“ファミキャリ!会社探訪”第13回はグランディング!
ファミ通ドットコム内にある、ゲーム業界専門の求人サイト“ファミキャリ!”。その“ファミキャリ!”が、ゲーム業界の最前線で活躍している、各ゲームメーカーの経営陣やクリエイターの方々からお話をうかがうこのコーナーの第13回は、グランディング。
音楽業界を経て、セガや日本マイクロソフトなどでもプロデューサーとして活躍した岡村峰子氏に、同社のこれまでと今後、求める人材についてお話を聞いた。
世界中につながるエンターテインメントの提供を目指して
--では、最初に岡村さんの経歴から教えてください。
岡村峰子氏(以下、岡村) もともとエンターテインメント関係の仕事を志していて、最初は音楽業界で働いていました。そのときにたまたま縁があって、当時セガにいらした水口哲也さん(※『スペースチャンネル5』や『Rez』などを手掛けたゲームクリエイター)とお会いする機会があり、それがきっかけでセガに入りました。セガでは、『スペースチャンネル5』や『Rez』などの制作に携わりました。その後、日本マイクロソフトに移り、Xbox 360の『ナインティナイン・ナイツ』のプロダクトマネージャーを担当しました。それで、ゲーム業界での仕事はもう気が済んだ感じで(笑)、フリーのプロデューサーとしてしばらく活動していたのですが、当時Wiiが家庭用ゲーム機として家庭の中心に戻ってきた感じがあり、「やっぱりゲームが作りたい」と思ったんですね。それで、Wii向けに思いついたアイデアがあり、「このアイデアを実現するためには、この人たちと仕事をするしかない」と思ったのが、じつはいまは会社の役員でもある二木(幸生氏・ディレクター/代表作:『パンツァードラグーン』シリーズ、『ファントムダスト』など)と堀田(昇氏・アートディレクター/代表作:『メテオス』、『Rez』など)なんですね。当時はふたりとも会社に所属していたのですが、どうなるかわからないけど、月に一回くらい企画会議をしていました。それで徐々に企画がまとまってきて、冗談半分で「任天堂の社長さんにプレゼンしようよ」と言っていたんです(笑)。そうしたらご縁があり、任天堂さんにプレゼンすることができ、(任天堂の)岩田社長も会ってくださることになり(笑)。3人とも名刺もない状態でした。
--まだ、会社を設立する前の段階なんですね。
岡村 そうです。3人とも手作りの名刺でした(笑)。岩田社長もそんな感じの私たちをおもしろがってくださったのか、いくばくかの開発費をいただけることになりました。ただ、「法人でないと契約できない」ということだったので、「じゃあ、この際だから会社を作ろう」とグランディングを設立することになりました。
--振り返ると、サクセスストーリーでもあり……。
岡村 行き当たりばったりのような(笑)。ただ、当時はそのアイデアをなんとかしてゲームにして届けたいという思いが強かったですね。
--音楽業界からゲーム業界へ移るきっかけや転機のようなものがありましたか?
岡村 音楽業界では、坂本龍一さんがワールドワイドへ進出し、それに小室哲哉さんたちが続くという、日本の音楽家が世界へと進出する流れがありました。そうした流れを盛り上げていくような仕事をしたいと思っていたのですが、そのとき水口さんに「日本のゲームなら世界と対等にエンターテインメントビジネスをしている」と言われたのが、自分のなかでは衝撃的でした。ゲームには音楽も内包されているし、映画的な要素やストーリーとして小説的な要素も入っている。総合エンターテインメントとして、ゲームがいちばんおもしろいのではないかと思ったのがきっかけですね。ですから、つねにワールドワイドに向けて何かしたい、何かを届けたいと思っています。
--社名の由来を教えてください。
岡村 “地球に根ざしたクリエイションを。”というキーワードを考えていました。大地というものは地続きで、たどっていくと、世界中のみんながつながっています。地球の隅々まで、自分たちのクリエイションを届ける会社になりたいという思いから名付けました。まぁ、ふわふわした感じで会社を設立することになったので、「自分たちも地に足を付けていこう」という戒めの意味も含んでいます(笑)。
--会社設立後、ゲーム業界もずいぶんと変わったのではないですか?
