Project ACESのキーマンふたりが『インフィニティ』の秘密を語る!
バンダイナムコゲームスより、2014年配信予定のプレイステーション3向けF2Pタイトル『エースコンバット インフィニティ』(以下、『インフィニティ』)。本作のプロデューサーを務める河野一聡氏と、サウンドを担当する小林啓樹氏にお話を聞いた。
なおこのインタビューは、2014年3月1日に東京・デジタルハリウッド大学で開催された、河野一聡氏による特別講演の後に実施したものだ。講演の内容を前提にしている部分があり、また講演では本作の重要な情報が多数公開されているので、講演リポート(→こちら)と合わせてご覧いただきたい。
◆小林啓樹(こばやし けいき)氏
「『インフィニティ』は音楽面でも“原点回帰”。でも違う楽しみが得られるような工夫を盛り込んでいます」
――小林さんは『エースコンバット アサルト・ホライゾン』(以下、『アサルト・ホライゾン』)ではサウンドディレクターを務められていましたが、今回の『インフィニティ』での役割を教えてください。
小林啓樹氏(以下、小林) 今回はディレクターではなく、ひとりのサウンドクリエイターという形で参加しています。
――『アサルト・ホライゾン』では、音に関するすべてを監修されていましたよね。今回は、効果音などはほかの方に任されているのですね。
小林 SEについては、中西さん(中西哲一氏)に託し直しました。効果音は、改めて見直して、作り直してほしいと。私自身は、音声の監修や、BGMのアサイン……音の入りのタイミングの確認などを中心に見ています。
――『インフィニティ』における曲のコンセプトを教えていただけますか? オープンベータをプレイした限りでは、シリーズの集大成のような印象を受けましたが。
小林 それは、あえて狙ったところですね。まったく新しいものを作って……という考えもありましたが、今回の考えかたは、いままで、『アサルト・ホライゾン』以前の『エースコンバット』を好きだった方への回答を出したかった、ということがあるんです。どういう回答がいいか考えたときに、いままで“よい”とされていたものを、もう一度違う形で見てもらうとどうだろう、と。いままでの曲は、それぞれゲームに合わせて作っていたものですが、それをあえて組み直して、新しい雰囲気で味わってもらえるように仕立て直した、ということですね。
――新しく書き起こした曲もあるのでしょうか?
小林 監修する立場だったので、私自身は作曲はしていませんが、新しい曲もありますよ。ただ、先ほどお話ししたコンセプトに沿って、まったくの新曲といのは、あえてやっていません。とはいえ、重要なミッションのBGMでは、どうしても新しいBGM、印象深いものがほしいですよね。そこで、たとえばストーンヘンジのように懐かしい兵器が出てくるシーンでは、以前のストーンヘンジの曲をリアレンジしています。リアレンジしたものについては、非常に現代的なアレンジ……ビート感、リズム感をきかせたものになったりしているので、印象はかなり違うと思いますよ。実際、アレンジといっても、ほとんどいちから作り直しているんですよ。なにせ「ストーンヘンジってどんな曲だったかなぁ??」というところから作り直していますから(笑)。
――当時とは制作環境も違うでしょうしね。
小林 そうですね。以前の作品を遊んだ人は、「あの曲だ」とわかるような残しかたはしつつ、圧倒的に現代的な、いまの音楽として聞こえることを目指して作っています。
――音響面では、『アサルト・ホライゾン』で大きく飛躍したように思いますが、『インフィニティ』ではいかがでしょうか?
