中国市場に向けて、大いに手応えあり
2014年7月31日(木)~8月3日(日)、中国・上海にある上海新国際博覧中心にて、中国最大規模のゲームイベントChinaJoy 2014が開催される。今回のChinaJoyでの大きな注目は、2007年、2012年に続き3回目の出展を果たしたソニー・コンピュータエンタテインメント。“参考出展”ではありながらも、プレイステーション4やPS Vita、プレイステーション3の注目作を出展。中国のゲームユーザーに、プレイステーションプラットフォームの魅力をアピールした。ファミ通.comでは、プレイステーション中国戦略のカギを握る、ソニー・コンピューターエンタテインメントジャパンアジア デビュティプレジデント(アジア統括)の織田博之氏を直撃。中国市場への取り組みなどを聞いた。
――中国で14年ぶりに家庭用ゲーム機が解禁になりましたが、SCEさんもいち早く動きましたね。
織田 昨年、正式に上海の自由貿易試験区が市場開放になりました。それを見て、我々も正式に参入をすべく、ただいまいろいろと準備中ですが、とにかく非常に期待が高いです。たとえば、台湾とか香港などでイベントを行うと、メディアもお客様もけっこう中国から来ていただけるのですが、「早く、中国で出してほしい」という声はしょっちゅうあがってきています。
――SCE的には、中国で市場を獲得する好機であると?
織田 そうですね。こちらはPCのオンラインゲームやスマホのアプリで非常に大きなマーケットを持っていますが、“プレイステーション”というプラットフォームに対する期待度が高いので、これから相当大きなポテンシャルがあると認識しています。
――中国市場でもプレイステーションフォーマットは知名度が高いので、正式に発売されたら、さらにいけるということですね?
織田 いままでは、ツーリストの方が持ち込まれるか、日本でお買い上げいただくケースがメインだったのですが、それだけでもけっこうな数になるのではないかと見ています。そういったことを考えると、さらに期待できるのではないかと思っています。
――中国市場は“難しいマーケット”と言われますが、勝算などは?
織田 まずいちばんたいへんなのは“センサーシップ”だと思うんです。中国では、日本でいうところのCEROのようなシステムはなくて、1件1件すべて中国中央政府の新聞出版総署というところの審査を受けないといけなくて、それがけっこう時間がかかったり、制限が多かったりするんです。そのへんを、調整しないといけないので、たいへんだと思います。ただ、それをクリアーできるタイトルがたくさんあるので、たいへんながらも、1回それをちゃんと通していけば、大丈夫かなと。
――ということは、ラインアップ的には、ある程度全年齢向けタイトルが中心になる?
織田 基本は、全年齢向けですね。日本で言うところの“CERO・Z”は審査が通らないと思うので、それは出せないかもしれません。
――FPSなどをバリバリやりたい中国のゲームファンにとっては、少し物足りないかもしれない?
織田 状況によるかもしれません。「これは、ここまでは大丈夫」というのは、ひとつひとつ指差し確認なんですね。そういう意味で、きっちり決まっているわけではなくて、ものによってはコミュニケーションを取りながらやっていくと、意外なところまでいけるのではないかという感触を抱いています。今回、会場で流すトレーラーもそうでしたし。
――SCEが中国展開を正式発表してからの日本のメーカーと中国のメーカーの反応はいかがですか?
織田 中国市場では、10年以上コンソールができていないので、「SCEが先に行って、しっかりプラットフォーマーとして、ビジネスができる環境を整えてください」という声はよくいただきます。あとは、「中国でやりたい」といってくださる、中国内外のコンテンツホルダーさんからお話をいただいていますので、非常に盛り上がっているところです。
――中国展開では、今後サードメーカーに対して、いろいろなサポートを考えていると思うのですが、たとえば、他社のタイトルを中国市場ではSCEブランドとして発売したり……といったこともありますか?
織田 ブランドの話は決まっていなくてこれからなのですが、さっきいった審査をお手伝いするとか、いろいろと働きかけて審査の時間を短くするとかは考えられると思います。審査は1個、1個の確認になってくるので、そこをお手伝いさせていただくなど、きめ細かいサポートをご提供できるのではないでしょうか。
――中国のメーカーさんも、プレイステーションには期待しているのですね?
