多くの人にプレイして欲しい
ユービーアイソフトから7月31日に配信される『バリアント ハート ザ グレイト ウォー』。本作は第一次世界大戦の西部戦線を舞台とした2Dアクションアドベンチャーゲームだ。同じくユービーアイソフトのダウンロードタイトルである『チャイルド オブ ライト』などと同様、ゲームエンジンにUbisoftのUbiArt Frameworkを採用し、アーティスト重視の開発体制を構築。大手パブリッシャーのタイトルでありながらも、ちょっと変わった戦争の描き方をしている。
というのも本作、シューティング要素を廃し、プレイヤーは一発の銃弾も撃たないのだ。だが戦争を描いたゲームとして紛れも無く傑作であり、記者がプレイした中では、上半期のベストゲームだ(注:筆者が住むアメリカでは6月にリリースされた)。
なお、本記事はPC海外版で執筆しているので、動画やスクリーンショット中の表記が英語のままだが、日本版ではテキスト部分は日本語ローカライズされるので、ご了承いただきたい。
戦うのは仲間と家族のため。
主人公はフランスの農民エミール。『バリアント ハート』は、すでに孫がいる年齢の彼が徴兵され、兵士として配属される場面から始まる。兵装を身につけ、勇壮なトランペットとともにフランス国旗を持ち進軍するエミール。アートやアニメーションスタイルもあって、やや滑稽にも見えるシーンだが、エミールが進むに連れて、地面すべてを掘り返すかのような砲撃と銃撃の嵐に、さっきまであれこれ指示を出していた上官はあっけなく倒れ、背景には死体が増え、やがてエミール自身も負傷し捕虜となる。
プレイアブルキャラクターはエミールを中心に、外人部隊として参戦したアメリカ人の工兵フレディー、ベルギー人の看護婦アナ、エミールの娘の婚約者であるドイツ兵のカールといった人物が登場。戦争に対するそれぞれの理由を抱えた彼らの胸に共通するのは、家族や仲間のことだ。ある者は凶弾に倒れた愛する人の復讐のため、ある者は囚われた父を救うため、そしてお互い、戦場で出会った仲間を救うために、西部戦線で奮闘していくのだ。
戦争の内側から戦争に翻弄される人々を描くための絶妙なバランス感覚
だが、だからといってプレイヤーを殺人の傍観者でいさせてくれるわけではない。銃を撃つシーンこそないのだが、人がいる機銃に向かってグレネードを投げるようなシーンもあるし、後半になると、戦車に乗ったり、砲台を操作して、障害となっている砦を攻撃したり、戦闘機を撃ち落としたりするシーンも出てくる。
それによって直接的に相手を殺害したようには描かれないのだが(むしろグレネードを投げるシーンなどでは「驚いて敵が逃げる」という描き方に留めている)、それまで撃たれる側をさんざんやっているだけに、相手が無事では済まないことは当然のごとく察せられる。なんせ本作が作品を通じて描写する死体の数は、そこらのミリタリーFPSの比じゃない。文字通り「死体の山をかいくぐって進む」シーンも登場するほどだ。
これは本当に絶妙なバランス感覚だ。マイルドになり過ぎず、えぐくなり過ぎず、圧倒的な暴力とギリギリの距離を保ったまま、戦争の内側から戦争に翻弄される人々を描くことに成功している。ビデオゲームをいまだに子供のものと考えて、たとえ大人向けレーティングであっても映画以下の表現しか許さないような人たちには、ぜひこの作品を最後まで遊んでもらいたい。ビデオゲームはこれだけの堂々たる作品を作り出すことが出来るのだ。
……と、ちょっと脱線してしまったが、バランス感覚という点では、多国籍に渡る人々の扱い方も丁寧で素晴らしい。エミールと仲間たちがすでに、フランス人、アメリカ人、ベルギー人、ドイツ人といった構成で、国別にキャラが「いいやつ、悪いやつ」に分けられていない。
