インディータイトルのお手本的秀作の秘密!

  2014年3月17日~21日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて世界最大規模のゲームクリエイターを対象としたセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2014が開催。ここでは、開催初日に行われた、インディペンデントゲームスサミットの“Rogue Legacy Design Postmortem: Budget Development”の模様をリポートしよう。

 『Rogue Legacy』は、Cellar Door Gamesが2013年6月にリリースしたタイトル。自動生成のダンジョンを冒険していく2Dスクロールアクションで、多彩なアイテムや育成システム、そして何よりも、プレイヤーキャラクターが死亡するたびに、子孫に冒険を引き継いでいくシステムが特徴的なゲームとなっている。

 本講演は、『Rogue Legacy』のゲームデザインを、“低予算開発”という切り口から振り返る、というのがテーマ。いまやインディータイトルとひと口に言っても、ミニゲームレベルのものから、メジャータイトルにひけをとらないリッチなものまで多種多様だ。そんな中で『Rogue Legacy』は、さほど高額な開発予算を費やさずに十分な成功を収めた、インディータイトルの理想的な成功例のひとつと言える。またタイトル自体、いかにもゲーマー好みな内容であることもあってか、セッション会場には多くの受講者が詰めかけ、大盛況となっていた。

低予算で大ヒット! 『Rogue Legacy』は“『ダークソウル』+『悪魔城ドラキュラ』+『世界樹の迷宮』”から始まった【GDC 2014】_01
▲左がKenny氏、右がTeddy氏。

 講演を行ったのは、本作を開発したCellar Door Gamesのプログラマー/プロデューサーKenny Lee氏、ゲームデザイナーTeddy Lee氏のふたり(名前から推察される通り、おふたりは実の兄弟です)。

 『Rogue Legacy』で一躍有名になったCellar Door Gamesだが、これが初のタイトルというわけではなく、これまでにFlashゲームやモバイル向けのタイトルなどを制作してきている。それらは予算は数千ドル程度、開発期間も2日~3.5ヵ月程度の規模のものだが、それらの制作を通じて、同スタジオのスタイルが固められていったのだそうだ。
 その基本スタイルとは、
・「安くて、早くて、期待を満たす」をモットーに
・“低予算”という条件を満たす手法を採用するのが基本
・完璧なゲームは作れないが、それはよしとする
 といったものだ。

“ダークソウル2D”が完成!? しかし……

 そしていよいよ、『Rogue Legacy』のお話に。本作の開発期間は1.5年ほど。最初から最後までフルタイムで携わったのはプログラマはわずかひとりのみで、Teddy氏が参加したのも、最後の5ヵ月のみ。そのほかのメンバーは、全員契約ベースで参加してもらっていたそうだ。
 支払ったコストの総額は14878ドルで、これはいままでは1000ドル程度でゲーム作っていたことを考えると高額だが、プロジェクトの規模を考えるとかなりうまくやれたと思う、と両氏は語る。実際、このコスト分は、リリース後わずか1時間で回収できた(!)とのこと。発売後1週間での販売数が10万に達したのも、彼らの想像を遙かに超える結果だったという。

低予算で大ヒット! 『Rogue Legacy』は“『ダークソウル』+『悪魔城ドラキュラ』+『世界樹の迷宮』”から始まった【GDC 2014】_02

 そして本作のゲームデザインだが、じつは最初の段階では、いわゆる“ローグライク”ではなかったのだとか。当初目指したのは、“『DARK SOULS(ダークソウル)』の死亡システム”、“『悪魔城ドラキュラ』のプラットフォーム要素”、“『世界樹の迷宮』の地図作成システム”を合体させたような、「すごい規模の、探索とパズルのゲーム」だったそうだ。

低予算で大ヒット! 『Rogue Legacy』は“『ダークソウル』+『悪魔城ドラキュラ』+『世界樹の迷宮』”から始まった【GDC 2014】_03

 まず3ヵ月ほどで制作された試作版の仕様は、以下のようなもの。
・5分間遊べるくらいのボリューム(3ヶ月にしてはかなりボリュームが大きかった)
・ダンジョンは自動生成ではなく、すべて手動でデザインされていた
・基本的に『悪魔城ドラキュラ』だった
・敵は8種、ミニボスが5種

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 この時点でかなりゲームの体をなしてきていて、実際遊んでいてもそれなりにおもしろいものになっていたという、この試作版。しかしこの段階で彼らは、このプロジェクトをキャンセルすることを決断する。それは、いままでの低予算ゲーム開発の経験から、彼らには“規模から予算を逆算する”能力が身についており、このプロジェクトをこのまま進めた場合、とてもカバーできる金額では収まらないことがわかったからだと言う。ここまで作り上げたものをキャンセルするのはきびしい決断ではあるが、彼らは、いままでの経験に基づき、正しい判断であると自信を持って決断したそうだ。

