スクウェア・エニックス和田洋一会長とブロガーとしても有名な山本一郎氏が登場した黒川塾(十六)リポート

ナビゲーター・コメンテーターである黒川文雄氏が主催・司会を務め、エンタテインメントのあるべき姿をポジティブに考える会“黒川塾”。2014年最初の黒川塾(十六)は、スクウェア・エニックスの取締役会長の和田洋一氏とブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社(代表取締役)の山本一郎氏がゲストに登場。

●テーマは“ゲームビジネス潮流観測 ~混迷の時代に新たな萌芽を探す”

 ナビゲーター・コメンテーターである黒川文雄氏が主催・司会を務め、音楽や映画、ゲーム、ネット、ITなどすべてのエンタテインメントの原点を見つめなおし、来るべき未来へのエンタテインメントのあるべき姿をポジティブに考える会“黒川塾”。2014年最初の黒川塾(十六)は、スクウェア・エニックスの取締役会長の和田洋一氏とブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社(代表取締役)の山本一郎氏というお二人がゲストが招かれ、2014年1月23日に開催された。

 今回のテーマは、“新春放談「ゲームビジネス潮流観測 ~混迷の時代に新たな萌芽を探す」”

 2000年代の前半から現在に至るゲームコンテンツにおける潮流の変化、海外と日本における開発、ファイナンス、スタジオカルチャーなど異なる事例を紹介しつつ、ゴールデンルールなき混迷の時代に、2014年のコンテンツとデバイスなどの萌芽の時代のあるべき姿を語り合う、といった主旨で進められた。今回のそのなかから、おもな内容をピックアップしてリポートしよう。 


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和田洋一氏。2000年4月、スクウェア入社。同年6月取締役兼CFO、2001年12月代表取締役社長兼CEOに就任。スクウェアとエニックスの合併に伴い、2003年4月からスクウェア・エニックスの代表取締役社長に就任。2008年10月から2013年6月まで持株会社スクウェア・エニックス・ホールディングス代表取締役社長を務める。2013年4月よりスクウェア・エニックスの取締役会長に就任。2006年から2012年まで社団法人 コンピュータエンターテイメント強化(CESA)会長を務めた。また、経団連 著作権部会長(2006年~2013年)、コンテンツ・日本ブランド専門調査会の委員(2007年~2009年)なども歴任。

山本一郎氏。1973年生まれ、ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社(代表取締役)にてゲームの企画・制作を行う。IT、政治、経済、ゲームなどの記事を執筆している。著書に「ネットビジネスの終わり」「情報革命バブルの崩壊」「リーダーの値打ち」など多数。

 まず、司会を務める黒川氏が、隆盛を誇ったスマートフォンにおけるビジネスモデルも一時の勢いに陰りが見え始め、任天堂の2014年3月期の通期連結最終損益が250億円の赤字に転落する見通しになったことなどを踏まえて、現状を“混迷の時代”と紹介。そんな中、今後のゲーム産業はどうなるのか、何が変わってくるのか、という問い掛けからスタートした。

 ちなみに、和田氏と山本氏は、ニンテンドーDSやWiiでゲーム人口の拡大に成功したものの、獲得した新たなユーザー層の多くがスマホや他のデバイスに流れてしまったことが、現在の任天堂の状況につながっているという見かた。ただし、だからと言ってスマホアプリなどに参入するのではなく、かつてニンテンドーDSとWiiで獲得した新たなユーザー層と、現在、スマホでゲームをプレイしている層の一部が重複していることを前提として捉えたうえで、どう舵を切っていくかがポイントだろうとの意見だ。


■パブリッシャーとデベロッパーの関係の変化

 最近、パブリッシャーとデベロッパーの関係に少し変化が出てきているという。家庭用ゲームのパッケージ販売が減少傾向にある一方で、定額課金やF2Pによるアイテム課金など、アップサイド(利益を上積みできる余地)で収益を得るソフトは増加傾向にある。パッケージ販売だけで十分にやっていけた時代では、デベロッパーからマスターROMが納品されれば、あとはパブリッシャーがどう売るか、という仕事となり、ユーザーと継続的な関係を築くのもパブリッシャーだった。だが、とくにオンラインゲームになると、ユーザーとより強いつながりを持つのはデベロッパーになるケースが多くなる。

 そこで和田氏は、今後のパブリッシャーの役割として「いままでユーザーに向けていたリソースはさほど必要となくなり、その分をデベロッパーに向け、作品を完成に持っていくプロセスでの、いままで以上の厚いフォロー、プロデューサー的な役割が重要になってくる」と語る。

 またここ数年、大手パブリッシャーでは、リスク回避やノウハウの蓄積といった観点から、家庭用ゲームの開発を絞り、さらに開発自体も自社のスタジオでまかなう、という回帰の傾向にあるという。すると、おのずと発売される家庭用ゲームのタイトル数自体は減ることになり、技術を持つデベロッパー、もしくはそのスタッフがインディーとして活動の場を移す、という流れも生まれてくる。

