トップクリエイターの作品に注目!

 2014年3月7日~9日にかけて開催中の、日本のインディーゲームを世界に発信するインディーゲームイベント“BitSummit 2014”。総勢117のインディーズグループや企業が参加する本イベントには遊びきれないほどの新作ゲームが目白押しだ。

 その模様はまさに百花繚乱状態で、同人サークルによるものから歴戦のプロクリエイターによるものまで千差万別なのもおもしろいところ。この記事ではその中から、有名ゲームクリエイターが手がける、またはその関わりによって実現するインディーズゲームの新作をご紹介しよう。
(取材・文/佐藤カフジ)

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▲3月8日からは、一般来場者も参加できるパブリックデイ。所狭しと並ぶサークル&企業のテーブルに、たくさんの来場者が訪れていた。

■KAKEXUN(KAKEXUN プロジェクト)
 “BitSummit 2014”の開催を期に、故・飯野賢治氏が残した最後のゲーム企画『KAKEXUN(カケズン)』を実現するプロジェクトが始動した。プロジェクトを発足し、開発を主導するのはワープの古株が集まった新会社、ワープ2と、フロムイエロートゥオレンジのクリエイターたち。

 晩年の飯野賢治氏は天文や宇宙物理、そしてゲームの持つ教育的側面に強い関心を示していたという。残された『KAKEXUN(カケズン)』の企画書はそれを反映して、四則演算(足し算、引き算、掛け算、割り算)を解くことで宇宙の深淵に迫っていくような内容、であるそうだ。

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▲来場者に配布されていたプロジェクトの紹介資料。

 会場ではプロジェクトメンバーがブースを構え、3月20日からMotion Galleryにて始まる本作のためのクラウドファウンディング賛同者を募集していた。「僕らは旗振り役。『KAKEXUN』は賛同者のみんなで実現する作品なんです」と語るのは、ワープ2の代表取締役CEOで本作の開発ディレクションを担当する佐藤直哉氏だ。
 クラウドファウンディングの目標額は第1段階で1500万円。達成できればワープ2のスタッフが中心となる開発チームで『KAKEXUN(カケズン)』の開発を進める。そしてプレイアブル版の準備ができ次第、賛同者にプレイしてもらい、フィードバックを受ける。そのフィードバックをもとに、また開発や実験を進め、みんなの手でみんなが望む『KAKEXUN(カケズン)』を追求していく。そういうプロジェクトになるとのこと。

 だから『KAKEXUN(カケズン)』の開発では、全参加者が自由であることが重要だし、完成までの長い道のりのあいだ、プロジェクトの独立性が高く保たれる必要がある。そのため、クラウドファウンディング以外の投資は受け付けない。第1回目の賛同者募集も、目標額に到達しなければ全額返金となるオール・オア・ナッシングの方式を採用した。

「実験と開発をくり返す、長いプロジェクトになると思います。それを通じて、みんながそれぞれ持っている飯野賢治像というものを、参加者皆で再構築していくプロジェクトでもあるんです。一般にお届けできるまでには何年もかかるかもしれませんが、いまでは飯野さんを知らない若い世代もいますから、そういった人たちに最高にブッ飛んだゲームを届けたい。それが飯野賢治というものだろうと思います」。いわば巨大な“飯野賢治を偲ぶ会”。その参加者全員が納得した段階で、ひとつの作品になる。そんなロードマップを、本プロジェクトの主導スタッフのひとり、グラスホッパー・マニファクチュアの飯田和敏氏が語ってくれた。
 飯野賢治氏と深い繋がりを持つゲームクリエイターが集まり、遺された企画書を皆の手で実現していく『KAKEXUN(カケズン)』プロジェクト。クラウドファウンディングという形を取ることで、その輪は日本ではじまり、世界にも広がっていくことになりそう。あなたも一口、乗ってみませんか?

※『KAKEXUN(カケズン)』公式サイト
※賛同者募集サイト (Motion Gallery)

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▲『KAKEXUN(カケズン)』プロジェクトの立ち上げ人、佐藤直哉氏(右)と飯田和敏氏(左)。

■『蒼き雷霆 ガンヴォルト』(インティ・クリエイツ)
 インティ・クリエイツが開発するニンテンドー3DS用のDL専用ゲーム『蒼き雷霆 ガンヴォルト』(アームドブルー ガンヴォルト)は、アクションゲーマーなら要注目の1本だ。8月にニンテンドーeショップで発売予定の本作は、“BitSummit 2014”の初日に稲船敬二氏による講演の中で初公開された。イベントでは、すでにプレイアブル公開されており、実際に遊ぶことができたので早速ご紹介しよう。

 動画からひしひしと伝わる通り、本作は『ロックマン』風テイストが強く感じられる横スクロールのアクションゲーム。14歳の超能力少年・ガンヴォルトが、雷撃能力を駆使して敵を撃破しつつドラマティックなステージを進んでいく作品だ。

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▲インティ・クリエイツのブース。ひっきりなしに来場者が試遊しにきていて、中でも海外からの来場者の割合が多かったような印象。
▲序盤のステージを試遊できた。クリアーまでの時間は10分くらい。

 特徴的なポイントは、基本の攻撃アクションが2段階に分かれていること。まず基本武器の銃“ダートリーダー”を敵に命中させると、その敵に雷撃が誘導されるようになる。“ダートリーダー”をたくさん命中させるほど誘導が強くなり、3発以上命中させてから雷撃を発動すると、最大のダメージを発揮。銃と電撃、双方を組み合わせて戦うのがミソというわけ。

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▲“ダートリーダー”をピチピチ当てて……。
▲誘導する雷撃で大ダメージ!

