【ファミキャリ!会社探訪(11)】“Mobage”を展開しているディー・エヌ・エーを訪問!_09

“ファミキャリ!会社探訪”第11回はディー・エヌ・エー

 ファミ通ドットコム内にある、ゲーム業界専門の求人サイト“ファミキャリ!”。その“ファミキャリ!”が、ゲーム業界の最前線で活躍している、各ゲームメーカーの経営陣やクリエイターの方々からお話をうかがうこのコーナー。第11回となる今回は、ディー・エヌ・エー。
 ご存じのとおり、“Mobage”を運営しているディー・エヌ・エーは、プラットフォーマーであると同時に、パブリッシャーとしてゲーム開発も手がける。日本のゲームを世界へと送り出すべく奮闘する同社で、ゲーム部門を統括している馬場保仁氏にお話を聞いた。


東日本大震災で痛感した“No Entertainment,No Life”!

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ディー・エヌ・エー
ゲーム第二部 第二グループ グループリーダー/シニアプロデューサー 兼 コンセプトライティンググループ グループリーダー
馬場 保仁 氏

--まず、これまでの経歴を簡単に教えてください。
馬場保仁氏(以下、馬場) 1997年に前職であるセガに入社し、家庭用ゲームソフトを開発する部署に配属されました。その後、15年ほどさまざまなハード向けにゲームを作ってきました。セガでは、ドリームキャストでオンラインについては比較的早くアプローチしていたのですが、ソーシャルゲームほどの即時性はありませんでしたし、そのリアルタイムの部分に関心がありました。
 2012年にディー・エヌ・エーに転職したのですが、スマートフォンというデバイスに興味がありました。ゲームハードを購入していただかなくても、自分が作ったゲームを触っていただきやすくなりますし、より幅広い層にまで届く可能性がありますからね。特別にソーシャルゲームを作りたかったというわけではなく、違うチャレンジがしたかったのですが、その時に注目したデバイスがスマートファンであり、モバイルだったのです。フィーチャーフォンからスマートフォンにシフトしてきたことで、表現力や遊び心地もよくなり、だったらなおさら早く取り組まないとダメだ、と思いました。デバイスの進化と特徴を活かしたものを作ることが、もっとも先端的でイノベーティブなことだと思うんですね。やはり、これまでに誰もやったことのないことをやりたいし、モノ作りをしていく以上は、「変わっている」とか「尖っている」と言われるのはいちばんの褒め言葉だと思います。そして、それがビジネスとして成り立ったうえで、オリジナリティー溢れるものをやることが大事です。スマートフォンには、その可能性をいちばん感じました。
--タイミングがよかったわけですね。
馬場 いや、もう少し早く意思決定をしてもよかったと思っていますし、逆にもう少し遅ければ、転職しなかったかもしれません。それと、東日本大震災のときに、やはり“No Entertainment,No Life”、“No Game,No Life”だなと感じました。人間は、エンターテインメントがないと楽しく生きていくことができないと痛感したわけです。その一翼を担っているのはゲームです。ゲームは生活の必需品ではないものの、あれば楽しいものだと実感しましたし、みんなもそう思ったのではないかと思っています。
--ディー・エヌ・エーに入っての第一印象は?
馬場 面接官が「スマホで海外に向けてゲームを作ろう」と言っていたのですが、それは自分もやってみたいことでした。僕自身、“この会社のカルチャー”に溶け込むのは早かったと思うのですが、ちょっと遠慮している部分もありました(笑)。事業に求められるスピード感にも、早く対応すればよかったのかもしれません。
 それにプラスして、ソーシャルゲームにおけるゲーム性の特徴を、まだつかみ切れていなかったということもあり、当初はあまりうまくいきませんでしたね。でも、その失敗はいい経験になりました。ディー・エヌ・エーに入って感じたのは、「4倍早いな」と(笑)。とくに意思決定が早いんです。毎日やることが早くて、いろいろなことがスピーディーに片付いていく。それに、自分がアジャストするにはどうすればいいかを考えました。
--“この会社のカルチャー”という言葉が出ましたが、具体的には?
馬場 “4倍早い”以外だと、ロジカル・シンキングですね。論理的に話ができているから、早くなるんですよね。エンターテインメントやゲームには、正解が存在しないじゃないですか。最後は好みの問題になりますよね。でも、「最後は好みだよね」という答えにたどり着くためのいろいろな試行錯誤、トライ&エラー、スクラップ&ビルドの回数が多ければ多いほど、いいものに凝縮されていくはずなんですよ。そう考えると、スピードは命です。複数の人間でモノを作っていく以上、意見交換しないと意味がないし、“三人寄れば文殊の知恵”で、いい“ケミストリー”(化学反応)が生まれるはずなんですよ。生まれないのであれば、努力が足りないのか、組み合わせがよくないわけです。なんでもかんでも、急いでやるのがいいわけではありません。そこに“論理”が入ってくることによってスピードを上げて、試行回数を増やしたり、つぎに繋げていく。“PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)”の“P”の部分を急いで、それ以降の回数を増やすことが、基本的にはいいものに繋がっていくのだと思います。そういった考えは、セガ時代にはまったくありませんでした。ただ、それは開発期間の長さの差だと思いますけどね。

