「ネット時代の、世界に類のないコンテンツプラットフォーマーに」

 2014年5月14日、KADOKAWAとドワンゴは、統合契約書の締結及び株式移転計画書の作成についての合同発表会を開催した。
 この発表会は、<こちら>で既報の通り、共同株式移転により両社の完全親会社“KADOKAWA・DWANGO”を設立し、経営統合することに合意したのにともなって開催されたもの。発表会の登壇者は以下の5名。

角川 歴彦氏(株式会社KADOKAWA 取締役会長)
松原 眞樹氏(株式会社KADOKAWA 代表取締役社長)
佐藤 辰男氏(株式会社KADOKAWA 取締役相談役)
川上 量生氏(株式会社ドワンゴ 代表取締役会長)
荒木 隆司氏(株式会社ドワンゴ 代表取締役社長)

KADOKAWAとドワンゴが経営統合に関する合同発表会を開催、両者の強みを活かし“進化したメガコンテンツパブリッシャー”を目指す_01
▲写真左から松原眞樹氏、角川歴彦氏、佐藤辰男氏、川上量生氏、荒木隆司氏。
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 まず、統合持ち株会社"KADOKAWA・DWANGO”の代表取締役社長に就任予定の佐藤氏より、改めて経営統合の概要と目的、今後の展開などについて説明された。

 KADOKAWAとドワンゴとは、対等の精神に基づき共同株式移転によりKADOKAWAとドワンゴ(以下、両社)の完全親会社となる株式会社KADOKAWA・DWANGOを設立する方法により、経営統合する。本経営統合は、両社株主総会及び関係当局の承認等を経て、2014年10月1日より実施される予定。概要は以下の通り。

◆統合方法:共同株式移転による統合持株会社の設立
◆株式移転比率:
KADOKAWA株1株につき、統合持株会社株1.168株
ドワンゴ株1株につき、統合持株会社株1株
◆称号:株式会社KADOKAWA・DWANGO
◆資本金・資本準備金:資本金200億円、資本準備金200億円
◆役員体制:
代表取締役会長 川上量生
代表取締役社長 佐藤辰男
取締役相談役 角川歴彦
取締役 荒木隆司
取締役 松原眞樹
取締役 濱村弘一
取締役 夏野剛
取締役 小松百合弥
社外取締役 船津康次
社外取締役 星野康二
社外取締役 麻生巌

 佐藤氏は、KADOKAWA、ドワンゴそれぞれの歴史を説明したうえで、本経営統合の目的を、ドワンゴの有する“テクノロジー及びプラットフォーム”と、KADOKAWAの有する“コンテンツ及びリアルプラットフォーム”を融合させ、ネット時代の新たなビジネスモデルとなる、“世界に類のないコンテンツプラットフォーム”を確立することにあると説明。中期的には、“進化したメガコンテンツパブリッシャー”として、ネット時代の新たなメディアを築いていくとの方針を語った。