小林 もちろん今までのよい部分はちゃんと担保された形にしました。加えて今回は、“空間を感じるように作る”ということに気を付けています。“距離を感じる”といいますか、たとえば遠くの爆発は遠くに聞こえる、というような部分ですね。じつは、これは『4』のころにはかなり気を付けて、達成できていた部分でもあるのですが、今回は“原点回帰”のひとつとして、改めて力を入れています。
いま振り返ると、以前は演出を派手にする方向だったので、あまり効果的ではなかったところがあるのですが、今回はあえて地味な音を使うことで、その対比効果として、近接の音が生きてくる、といった感じですね。
――小林さんは、いままでのインタビューなどでも、「こういうゲームだからこういう曲、こういう音になる」と考えて音楽を作る、とおっしゃっていたと思います。『インフィニティ』では、従来よりもオンラインマルチプレイにも重点が置かれていますが、従来作とは違う、本作ならではの音楽のありかた、というのもあるのでしょうか?
小林 はい、あります。まず複数人数で遊ぶ場合、どういうときに盛り上がるのだろうか、と考えてみたんです。そのひとつとして、お互いに共通点を見つけて話題にして、「ああ、そうそう、これこれ!」となれば、話しは盛り上がりますよね。過去の曲をアレンジした背景には、みんなといっしょに盛り上がってもらう1要素にしてもらいたい、という思いを込めているんです。場面転換のときに聴き覚えのある曲が流れてくると、「この曲ってあれじゃない? ……ほらやっぱり来た!」となって、すごく盛り上がりますよね(笑)。
いままではもっと緻密に、映画のようにストーリーをたてて、ロールプレイさせていくものでしたし、つねにワクワクドキドキしてもらうために、全部が“知らないもの”である必要がありました。でもマルチプレイで、しかも久しぶりに『エースコンバット』を遊ぶ人のことも考えると、やっぱり知っているもののほうが楽しいですよね。しかも、自分の記憶にあるものと、どこか少し違う。そういうものなら、友だちとワイワイ盛り上がれるんじゃないかな、と。そういう考えかたにシフトしました。
――実際、ベータテストの感想をご覧になっていかがですか?
小林 正直に言うと、思ったよりは拒絶反応が少ないな、というのが率直なところです。もっと、「新しくないじゃないか」と否定されるのかな、と思っていました。なぜなら、私たちはつねに新しいものを作って、お客様と勝負をしてきた立場でしたから。
――確かに、「Project ACESは、今度はどんな手でくるんだ!?」と構えてしまう部分はありますね(笑)。
小林 それがいままでの楽しみかただったのだと思います。
――でも、好意的な反応が目立ちますよね。
小林 そうですね。『インフィニティ』のゲームとBGMアサインのねらいを、受け入れていただけたのかな、と思っています。
――ちなみに、講演で披露された『ZERO』と『The Journey Home』は大好評でしたが、これらの曲が『インフィニティ』で登場することはあるのでしょうか?
小林 うーん……(苦笑)。
――ちょっと存在が大きすぎますか?(笑)
小林 そこなんですよ(苦笑)。やはり、あまりに存在感がある曲は、さじ加減が難しくて、「いちばんの盛り上がりどころだから『ZERO』を」とはいかないんです。お客さんが、それを聴いて、曲ばかりに耳が行ってしまったり、「モルガン来るの? 来るの? なんだ来ないじゃん!」となってしまったり(笑)。よほどしっかり仕掛けを考えて、ゲームの核にするくらいの扱いにしないと、ああいう曲は使いにくいですね。あの曲を作った時点ではそこまでのねらいはなかったとしても、いまではお客さんみずからが音楽で楽しんでくれて、設定などとひっくるめて強い記憶を持ってもらえています。よほどの必然性がないと『ZERO』は起用できないですね。
――最後に、『インフィニティ』を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
小林 『インフィニティ』は音楽面でも“原点回帰”ですが、違う楽しみが得られるような工夫をたくさん盛り込んでいます。何が違うのかを探してもらうのもいいですし、新しい制作環境でリアレンジされた音楽を単体で楽しんでもらうのもよいでしょう。実際、単体で勝負できるだけのクオリティーは持っていると考えています。ぜひ、いままでと同様、音楽にも注目して楽しんでくださいね。
◆河野一聡(こうの かずとき)氏
「『インフィニティ』が受け入れられるかどうかが『エースコンバット』の未来を決める。危機感を持ってやっています」
――講演は盛り上がりましたね。ご感想はいかがですか?
