それでもフルタイムのゲーム開発者になれるかもしれず
2014年3月17日~21日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにてゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2014が開催。ここでは、開催初日に行われた、インディペンデントゲームスサミットの“SCALE and the Ethics of Kickstarter”の模様をリポートしよう。クラウドファウンディングKickstarterでゲームの出資を募るのは、とくにインディーゲームにおいては、近年盛んになってきている。本講演は、インディーゲーム『SCALE』のクリエイターであるキューブハートゲームスのスティーブ・スウィンク氏が、自身を例にKickstarterの“ethics(倫理)”について問うというもの。セッションを通して、口では「完璧にこなしています!」と言いつつも、スライドでは本音が表示されるというスタイルで行われ、会場の爆笑を誘っていた。たとえば「Kickstarterは最高、これしかない!」とコメントしつつも、スライドでは、「5時間寝ると内臓が痛くなって起きてしまい、寝ているあいだに集まった額がどれだけ増えたかチェックしてしまう」などなど……。まずは、『SCALE』の動画からどうぞ。
講演でスウィンク氏は、Kickstarterの実用的なコツを紹介。まず立ち上げに関しては、月曜日か火曜日の朝に始めることをおすすめしている。それは、週末を避け、ほかのKickstarterキャンペーンが終わってから始まるようにすることで、立ち上げ直後のバックを狙うため。そして、設定金額に関しても、スウィンク氏は熟慮している。「科学的根拠のない(個人的な)持論では」と前置きした上で、スウィンク氏は、目標金額50000ドル未満は「達成して当然」、それ以上だと「野心的なプロジェクト」、それ未満だと「控えめな目標」と捉えられる気がする……と説明。50000ドルとなるとけっこうな大金に思われるが、「そのお金がぽんと入ってくると考えられがちだけど違います。5~10%がAmazonやKickstarterに、リワードとして支払われるために、それなりに小さいサイズのチームでも、1~1年半くらいの資金にしかならないと続けた。「でも、あえて逆説かもしれませんが、『SCALE』では控えめなゴールを設定しました」とスウィンク氏。それは、“初週にゴールを達成することに大きなボーナスがあるから”と、“Kickstarter開始→達成!でいい流れを作ることができるから”との理由によるもの。Kickstarterに関しては、最初の3日間で成否が分かれると言われていたりするらしい。ごく一部の例を除き、多くのタイトルで資金の集まりかたが、最初と最後にだけ盛り上がりがくる“凹字になるというのだ。ちなみに、『SCALE』では、そんな中だるみを打開すべく、途中でいい感じの動画を公開して、各種メディアでも取り上げられたにも関わらず、集金額にはぜんぜん影響がなかったとのことだ。
続いてスウィンク氏は、「Kickstarterは何なのか?」と問いかける。たとえば、日常生活でお金をもらうことを考えてみよう。友だちに「10ドルちょうだい」と求められたら、「そのうち何かおごるから」と言われたら考えるだろう。「(返せるかどうかわからないけど)100ドルちょうだい」と言われたら、「えー、やだー!」と言うだろう。それが1000ドルだったら、「オレ、コイツとどのくらいの付き合いがあるんだっけ?」とまじまじと考える。さらに、10000ドルだったら、頭がおかしいと思われるのが関の山だ。
ところが、Kickstarterだったら、気兼ねなくお金を求めることができる。見返りに何かを渡せるか確約することなく、お金を受け取れるのだ(「返金などに、法的な強制力はないよね?」)。つまり、Kickstarterを利用するということは。根本的にみずからの善意や良心に負うところが大きいというのだ。そこで、突然ソクラテスの言葉が引用される。スウィンク氏によると、ソクラテスは、「唯一の善は知識、唯一の悪は無知である」と言ったり「人は不道徳な行いをするが、不道徳な行いが意図して行なわれることはない」というパラドックスを提示したという。スウィンク氏はそんなソクラテスの言葉をもとに、以下の通りに話を展開する。
・人はいちばん役立つもの、有用なものを探す
・ときには、それがみずからにも他者にも“有益”だったりする
・ときにはろくでもないこともする。自分や周囲を傷つける
・いずれのケースでも、より多くを“知っている”ほうがいい
・ソクラテスの言を借りれば、ろくでもないことをするのは、なにもその人が“邪悪なクソヤロー”だからじゃない
・ろくでもないことをしてしまうのは“無知”だからだ
・“知識”を得て、みずからの良心に則って動こう
「自分は作ったものを楽しんでもらって、その対価としてお金を得る。相手はそれに満足してくれるハズ。その結果として、自分は今後もモノを作り続けられる」とスウィンク氏は言う。
最後に……とスウィンク氏は講演をまとめる。Kickstarterはお金を集めるしくみだ。みんな「Kickstarterキャンペーンを成功させたい!」と考えるけれど、「その前になぜKickstarterを使うのかをよく考えてみてほしい」とスウィンク氏は言う。“みずからの良心”とよく向き合ってほしいというのだ。
スウィンク氏自身は、いままでのところKickstarterキャンペーンでとても疲れたとのこと。これからどうなるかもわからないし、“ゲームを作る”という本業に集中できずに、イライラしたらしい。とはいえ、Kickstarterにもすばらしいところはいっぱいある。プロモーションという点では申し分がないし、何よりもキャンペーンを通して自分はフルタイムのゲーム開発者になれたし、自由を得たという。絶大な影響力を持つKickstarterだけに、使うか使わないか、利用者は熟慮が欠かせないようだ。
(取材・文/編集部F)