 さらに統合の意義について、5つの視点から詳しく解説された。

◆“コンテンツ”דテクノロジー”のインパクト
・IP創出企業とIT企業の融合により、“技術を持ったコンテンツ会社”が誕生する。
・両者が保有する最先端のプラットフォームと魅力あるコンテンツを融合させ、niconicoを強化。
・デジタル対応を急ぐKADOKAWAとして、エンジニアリングのグループ内製化が計り知れない武器となる。
◆編集力とUGC創出力をコンテンツ開発に活用
・プレミアコンテンツを生み出す編集力とデジタルネイティブ時代のUGC(User Generated Contents、ユーザーが創り出すコンテンツ)創出力の融合
・ドワンゴのプラットフォーム上でUGCとして創出されるコンテンツを、KADOKAWAの優れたコンテンツ編集力を活かしてプレミア化。
・メディアミックスを含めたKADOKAWAの販売、流通施策を通じて、コンテンツ販売事業を最大化する。
◆“リアル×ネット”プラットフォームの相乗効果
・出版、映像コンテンツのリアル&デジタルプラットフォームを構築しているKADOKAWAが、UGC動画配信プラットフォームを展開しているドワンゴと融合することで生まれるシナジー。
・両者にて強化されるプラットフォームの上で、さまざまなコンテンツや販売チャネルを活用し、ECサービス等の拡大を目指す。
・海外においても、現地拠点やネットプラットフォームを活かし、物販、配信などの新たなビジネスモデルを見当していく。
◆“取材・編集力×展開力”が実現する新たな情報メディア
・コンテンツをアグリゲートするネットメディアが、既存メディアの情報取材・編集力を取り込み、新たなネットメディアに展開するための融合
・ドワンゴのネットプラットフォームにおける情報展開力と、KADOKAWAの情報取材・編集力を活かし、他のマスメディアを補完する“ネット時代の新しいメディア”を構築する。
・両社の紙媒体とネットメディアの融合により生まれる莫大なPV/UUを背景に、新広告メニュー/サービスを増設。飛躍的に広告収入を伸ばす。
◆クールジャパン・コンテンツホルダー×ネットメディアが作り出す新時代
・両者は、“ネット時代の新たな表現”を創り、“ネット時代の新たなビジネスモデルを持つコンテンツプラットフォーム”を創る。そのプラットフォームを“オールジャパンプラットフォーム”とし、そのうえで、世界を舞台に“進化したメガコンテンツパブリッシャー”を目指す。

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 佐藤氏は、こうした統合の意義を速やかに具現化するべく、両社事業の強みを相互に活用し、補完性を高め、既存事業の強化・新規事業創出といった展開を、スピード感を持って進めていくと説明。
 具体的に想定される重点事業としては、以下の例が挙げられた。

・ゲーム情報ポータル事業
ゲームメディアでは圧倒的シェアを持つKADOKAWAと、“ゲーム実況”で先行するドワンゴの融合により、強力なゲーム情報ポータルを作り出す。
・ゲーム事業
それぞれの傘下にあるゲームメーカー(KADOKAWAは角川ゲームスとフロム・ソフトウェア、ドワンゴはスパイク・チュンソフトとMAGES)は、各社の個性を活かし、従来通りの体制を維持しながらも、ゆるい連携を模索していく。
・電子書籍事業
KADOKAWAが展開する電子書籍事業に、ドワンゴの技術力を注入。電子書籍の新しい体験をもたらすサービスを作り出す。
・UGCクリエイタープラットフォーム/地域情報プラットフォーム事業
両社が紙、ネットでそれぞれ成果を挙げている事業。今後はさらにシナジーを高める方法を協議していく。

 最後に佐藤氏は、まとめとして、両社事業の強みを相互に活用し、補完性を高め、基本事業の強化、新規事業の創出を進められれば、ネット時代における、世界に類のないコンテンツプラットフォーマーになれると考えています」と改めて強調した。

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「“囲い込み”はせず、新しい何かを生み出すことでシナジー効果が生まれる」

 続いて登壇した、新会社の代表取締役会長に就任予定の川上氏は、今回の経営統合について、「“プラットフォームを手掛けるドワンゴと、コンテンツを手掛けるKADOKAWAの合併”と誤解されるかもしれませんが、それは違います」と説明。KADOKAWAが手掛けてきた雑誌と書籍流通はリアル世界のプラットフォームでもある。またドワンゴもつねにコンテンツを生み出してきた会社。つまり両社ともコンテンツ、プラットフォームの両方を手掛けてきた会社であり、非常に相性のよい会社どうしの経営統合であるとの考えを語った。
 また川上氏は、OSとPCを一体に手掛けるappleが優位になっている現状や、“ハードとソフトを一体に”とのコンセプトを崩さず、世界市場で強力な競争力を発揮している任天堂などを例に挙げ、コンテンツとプラットフォームを別々に考えず、それらを融合し、他社と競合しない新しい方法でビジネスをしていくことが重要であると説明した。
 一方で川上氏、コンテンツを囲い込むことは考えていない、とも語り、たとえばniconicoではKADOKAWA以外のコンテンツも従来通り扱うし、KADOKAWAでもコンテンツをYouTubeに提供するなどのことも行うだろうと説明。今回の経営統合は囲い込むためのものではなく、オープンな統合であり、シナジー効果は、新しいコンテンツとプラットフォームを組み合わせて、何かを生み出すことによって発揮されるのだとの考えを語った。