河野一聡氏(以下、河野) ビックリしましたね(笑)。これほど近い距離で、直接ファンの方と対面するのは、ほぼない経験ですから。この方たちが、『エースコンバット』を支えてくれているんだなぁ、と。
――講演後には、とても緊張した様子のファンの方からサインを求められていましたね。
河野 本当に、緊張で手が震えるほど『エースコンバット』を愛してくれているなんて、それを生で見られたのは衝撃的でした。講演をやらせていただいて、むしろ僕のほうが満足感をもらえた感じで……もっとやりましょうか、これから(笑)。
――ぜひお願いします!(笑) 今回も、『インフィニティ』のオープンベータ以来続報がない中で、突然開催のアナウンスがあって驚きました。
河野 本当にバタバタッときまったんですよ。プロモーション担当も泣いていました(笑)。海外でオープンベータが始まる前に、海外ではプレス向けの発表をしましたが、国内ではずっと沈黙状態でしたよね。それが、「デジタルハリウッド大学さんから講演依頼が来ました!」「やろう!」「それじゃPRですね!」「それじゃあ……」という具合で。ちゃんと『インフィニティ』の情報を伝えられたかなぁ。
――いやいや、情報満載でしたよ。赤いアイガイオンなんて衝撃的でした。
河野 あれも、急に決まったのでたいへんだったんですよ。事前にどのタイミングで情報を出すかも決まっていなかったのですが、プロモーション担当者から、「河野さん、メディアさんも呼ぶので新情報を出してください!」と急に言われて、でもネタバレはまずいし……と。
――ありがとうございます(笑)。でもおかげで、情報を待っていたファンには、とてもうれしい内容になったと思います。
河野 やはり、いちばんお話しするべきなのは、オープンベータ後のフィードバックがどう消化されて、どう変わっているのか。現状の『インフィニティ』のステータスをお話しするのがいいだろう、と考えて、講演の内容を決めました。
――オープンベータには、想定以上のプレイヤーが参加したそうですね。
河野 日本は、だいたい想定通りでした。北米、欧州は想定の2倍くらいでしたね。驚いたのは、ロシアが多いんですよ。ロシア機を敵機にしちゃってるけど、大丈夫かなぁ(苦笑)。
――ロシアは、オンラインゲームを楽しんでいる人が多いのでしょうか?
河野 PCのオンラインゲームが盛んなようですね。東欧、とくにポーランドなども多いですね。
――プレイヤーからのフィードバックについては、想定通りのことも、予想外のこともあるかと思いますが、そのあたりはいかがですか?
河野 そうですね。想定通りという点では、たとえばマッチングについては、オープンベータの時点から、我々としても改善しないといけないと感じていた部分です。
予想外なほうは、初めてやる人たちにとって、『エースコンバット』のUIは、我々が思っている以上に難解なんだな、と気づかされました。これはシリーズが長く続くことの功罪だと思いますが、作っている側も気づかないうちに、暗黙知が入ってきてしまうんですね。「『エースコンバット』を遊んでいる人なら知っているよね」という前提で作ってしまう。初めて遊ぶ人にとっては、戦闘機は兵器を付け替えられるんだよ、機体を乗り換えたら兵器も変わるんだよ、というところからわかってもらわないといけない。いろいろな人、新しく興味を持ってくれた人に入ってきてもらいたいなら、そういう人たちにもわかるように作らなければいけないんだな、と改めて感じました。
それともうひとつ予想通りだったことは、「このゲームはおもしろい」ということですね(笑)。世界各国から帰ってきたデータを見ると、満足度のベンチマークが非常に高いんです。
――本当に評判がいいですよね。言いかたは悪いですが、「F2Pとか大丈夫なの?」と半信半疑だった人が、「やっぱり『エースコンバット』って楽しい!」と安心しているというか。
河野 そこは本当に、今日講演で説明した通り、一生懸命作っているんですよ!(笑) でもそこもいろいろ捉えかたがあって、海外では、「F2Pなら、本気なんだな」と感じる人も多いんですよ。「タダで出してくる製品なんだから、よほど自信があるんだろう」と。日本だと、また違った受け取りかたになるのでしょうが。でも本当に今回、本気で作っていますし、ゲーム性も非常に評判がいい状況です。
――今回、裾野を広げる、初心者に入ってきてもらう、という部分も重視されているかと思いますが、オープンベータを終えた時点での手応えはいかがですか?
