“原作の空気感”へのこだわり

 2014年11月27日にプレイステーション3版とXbox 360版が、2015年初頭にプレイステーション4版とXbox One版が発売予定の『バイオハザード HDリマスター』。初報で公開された内容に関してはこちら。週刊ファミ通2014年8月21・28日合併号(2014年8月7日発売)の記事内に掲載した、プロデューサー・北林達也氏、平林良章氏へのインタビューを公開。

『バイオハザード HDリマスター』スペシャルインタビュー_03
『バイオハザード HDリマスター』スペシャルインタビュー_01
『バイオハザード HDリマスター』スペシャルインタビュー_06
▲プロデューサー・北林達也氏。『バイオハザード0』ではプログラマーを担当。そのほかの代表作は『ぽかぽかアイルー村』、『ロックマン』シリーズなど。
▲プロデューサー・平林良章氏。多くの『バイオハザード』シリーズ作でのデザイナーを経て、『バイオハザード6』ではプロデューサーを務めた。

HDリマスターを実現するには当時の空気を知っている者が必要

――原作(ニンテンドーゲームキューブ版『バイオハザード』)が発売されてから12年が経過しましたが、なぜいまになってHDリマスター版が立ち上がったのでしょうか?

北林達也氏(以下、北林) じつは、これまでも原作のHDリマスターにチャレンジする試みは何度かあったんですよ。

平林良章氏(以下、平林) 12年前とはいえ、当時の技術力を限界まで引き出したクオリティーに仕上がっていたタイトルですから、簡単にはHD化に踏み出せませんでした。

北林 ところが今回はタイミングが非常によくて、小林(エグゼクティブプロデューサーの小林裕幸氏)から「平林がチームに入れそうなんだけど、やってみる?」と聞かれて、「ぜひ!」と即答しました。原作の持っている空気感を出していくには、当時のことを知っている人間が必要だと感じていましたので。

――おふたりとも12年前、『バイオハザード』シリーズに関わっていたんですよね?

北林 平林が原作『バイオハザード』のデザイナーをしているときに、僕は『バイオハザード0』のプログラマーだったんですよ。このふたつのプロジェクトは並走していて、その後、平林が『バイオハザード0』に移ってきて。リメイク版『1』の技術を『0』に転用していたりと、相互のやり取りも多かったですね。ちなみに、私たちが同じプロジェクトに関わるのも、今回で12年ぶりとなります。

平林 当時を知る者どうしで、原作の知識や空気感などを共有しながら制作を進めているのが、いまの我々の姿です。私と北林以外のチームメンバーも、実力のあるスタッフで制作しています。ただ、原作がどういう考えかたで作られていたかを知ることで、より原作の空気感を大切にできると考えています。

――平林さんの言う“原作の空気感”とは、どういったものでしょうか?

平林 空気感というのは、原作でのキーワードのひとつです。当時は“生感(なまかん)”という言葉でも語られていました。プレイステーション版の初代『バイオハザード』から、三上さん(原作でディレクターを務めていた三上真司氏。現Tango Gameworksのゲームデザイナー)が思い描いていたサバイバルホラーというものを、もっとも体現しているもののひとつだと思っています。怖いけれど先を見たくなる気持ちや、「ゾンビ怖い!」と言いながら、1体倒したときの安堵感も原作の重要なポイントでした。グラフィックをきれいに見せるのはもちろん重要ですが、そのために空気感を失ってしまわないよう、慎重に開発を進めています。

――HDリマスター版はPC版を含めて5機種での展開となりますが、プレイステーション4やXbox Oneも、HDリマスター化のきっかけになったのでしょうか?

北林 そうですね。たくさんのゲームファンがさまざまなハードでゲームを遊んでいる時期ですので、新旧両方のハードでリリースすれば、より多くのお客さんに『バイオハザード』というものを知っていただけると考えました。発売した当時は、プレイできなかった方も多かったはずですから。

自動巻きの腕時計を分解して組み直す感覚

――確かに! ところで、ニンテンドーゲームキューブ版をHDリマスター化するにあたって、苦労されている点はありますか?