岡村 激動の時期ですね。小規模の会社だったのですが、家庭用ゲーム機の最先端にトライさせてもらえたり、スマートフォンについても、勉強や研究をしっかりやりつつ、段階を追ってスキルをアップすることができました。タイトルラインアップを見ると節操なく見えますが、Wii、ニンテンドー3DS、思い立ってDSiWareを作ってみたり(笑)、さらにXbox 360をやらせてもらったり、今年は『街コロ』をiOSで出させてもらいました。エンターテインメントという範疇で考えているので、電子ゲームにこだわらず、アナログのリアルボードゲームにもトライし始めています。
--現在の仕事内容は?
岡村 社長をやってはいますが、私と堀田、二木の3人で、いろいろなことを話しながら決めています。私自身プロデューサーでもあるので、一歩引いた視点で、社内のクリエイターを全面に出して、経理や事務・総務といった裏方の仕事もやっています。また、個人的にここ数年、“ヘルスケア”にゲーム的な遊びやインタラクションを組み合わせた新しいコンテンツを作りたいと考えています。昨年末にドコモヘルスケアさんのアプリの開発プロデュースをさせていただき、引き続きその運営もやっています。
--御社の場合、まず企画やアイデアがありきというわけですね。
岡村 そうですね。会議でいろいろなアイデアが出て、盛り上がって動き出すこともありますね。目の前のタイトルを作りながらも、どこかで新しいタイトルのアイデアを考えています。似たアイデアのタイトルが他社さんから出ると「悔しい~」と思いますね。また、アナログゲームの場合は、昼休みで社内にテストプレイを行って、みんなで練り上げて作っていきます。
--アナログゲームを手がけるようになったきっかけは?
岡村 いまの家庭用ゲーム機ではなかなかフィーチャーされないジャンルですが、社内にもともとボードゲームが好きなスタッフがいて、「せっかくアイデアがあるのにもったいない」と思っていました。それから、2011年の東日本大震災で、電気を使わない遊びをゲーム屋はちゃんと作ったほうがいいだろうと考えました。経営的には人件費はまだ考えずに、「赤字になったら止めよう」というスタンスでがんばっています。それででき上がったのが『街コロ』のボードゲームなんです。
--現在、所属スタッフは何名くらいですか?
岡村 福岡の事務所も含めると、21人になります。
--今回は、福岡での人材も募集したいとのことですが……。
岡村 福岡に事務所を開設したのは、いろいろなタイミングがちょうど重なったからです。私や二木が、いつかいっしょに仕事をしたいと思っていた人が福岡の方だったり、福岡市がIT関連企業のサポートをしてくれるというのも理由のひとつです。
--東京の会社の規模を大きくするのではなく、別のディヴィジョンを作るということですか?
岡村 基本的に、あまり大きな規模の会社にしたくないんです。人数がどんどんと増えるのなら、分社化したほうがいいと思っています。現在の福岡支社はモバイル事業部という位置づけです。モバイル事業の礎を作ろうということで、『街コロ』のアプリは、最初から福岡支社で開発しています。福岡支社は2012年12月に作り、現在10名ほどのスタッフがいます。今回は、そこも増強したいと思っています。
--どういった人材を求めているのですか?
岡村 具体的には、サーバー系のプログラマーを募集しています。それから、新人でもいいのですが、企画ができる若いスタッフも求めています。
そして、これは早急にではないですが、将来的にプロデューサーになれる人材も探しています。もちろん、経験があるに越したことはありませんが、プロデューサー的な感覚の有無が重要だと思いますね。ただゲームが好きなだけではダメですからね。
オペレーター気質の方は、ウチではつらいかもしれないですね。たくさんの趣味を持つことで、それらがゲームやアイデアとして活かされるので、多趣味な人のほうが向いていると思います。福岡支社には、仕事の合間にトライアスロンで世界を駆けまわるプログラマーがいますよ(笑)。
小粒でもピリリと辛い、個性的な会社に
--現在のゲーム業界については、どのように感じていますか?
