ゲーム業界で働く女性は全体の1割

 2014年3月17日~21日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2014が開催。ここでは、開催3日目に行われたセッション“Women Don't Want to Work in Games (And Other Myths)”の模様をリポートしよう。

女性はゲーム業界で働きたくないわけじゃない! 女性を巡るきびしい現状とは?【GDC 2014】_01
▲エリザベス・サムパットさん。

 講演者は、テーブルトークRPGの会社を経て、いまはStorm8というゲームメーカーでゲームディレクターを務めるエリザベス・サムパットさん。「ゲーム業界での仕事はとてもやりがいがあり、すばらしい経験もたくさんありました。この業界に対して情熱を持っています」というサムパットさんだが、「45歳以下の白人男性が圧倒的に多いゲーム業界では、働く女性は全体の1割にしか過ぎない」というのが現状。女性の社会進出は相当進んでいる昨今だが、ことゲーム業界に関しては、いまだに働くための敷居は相当高いというのが現状だ。「女性がゲーム業界で働くためにはどうすればいいのか?」というのがセッションのテーマだ。セッションは、サムパット氏が5つの疑問に答えていく……というスタイルで行われた。

【疑問その1】女性はゲーム業界で働きたくないと考えている?

 サムパット氏がリサーチを行なったところ、ゲーム業界で働いている女性の45%はつねにこの業界で働きたいと思っていたという結果が出たという。残りの55%は、そういう願望をもっていなかったが、リクルートされるなど、何らかの理由でゲーム業界に入ってきたことになる。最初からゲーム業界を希望していなくても、誰かから薦められたりしてこの仕事に就くケースも多い。

 そういった意味では、すでにゲーム業界に関心を持っている人はもちろん、「この業界でやってみないか?」と働きかけることは大事だという。「私は、テーブルトークRPGの制作会社にいたときは、周囲の環境がよくて、友だちが励ましてくれました。作ったゲームをデジタル化したらどうか? と助言してくれた人もいます。それがなければ、写真家になっていたかも」とサムパットさん。新しいことに挑戦するための後押しをしてもらう。女性がゲーム業界で働くためには、周囲のサポートも大切になるようだ。

【疑問その2】スキルを持った女性がゲーム業界にはあまりいないのか?

 「ある会社では、“スキルを持った女性が少ないので、雇えない”などという馬鹿げたことを言う人がいるとも聞きます」とサムパットさん。それに対し、サムパットさんは、「トップクラスのエンジニアは確かに少ないかもしれないが、女性が働けるポジションはたくさんあるはず」と反論する。「女性を引きつけるベストな方法は、すでに女性がその会社で働いていること。女性がひとりの人間として尊敬されていること、女性たちのポジションもきちんと認められていること」とサムパットさん。女性は面接に来たときに、会社にいる女性がどのように扱われているか、よく観察しているという。「男性の履歴書では可能性がチェックされ、女性の履歴書ではこれまでやってきたことの証明がチェックされるというのは本当だと思います」(サムパットさん)。会社が女性の可能性を信じて雇用するという姿勢も求められるようだ。

【疑問その3】会社の文化に合わない?

 サムパットさんが所属するStorm8では、男性も女性もさまざまな人種の人たちが働いており、男性も産休を取るし、女性の生理用品も無料(!)とのこと。「しっかりとサポートされていると感じるが、これは特別なケースだと思う」とサムパットさん。

 「女性が会社の文化に合わないのではなく、あなたの会社の文化がおかしいと考えたことはありますか?」と、サムパットさんはきびしい口調で続ける。この業界は、“文化”と言いつつも、じつは単に同種の集まりだったり、習慣だったりすることが多い。「これを押し付けて女性を否定してはいけないと思います。本当の理由を問うべきです」(サムパットさん)。男性が多ければ、女性が入ってこないと考えるのは早計で、会社を大きく成長させたいと思うなら、“規模”だけではなくて、“文化の成長”も考えるべきだとサムパットさんが提案する。そのうえで、サムパットさんは“女性が望ましいと思っていること”と“女性が歓迎しないこと”として、以下を上げる。

[女性が望ましいと思っていること]
1.ファミリー・フレンドリー
 通常の時間帯以外も柔軟に働けるなど、柔軟性があるのが望ましい。会社に父親になっている男性がいるのも魅力。もちろん、子どもを預かる施設などがあれば、もっといい環境です。

2.コラボレーションと信用
 いっしょに仕事をしようと投資してくれること。どんなポジションであれ、「我々はあなたを必要としている」という姿勢は強いです。

3.意思の疎通
 クリアーなコミュニケーションが高く評価される場所が望ましい。同僚との交流も重要です。

[女性が歓迎しないこと]
1.“Brogrammer”(マッチョプログラマー)的会話
 仲間意識で固まっている。30歳以上の人がいない職場もよくないです。

2.報酬が間違った方向になっている
 報酬がアルコールになるなど、間違った方向に使われていること。オフィスで長く仕事をするようにし向けるような報酬もよくないです。

【疑問その4】女性であることは問題にはならないのか?

 職場で唯一の女性だと難しい。周囲にフィットすることは困難ですとサムパットさん。昇格を続けてトップに立ったとしても、つねに周囲からの承認を求め続ける循環になってしまうという。「たくさんの荷物を持ちつつステップアップしていかなければならないので、とても疲れるし、悲しいし、怒りも覚える。これが現実です」とサムパットさんは言う。「女性を受け入れる場所がないのなら、ゲーム業界は問題外だと言いたい」と、サムパットさんは手厳しい。

【疑問その5】業界が悪いのではなくて、女性が悪いのか?

 「カルチャーだから仕方ないのでしょうか? ゲーム業界は男性が作ったものだから仕方ないのでしょうか? そんなことはありません」とサムパットさん。

 ちなみに、サムパットさんの10歳になる娘さんは、かつては宇宙物理学者になりたかったそうだが、それは趣味にして、いまは「ゲームデザイナーになりたい」と言っているという。「私は、自分が体験してきた嫌なことは彼女に経験させたくないので、恐怖におののいています」とサムパットさん。「男性の2倍働いても、彼らの半分しか上へ上がれないという現実を説明するのは辛いです。つまり、彼女の業界進出を阻止しようとしている私は、(女性がゲーム業界で働くことを妨げる)共犯者ということになります」とコメントし、講演を締めくくった。

 サムパットさんが吐露するように、ゲーム業界の女性雇用を巡る現状は、相当きびしいというのが現実のようだ。すぐにでも解決される問題とも思われないが、こういった講演をきっかけに、少しでも議論が進むことを期待したい。

女性はゲーム業界で働きたくないわけじゃない! 女性を巡るきびしい現状とは?【GDC 2014】_02
▲サムパットさんの娘さんがゲーム業界で快適に働けるようになることを期待したい。

(取材・文/編集部F)