 ガンヴォルトの雷撃能力は防御にも使える。攻撃を発動していないあいだは、自動的にシールド状態になっていて、ダメージを受けてもライフの代わりに雷撃のチャージが減るという仕組みなのだ。食らいすぎればチャージがなくなり、雷撃が発動できなくなるので注意が必要だが、雷撃による防御と攻撃をうまく組み合わせることで、複数の敵キャラやボス戦での立ち回りに独特のテンポと戦略性が生まれているのがおもしろい。

 という感じで、本作は、ちょっとレトロ風な2Dアクションの味を持ちつつも、ド派手な雷撃アクションをメインに据えることで、爽快な手応えがある。本作の開発を指揮する津田祥寿氏によればメインターゲットは小中学生くらいの層で、敢えてライトノベル的な世界観、ちょっと中二病の入ったキャラクターデザインを全面に押し出してみたとのこと。ちなみに会場では、PC版の配信を希望する海外勢も多かったらしく、将来的にはSteamでのリリースも検討してみたいと語っていた。インディーズにプラットフォームの垣根なし?!

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▲“ダートリーダー”を素早く命中させれば、雷撃で複数の敵も撃破できるのが爽快!
▲ステージのラストはもちろんボス戦。激しい攻撃には雷撃のシールド効果が生きてくるぞ。

■野犬のロデム(ピグミースタジオ)
 伝説のゲームクリエイターが手がける新作、という触れ込みでプレイアブル展示されていた謎のプレイステーション Vita向けゲーム(プレイステーション Mobileで春配信予定)。
 原案者のラショウ氏は、かつて伝説的なファミコンゲーム『ボコスカウォーズ』を開発したゲームクリエイター。……のちにソフトハウス・イタチョコシステムを立ち上げてMac用ゲームを多数発表したり、仮面劇の役者をしたり、各種ショップを経営しては閉店させたり、ライブハウスでアーティスト活動をしたりと、理解不能なほどにマルチな活動をしてきた、いわば現代の数寄者。もはや生きかたそのものがアート。その発案による本作『野犬のロデム』もまた、ラショウ氏と同じくらい、理屈で理解するのが難しい作品だ。

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▲来場者がえらく黙々とプレイする試遊エリア。画面を見ても、どんなゲームかさっぱりわからない。
▲ラショウ氏はいらっしゃいませんか? ……犬のかぶりものをし、無言で踊り狂ってました……。

 ラショウ氏は犬のかぶりもので寝ていたり、踊っていたりしていたのだが、話をしてくれないので、本作の実制作を担当するピグミースタジオの小清水史氏にゲームの特徴について聞いてみた。
 曰く、プレイヤーは野良犬となり、世界を東西南北に探検できる。いろいろなオブジェクトに触れたり、食べたりできる。3人組の幼稚園児に襲われて殴り殺される。ほかの野犬を誘惑して仲間にし、『ボコスカウォーズ』テイストの集団戦で戦うことも。太陽と名乗る謎の物体が落とす何かを食べれば、頭の上に植物が生えてきて、ある条件をクリアーすると、それが収集アイテムに変わる。ゲームの目的は、とくにないらしい。というか、説明が要領を得ず、わけがわからない。いや、ゲームそのものがわけがわからないので、頭で理解しようとしても無理なのか?!

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▲PS Vitaの画面タッチでプレイする、わりとのんびりとしたペースのゲームだ。
▲とりあえず死ぬこともあるので、長生きが攻略の秘訣らしい。

 シュールな絵柄で表現された世界はすべてが奇妙だが、登場するものすべてが理解しがたい何らかのルールで結びついているのは確かだ。野良犬としての行動は、必ず何らかの影響を生み、いろいろと試していく中で、新しい相互作用が見つかっていく。
 例えば、食べたものはお腹の中で消化され、頭の植物の生育を助けたり、助けなかったりするのだが、最終的にはウンチとなる。そのウンチをいつまでも出さずにいるとガスが出てきて、画面端がモワモワッとなり、方向転換を司るアイコンの人が不機嫌になってタッチ不可となり、特定の方向にしか進めなくなったりする、など。……考えるな、感じろ!

 これはゲームというよりインタラクティブアートのと呼んだほうがいいかもしれない。本作をプレイして、理解できるようになったとき、僕らはきっと、思いも寄らなかった方法で、ラショウ氏の夢の中に迷い込んでいるに違いない。

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▲取材の後に見てみたら、ラショウ氏は疲れ果てて寝ていた模様。結局、ひと言も人語を話さなかった……。
▲「異常なまでの自由度!」……作者のラショウ氏がですね、わかります。