あくまで「戦争を憎めど人を憎まず」。ナレーション以外の本編中のセリフが、はっきりと何語で何と言っているかわからないあいまいな音声で表現されているのも、恐らく話す言語によって敵味方を作ってしまうことを避けた結果だろう。
むしろ話す言語や所属にはよらず、仲間を大事にしない奴(主に両軍の将校)こそが「嫌なやつ」として描かれる。なぜならば主人公たちは仲間や家族のために戦争の最前線に飛び込んでいるのであり、(カールがそうであるように)きっと敵兵士にもそんな人々がいるからだ。ある人の属性は、お互いの所属する国との関係によって決まるのではない。
歴史的資料から目を逸らすな
恐らくこのセンスは、二度の世界大戦は当然のこと、何度となく昨日の友人たちと敵味方が入れ替わりながら戦ったヨーロッパの経験と無縁ではないだろう(本作の開発はフランスにあるユービーアイソフトのモンテペリエスタジオ)。
実際、本作の開発にあたっては、開発チームのリサーチだけでなく、フランス政府機関が立ち上げた第一次世界大戦のアーカイブプロジェクト“Mission Centenaire 14-18”や、公共放送フランス・テレビジョンによるドキュメンタリー番組“Apocalypse WWI”およびiOS向けインタラクティブコミック“Apocalypse 10 Lives”の協力により、さまざまな歴史資料が提供されている。
荒唐無稽なフィクションになりすぎずにプレイヤー対象を広げる本作のバランス感覚は素晴らしいのだが、やはり当時の実際を理解するには、それだけでは物足りない。ノリとしてはややコミカルで大げさな誇張もある本編(不思議兵器や無茶な描写は当然ある)を一度離れ、こうした生々しい資料を用意するのは、必然だったのだろうと思う。
このサブテキスト群の存在によって、プレイヤーは一度キャラクターから客観的な視線へと目を戻して、自分が目にしている戦場が実際はどんなものだったのか、百年後のフラットな態度で知ることができる。
ヒント機能もアリ。プレイ要素はあくまでシンプル
さて、プレイ内容の説明をほとんどせずにすっ飛ばしてきてしまったが、その内容は結構シンプルな2Dアドベンチャーゲーム。「マップ内に落ちているアイテムと仕掛けを組み合わせて先に進む」といった内容がメインで、場合によりミニゲームがいろいろ入ってくる感じ。
大体はマップをとりあえずひと通り歩いてみれば手掛かりがわかるようになっているし、設計意図が分かりづらくて詰まるような場面があっても、ヒント機能がついていて、時間が経過するごとに、より具体的なヒントを提供してくれる。
ミニゲームも極悪なものはなく、たまに「ムキー!」となることがあったとしても、落ち着いてプレイし直せば「なんだ、簡単じゃん」ってなレベルだ。
War, War never changes.
まぁそんなわけで、本作は幅広い人がプレイできるように配慮しながらも、見事に戦争の苦しみを描き出した傑作だ。開戦から100年という時間経過も大きいと思うが(まだ第二次世界大戦で同じような作品を作ることはできないだろう)、ここまでの作品を100周年にきっちり合わせてリリースできるということには、ユービーアイソフトのクリエイターへの理解の大きさと、フランスの文化の豊穣さすら感じた。
本作の終盤で、エミールはある重大な決断を下す。理解する人もいれば、賛同しかねる人もいるだろう。極限状態での判断だから当然だ。だが少なくとも、彼がそうした理由や彼の考えはエンディングで明かされるので、そこで改めて彼のそこまでの行動を考えてみて頂きたい。
そしてエンディング後、ぜひエンドロールが始まってからも目を離さないで欲しい。おとぎ話のごとく「これ以降、戦争はなくなりました」なんて話にはならないのは、100年後の我々はよく知っているのだ。(文・編集:ミル☆吉村)