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 また、新会社で取締役相談役を務める角川歴彦氏は、3900万のユーザーを持つniconicoという優れた資産を有するドワンゴと、古くからコンテンツプラットフォーマーであるKADOKAWAは、両社ともにいろいろな可能性をもった会社であり、相互に補完し合える存在だと説明。今回の経営統合を経て、“21世紀のイノベーション”を生み出さなければならないとの決意を語った。

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 最後に実施された質疑応答のおもな内容は、以下の通りだ。

――伝統あるメディアと新興メディアの融合は、成功例が少ないが。

角川氏 敵対的な合併みたいな目論見は、ダメになることが多い。ドワンゴが輩出している若きクリエイターたち、UGCを卒業して大きな存在になりそうな人達が、KADOKAWAのプラットフォームで活躍する。そういったことが積み重なっていけば、KADOKAWAとドワンゴは、いまは違って見えても、じつは一卵性双生児のような存在だったのだと気づいてもらえると思う。

――従来の資本提携ではなく、経営統合に踏み切った理由は。

角川氏 2011年から持ち株会社を始めたのは大きかった。当時からドワンゴは株価が高く辟易したが、それを受け入れていくことで、いろいろなプロジェクトが走り、今日に至った。本丸に至るまでに、外堀を埋めてきたようなもので、KADOKAWAの社員達も、意外に思うことはないと思う。じつは3年ほど前から、川上君とは、いっしょになったらどうだろう、という話はしていた。
荒木氏 角川氏からお話しを頂いていたものの、当時はドワンゴも、利益が出ない体質であったことなど問題があり、それを解決するほうが先決だった。その後、KADOKAWAは9社の統合を進め、我々のほうもマネージメントをしっかり進めて、ようやく今年1月半ばに入ってから、具体的に経営統合の検討に入った。

――オープンな統合ということを強調しているが、これだけの規模になると、業界的に、そう見てもらえるのか。たとえばドワンゴにならコンテンツを提供できたが、KADOKAWA・DWANGOとなると、ライバルグループだからコンテンツを提供しない、というケースも出てくるのでは。

川上氏 たぶんそうはならないと思う。いまは、プラットフォーム間の競争がグローバルになっている。新会社がある程度の規模になったとしても、世界的にはごくちっぽけな存在。日本のコンテンツ、メディア業界は、グローバル化をいかに進めるかが課題となっているのが現状で、むしろ信頼されるプラットフォームになることで、いろいろな協力が得られるようになると思う。

――事業規模はKADOKAWAのほうがはるかに高いが、株式市場の評価はドワンゴのほうが高い。これは成長への期待度が、ドワンゴのほうが高いからだと思う。その観点から言うと、KADOKAWAにはメリットは大きく、ドワンゴにメリットが小さい経営統合に思える。ドワンゴ側のメリットについてはどのように考えているのか。

川上氏 ドワンゴにとっても大きなメリットがあると思う。すべてのコンテンツは、今後、ネット化、デジタル化していくと思う。たとえばKADOKAWAにはBOOKWALKERという電子書籍サービスがある。おそらく今後は、コンテンツを持っているところでも、プラットフォームを持っていないと、従来よりも収益が減ることになると思う。ここで、デジタルプラットフォームのネットワークを開発する部隊を自前で持っているか、外注に依存せざるを得ないかで、大きな差が出る。その部分でドワンゴは大きく貢献できるし、それがドワンゴの成長にもつながると考えている。

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