岡村 ずっと荒波に揉まれてきましたからね(笑)。むしろ、それをおもしろがるというか、新しいことにトライしたいと考えている人にとっては、いまのゲーム業界は楽しいと思いますね。乗れそうな荒波を見つけたら、これまでより遠くに行けるかもしれない。不安に立ち止まらないというのは、大事なことだと思います。この状況は、これからもしばらく続くと思いますし。
--転職を考えているクリエイターや、未経験だがゲーム業界を志望している人にアドバイスをお願いします。
岡村 近年、潜在的に転職を考えている人が多いのかなと感じています。転職を考えている人には、その会社が自分に向いていないのか、そもそも会社勤めに向いていないのか、単に目の前の仕事がイヤになっているのかをきちんと見極めるのが、とても大事なことだと思います。理由がはっきりしていないと、別の会社に入っても同じことのくり返しになるかもしれません。自分が何と葛藤しているのか、転職しようと思った原因は何なのか、考えてほしいです。私の場合は、会社に勤めることに向いていませんでした(笑)。でも、それがわかったからこそ、企画書ありきで自己責任で動ける会社・グランディングにつながりました。転職するにしても、目の前の仕事でいい成果を出している人のほうが、確実にいい転職ができると思います。
未経験で、ゲーム業界に興味がある人も、目の前の仕事からの逃避ではなく、本当にゲームが作りたいと思うのであれば、アルバイトでも何でもいいので、すぐに行動に移したほうがいいと思います。ゲームを作っている人の近くにいることは、外から見ているものと全然違うので、会社環境からも刺激を受けるはずです。また、ゲーム業界は“人とのご縁”でいろいろとつながっているので、転職やステップアップにも影響すると思います。これから時代がどう変わっていくか、まったくわからないので、いきなりチャンスが訪れるかもしれないです(笑)。
--今後の予定を教えてください。
岡村 近々だと、先日リリースしたiOSの『街コロ』で、6月くらいから新しいキャンペーンを始める予定です。まだ言えないタイトルやプロジェクトがいくつかあって、今年1本以上は出るのではないかと思います。
--Xbox Oneで『Crimson Dragon』も9月4日に出ますね。
岡村 開発自体は終わっているので、大丈夫だと思います(笑)。
--では、最後に今後のビジョンや夢を教えてください。
岡村 グランディングでは、スタッフがやりたいことをできるだけ形にしていきたいと思っていて、それにより、社内の“タレント”たちがどんどんと育っていけるような場所にしたい。これまでは堀田や二木が引っ張ってきましたが、今後は若い世代が出てきて、その“タレント”の数だけ、さまざまなジャンルのゲームを作ったり、各プラットフォームでタイトルをリリースできるようになるといいなと思っています。小粒でもピリリと辛い、その味が忘れられないと言ってもらえるような開発会社でいられたらいいですね。
グランディングってどんな会社?
音楽業界を経て、セガや日本マイクロソフトなどでプロデューサーとして活動した岡村峰子氏が、ゲームクリエイターの二木幸生氏、堀田昇氏とともに2007年に設立。2012年にはモバイル事業に注力する福岡支社を開設した。
“地球に根ざしたクリエイションを。”を企業コンセプトに、家庭用ゲーム機用ソフトやモバイル・スマートフォン向けのアプリなどを開発している。また、アナログゲームであるボードゲームの企画・開発も手がけており、街を育てていくボードゲーム『街コロ』は、今年iOSのアプリとして開発(配信元:コアゲームス)するなど、従来の枠にとらわれない活動を展開している。
<会社概要>
グランディング株式会社
●代表取締役:岡村 峰子 ●設立年月日:2007年9月7日
●従業員数:21名(2014年4月1日現在)
●事業内容:家庭用ゲーム機ソフトウェア/インターネット関連の企画・開発・プロデュース、玩具の企画立案及び販売