「欲をかきすぎない」のも大事

なぜベラルーシから世界的ヒット『World of Tanks』が生まれたのか? ブランドディレクターが考えるカギは「F2Pとニッチ」【E3 2014】_02

 先週、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで行われたE3 2014。そこでもはや恒例とばかりに会場前に戦車を置いたり、ブースで抽選会などを頻繁にやって盛り上がっていたのが『World of Tanks』などで知られるWargamingだ。

 リサーチ会社のSuperDataの今年4月の発表によると、アクティブユーザーは約910万人おり、月ごとのARPU(ユーザーひとりあたりの平均売上高)は4.51ドルでトップ。『League of Legend』などと比較するとユーザー規模自体は小さいものの、非常に質が高いことがうかがえる。

 そこで気になるのが、「なぜここまでの成功を収めたのか?」ということだ。「F2Pだから」と言っても、欧米で当時他にF2Pゲームがなかったわけではない。ましてWargamingはベラルーシの会社で、アメリカやイギリスのマーケットを捕まえる地盤が最初からあったわけでもない。

 E3会場でグローバルマーケティングディレクターのアル・キング氏への合同でインタビューする機会があったので、率直に成功の理由を聞いてみた。同氏はWargamingに3年在籍しており、それ以前はエレクトロニック・アーツなどで勤務し、業界歴は20年になるという人物。それだけ業界を見てきた人なら、成功に繋がった“違い”が見えているに違いないと思ったのだ。

なぜベラルーシから世界的ヒット『World of Tanks』が生まれたのか? ブランドディレクターが考えるカギは「F2Pとニッチ」【E3 2014】_01
▲定期的に抽選会などもやるので、ブースには終始人が集まっていた。TGSと違い、最近のE3は最新ゲームのデモや試遊に集中しているブースが多いので、結構目立つ。

 キング氏はまず、『World of Tanks』が“AAA F2P”であることを要因のひとつとして挙げた。これは、AAA(最上級)のお金のかかった作りのゲームを無料で遊べるということ。その上でさらに、戦車に特化したゲームという、ニッチでユニークなジャンルであることが組み合わさったことがカギではないかと語った。
 加えて、「(F2Pの場合)多くの会社はもっと稼ごうと欲をかいてしまう」と主張。WoTの場合は払わないと勝てない必須のものではなく、あくまで「よく出来てるから何か買おう」という感じで課金に対するスタンスが違うのも理由のひとつではないか、とのこと。

 確かに考えてみると、ニッチであることは一般的に弱点と捉えられがちだが、そこに特化して伸ばしていけば、それはメインストリームにはない強みともなる。逆にニッチであることで広がりが限定される部分はF2Pでプレイヤーの参加障壁を下げれば、機会を最大化できる。当然、実際にはもっと様々な要因があるだろうが、土台としては納得できる見立てだと感じた。

元軍人も所属するガチな会社だが、ガルパンはガルパンでよし!

 マーケティング面では、地域ごとに複数の重要なターゲット層を設定して、オンライン広告だけでなくテレビや大きなイベント開催なども交えつつ、宣伝しているのだという。
 キング氏が日本市場での潜在的ターゲットとして設定しているのは、“ヤングガンナー”(年齢は若く、ゲーム、特にゲームの中の競争が好き)、“シニアヒストリアン”(年齢は高く、歴史や軍事に興味があり、戦略や戦術なども好む)、“ソーシャルシニア”(お金に余裕がある一般の人。他の趣味との競合になるので難しいが、一度ハマるとお金を使うので、それだけの価値があると考えている)の3種類。
 なお日本の数字については「まだ10ヶ月なので判断を下すのは早い」としつつ、出だしがゆっくりとしていたロシアを例に挙げ、アジア地域についても今後の成長に期待していると語っていた。

 ちなみにWargamingでは、ミリタリーアドバイザーなどの役職で元軍属の人が在籍し、戦車のゲームとして間違いがないよう配慮する一方、グッズとして退役軍人が関わっている工房による作品を採用したり、実際にE3ブースでもE3に参加している米兵の人をバックステージに迎えているのを目撃したりと、実際のミリタリーに関わる人々を尊重している。
 となると気になるのが、日本で行った「ガールズ&パンツァー」コラボ。イメージ的に大丈夫だったのか聞いてみたところ、最低限守らなければならないルールはあるものの、「その地域の特性を知っているのはその土地の人間」ということで、各地域の自主性をある程度尊重しているのだそうだ。

来年はクリス・テイラーによるゲームの発表も?

 eスポーツへの取り組みについて語ったくだりでは(各国でeスポーツ担当のスタッフを増員中とのこと)、昨年2月に獲得したGas Powered Games(現Wargaming Seattle)で『トータルアニヒレーション』や『スプリームコマンダー』や『ダンジョンシージ』などで知られるクリス・テイラーが手掛けている新作についても、eスポーツに向いたタイトルになると言及された。
 ゲームの詳細はわからなかったものの、“Wargaming”、“F2P”、“チームバトル”といったキーワードにテイラー氏の過去作を組み合わせて想像すれば「そんなに遠くない」らしい。「Wargamingのブランドには沿っているが20世紀ではないかも」との発言もあり、なんとも想像を掻き立てられるが、来年のE3ではもうちょっと情報が出るかもしれないそう。

360版では7人までの小隊が組めるように。iOS版WoTは6月26日登場

 E3では、別途360版やiOS版についてのプレゼンも行われた。まず『World of Tanks: Xbox 360 Edition』では、7月のアップデートで自動装填を持ったアメリカ車両が登場予定。ドイツでも駆逐戦車ライン(Tier10のヴァッフェントレーガーE100まで追加)が実装されるとのこと。
 今後の方向性としては、マッチングシステムを調整し、小隊システムが7人まで組めるように。4人以上で小隊を組んだ場合、全員がいずれかの小隊に入ったグループでマッチングされるようになるという。なお格差が生まれないように、小隊内でリーダーと離れすぎたTierの戦車は選べないそう。
 そのほか、各種特典がついたパッケージ版の販売も予定している。スタッフに次世代機版について聞いてみたところ、発表できることはないものの、可能性としてはあり得るそう。戦車戦を簡単にだらーっと配信するのも楽しそうなので、期待したいところだ。

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 一方でiOS版『World of Tanks Blitz』は6月26日配信予定(Android版も開発中)。先行公開した地域では平均4.3/5点を得ているほか、平均プレイ時間も70分となっており、好評の模様。
 iOS版では7対7の戦闘が可能で、マッチは7分間。マップはPC版の1/4程度のサイズとなっている。ズームがオートで調整されたり、若干のエイムアシストがあるなど、タッチインターフェースでプレイしやすい設計となっている。通信部分も配慮しており、対戦自体は3G/4G回線でも可能。
 ユニークなのは、操作に使用するボタンのレイアウトをかなり自由に変更できることだ。配置位置はもちろん、サイズも変更できるので、自分のデバイスと手の大きさに合ったプレイが出来るだろう。

 戦車は90以上の車両を収録しており、ゲームのサイズは600MB程度。予定しているコンテンツを入れた場合1GB程度を想定しているという(小隊システムなどを予定)。Android版では最小構成以上の部分を分割して必要な部分のみをダウンロードするような仕組みも検討しているそう。
 プレイはWargaming.netですでに持っているアカウントでプレイ可能。ただしゲーム内ゴールドやフリー経験値などは規約上の問題により利用できない。

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