河野 何しろ1週間というオープンベータ期間で、想定の2倍の人が来てくれたということで、まだ分析しきれていないんですよ。じつは海外でも、日本と同じく1週間のオープンベータを実施したのですが、同じ期間で、日本の4倍の人が参加してくれました。全体として想定の何倍もの参加者の中で、これくらいの人数は新規参加の方なのではないかな、という推測はしていますが。
――なるほど。正確な数字はまだわからないのですね。でも手応えはあるのではないですか?
河野 そうですね。ただ、『エースコンバット』の原点回帰を掲げて、「『エースコンバット』はここが楽しいんです」と伝えて、理解してもらって、遊んでもらって、運営して、『エースコンバット』を好きになってもらわないといけない。これはかなり難しいプロジェクトだな、とは改めて感じています。とくにF2Pですと、「タダだから遊んでみよう」と思って始めてもらえても、少しでもイヤなことがあると、「タダだし、もういいや」となってしまうんですよね。
――そこが難しいですよね。ある程度お金を払って購入したソフトなら、「せっかく買ったんだし、意地でも遊んでやる!」となるのでしょうが。
河野 最初からグイグイ楽しんでもらって、好きになってもらわないと、その猶予期間がすごく短いので。いままで作ってきたやりかたとは大きく違いますね。
――そのためにも、オープンベータのフィードバックは重視されているのですね。講演で解説されていましたが、要素の追加や修正の速さ、規模に驚きました。
河野 ミッションのランダム配置も、ユーザーからのフィードバックを反映したものなんですよ。だからたぶん、「俺が言ったから直ったんだぜ!」と言っている方がいると思います(笑)。
――配信時期について、講演では“そろそろ喜ぶ準備をしていただきたい”と表現されていましたが……?
河野 いまのところは、まだ2014年予定、ということで。ただ、公に出てきてPRを始めたわけですから……本当に、今月から動き出しますよ。
――ちなみに、先日プレイステーション4が発売されましたが、次世代機への対応はありうるのでしょうか?
河野 みんなそれを気にしますよね(苦笑)。やはり、つねにつぎのレベルの仕事を考えないといけないし……考えますよね。ただ、いまは、『インフィニティ』が受け入れられるかどうかが『エースコンバット』の未来を決めるだろう、というくらいの危機感を持って、力を入れて作っています。『エースコンバット』というブランドが、お客様にとって価値のあるものなのか、引き続き価値を持ち続けられるものなのかを、もう一度確かめたい。確かめられれば、先のことは、先回りして考えていかないといけないので。勢いをつけて、「いいプランに持っていこう!」となっていくと……信じています(笑)。
――最後に、『インフィニティ』を楽しみにしている読者に、メッセージをお願いします。
河野 いま、本当に開発はピークです。くり返しになりますが、ぜひ“喜ぶ準備”をしておいてください。今回『インフィニティ』はF2P型で、お客様といっしょに作っていく『エースコンバット』になります。サービスインした後も、お客様からのご意見、フィードバックを受けて、さらに進化させていきます。いまは“喜ぶ準備”をしておいていただいて、ゲームが始まったら、いっしょに『エースコンバット』をよくしていってもらえたらな、と思います。