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そして『Rogue Legacy』へ

 キャンセルしたとはいえ、試作版の段階で、プラットフォームゲームを作るエンジン、敵AI、レベルエディタなどは完成している。これらの“部品”を活かしつつ、いよいよ『Rogue Legacy』のプロトタイプ制作がスタートする。まずは、ダンジョンを自動生成にすることで、予算を大きく削減。グラフィックが仮のものだったり、AIが稚拙なものだったりはするものの、わずか2.5週間ほどで土台となるゲームが完成した。

 そしてここからの調整が、『Rogue Legacy』が人気作となった秘密とも言うべき部分だろう。まず彼らは、ゲームの根幹を、“開始→探検→死亡→RPG(成長)→最初に戻るのループ”であることを再確認し、そのおもしろさを際立たせるために、以下のような調整を加えていったそうだ。

低予算で大ヒット! 『Rogue Legacy』は“『ダークソウル』+『悪魔城ドラキュラ』+『世界樹の迷宮』”から始まった【GDC 2014】_09

◆デスペナルティーを緩和
→死に関わるストレスを軽減するのではなく、死ぬのが楽しくなるように。
◆偶然性よりもゲームの腕がモノをいうように
→従来のローグライク系タイトルでは、どうしたって死ぬしかない場所とかが平気である。本作のダンジョン生成システムでは、即死などがないように、「楽しく公平になるよう」調整を加えた。
◆“あやふやさ”をできるだけ排除
→たとえば“引き継ぐ病気”についての説明がしっかり書いてあるのも、2回目以降はそれが何を意味するのかを明確に把握した上で選べるようにするため。
◆1プレイを速く短く
→たとえば45秒遊んで、リスタートのメニュー操作に2分かかっていては意味がない。“開始”部分を合理的、機能的にすることで、開始1分で死んでしまっても気にせず遊べるようになった。
◆探検中はキャラクターが成長しないように
→探検中は、“生き延びて冒険を続ける”楽しさに絞り、成長はしないようにする。死亡後にじっくり成長部分を操作する仕組みにしたことで、プレイヤーの「くそっ、もう1回!」感が強くなった。

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低予算で質の高いゲームを作るための鉄則!

 本作をいかにおもしろいものにしていったかが説明されたところで、改めて予算についてのお話に。ここまで説明されてきたような、こだわり抜いたゲーム制作と、きびしい予算管理を両立させるためには、どうすればいいのか? 彼らが大事にしているのは、以下のようなことだと言う。

◆自律性
 小さいインディーチームでは誰もが複数の役割をこなさなければならないため、各人が自律的に仕事をすることが重要。
 また、開発プロセスは民主的である必要はなく、ときに独裁的でもいい。たとえば本作の場合、背景とキャラクターの折り合いが付かない部分があり、調整に長時間を要したため、その解決までに全予算の20%が費やされてしまったのだそうだ。そうした部分を速やかに解決しないと、予算を圧迫することになる。

◆ゲーム専用のエディタ
 “スタジオで使うエディタ”を作るのではなく、“ゲームに使うエディタ”を作る。これは、同社のプロジェクト規模だと、ゲームごとにエディタを作るほうがはるかに速く安くできるためだ。『Rogue Legacy』のエディタでできることは、“部屋を編集する”というひとつのことだけだが、そのシンプルさのおかげで、わずか2週間でできたそうだ。この専用エディタは、つぎのプロジェクトに流用することはできないが、それでもオーケー。コードを書くのに費やした時間を考えれば、圧倒的に役立ってくれた、つまり“元は取った”からだ。

◆ゲームデザインでは代替案を用意する
 使える人的、経済的リソースにもっとも適した選択肢を選べるよう、アイデアは複数用意するのがいい。そしてコストを判断基準におくと、どこまでが現実的かが非常にシンプルに測れる。

低予算で大ヒット! 『Rogue Legacy』は“『ダークソウル』+『悪魔城ドラキュラ』+『世界樹の迷宮』”から始まった【GDC 2014】_12
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富を手にしたCellar Door Game、次回作は……?

 さて、こうして低予算開発で大きな成功を収めた『Rouge Legacy』。Cellar Door Gamesは経済的に余裕のある状況となったわけだが、Kenny、Teddy両氏は今後も、いままでと同様の手法で制作を続けていくつもりのようだ。彼らが言うには、「予算を抑えたことでわき出てくるアイデアに驚くことが、よくある」のだそうだ。ベストではなく、グッドを是とするのが彼らのやりかた。今後も、“予算を抑えながらよいゲームを作る”という、挑みがいのある、楽しい仕事を続けていくと語った。