PVとモジュールを見たとき、テンションが頂点に達した

 2014年3月27日に発売されたセガのプレイステーション3/プレイステーション Vita用ソフト『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』。本作に楽曲を提供しているアーティストのインタビューをお届けする企画も、ついに最終回!

 今回は、「こちら、幸福安心委員会です。」を手掛けたロサンゼルス在住のアーティスト、うたたPさんにメールインタビューを行い、「こちら、幸福安心委員会です。」制作時のエピソードや、うたたPさんの“これまで”と“これから”についてお話を聞いた。

【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第5回】うたたP「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームの魅力_05

うたたP
アメリカ・ロサンゼルス在住のアーティスト。「ストラトスフィア」、「アド・アストラ」など、トランス系の楽曲を数多く手掛けている。2012年、これまでのトランス系とは異なる、エレクトロ+演説という新たなジャンルの楽曲「こちら、幸福安心委員会です。」を公開し、大ヒットを記録。その後、“幸福シリーズ”と呼ばれる楽曲群を発表し、2013年にはシリーズの集大成となるアルバム「みんな幸せにな~れ!」をリリースした。

■ゲーム音楽に惹かれ、トランスにハマる

――初めに、うたたPさんが音楽作りを始めたきっかけを教えてください。
うたたP 私はゲームが大好きでよく遊んでいるのですが、どんどんそのBGMの魅力に惹かれていき、サウンドトラックを購入してずっと聴いているうちに、自分もゲーム音楽を作ってみたいと思い始めて、パソコンで音楽を作り始めたのがきっかけです。

――うたたPさんは“ミクトランス”の第一人者として知られていますが、トランス系の音楽を好きになった理由は?
うたたP 音楽に興味を持ったきっかけがゲーム音楽ですので、やはりピコピコ音やシンセサイザーのデジタル音などが好きで、その魅力的な音色がぎっしりと詰まったトランスというジャンルに惹かれました。一度聞いた瞬間からハマってしまいました。

――これまでに影響を受けたアーティストはいますか?
うたたP 尊敬していて影響を受けたアーティストは、本当にたくさんいるのですが、TOP3を選ぶとすれば、『ファイナルファンタジー』シリーズなどを手掛けた植松伸夫さん、テクノと言えばやっぱりYMO、そしておもしろおかしいのに音は本当にカッコいい電気グルーヴです。

――うたたPさんは、2007年から『初音ミク』の曲を公開していますが、『初音ミク』で曲作りをしようと思った理由は何だったのでしょうか?
うたたP もともとテクノ・トランス系のインスト音楽を制作して活動していたのですが、友人の紹介で『初音ミク』を知って、「これは絶対におもしろいシンセサイザーだ」と思い、すぐに購入を決めました。

――約6年ほどVOCALOIDで曲作りを続けて、いま改めて考える『初音ミク』の魅力とは、どんなところでしょうか。
うたたP ものすごいスーパーアイドルなのに、誰でもプロデュースができてしまうところでしょうか。ふつうのアイドルやキャラクターでは絶対にやらないであろうことを、ミクさんはやってしまいます。今度はいったい何をした(やらされた)んだ! と、ついついいろんな作品を見てしまいます。“仕事が選べないミクさん”とも言われていますが、その仕事を選ばず何でもこなすところが本当に魅力的で、「私もこんなことをしてもらったよ!」というプロデューサーのひとりでありたいと思って続けてきました。

――ニコニコ動画で動画を公開することのおもしろさは、どんなところにあるとお考えですか?
うたたP 作品に対する意見や感想をダイレクトに受け取れるところが、本当に魅力的だと思います。コメントがなければ、反応やコメントをもらえるようになるにはどうすればいいか、ということなどを考えられますし、コメントがある場合、褒めていただければ次回作のモチベーションにつながりますし、テンションだって上がります。中には批判などキツイ言葉もありますが、それは自分が成長していくうえで必ず必要な部分でもあります。自分だけではなかなか気が付かない客観的な部分や考えるきっかけを、参考になる意見とともに与えてくれる、素敵な場所だと思います。

