いまは、つまらないゲームしか与えられていない
2014年3月17日~21日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2014が開催。開催2日めの3月18日には、ピーター・モリニュー氏によるセッション“From Indie to AAA to Indie: The Rebirth of Design”が行われた。
思えばモリニュー氏がライオンヘッドスタジオを辞めたときは相当ショックだった。「『Fable』シリーズはどうなるんだろう?」という心配が頭に浮かんだりもしたが、その後モリニュー氏は22Cansにてインディーゲームの開発を開発中との報道に触れ、「大手ゲーム開発会社からインディーへ」という動きに、時代の流れを思ってみたりもした。そんなモリニュー氏がGDCに登場し、講演を行うという。GDCウォッチャーのゲームファンの方ならご存じの通り、モリニュー氏と言えば、ウィル・ライト氏らと並ぶ、GDCを代表する名物スピーカー。その柔らかくユーモラスな語りに会場は爆笑の渦。ひとり置いてけぼりを食らった記者が「もっと英語を勉強しておけばよかった!」とホゾを噛むこと数知れず……。というわけで、「モリニュー氏の講演が行われるとあれば、取材せずにはいられない!」ということで、会場に駆けつけた次第。記者と同じ思いの参加者はことのほか多かったようで、会場は大盛況だった。ついでに、日本の取材陣も軒並み駆けつけていた。
さて、モリニュー氏の講演は、自身のデスク回りの写真を披露するところからスタートした(逐一自分のデスクまわりの写真を撮影して残して置くのもすごいと思うが……)。
で、デスク回りの話をしたのは、もちろん訳がある。確かに会社で働いていれば、“予測がつく”、“安全である”、“満足感がある”、“保証がある”という4つのキーポイントが満たされてハッピーではある。だが、「それを望む一方で、自分にとっては死を意味する」とモリニュー氏。“危険”、“リスク”、“恐怖”、“切望”を求める自分にとって、会社に所属することは、正反対の立場に身を置くことになってしまうからだ。
では、モリニュー氏はなぜ22Cansを始めたのか? それは、「多くのゲーマーと多くのテクノロジーが溢れるすばらしい世界にいるのであれば、何かを創作せずにはいられない。革新せずにはいられない」(モリニュー氏)からだという。家庭用ゲーム機は世に溢れるほどあるが、それをどう使いこなすのかはまだわかっていない。モリニュー氏は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの「自然は真空を嫌う」という言葉を引き合いに出し、「私たちの周囲にはひとつの巨大な真空があると言えます」と続ける。いわく、
(1) 世界には何100万もの新しいゲームがあり、ゲーマーがいる。
(2) いまは、こうした人たちに、洗練されていない、つまらないゲームしか与えられていない。
(3) 課金制の貪欲さ
(4) せっかくの技術を、世界を変えるためにうまく使っていない。
(5) せっかくの分析力を、ゲームをよくするためにうまく使っていない。
この5つが、ピーター・モリニュー氏をして、マイクロソフトを離れて自分のプロジェクトを始めた理由だという。「また雑然としたデスクに戻ってしまったわけですが、以前よりも、よりクリエイティブになっているという実感を持っています」とモリニュー氏。
そんなモリニュー氏は、ただいま『Godus』を開発中だ。同作は、プレイヤーが神となって世界に影響を与えていくという、いわゆる“ゴッドゲーム”だ。同作は、PC版のほかに、スマートフォン版が、DeNAより欧米、日本、韓国版Mobageで配信されることが決定している(→関連記事はこちら)。
「目標はすごいゲームを作ることですが、これにはきちんとしたプランが必要です。そこには6つのステップがありました」とモリニュー氏。
(1) テクノロジーを使って実験:新しいゲーム『Godus』では、何100万人もの人が接続するが、そのうちの5000人くらいはいじめっ子となるので、これができないように会話を不可にして実験した。
(2) お金とコミュニティー:より多くのプレイヤー=より多くのフィードバック=より洗練されたゲーム。これによってSteamの早期アクセスで80万ドル、40万人のユーザを集めることができ、目標を達成した。
(3) Steamの早期アクセス:これはすばらしいサービスであり、多くのすばらしいフィードバックを得た。
(4) さらに切瑳琢磨:100の新しいプレイ、AIの完全な書き直し、スクリプトの完全な書き直し、3日間のアップデートなどを行った。
(5) 限定リリース:デンマーク、アイルランド、スウェーデン、フィリピン、ニュージーランドで実施。
(6) 正式リリース:ふたつのアップデートをプラスして、PC、Mac、Linux、iOS向けを配信予定。後日、Android版などを追加。
『Godus』は、プレイヤーがGodus(神)となってワールドを形成。国家を作り、宇宙へ出てほかの惑星とつながっていくというゴッドゲーム。遊びかたとしては、まずはほかの4人のGodusと出会い、“Hubworld”を経由してさらに多くのGodusとつながり、さらに大きな“Hubworld”へ……とマルチ形式で増えていくことになる。最終的には5000万人のGodusとつながるのだ。
自分のワールドは、指を使ってペイントする感覚で、簡単に造形できるのが特徴。紀元前5000年から始まり、人類の歴史が描かれる。まさに、モリニュー氏ならではの壮大なスケールのゲームだと言える。以下、最新トレーラーをお届けする。
最後にモリニュー氏は、「インディーとは、小さい会社というだけでなく、リスクを負って大会社にはできないことをやり遂げるために、ふつうではない取り組みをしたり、違うジャンルに挑戦したりすることだと思います。私は、インディーとして仕事をするのがとても楽しいです」とインディーにやり甲斐を感じていることを明らかにした。モリニュー氏の飽くことなき挑戦は続く。
(取材・文/編集部F)