ゲームはコンテンツ+サービス

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--社内の雰囲気はいかがですか?
馬場 いわゆるゲームメーカーの開発現場とは全然違いますね。たとえば、セガなら「ゲームが大好き」という人が入ってくるわけです。ディー・エヌ・エーはもともとゲーム会社ではないし、ITやWeb系のサービスが得意な会社だったわけですから。
--社内組織はどう変わってきたのですか?
馬場 ブラウザゲームと、いまのネイティブ・アプリでは、だいぶ制作プロセスも変わってきているし、組織体系も変わってきました。最初にプロトタイプを作って、プレイアブルのα版、バグはあるけどほぼ実装されるものが入ったβ版、そうしてマスターアップを迎える。そういう意味では、ゲーム会社の体系に近付いてきているのかもしれません。ソフトを出した後に運用があるか、パッケージとして売り切りになるのかの差はあります。でも、最初から運用のイメージを考えたゲームデザインになっていないとダメですね。基本的に、最初はフリー(無料)でプレイしていただいて、「おもしろい! もっと遊びたい」と思っていただければ、アイテムなどを購入していただけるシステムですから。ディー・エヌ・エーが大切にしているキーワードに“Delight(喜び・楽しみ)”という言葉のように、まずお客様第一に考え、楽しんでいただこうという考えかたです。
 最近よく言うのですが、ゲームはコンテンツ+サービスだと思っています。ゲーム性やゲームデザインによって、その割合が変わってきますが、ブラウザ系・フィーチャーフォン系のソーシャルゲームはサービスのウエイトが高く、現在のネイティブアプリではコンテンツの割合が高くなってきました。ただそれは、サービスの割合が減ってきたのではなく、サービスの方法が変わってきたのだと思います。
--コンソールやWebサービスとの違いとして、DeNAならではの魅力はどこにあるとお考えですか? また、仕事でどんな部分にやり甲斐を感じていますか?
馬場 魅力は、お客様の動向がすぐに分かることです。それに対して、我々が誠実にレスポンスをすると、さらにそれに対してユーザーさんから「こう、対応してくれたのか」という具合に、反応があるのが楽しいですよね。極論すれば、1分後には反応が分かります。直接の“声”ではなくても、なにかしらのデータの反応とか。実験的なこともしやすいです。パッケージではそんなことできないですよ、怖くて(笑)。
--現在の馬場さんのお仕事について教えてください。
馬場 私自身はネイティブ・アプリを新しく作ったり、運用する仕事をしています。自分の下には、基本的にプロデューサーしかいなくて、そのプロデューサー陣が各開発会社さんといっしょに、開発ラインを外に持ったうえで、開発をしているという体制です。すでにリリースしているタイトルだと、『マジック&カノン』というRPGが中心で、もちろん、この先に何本もリリースを予定しています。
--立場としては、1タイトルを重点的にではなく、トータルでブランド全体を見ていると?
馬場 そうですね。弊社はディレクターがいないのですが、私がプロデューサーとして複数のタイトルを見ていて、その下にいるプロデューサー、それが他社でいうところのディレクターになるわけですが、彼らが開発会社さんとやり取りをしているわけです。
 ソーシャルゲームも、いまやスーパーファミコンの後期くらいの市場規模になっていると思います。作って終わりではなく、どのように露出し、ユーザーさんに注目してもらうか。ソーシャルメディアなども活用して、まずは触ってもらうことが重要です。そうした“プロデュース”が大切で、おもしろいところですね。
--急成長しているソーシャルゲーム業界の課題は何ですか?
馬場 急激に伸びてきた業界ですから、ふつうのゲーム会社にあるような機能がないなぁというのが、入社時の感覚でした。そこを整備してきた2年間だったともいえます。僕は「え、全部自分でやっちゃっていいの?」と思う前向きな人間ですが(笑)、逆に戸惑う人もいましたね。でも、そういう考えかたじゃないと、ディー・エヌ・エーのようなベンチャースピリットを持った会社では働けないのかもしれません。僕が入社したころに比べると、かなり働きやすい環境になっていると思いますけどね(笑)。