■ロサンゼルスでの曲作り

――うたたPさんは現在ロサンゼルスにお住まいですが、ロサンゼルスでは、初音ミクは人々にどのように受け入れられていますか?
うたたP 日本のアニメ文化が好きな人には大人気で、AnimeExpoなどアニメ系のイベントに行けば、初音ミクのコスプレをして楽しんでいる人もたくさんいますし、英語しかしゃべれない方が、歌は日本語なのに完璧に歌えちゃうことも珍しくないくらい大人気です。ただ、「長い間、アメリカからではふつうに(ソフト『初音ミク』を)買えなかった」という理由もありますが、“VOCALOID”というよりも“初音ミク”というキャラクターの方が先行して認知されてしまっていて、いちばんの魅力的な部分でもある“誰でもプロデュースできるソフト”という部分が伝わっておらず、多くの海外のクリエイターさんが“歌わせるソフトがある”ということを知らない状況です。昨年英語版もリリースされましたし、今後はキャラクターのファンだけではなく、ソフトウェアとしてアメリカのクリエイターさんにももっともっと“VOCALOID”が広まり、海外Pさんが増えていくといいなーと思っています。

――ロサンゼルスに住んでいるということは、うたたPさんの音楽作りに、どのような影響を与えていると思いますか?
うたたP ロサンゼルスには本当にいろんな国からの人が集まっているので、ちょっとしたつながりから、いろんなジャンルの音楽に触れあう機会があったり、影響を受けたりすることがあります。また、制作に関する作風でもそうですが、ふだんから流行よりも自分が好きなものを優先して行動している人が多く、我が道を行くスタイルはとても魅力的で、私もそれに倣って行動するようになりました。日本にも我が道を行ける方がたくさんいらっしゃいますが、私はどちらかというと消極的で、我が道を行けない性格でしたので、「本当はこうしたいのだけど……」という気持ちといっしょに、どうしても心理的、物理的にも引きこもりがちでした。ですが、アメリカに来て、まわりが本当にそれで当たり前に行動しているので、そこからやっと素直な自分が出せるようになった気がします。そのことが、私の作品の作風にも出ていると思っています。もちろん、これは私にとってたまたま環境がそうなっていて、自分自身が勝手にそう思い込んでいただけで、日本が大好きなのは変わりません。アメリカに住んだことが、私にそういった部分を少し気がつかせてくれた、という感じです。

――これから音楽を作っていくうえで、どんなことにチャレンジしたいと考えていますか?
うたたP 自分がやってきた作風やジャンルにとらわれず、自分自身の作品の中でいい部分だけをなるべく見極めて残し、どの角度からみてもおもしろいと思える、新しいものを制作していきたいです。

【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第5回】うたたP「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームの魅力_06
▲うたたPさんの作曲環境を紹介! 窓辺には「みんな幸せにな~れ!」のジャケットイラストが。

■「こちら、幸福安心委員会です。」は3人がベストを尽くした曲

――うたたPさんが、「こちら、幸福安心委員会です。」から始まる、幸福シリーズを作ることになったきっかけを教えてください。
うたたP イラストのwoguraさん、作詞の鳥居羊さんとコラボをして、せっかくなので同人でCDを1枚出したいですねー、みたいな軽い話から始まりました。こんな私の誘いに乗っていただけて、いまでも本当に感謝しています。

――「こちら、幸福安心委員会です。」のメロディー、歌詞、イラスト、動画は、どのように作っていったのですか? トランス系とは異なるメロディーにしようと思ったのはなぜでしょうか?
うたたP まずは私が、「バラードからロックに急変するものを作りたい」と作詞の鳥居羊さんに投げました。そこであの詞が送られてきまして。私は“VOCALOIDに喋らす”という試みを何度もしてきていましたので、その詞を歌ではなく、ミクさんにリズミカルに演説をしてもらう形にしてみました。ちょっと怒られるかもしれないと思いましたが、鳥居羊さん、woguraさんに聴いてもらったところ、「おもしろい!」っとGOサインをいただき、woguraさんは“笑顔だけれども目は笑ってない絶妙な表情のミクさん”のメインイラストのほかに、完成された曲からインスピレーションを受けて、表情の差分を追加で描いてくれました。そのイメージを、曲を作った私が編集して出来上がったのがあの動画ですので、あれは担当それぞれがベストを尽くした、新しい形だと思っています。

――「こちら、幸福安心委員会です。」は公開されて1ヵ月半ほどで100万回再生を突破しましたが、この大きな反響を受けて、どのように思われましたか?
うたたP あまりのことに、他人事のように見ていることしかできませんでした……。しばらく疑っていました、本当に。

――うたたPさんが考える、鳥居羊さん、woguraさんの魅力を教えてください。
うたたP 鳥居羊さんが描く世界観は本当に魅力的で、少々おかしな世界だったとしてもしっかりと筋が通っているところがすばらしく、話の広がりも上手く表現されているので、続きがどんどん読みたくなってしまいます。コラボの場合、歌詞の案の時点ですでに小説のようになっていたりしますので、それを読んでいるだけでもとても楽しいです。woguraさんのイラストは、まず本当にかわいらしい! なのに、テーマによってはどこかカッコよかったり、怖かったり、楽しそうだったり。楽曲イラストでも小説の挿絵でも雑誌や本の表紙でも、テーマに合わせ、クールな部分でもシュールな部分でもしっかり表現してしまう、すばらしい絵師さんだと思います。

