田中氏と岡宮氏の“縁”から生まれた『艦これ』

 2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催。ここでは『艦隊これくしょん ~艦これ~』(以下、『艦これ』)のキーパーソンである、田中謙介氏(角川ゲームス/『艦これ』開発運営統括)と岡宮道生氏(DMM.com/『艦これ』エグゼクティブプロデューサー)によるセッション、“【艦これ】に関するエトセトラ”の模様をお届けする。
※本セッションは写真撮影がNGだったため、スライドや“艦娘”などの写真はありません

 セッションでは、最初に『艦これ』のプロモーションムービーが流された。もともと田中氏と岡宮氏は、同じゲーム会社に勤めていたことがあるそうで(ちなみに岡宮氏が先輩)、「いつかいっしょにゲームを作ろう」という話が原点。それこそ居酒屋レベルの話だったそうだが、いまや大人気コンテンツに成長した。そもそも『艦これ』は、田中氏の趣味が高じて……というのは比較的有名なエピソードだが、そうしたスタート時の事情もあり、当初は田中氏がみずからサポートを担当するなどしていた。当初のサービスインは、2013年の3月を予定していたが間に合わず、つぎの目標であるゴールデンウィークの2013年4月23日にようやくリリースされることとなった。
 ところが、この時点ですでに想像以上の反響が起こり始め、プロモーションも大々的に行えないような事態に。それまで、ゲームの宣伝畑で活躍してきた岡宮氏も「初めて周囲に宣伝しないでほしいと頼んで回った」とのこと。肝心のゲームのほうでも、改造することで強化できる“改”バージョンの“艦娘”が予定の半分くらいしか完成しておらず、さらに、一部の“艦娘”は“改”でのステータスの数値を「盛り過ぎた」(田中氏)そうだ。あわてて実装していくも、多くのプレイヤーはすでに未実装の“艦娘”を“改”にしていた後だったという。
 そんなこんなで、あわただしく出航した『艦これ』だが、制作の根本に3つのStructure(構造)があるとのことで、ここからはその3つが順に紹介された。その3つは“System(システム)”“Monetize(マネタイズ)”“Character(キャラクター)”だ。

ユーザー目線で考えられたゲームシステム

 システムのキーポイントは、つぎの6つを上げた。
(A)抽象度の高いSLG
 いわゆるガチガチのシミュレーションゲームにしてしまうと、間口が広がらず、 プレイヤー数が限られてしまう。そこで、いまのようなカードゲームの要素を持つシミュレーションゲームとなった。確かに、WebゲームでSLG+カードゲームのスタイルでヒットしているものも多く、プレイヤーにもなじみのあるシステムだったといえる。ただし、プレイヤーの目に見えない部分、たとえば戦闘シーンにおける計算式などは、当初考えていた本格的なシミュレーションゲームの計算式を使っているのだという。
(B)ユーザーみずからがいろいろと調べたくなる構造に
 キャラクターのデザインや設定、システムなどにおいて、プレイヤーが能動的に調べたり、想像する余地を残した構造になっている。これは、たとえば“艦娘”に対する感情移入にも関わってくるであろう話で、セッションではさらっと終わったが、じつは人気のキモとなっている部分では? と感じた。
(C)KPIは追わず
 あまりなじみのない言葉だが、“KPI”というのは“Key Performance Indicator”の略語で、ここでは『艦これ』がどのくらい満足されているか、といった意味だろう。“KPIを追う”ソーシャルゲームでは、観測したKPIによって課金するポイントを設定したり、バランスを調整したりするわけで、『艦これ』の場合は「ユーザーがおもしろいと思うことを追う」(岡宮氏)という方針なのだ。
(D)○:準備/兵站/戦略、×:戦術
 『艦これ』では“戦術”を重要視しないシステムを採用した。そのため、シミュレーションゲームではおなじみのヘックスなどは登場しないわけだ。逆にプレイヤーがどのように戦おうか、と戦闘前の準備に重きを置いている。それゆえ、田中氏は「『艦これ』は静かなゲームです。だから、キャラクター(艦娘)はよくしゃべるようにしたいと思った」と話した。
(E)アクティベート
 文字どおり、オンラインゲームはゲームをリリースして終わり、ということはない。そこで、リリース後も新要素のアイデアを加えることができるように、ゲームデザインをしたとのことだ。
(F)課金を前提にした作りにしない(無課金/微課金でも前進可能)
 『艦これ』はかなり初期の段階から、課金をしなくてもゲームが詰まらないようにする仕様で考えられていたそうだ。課金しないと強いキャラクターが出ないといった仕様ではなく、無課金、微課金でもゲームを進めることが可能で、時間と労力を使えば誰でもプレイできるというもの。“ガチャ”システムを搭載するかさえ、議論されたというのだ。

