ナチスに世界が敗北したトンデモストーリーで 『ウルフェンシュタイン』が大復活!

 
 ドモー、元・スオミ松崎のBRZRKです。レビューということで、発売よりもひと足お先に『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』を遊ばせていただいたんで、その感想とかをツラツラと書いてみようかなと思います。

 本作は、ゼニマックス傘下になったid softwareが、世界で初めてFPS(一人称視点シューティング)というジャンルを確立した伝説的タイトル、『ウルフェンシュタイン 3-D』の再定義版だ。開発はid softwareではなく、同ゼニマックス傘下のスタジオであるMachineGamesが担当し、id tech5エンジンを用いて開発が行われた。
 MachineGamesは『The Darkness』や『Syndicate』といった有名タイトルを制作したStarbreeze Studiosを退社した、7人のコアメンバーが2009年に設立したスタジオで、2010年にゼニマックス傘下となった。当初は、“id tech 5エンジンを使用した、トリプルAクラスのタイトルを開発している”と言われていたが、2013年に『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』を開発中であると正式に発表。そして2014年6月5日、日本語版の発売を迎えたのである。

 ちなみに、ファミ通.comで筆者が連載しているブログでも触れているのだが、『ウルフェンシュタイン』というと、おおもとの作品であるMuse softwareの『キャッスル・ウルフェンシュタイン』を含めるなら、『ウルフェンシュタイン 3-D』、『リターン・トゥ・キャッスル・ウルフェンシュタイン』、『ウルフェンシュタイン』(2009年版)、そして本作『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』の5作品が、世に出ている。しかし、どの作品も基本コンセプトは同じだが、物語がすべて異なっており、時代に合わせて“『ウルフェンシュタイン』とはなんぞや?”という再定義をくり返してきた、不思議なタイトルと言っていいだろう。それぞれがどんな作品か気になる人がいれば、ぜひともブログを読んでみてほしい。

■ブログURL
ブログ“うるせー洋ゲーこれをやれ!(仮)”

■該当記事
E3M1:犬とチョビ髭とFPSの黎明期『ウルフェンシュタイン3D』
E8M1:アハトゥンク(傾注)! 新ウルフェンの海外発売日が決定ということで『Return to Castle Wolfenstein』
E9M1:新ウルフェンの日本発売日も決まったことだし、2009年版『Wolfenstein』

 それでは、気になる本作の物語について、ネタバレにならない範囲で語っていこうと思う。時は、第二次世界大戦まっただ中。ナチスに追い詰められた連合軍は、バルト海にある、“デスヘッド”と呼ばれるヴィルヘルム・ストラッセ親衛隊大将の基地に、決死の総攻撃を仕掛ける。

いよいよ開戦! 『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』プレイインプレッション_01
▲飛行機に乗り、デスヘッドの基地を目指すB.J.たち。

 
 多大な犠牲を払ってまで挑んだ作戦だったが、連合軍は壊滅的な打撃を受けてしまう。シリーズを通しての主人公であるウィリアム・ジョセフ・ブラスコヴィッチ(通称“B.J.”)も本作戦に参加していたが、重い怪我を頭部に負ってしまい、14年間もの長い時間を意識混濁状態として彷徨ってしまう。この14年間でナチスは全世界を掌握し、世界はナチスによって支配されることに。で、なんやかんやありつつ、クルマや列車を駆使して、ベルリンでレジスタンスとして活動している戦友たちと合流し、ナチスの野望を止めるべく戦闘を行っていく。

いよいよ開戦! 『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』プレイインプレッション_02
▲14年間もの意識混濁状態から回復した直後から、ナチ狩りがスタートする。

 
 ストーリーテリングに関しては、確実に過去作のどれよりもB.J.自身の内面が描かれていたり、登場キャラクターをわかりやすく記号化していたりと、プレイヤーが感情移入しやすいように作られている。淡々と敵を倒すだけの印象が強かったこれまでのシリーズ作品とは(いい意味で)大きく異なる点に、衝撃を受けた次第。うん、これならシリーズ初プレイの人でも、とくに過去作の存在を気にせず遊べるはずだ。