根底にある“お客様を裏切ってはいけない”という思い

--今後のビジョンはどんなことですか?
馬場 モノづくりは人づくりにつながっていると思います。自分ももう若くないので、あと何年バリバリと働けるか分かりませんが(笑)、自分が作りたいものを作りたいと思う一方で、自分が持っているメソッドやエッセンス、熱といったものを後進に伝えることも、人材をこの業界に根付かせるという意味でも重要だなと思います。僕自身、ゲーム業界で何年もお世話になっている以上、ゲーム業界に何かを返さなければいけないタイミングに来ていると思っています。ゲームというのは、日本から世界へと持っていって勝負できる数少ないジャンルだと思いますが、ソーシャルゲームも含め、いまがんばらないといけない土俵際にいます。
 スマホは世界共通のデバイスだし、勝負できる環境と人材を構築して、ソフトウェアを世界へ送り出していけるようにすること。アイデアや熱もあるけれども、やりかたが分からないとか、技術や方法論や知識がないという人がいるなら、それを助けたいと思っています。
 非実需産業であるゲームには正解はありませんが、ひとつだけ言えるのは、“お客様を裏切ってはいけない”ということです。つねにユーザーさんのほうを見て仕事をし、誰を楽しませるためにゲームを作っているのかを考えないといけないですね。
--ゲーム業界志望者には、どのような意見を持っていますか?
馬場 ディー・エヌ・エーに限らず、現在のゲーム業界全体で枯渇している人材というのはディレクターだと思います。ゲームディレクターを今後どうしていくのかが重要で、もちろん即戦力の方に来ていただきたいですが、第一線で活躍している方はさまざまな下積みも経ていまのゲームディレクターというポジションになったわけで、むしろこれから自分の作りたいものが作れるわけじゃないですか。家庭用ゲーム機の場合、少なくとも数十人のスタッフで開発するわけですから、そのポジションにたどり着くまでには、どうしても時間がかかりますよね。それに比べると、ソーシャルゲームの場合は、家庭用ゲーム機の開発ほど時間がかからないし、規模も小さいので、自分が開発に貢献している実感と経験値も大きいはずです。ですから、ディレクターを醸成する環境はソーシャルゲームのほうが整っているのではないか、と思っています。企画の経験がある若い人やディレクター一歩手前の人に、ウチの門を叩いてチャレンジしてほしい。業界の早いサイクルの中で自分を試してみて、念願のディレクターになる人もいれば、新しくやりたいことを発見できるかもしれません。
--最後にメッセージをお願いします。
馬場 自分でやりたいことを比較的やらせてもらえる環境で、“熱意ある正義”が通るのが、この会社のいいところです。それに試行サイクルの早さと短さゆえに、“失敗こそが最大の経験の母”だと思うわけです。自分が成長するためには、成功体験も大事ですが、失敗からどのように立ち直るか、どのような経験をして、それをつぎに活かしていくか、それがとても大事だと思います。
 自分自身を成長させたいとか、作りたいゲームがあって、早く作れる立場になりたいのならば、林修先生ではないですが(笑)、「いつやるの?」「いまでしょ!」ということになるわけです。チャレンジするときを間違えてはいけないですよ。

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ディー・エヌ・エーってどんな会社?

 1999年3月の創業以後、さまざまなインターネットサービスを提供し続け、現在は“Mobage”を軸に、プラットフォーム事業とソーシャルゲーム事業を展開。プラットフォーマーであり、ゲーム事業者でもある同社は、海外でのサービス拡大にも積極的に取り組んでいる。
 2013年1月には、“Delight”(喜び・楽しみ)と“Impact the World”(世界規模のインパクトを創出)をキーワードに、コーポレートロゴを一新した。しかし、創業時からのポリシー、“新しいことに挑戦し続けること”は変わらず、ソーシャルゲームに続く新事業(マンガボックス等)も堅調に推移しており、さらなる飛躍が期待される。
株式会社ディー・エヌ・エー
●代表取締役社長兼CEO:守安 功
●設立年月日:1999年3月4日 ●従業員数:連結2108名(単体935名)(2013年3月末時点)
●事業内容:プラットフォーム事業、ソーシャルゲーム事業、インターネットマーケティング事業、eコマース事業など

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▲渋谷を一望できるエントランス。横浜DeNAベイスターズのポスターやユニフォームなども飾られている。
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▲2013年10月に“Mobage”向けに配信された本格RPG『マジック&カノン』。