課金必須ではないながらも、課金で開発・運営を

 続いては、気になる『艦これ』のマネタイズ(収益化)について、だ。
(A)F2P:課金必須にしない
 『艦これ』はF2P(基本プレイ無料)だが、先に述べたとおり、開発当初から課金必須のゲームデザインにしないという理念があった。
(B)課金を原資として開発/運営する
 『艦これ』は、ゲーム単体で開発、運営をすることが目標。つまり、課金必須ではないとはいえ、ゲーム内課金をもとに開発・運営することが前提なのだという。アニメやコミックといった、他メディアへの展開を見込んだりせず、あくまでゲーム内課金での開発・運営が大前提なのだそうだ。続いて『艦これ』プレイヤーの開発運営費の割合が公開されたのだが、2014年8月はゲーム内課金が90%以上、二次商品収益が10%未満なのだという。課金必須のゲームではないながらも、目標どおりゲーム内課金を原資として開発・運営されているのには驚きを隠せない。実際プレイに有効な課金以外にも、いわゆる“お布施”として課金しているプレイヤーも多数いるだろうと、田中氏も感謝していた。また、ゲーム内課金の3軸はつぎのとおり。
(1)拡張……“母港拡張”や“ケッコンカッコカリ”など
(2)趣味/支援……“家具”の購入など
(3)時間短縮……資源回復の時間や修理までの時間短縮など

“艦娘”たちの魅力の根源は“空間”によって生み出された

 最後はキャラクターについて。スライドで説明されたのは以下の3つ。
(A)旧海軍艦艇の擬人化
(B)擬人化はInterface
(C)練り込みと空間
 『艦これ』の大きな魅力を占める“艦娘”は単なる擬人化にとどまらず、“空間”を設けていると田中氏は語る。この“空間”が、そのキャラクターを愛してもらうためのインターフェース。キャラクター相互の関係はある程度強く描きつつも、あえて疑問に思う部分を用意しておき、そこはプレイヤーがそれぞれ調べて埋めたり、補完することで、より“艦娘”に愛着が持てるようになるのだという。これを田中氏は“探索導線”という言葉で表現していた。その“提督”ごとの思いこそが力となり、それぞれの経験として積み重ねられていくのだろう。

『艦これ』の未来への展望とは?

 最後のパートでは、『艦これ』のこれまでとこれからが具体的なグラフで紹介された。
 “Phase-1”と名づけられたリリース(2013年4月)から6月。4月時点での登録アカウントは約8000人で、事前登録が約5000人だったそうだ。いまからは考えられないほど少ない数字だが、逆にちょうどいいくらいの手ごたえだったという。続く“Phase-2”では、とある漫画家が絶賛したり、夏コミの影響もあり、人気が一気に加速。サーバーを4倍に増強するなど対応するものの、急激な伸びを示す。その勢いは、新規登録を制限している現在でも落ちることなく右肩上がりに成長。2014年8月時点での登録アカウントは約220万人を超え、月間のアクティブユーザーが40~50%の約100万人、一日当たりのアクティブユーザーは約50万人になるという。もちろん、その数値は開催するイベントなどで増減するとのことだ。
 また、課金アイテムでもっとも購入されているものは“母港拡張”で、全体の30%に達していて、消費アイテムよりも継続で効果を発揮するアイテムが課金の主力となっていることも明らかになされた。

 前述のとおり、サービスイン当初、プレイヤーが10万人くらいまでは、田中氏みずからがユーザーサポートを担当していたものの、さすがに一日のサポートが300件を超えたあたりで限界を感じ(このころは岡宮氏がサポートを手伝ったこともあるそうだ)、ユーザーサポートのスタッフを増員することになったとのこと。ただし、田中氏にとって、このころの経験は何にも代えがたい財産となっていて、「直接ユーザーの声を聞けたことは本当によかった」と語った。

 『艦これ』は、2015年1月より地上波でテレビアニメがスタート、2015年春にはプレイステーション Vita用ソフト『艦これ改』が発売されるということで、さらなる盛り上がりが期待される。その今後について田中氏は「いろいろなアドバンス的なものも考えている」と発言。そのアドバンス的なものがどういったものかは明かされなかったが、今回のセッションを聞く限り、『艦これ』の“本丸”は当分安泰のようだ。
 最後に、先日公開されたテレビアニメ版のPVが流されて(→関連記事はコチラ)、注目のセッションは終了となった。