■woguraさんとのつながりを生んだ楽曲「Project Diva desu.」

――うたたPさんは、『初音ミク Project DIVA Arcade』楽曲募集コンテストの投稿作品である「Project Diva desu.」の作曲者としても知られていますが、「Project Diva desu.」で応募しようと思った理由を教えてください。
うたたP 応募しようしようと思っていたのですが、私自身作詞をしないために、どうやって応募しようか考えていました。いろいろ悩んだ末、リズミカルにタイトルを連呼しよう! という結果に行き着きました。

――「Project Diva desu.」のメロディーや歌詞を作るうえで、どんなところからインスピレーションを得ましたか?
うたたP 本当に何も考えておらず、直感です。制作時間はすべてを合わせて6時間ほどで完成し、締切ぎりぎりだったということもあり、1日で動画も作って投稿をしました。動画にはwoguraさんのイラストをお借りしています。woguraさんと知り合いになれたきっかけの楽曲でもあります。

――「Project Diva desu.」は、いまではライブでおなじみの曲ですが、初めてライブで聴いたときの感想を教えてください。
うたたP 感動して泣きそうになりました。

■『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』でリズムゲーム初収録

――今回、「こちら、幸福安心委員会です。」が『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』でリズムゲーム化されましたが、最初にセガの方からオファーがあったとき、どのような感想を抱かれましたか?
うたたP 私の楽曲の作風や「Project Diva desu.」のこともあり、収録されるのは絶対に無理だと感じていましたので、やった!!!! 皆様本当にありがとうございます!!!!!! という感じでした。

――「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームPVと、モジュールの感想を教えてください。
うたたP woguraさんがデザインした衣装をまとったミクさんが、壮大なステージ上で私が関わった楽曲に合わせて生き生きとする姿を見て、ふだんは基本的に暗い性格で相当なことがないかぎり上がらない私のテンションが、頂点に到達したんじゃないかというくらい上がりました。

【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第5回】うたたP「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームの魅力_01
【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第5回】うたたP「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームの魅力_02
【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第5回】うたたP「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームの魅力_03
【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第5回】うたたP「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームの魅力_04

――リズムゲームPVについて、うたたPさんからリクエストされたことはありますか?
うたたP とくにありません。楽しみにするばかりで、想像以上のものが返ってきたという感じです。

――ゲームがお好きなうたたPさんが考える、「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームの見どころとはどこでしょうか?
うたたP 「こちら、幸福安心委員会です。」は、リズミカルに演説をする“エレクトロック演説”というジャンルですので、リズムゲームの楽しい部分“メロディーに合わせてボタンを押す”という部分が、“喋りに合わせてボタンを押す”と少々違った感覚になり、そこが魅力的になるのではないかなと思います。

――最後に、ゲームファン、初音ミクファンへのメッセージをお願いします。
うたたP 『初音ミク』の文化は、リスナーの皆さんも当然ですが、沢山のPさんもまた初音ミクのいちファンであり、その皆で作り上げる素敵な新しい文化・世界だと思います。『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』のような素敵なゲームも、初音ミクが好きな“皆”で築き上げたひとつの結晶ではないかと思います。これからも、微力ながらも私はいち初音ミクファンであり、皆さんといっしょに支えながら楽しんでいけたらなぁと思っています。ミクさんマジ天使!!

▲PVの一部は、こちらの動画から視聴可能! 「こちら、幸福安心委員会です。」は4分54秒ごろから登場。

【『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd』アーティストインタビュー第5回】うたたP「こちら、幸福安心委員会です。」のリズムゲームの魅力_07
▲アーティストインタビュー特設サイトをチェック! これまでのインタビューがまとめて読めます!

(画像をクリックすると特設サイトに飛べます)

初音ミク -プロジェクト ディーヴァ- F 2nd
メーカー セガ
対応機種 PS3プレイステーション3 / PSVPlayStation Vita
発売日 2014年3月27日発売
価格 各7000円[税抜]
ジャンル リズムゲーム / 音楽
備考 ダウンロード版は各6286円[税抜] プレイステーション Vita版はPS Vita TV対応(リズムゲームのみ) ※オプション設定が必要です。