グダグダだけど、全員ゲーム好きなのが伝わってきてちょっと楽しい
アメリカのテキサス州ダラスで行われた、id Softwareのファンイベント“QuakeCon 2014”。最終日に行われた“Designing The Perfect Game”は、テキトーに訳せば「さいきょーのゲームを設計する」というお題のパネルディスカッション。元NFL選手のChris Kluwe氏、俳優のRick Malambri氏らの「ぼくのかんがえたさいきょうのゲーム」を、プロが真面目に論評したろうという珍企画だ。
3人の企画者の前に立ちはだかるのは、id Softwareが所属するグループのパブリッシャー部門であるベセスダ・ソフトワークスのPR&マーケティング担当副社長、ピート・ハインズ氏。
普通、マーケティング系の偉い人はあんまりゲーマーじゃない人もいたりするが、この人は違う。E3などでクリエイターのスケジュールが埋まっていたりするとインタビュー対象として登板し、少しぐらい細かな質問でも余裕で答えまくるという、ガチのゲーマーだ。
っていうかこのパネルディスカッション自体、当初は『フォールアウト:ニューベガス』を開発したObisidianのCEOであるFeargus Urquhart氏がジャッジ役だったはずなのに、急遽都合が合わなかったらしい同氏に変わって、例のごとくなリリーフ登板だったりする。
個人的には、『ディスオナード』や新『ウルフェンシュタイン』といった新作が立て続けに高い評価を受けたのは、この人がゲームに理解があるおかげで、「とにかくマルチプレイつけろ」とかありがちな無茶を言わないのが大きかったんじゃないかと想像しているのだが、まぁそんな「違いのわかる男」だけに、ジャッジ役には最適。かくして、誰のためにあるのかやや曖昧な企画はスタートした。
ぼくゲーその1: 勝敗で壮大なストーリーが分岐していくマルチプレイFPS
まず最初に発表したのは、ディズニーの青春映画「ステップ・アップ3」で主役を演じた俳優・Rick Malambri氏。「『Quake』、『Doom』、『Halo』、『コール オブ デューティ』……とにかくシューター(FPS/TPS)が好きなんだよね。スポーツゲームもFIFAシリーズとか好きだし。でもベストを挙げるなら神々のトライフォース」と、イケメン映画で主演した人なのに「あ、これは人気取りとかじゃなくて本物ですわ」感ある自己紹介。
そんな彼が提案するのは、やっぱりシューター。「競争性の高いシューターでありつつ、ストーリーもガッツリデカいヤツがいい!」と、マルチプレイ重視のシューターではストーリーが飾りもいいところな、うっすい内容だったりするのを踏まえた内容。
「勢力を選んでチームに参加して戦ってチャプターを進んでいくと、それによって終盤のストーリーが変わってくるんだ」、「『マスエフェクト』みたいなSFで、RPGっぽい要素もあって、Coop(協力プレイ)型のサイドミッションで手に入れたPerks(能力ブーストなど)をメインに持って帰れる感じ」と説明していくと、「マルチプレイとストーリーの融合って、『タイタンフォール』とどう違うんだ」、「で、対戦は何人プレイなんだ」とツッコミが入っていく。
「いや、『タイタンフォール』は勝敗でストーリーが変わらないから、ボクのはちゃんと分岐させたい。10チャプターぐらいあったとしたら2つぐらい負けたらもう究極のゴールには行けない感じで」と反論するのだが、ハインズ氏は「そんな膨大なバリエーションを作るのは厳しい。開発に時間がかかりすぎるんじゃないかと思う。よくあるように、同じステージをちょっと意味合いを変えて使いまわすとかしないと無理だ。ストーリー要素は面白いくても、ゲームを定義づけるものではあんまりないから、バトルの面白さがポイントになってくるだろうな」と、「そ、そうですよね……」としか言い様がない正論で返答。
実はバトル部分の仕組みはあんまり説明してなかったのを見事に突いた形になったわけだが、確かにプレイのコアになる部分の楽しさより先に、トリッキーな周辺の仕組みばかり考えてしまうのはありがちですよね……(原稿の合間に書き溜めたおれゲーメモをいくつかそっと消しながら)。
ぼくゲーその2: 横スクロールマルチスクリーンコントラタワーディフェンス
お次はベセスダ・ソフトワークスでコミュニティ関連の役職を担当しているMatt Grandstaff氏。ゲームデザイナー職でなくとも、プロであるからには、社内の偉い人であるハインズ氏に「こいつあかん」と思われるわけにはいかない。