 また、これまでの『ウルフェンシュタイン』シリーズでも第二次世界大戦が舞台となっていたが、基本的には当時の武器を採用していた。しかし、本作のメインとなるストーリーの舞台は、1960年代。圧倒的な技術力を誇るナチスが全世界を掌握し、月までもコントロール下に置いた設定で進むため、現実の世界よりも高度な技術で作成された武器を扱うことになる。思い切って時代設定を押し進めたMachine Gamesの判断は、すごいんじゃなかろうか。

 そうそう、レジスタンスのメンバーの中には、2009年版『ウルフェンシュタイン』のB.J.と共闘したキャロラインが再登場する。車椅子に乗ったままでの闘争を余儀なくされていたりと、『ウルフェンシュタイン』を再定義した2009年版(日本未発売)をプレイした人はなつかしさを感じる部分が、多々あるんじゃないかと思う。ただ、本作は続編ではなく、『ウルフェンシュタイン』の再定義(というよりリブート?)であり、キャラクターと設定を受け継いでいるだけで、直接的な物語の繋がりはないけどね。

いよいよ開戦! 『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』プレイインプレッション_03
▲レジスタンスの強い味方であるキャロライン。下半身不随となろうが、ナチスを倒す強い意志は健在。

オールドスクールFPS is Back! この厳しさこそ本物のFPSだぜ!

 
 本作の注目すべき点のひとつは、体力の手動回復だろう。昨今のFPSでは、体力の自動回復がスタンダード化されている。初心者でも安心して遊べるための措置という点もあるのだが、少し被弾しては隠れて~のくり返しとなり、ゲームテンポを著しく悪くする要因とも言われている。しかし、本作は自動回復を排除し、90年代のFPSに多く見受けられた“ヘルスキットの取得による体力回復”という、超絶オールドスクールなシステムへと回帰している。厳密には、ほんの少しだけ体力は自動回復するが、大幅に体力を回復したい場合はマップ上に配置されているヘルスキットや食料を回収するしか方法がない。これによりプレイヤーは、“死”に少しずつ近づいている実感とでも言えばいいだろうか、緊張感を感じながら戦うことになる。

いよいよ開戦! 『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』プレイインプレッション_04
▲若干ぬるま湯につかっている、昨今の自動回復に対してのアンチテーゼといったところかな?

 
 同様に、昨今のFPSではあまり見られないアーマーの概念もある。これは、B.J.のダメージを軽減してくれるアイテムで、銃弾が飛び交う戦場では超重要。これも敵を倒したり、マップ上に配置されているヘルメットや防弾ベストを拾うことで強化されるので、見つけ次第、拾っておきたい。

いよいよ開戦! 『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』プレイインプレッション_05
▲アーマーも大事な要素で、B.J.が食らうダメージを軽減してくれる。

 
 さて、本作の魅力が上記のふたつのシステムだけであれば、「ただ古臭いだけじゃん!」と言われかねないのだが、ちゃんと新要素もある。それが“PERK(パーク)”だ。これは、プレイヤーが起こした行動に応じて武器や弾薬の所持量がアップしたり、リロード速度が上昇するなど、重要な要素である。

 このPERKを取得するには、“特定の武器”を“特定のシチュエーション”で“規定回数成功させる”必要があるが、何回倒されても回数は通算でカウントされているため、取得難度は低め。PERKはパッシブ効果があり、使用数の制限もないため、取得すればするほどB.J.は強く成長する。当然ではあるが、物語は中盤から難度を増すため、積極的に取得しながらゲームを進めていくといいだろう。

いよいよ開戦! 『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』プレイインプレッション_06
▲これがPERKリスト。白くなっている部分が、取得したPERK。プレイスタイルが如実に表れている。

筆者のプレイ時間は10時間ほど 充実した内容に大満足

 
 以上、簡単ではあるが、本作についてツラツラと書いてみた。本当ならばもっと物語について語りたい部分もあるが、本原稿を書いている段階では未発売だったこともあり、どこまで書いていいものか悩んだ結果、触れない方向にした。

 あえて触れるならば、これまでB.J.というキャラクターはシリーズを通して、与えられた任務を遂行するだけのスーパーソルジャー的な人間として描かれていた。確かに本作でも、無理難題を解決していく超人的な活躍もするけれど、じつはちょっとした幸せな未来を想像するような、わりとふつうの人間として描かれていたりもする。

 そして、そんなB.J.の人となりを、声優の中田譲治氏が的確に声で表現している。ゲーム中ではB.J.の考えていることが、氏の声で聞くことができるので、少しずつプレイヤーがB.J.に同調していくかのような感じ。というか、俺がB.J.だ!