織田 中国は、世界で最大のPCオンラインゲームの市場で、PC向けのゲームがたくさんあるんですね。それに対して、初めてコンソールの“プレイステーションプラットフォーム”というものができて、新しいマーケットができる。新しい遊びかたができるということに期待値が高いです。
――中国のソフトメーカーの動向は、中国市場で成功の可否を握りそうですね。
織田 我々は、今回も中国のいろいろな方とお話をしています。もちろん、日本や欧米のライセンシーさんを含めて、有力タイトルを中国語に翻訳をして、中国のお客さんに持ってくるというのもひとつのビジネスですし、非常に大事です。一方で、やっぱり中国のローカルのコンテンツをプレイステーションプラットフォームに載せるということも大切なんです。中国のソフトウェア産業をいっしょに大きくしていくというモチベーションがありますので、そういった意味でも新しい協業ができるのかなと思っています。
――いま中国市場はPCのオンラインゲームがあって、スマホに勢いがあって……というなかで、コンシューマーゲームがシェアを獲得し得る勝算は?
織田 中国のオンラインゲーム市場は、いま1兆円以上と言われているのですが、それをコンソールゲームですべて塗り替えるというのは、そうか簡単なことではないと思っています。でも、PCオンラインゲームなので、基本的にはお客さんの遊びかたはキーボードとマウスで、小さなスクリーンと自分で……というスタイルです。それがプレイステーションに関しては、“共闘”であるとか、リモートプレイであるとか、リビングルームで友だちとみんなで遊ぶという、新しい遊びかたになっているんですね。たぶん、違うデマンド(需要)が取れるんじゃないかなと思っています。
――新しい遊びを提案することで、ユーザーを獲得する?
織田 そうですね。PCオンラインゲームに戦いを挑むという類のものではないですね。我々にできる提案を、ぜひ感じ取っていただければ……というところです。
――中国というと、海賊版問題が根強くありますが、そのへんはいかがですか?
織田 おかげさまで、プレイステーション3、プレイステーション4、PS Vitaに関しては、コピープロテクションシステムが効いていまして、ほとんどコピーがなく、ビジネスができています。そこは逆に、ソフトウェアを作っているライセンスのデベロッパーさんも、安心して我々といっしょに中国に来られると思います。
――そこもプラットフォームフォーマットの強みであるということですね?
織田 我々としてもコンテンツセキュアーなプラットフォームで中国に入って来られますよ、というのはひとつのアピールポイントですね。
――一方で、中国ではパッケージビジネスは普及しないのでは……と意見もありますが、パッケージ販売は根付く?
織田 そうですね。すべてのプレイステーション4版のパッケージソフトをダウンロード販売で……となると、回線の部分の問題もあったりします。中国の人にとっては、こっちが5000円でこっちが1000円といった具合に同じコンテンツで金額に差があることが一番ダメなんです。フェアプライスで、どこにいっても同じ値段で、ちゃんと買えるとなると、パッケージ版でもダウンロード版でも、両方チャンスはあると思います。まあ、パッケージ版に関しては、いままでチャネルがなかったので、これからの取り組みになると思いますが。
――では、プレイステーション4の中国における発売時期は?
織田 いま具体的にアナウンスはさせていただいていないのですが、“なるべく早く”が目標です。
――年内くらいに?
織田 年内は、ちょっときびしいかもしれないですが、なるべく早く出したいです。
――やはり、コンテンツの調整がネックに?
織田 さきほども申しましたとおり、いろいろなタイトルの審査に時間がかかったりしますので、ある程度魅力的なものを揃えてからローンチしたいと思っています。極論すれば、プレイステーション4やプレイステーション3、PS Vita などのハードウェアだけならば、いつでも出すことはできるんです。だけど、そこにゲームがないと、ハードだけを先行発売しても意味がない。いまは、そこをいま考えています。
――プレイステーション4とともに、PS Vitaも展開する?
織田 中国では、PS Vitaを好きなお客様が多いんですね。ツーリストのお客様でPS Vitaを買われるお客様も多いので、どれがふさわしいか、研究中です。プレイステーション4とPS Vitaをどう展開するか、いろいろな可能性を考えて、いま準備しているところです。
(取材・文 編集部/F)