IKSystem”。山本氏が強調したのは、システムの機能的な部分よりも、システム導入による副次的効果のメリットであった。“IKSystem”上ですべてのモデルとアニメーションを作らなければならない制約がかかったことにより、たとえるならモデラーとアニメーターの言語が共通言語化されたという。その結果、モデラーとアニメーターでの間のやり取りが増えたのはもちろん、「会話の文脈が変わった」というのだ。

 導入前は「こういうふうにすると作りやすい」など、どのように(how)データを作るかというところに終始した議論が多かったとのこと。だが導入後は、howの部分についてはシステム上の制約があるため、議論しても仕方がない。そこで「こういう動きをさせたい」「こういう構造にしたい」など、どんなキャラクターにして、どんなアニメーションを作って、どんな演出で見せたいのかという、やりたいことの本質により近づいた会話が増えてきたそうだ。

 最後に山本氏は、こういったシステムや新しい枠組みを作るときの心得を、自らの経験を踏まえ、つぎのようにまとめた。

 まずは「とにかくはじめて、継続していくこと」。改善はあとからでもできるので、まずはスタートさせないとなにも進まないということだ。また、新しいことをはじめる際には、細かいことをグチャグチャ言うひとが必ず出てくるものだが、相手にしていると先に進まない、とも付け加えた。

 それから「なるべくシンプルに」するということ。シンプルだと破綻しにくく、改善しやすいというメリットがあるそうだ。人から「たったそれだけ?」と言われることを嫌ってシステムを複雑にするよりも、最初はシンプルにして改善していったほうがいいと説明した。

 さらに「仲間を作る」こと。システムにはサポートがつきものだが、自分ひとりでは保守し続けられないし、進化改良もできない。仲間を作って複数でやっていけば大きな枠組みも作っていけると、受講者にメッセージを送り、セッションを締めくくった。

『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_12
『テイルズ オブ』シリーズのバラエティー豊かなモンスターをクリエイトする独自のシステムとは!?【CEDEC 2014】_13