北林 原作は、ニンテンドーゲームキューブというハードができることの100%を超えたレベルのことをしていました。すべてを3Dで描けないので動画背景という形で実現し、CGツールで何十万ポリゴンを使わないといけないような画面を平気で出しちゃってるんですよね。いくらハードが進化したと言っても、あれをそのまま再現するだけで非常にたいへんな作業になります。分解すればするほど、「これはどうやって再現すればいいんだ!?」という部分が多く見つかったタイトルですね。

平林 感覚としては、自動巻きの腕時計を分解して組み直す感覚に近いんですよね。ギア、ネジ、バネといった、ものすごく精密な部品をひとつひとつ取り出して磨けるものは磨く。パーツが古くなっているものは新しいものと交換するのですが、もともといいパーツを使っているから、完成品の味を損なわないパーツを用意して、組み直したときに違和感がな
いようにする必要があるとか。

――原作のクオリティーの高さゆえに、再現するのも難しいというわけですね。先ほど動画背景という言葉が出ましたが、これは?

北林 原作は固定画面のゲームですが、ハイエンドな動的表現を作るために、背景が一枚絵ではなく複数の連番アニメーションで行われているところがあります。

平林 動画背景は最新のグラフィック表現を迂回するために生み出された工夫の技術なので、それを高精細化させればいいかというと、なかなか難しい。この点には苦心しました。

北林 いっそ全部3Dで描こうとか、さまざまな試みをしてみましたが、簡単な道はありませんでした。細かいところまでハッキリ見えすぎて、原作の持つイメージと違和感が生じてしまったり……。

平林 そうなんです。1000以上あるカットのひとつひとつに個性があって、光の当たり具合を変えたり、質感を調整したりと、手を加える必要が出てきたわけです。

原作チームが考え抜いた画像を削るわけにはいかない

――原作からの変更点で、とくにこだわった部分についてお聞かせください。

北林 イチバン大きいのは、「いかに16:9の画面の中に収めるか」ですね。4:3から16:9にした場合、画面の上下をカットするしかないのですが、完成された原作をできるだけ削りたくないというのが開発チームの総意なので悩みました。カットするにしても、上を切ればいいのか、下を切ればいいのか? 足もとに死体が転がっているシーンで下を切るわけにはいかない……などなど。原作のチームが細部まで考えて作った画面なので、できるだけ近い雰囲気で遊んでほしいと議論を重ねた結果、画面が上下にスクロールするという形に落ち着きました。このシステム自体も、実際に作ってダメならなくすつもりでしたが。

平林 いまは、皆さんに楽しんでもらえる段階まで調整を重ねているところなので、なくなることはないと思います(笑)。

――なるほど。アイテムの配置を原作から変えている部分などはありますか?

平林 アイテム配置はいっさい変えていません。三上さんが、考えうる限りベストな場所に配置していましたから、どこかを動かすと、連動してほかの部分も動かす必要が生まれてきて、その結果、すべてのバランスが変わってしまうんです。それは私たちの考えるリマスター版ではありませんでした。

北林 企画が立ち上がったときに、企画会議でホワイトボードが真っ黒になるくらいアイデアが出たんですよ。これやりたい、あれやりたいって。ただ、本作の狙いは、ユーザーの皆さんに原作の空気を味わってもらうことなので、何を足すかは、最終的に必要最低限にとどめました。

アレンジ操作に関しては現在もチーム内で調整しています

――極力、余計なものは足さないと。

平林 どの部分でアレンジを感じてもらうのか、そもそもファンに受け入れられるアレンジなのか、要素ごとに違うと思うんです。原作の雰囲気を損なわないモノであれば、アレンジ要素も必要と考えています。

北林 今回入っている日本語ボイスなどは、そういう部分に当たりますね。

平林 ほかには、操作のアレンジバージョンを用意しています。左スティックを前に倒せば前進し、左右で方向転換するというオリジナル操作を基本に遊んでいただくことが前提ですが、左スティックを倒した方向にキャラクターが進む操作も選択可能です。

――アレンジ操作を導入するときに、チーム内で反対意見はありませんでしたか?