そんな同氏のアイデアは、かつて熱中したという『魂斗羅』をベースにした横スクロールのアクションシューティングに、タブレットなどから背景レイヤーにいる兵器などとして介入できる別ゲームを組み合わせるというもの。しかも介入側は、ポイントを使って歩兵小隊だったり、戦車だったり、クリーチャーだったりをどう投入するか考えるタワーディフェンスっぽさもあるという。
ツッコまれるのに応じて微妙に内容が変わっていた気がしないでもないのだが、ハインズ氏は違う性質のゲームプレイの連動という部分が気に入ったらしく、「(どうやって両者を繋ぐかはともかく)そこまで技術に依存してないのはいいかもしれない」とコメント。「F2Pにするのか、どんな部分でどうマネタイズするか考えなくてはならないが」としつつ、マップ構成もUGC(ユーザー作成のコンテンツ)的にユーザーにある程度委ねたいという意見に対しても、「まぁ大半がダメだったり完成してないものだったりするけど、『リトルビッグプラネット』なんかでもそうだが、一部の優れた人がいれば気にしない人が多いからな」とフォロー。
確かに、「おー、あっちも頑張ってるな」と思いながら前景と背景で別々のゲームをプレイするというのは面白そうで、具体的なゲームジャンルとしても、「横スクロールアクションシューティング」と「タワーディフェンス系」とそれぞれ決まってはいるので、一見さっきと同じレベルでゆるゆるに感じても、その質が違うのかもしれない。
ぼくゲーその3: 1エリア1シャードが集まって形成する最強のMMO
最後に登場したのは、NFLで名パンター(パントキックをする人)として活躍したChris Kluwe氏。唐突に『ウルティマオンライン』の素晴らしさから語りだした、こちらも「あ、本物だ」感あふれる同氏のアイデアは、人数をある程度限定したサンドボックス型のオンラインRPG。
通常のオンラインRPGが、複数のサーバーに世界をコピーして並列に存在させるのに対して、同氏のアイデアは、1シャードごとに“氷の世界”、“炎の世界”といった単一のワールドを持たせ、定員までが入場できるというのが特徴(全ワールド合計で例えば10万人を想定)。ワールド内の覇権や、自ワールドを制覇した勢力による他ワールド占領のための戦争といった要素についても熱く語っており、プレイヤーの行動によって政治的な駆け引きや『EVE Online』的な戦争の歴史も自然と生まれていきそうだ。
だがマネタイズについては厳しくツッコまれており、「価格35ドル、月額20ドル、ワールド間の移動にも課金」といった内容に対して「10万人が上限なら200ドルぐらい取らないと無理」と却下。一方で「キャラのロストがあるが、他勢力のプレイヤーを20人ぐらい倒したキャラクターはそのままクリーチャーとして復活できる」といったアイデアのいくつかは評価していた。
それにしても、キャラのスキルレベルの上がり具合などの細かい部分まで熱心に構想を語り倒していたKluwe氏、RPG『キングダムズ オブ アマラー:レコニング』を手掛けた元メジャーリーガーのカート・シリング氏のように、いつか本当に自分で作り始めるんじゃないだろうか?(カート・シリングのスタジオは残念ながら閉鎖されてしまったけど)
ぼくたちのかんがえたさいきょうのゲーム: 逆『DayZ』
各人が一個ずつアイデアを出して論評してもらった後は、「じゃあ最後は全員で考えてみよう」ということに。そして出てきたのが、Malambri氏のアイデアをベースにした、「『DayZ』のようなサンドボックス型サバイバルゲームの逆、AIの人間たちが多数を占める中をゾンビとして生き延びるサバイバルゲーム」。
本当に即席で考えているためワンアイデアで割とぐだぐだなのだが、ハインズ氏が「遅いゾンビなのか、早いゾンビなのか?」とかツッコミを入れることで、「やっぱり遅い方がいいよね。撃たれまくるから人間が怖いって感情が出るし」とか、「でも最初は中間ぐらいでスタートして、次第に変異して特化していくのはどうだろう?」なんて意見が出てきて、次第にいい感じに。
ハインズ氏も「それは面白そうだが、実際は最初はいきなり複雑にせず、ただのゾンビで人間に殺されないようにサバイバルするゲームから始めた方がいい」なんて助言をし始めたり、まぁ完全にゲーム好きのヨタ話でしかないのだが、聞いてる側もそういうのが好きな連中が集まっているので問題ナシ。
もちろん最終アイデアが固まってどうなるわけでもなく、ノリが合うゲーム好きとの「ぼくのかんがえたさいきょうのゲーム」話は楽しいよね、というぐだぐだな結論でこのリポートも終わりたいと思います。(文・写真・取材:ミル☆吉村)