 一般的なFPSと比べると、前述したオールドスクールな要素をうまく“今風”にアレンジしており、違和感なく遊ぶことができた。また、マップの至る所に隠し部屋のような場所があり、武器や弾薬、財宝などが保管されているのだが、これも1990年代のFPSに多かった遊ばせかただったりする。壁の向こうにアイテムや財宝が見えるのに、どうすりゃ入れるんだ? などと思いながら、入り口を探してマップを右往左往。そういえば、最近こういったFPS減ったよなぁと、ノスタルジックになってしまった。

いよいよ開戦! 『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』プレイインプレッション_07
▲『ウルフェンシュタイン 3-D』のポスター発見。遊び心なのか、イースターエッグまで用意されている。探せば、まだまだあるかも?

 
 グラフィックに関しては、プレイステーション3とXbox 360版でも高いフレームレートを実現しているが、テクスチャーの解像度はかなり低め。また、急激な視点移動に対してテクスチャーの表示が間に合わずボケた状態で表示され、数秒後に本来の表示なるといった感じを受ける。気になるなら、美麗なプレイステーション4版か、9月に発売予定のXbox One版で遊ぶが吉。というか、プレイーステーション4版で再度遊んでみようかと思案中。

 サウンドについてだが、ここは少々残念な気持ちに。とくに負荷が高い場面では一部の音声が遅れて流れるなど同期が取り切れていなかったり、とある人物の音声ログが途中でブツ切りになっていたりと、正直「う~ん」というところである(一応、テキストでも見れるが……)。また、ミキシングのバランスのせいか不明だが、B.J.の心の声を伝えるボイスの音量が小さく、聞き取れない部分もあった。

 筆者が“これだけはちょっと……”と思った点は、物語の序盤。実験室で捕えられたB.J.たちに向かい、デスヘッドが去り際に日本語で「では ごきげんよう」と言うのだが、本来ならばこのセリフは「Auf Wiedersehen」のままであるべきだと思う。というのも、これは元祖『キャッスル・ウルフェンシュタイン』から受け継がれている名台詞で、『ウルフェンシュタイン 3-D』ではヒトラーの最後の言葉になるなど、大事にされてきた経緯がある。これを、そのまま日本語翻訳にしてしまったのは大変残念であり、今後はこのような事態が起こらないことを望む次第。とはいえ、勝手にこだわっている筆者のほうが問題なんじゃないか説もあったりする。

 とまぁ、若干ネガティブな部分もあるが、5年ぶりに最新作となって現れた『ウルフェンシュタイン:ザ ニューオーダー』。プレイ時間も筆者の場合は10時間ほどで、完全クリアーを目指すならプラス2~3時間といったところ。ボリュームもおもしろさも、満足度は高かったという感じ。ストーリーもわりとぶっ飛んでいるし、ゴア描写の制限も一部のムービーを除けば行われておらず、海外版との差異を気にせずに腰を据えて遊べたのは、うれしい限り。正直、ブレにブレまくっていた『ウルフェンシュタイン』の再定義は、本作でこそ成功したと言っていいだろう。ぜひとも同じスタッフで、id softwareの『QUAKE1』リメイクか、続編を作って欲しいなと思う次第である。現代戦モノのFPSに疲れちゃった人は、いっぷう変わったFPSとして試してみてはいかがだろうか?


■筆者紹介
BRZRK
スオミ松崎名義でファミ通やファミ通Xboxなどで執筆をしていた、FPS歴17年目に突入するフリーライター。ゲーム好きが高じて、ニコニコ生放送の某洋ゲータイトル公式番組や、ゲーム大会“RedBull 5G”にもMCとして出演。ギャルゲーの『マブラヴ』が大好物なフィンランド人ハーフ。