次世代の放送フォーマット“スーパーハイビジョン”

 2014年9月2日~4日の3日間、パシフィコ横浜にて日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2014”が開催。その初日となる2日に開催されたセッション“スーパーハイビジョンとゲームコンテンツ”のリポートをお届けしよう。

 本セッションの講師は、明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科の鹿喰(ししくい)善明教授。以前はNHKで30年以上勤務していたそうで、いわば最前線でハイビジョンの研究を行ってきた映像のスペシャリストだ。

最先端のテレビはここまで進化している! “スーパーハイビジョンとゲームコンテンツ”リポート【CEDEC 2014】_01
▲明治大学の鹿喰善明教授。2014年4月より現職にあたり、6月には“ハイビジョン・次世代テレビ技術賞”を受賞した。

 そもそも“スーパーハイビジョン”(以後、SHV)とは何なのか、という解説からセッションはスタート。現在、世間では4Kテレビが注目を集めているが、SHVはそのつぎの企画となる、8K×4Kの放送フォーマットのことだ。正確には7680×4320の約3300万画素で、これはフルHDの16倍に相当する。サウンドは22.2マルチチャンネルの立体音響で、2次元映像における究極のテレビとのことだ。2012年のロンドンオリンピック、そして2014年のワールドカップでパブリックビューイベントが開催されたので、その圧倒的な映像を実際に見た人もいるかもしれない。

 その特徴は解像度だけではない。現在のハイビジョンテレビでは再現できない色がまだあるが、SHVでは99.9%というほぼすべての色を再現できるそうだ。また時間解像度についても検討し、ストロボ効果やフリッカーといった画質の劣化要因を減少させるため、フレーム周波数(1秒間あたりのコマ数)は120Hz以上が望ましいという結論に達した。現行のテレビは60Hzなので、2倍の数値となる。

 このSHVでは、その場にいるかと錯覚するような臨場感や没入感、まるで実物がその場にあるかのような実物感、高質感が味わえる。立体感も向上し、3Dテレビでなくとも立体的に見えるとのことだ。

最先端のテレビはここまで進化している! “スーパーハイビジョンとゲームコンテンツ”リポート【CEDEC 2014】_02
最先端のテレビはここまで進化している! “スーパーハイビジョンとゲームコンテンツ”リポート【CEDEC 2014】_03
▲セッションでは、SHVの概要や技術が中心に解説された。

 このように、現行のハイビジョンと比較して非常に高スペックとなるSHVだが、対応する機器はすぐに完成したわけではなく、段階的に実現していったそうだ。最初のカメラは、当時3300万画素に対応する素子が存在しなかったため、800万画素の素子を4枚使用した“デュアルグリーン”方式で2002年に実現。重量は80Kgと大きな物だった。時間の経過とともに技術は進展し、2010年には20Kgまで軽量化されたという。

 同じく2010年、3300万画素の素子を3枚使用したフル解像度のカメラが実現し、画質はさらに向上。このカメラの重量は65Kgあったが、2012年には素子が1枚の単板カメラが登場し、重量は5Kgにまで減少した。同様に、8K対応のプロジェクターも、徐々に小型・軽量化されていったという。

 解像度が大きくなれば、動画の容量も比例して増大する。SHVでは、デュアルグリーン方式(60Hz)では24Gbps、フル解像度(60Hz)では72Gbps、フルスペック(120Ghz)では144Gbpsにもなるという。当然、そのままでは巨大すぎるため、エンコーダーの開発も進んでいる。HEVC エンコーダーでは、30Gbpsを85Mbpsまで圧縮できるそうだ。

 かようなSHVだが、現在は総務省が音頭を取ってオールジャパンで推進中。2016年に試験放送、2018年に本放送というロードマップで開発中だ。

SHVでゲームはどう変化する?

 ゲームについては「SHVの莫大なポテンシャルを活かしたプレミアムコンテンツ」と鹿喰教授。SHVの高臨場感を応用すれば、自然な立体感や実物感、3次元音響との相乗効果による没入型ゲームなどが作れるのでは、と投げかける。ただし、激しい点滅や映像酔いなどの危険をはらむため、ガイドラインを作成し、「より慎重に作成しなくてはならない」と語る。実際、SHVでの映像作成では、従来よりも慎重にカメラを動かしているそうだ。

 大画面や広視覚の活用では、分散・協調型ゲームを提案。例として、大画面を多人数で見るような「みんなでウォーリーを探せ」というアイデアが挙げられていた。機材の活用では、たとえばSHVで撮影し、その一部を霧出しても「HD解像度の動く背景画像を作れる」と語った。

 テレビ、そしてビデオカメラの最先端技術を垣間見られる、じつに興味深いセッションであった。完全に未来の物と(勝手に筆者が)思っていた8Kテレビだが、意外と身近な存在となる日は近そうだ。この8Kテレビを活用した素晴らしいゲームが登場する日に期待したい。