GDCパイオニア賞を受賞した鈴木裕氏が登場

 2014年3月27・28日の2日間、スペイン大使館で開催された“ゲームラボ・カンファレンス東京2014”。今年も、国内外から多くのゲーム関係者が参加して開催されたこのイベント、ここでは“日本ゲーム開発の現在と未来”と題したセッションの模様をお届けする。
 このセッションは、日本のゲーム業界の“レジェンド”として紹介された鈴木裕氏に、スペインのテレビ番組“ZoomNet”のディレクター、マニュエル・コンザレス氏がインタビューする形式で進められた。ゴンザレス氏は、鈴木氏を敬愛する人物とのこと。また、多くを語るまでもないが、鈴木氏はセガ在籍時に多くのゲームを手がけたゲームクリエイター。現在は、自身の会社“YS NET”取締役社長を務めている。

鈴木裕氏が語る“日本ゲーム開発の現在と未来”【ゲームラボ】_01
▲ゴンザレス氏(左)と鈴木裕氏(右)。

『バーチャファイター』の最新作はブラウザゲーム

 最初に鈴木氏がゲーム業界へ入った経緯から説明された。鈴木氏は、ずっとソフトウェアのプログラムを組みたいと思っていて、とくにゲームを意識していたわけではなかったそうだ。ゴンザレス氏曰く「ゲームの創世期から活躍している」鈴木氏に対し、『スペースハリアー』や『アウトラン』など、最初のころに手がけたタイトルについてのエピソードについて聞かれると、鈴木氏は「『スペースハリアー』は、最初の自機は戦闘機だったが、人間だったらパターンが少なくて済むし、大きくできるから人間になった。また、『ネバー・エンディング・ストーリー』と『スペースコブラ』、そしてアーティストのロジャー・ディーンが持っている世界観が好きだったので、自分の好きなその3つを組み合わせて作った」と当時を振り返る。
 「3Dゲームのパイオニア的存在だと思うが、2Dから3Dへの以降は大きな変化だったのか」という質問には、「もちろん、大きな変化だったし、2Dでも処理上は3Dの計算をしているので、どうしても3Dはやりたかった」と答え、『バーチャレーシング』(1992年)のころからようやく3Dのグラフィックボードが出回り始めた。そのころは、まだ処理能力が低かったが、3Dゲームのマーケットには将来性があると確信していたという。それこそ、「すべての2Dのゲームが、もう一度3Dのゲームに生まれ変わる」くらいに。
 3Dについて鈴木氏は「分かりにくいたとえだと思うが、僕の感覚だと、3DのZ軸のないものが2Dなんですね(笑)。2Dは3Dに内包されているので、まさに次元がひとつ上がる感覚で、それはケタ違いのものだと肌で感じていました」。
 「歴史上重要な開発者ランキングで上位に選ばれているが?」という質問には、「ただ3Dが好きで、没頭して作ってきた結果を評価してもらえてとても光栄に思います」と答えた。また、インディーズについての感想として、日本は欧米に比べてまだまだ「世間が応援する環境が整っていない」とし、クリエイターが元気づけられたり、育っていくような環境や施策がもっと必要だと分析した。

鈴木裕氏が語る“日本ゲーム開発の現在と未来”【ゲームラボ】_02

 このセッションで、鈴木氏が手がける最新タイトル『バーチャファイターフィーバーコンボ』が発表された。このタイトルはブラウザゲームで、『バーチャファイター』を題材にしたカードバトルゲームで、現在DMM.comで事前登録を受け付けている。鈴木氏は「日本のスマートフォンは、確かに大きなウェーブが来ている。ただ、アーケード、家庭用、スマートフォンなど、全方位でゲーム開発を考えています」とのことだ。

鈴木裕氏が語る“日本ゲーム開発の現在と未来”【ゲームラボ】_03
▲DMM.comの『バーチャファイターフィーバーコンボ』事前登録ページ。

 ゴンザレス氏からは「日本はこれまで、『ICO』や『ワンダと巨象』など、美しいグラフィックのゲームを作ってきたのに、どうして『LIMBO』や『Flowery(フラワリー)』といったゲームを作ることができなかったのか?」とやや意地悪な質問も。それに対して、「個性的なものを育てていく環境が足りないと思う。ただ、現在は“Unity”のように、一般の人でもゲームを作る環境ができつつある」と答えた。ゴンザレス氏が「日本のインディーデベロッパーが、政府の支援を得られれば、日本のゲーム業界にとってもよいことだと思う。また、Kickstarterのような支援は、日本のインディーゲーム業界を活性すると思うか?」と聞くと、鈴木氏は「日本にも、似たようなものがいくつかあるが、Kickstarterのような取り組みはとてもいいと思う。ただ、残念ながら、日本からKickstarterを直接利用するのには、まだハードルが高い部分もある」といい、Kickstarterを利用するためのスターター会社があれば便利だと語る。ゴンザレス氏が「いっしょに作りましょう」と誘うと、「それよりもゲームを作っているほうがいい(笑)」と笑った。
 最近の日本のゲーム事情について、好きなゲームはあるかと聞かれ、「基本的にあまりゲームをするほうではないので、ただのお父さんのような発言になるが、『トモダチコレクション』はいいですね。“ごめんなさい”と素直に言うことができるようになる。ゲームは子どもの教育の敵だとか、悪と言われてきたので、ついにゲームが教育敵にいいものになったかと思います」と語り、これまでのゲーム業界を取り巻く環境が変わってきたことに感慨深げだった。

 最後に、ゲームの未来として“VR”の話題に。“Project Morpheus”や“Oculus Rift”などのヘッドマウントディスプレイについて鈴木氏は、セガ時代に『バーチャファイター』の展開を模索していたころから検討していたそうで、もちろん可能性は感じているが、そもそもゲームをプレイしながら頭を動かす習慣がないことが課題だと語った。
 子どものころから、単に何かを作ることが好きだったという鈴木氏。長い間、ゲームを作り続けてきたモチベーションは、まだまだ衰えていないようだった。