平林 賛否両論ありましたね。いまもモメていますよ。アレンジ操作のベストな回答については、まだ調整中です(苦笑)。

――原作を知っている側からすれば、操作がすごく簡単なのかな……と思いますが。

北林 アナログスティックだけではなくて、方向キーで後ずさりなどもできるので、どちらかと言うとさまざまな操作ができるぶん、人によっては簡単に感じるかもしれません。ですが、簡単だから不要かというとそうでもなく、原作の空気を再現することへの妨げになるかどうかが重要なのです。

平林 客観視点だからこそ、いわゆるラジコン操作が選ばれていたんですが、12年経過したいま、原作を知らない世代のお客さんが慣れている操作はどんなものかを考えたときに、選択肢のひとつとしてアレンジ操作を入れてもいいのではないかと思っています。ちなみに、アレンジ操作のときでも、方向キーをメインに使うとオリジナルの操作に近い感覚になります。左スティックと方向キーを使い分けることで、懐かしさと新鮮さの両方を楽しんでいただけるのではないでしょうか。

北林 原作の世界を壊さない範囲でのアレンジ要素ですね。クリーチャーに新たな攻撃方法を加えたり、プレイヤーキャラクターが横移動したり、銃を撃ちながら走ったり……といった案も挙がったのですが、原作から遠ざかってしまう要素は足さないようにしようと。

――アレンジ操作では、左スティックの傾け具合で走ったり歩いたりするのでしょうか?

平林 はい。アレンジ操作のテストをしている中で、かなり“走り”に寄ったバランスになっていたので、調整を加えました。ちょっと傾けたらすぐ走るようにしたら、軽快になりすぎてしまって……。原作での操作感はやはり大切ですから、もっと傾けないと走れないようにしようとか。そうすることでキャラクターの“重さ”が感じられるように調整しています。それと、画面の上下スクロールですが、こちらもキャラクターの位置に合わせて動かすのではなく、ややラグを付けて追従するようにしています。こういった調整は、皆様にお届けする直前まで続いていくことになると思います。

各種表現も原作の時代とまったく同じものに

――操作ひとつ取っても、原作の雰囲気を重要視しているんですね。話は変わりますが、“ウェスカーズ リポート I&II”は最初から閲覧できるのでしょうか?

北林 最初から見られるものになりますが、ネタバレを含む内容になりますので、クリアー後に見ていただきたいですね。ちなみに“I”は、ウェスカーが語り部となって『バイオハザード』世界の裏背景を伝えている内容ですが、こちらもゲーム本編と同じくHDリマスター版となっていますので期待してください。再生時間は15分くらいのボリュームです。

――“ウェスカーズ リポート”がHDリマスターで閲覧できるのはうれしいですね。ほかに本作のアピールポイントをお聞かせください。

平林 時代の流れとともに、表現の規制がきびしくなってきていますが、本作に関しては原作と同じ表現を取らせていただいています。原作を楽しんでいただいたファンの皆さんには、思い出以上の体験を届けたいと思います。また、客観視点の『バイオハザード』に初めて触れるお客様も、非常に楽しんでいただけるのではないかと自信を持っています。この機会に手に取っていただけると、うれしいですね。

北林 たくさんのファンの方からHDリマスター化してほしいという要望をいただいていたタイトルですが、ようやく作ることができました。原作の持っている味を損なわないように、丁寧にひとつずつ制作しておりますので、ぜひ実際にプレイして、感触を確かめてもらえればと思います。

『バイオハザード HDリマスター』スペシャルインタビュー_04
『バイオハザード HDリマスター』スペシャルインタビュー_05

バイオハザード HDリマスター
メーカー カプコン
対応機種 PS4プレイステーション4 / PS3プレイステーション3 / XOneXbox One / X360Xbox 360 / PCWindows
発売日 PS3版、Xbox 360版:11月27日発売予定、PS4版、Xbox One版、PC版:2015年初頭発売予定
価格 パッケージ販売はPS3版のみ、PS3版は3990円[税抜](4309円[税込])、PS3版、Xbox 360版のダウンロード版は各3694円[税抜](各3990円[税込])、PS4版、Xbox One版、PC版のダウンロード版は価格未定、PS3版の『バイオハザード HDリマスター コレクターズパッケージ』は4990円[税抜](5389円[税込])、PS3版の『バイオハザード HDリマスター LIMITED EDITION』は11111円[税抜](12000円[税込])
ジャンル アクション・アドベンチャー / サバイバルホラー
備考 エグゼクティブプロデューサー:小林裕幸、プロデューサー:北林達也、平林良章