 そんなインディー系開発会社に期待するのはプラットフォーマーだ。プラットフォーマーはタイトル数が揃わないからと言って、コンテンツの品揃え減らすわけにはいかない。最近、ソニー・コンピュータエンタテインメントやマイクロソフトがインディー系開発会社の誘致に積極なのは、ゲームエンジンの進化で小規模開発が可能になり、作り手が増えつつあるという事情もあるが、開発経験者が独立してインディーズ系開発として制作に取り組むといった事情も背景のひとつにあるのかもしれない。「インディーシーンには、『風ノ旅ビト』など、いいものも出てきていますが、どれだけお客さんの心をつかむ作品が出てくるか。まだ過渡期といった印象。また、パブリッシャーに属さず、独自の路線で開発するインディーズ系開発会社が、ユーザーとの窓口を少人数のチームでキープし続けられるのかという問題もある。作品のクオリティーコントロールも含め、今後、インディーシーンに関してはプラットフォーマーの役割がとても重要になってくるでしょうね」(山本)。

■『FFXIV』のあの決断の背景

 ここからはスクウェア・エニックスの経営について話が及び、一旦サービスを開始した『ファイナルファンタジーXIV』を根本的に作り直す、という異例の事態になった当時のことが振り返られた。

 「ユーザーの皆様には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。また、経営者の立場から見ると、企業業績と『ファイナルファンタジー』ブランドへの信用が失われるのでは、との心配もありました。その上での(作り直しという)決断でした」(和田)

 その際、吉田直樹氏をプロデューサー/ディレクターに立て、開発のトップの交代させたことについては、「トップをすげ替えるのはよくない、冷たいと思われた方もいらっしゃったかもしれませんが、逆なんです。作り直すということは、『FFXIV』の陣頭指揮をとっていた者にとって、何年間もやってきたことを否定しなければなりません。しかも部下には、作ってきたものを壊わせと言わなくてはならない。昨日までと違うことを言わなければならない。それは拷問ですよ」(和田)と、開発トップを交代させたことの意図を明らかにした。


■HD作品で新たな勝ちパターンを見つけることが大命題

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 ここ数年、スクウェア・エニックスに限った話ではないが、新規IPが少なく、シリーズ作品やリメイクに依存し過ぎているのでは、といった意見が見受けられることについて、和田氏はどう考えていたのか。

 「私が2001年に(旧スクウェアの)社長になったときは、経営がかなり痛んでいたんですが、(ゲーム市場の)マーケットはよかった。ですので、制作チームに自信を持って作らせたら、打率5~6割でも業績はよくなるという算段がありました」(和田)。そこで、各クリエイターが自信を持って作ることができる、各々が過去に手掛けたIPを自由に作らせた後、新規IPを増やしていく戦略を取ったという。ただ、誤算があった。「新規IPへシフトするつもりでいた時期、スクウェア・エニックスは技術的なところでたいへんなことになっていました。それは現行機の初期のころだったのですが、正直言って、それが要因で(現行機では)すごく出遅れたんです。さらにその後、『FFXIV』にディレクタークラスの人材を多数割り振らなければならなかったこともあり、新規IPは出せたものもありましたが、出せないものもありました」(和田)。結果的に新規IPまで手が回らなかった、というのが実情だったようだ。

 そんな中、2009年にはアイドスを買収。その狙いについては「欧米向けのIPも増やしていかないと厳しくなる、という思いがあり、欧米のスタジオが欲しかったんです。加えて、スクウェア・エニックスはRPGが強い会社ですから、いい意味でも悪い意味でも、RPGに特化した技術が特殊なほど伸びてくるんです。その点、アイドスはアクション系やシミュレーション系といったRPG系以外にもさまざまな自社IPがあり、技術も揃っていました」(和田)。ちなみに、自社IPを持っているというのは、じつはかなり重要で、自社IPを持ってないといざ買収したとき、「基本となるコードがない」なんてことがよくあるのだとか。

 ディスクベースのパッケージが売れなくなってきている現状で、HDタイトルを開発し続けるスクウェア・エニックス。一方で、最近はスマホアプリやブラウザゲームなどについても力を入れてきている。これは大手メーカー各社も同様だが、これについて和田氏は、「まぁ。ブレるんですよ。ブレる。でも、1回ブレないとわからないこともあるので、あえてブレるのはアリ」と述べる。ただ、極端にブレるのはダメで、(コンシューマーゲーム開発などと)並走させることが重要だと説いた。

 では、コンシューマーゲームでHDを作り続ける理由は? 「最先端の技術を使うHDタイトル開発の火を一度落とすと、再点火はムリなんです。ですので、(作り続けることは)けっこうキツイんですよ(笑)」(和田)と大手メーカーの苦しい胸の内を吐露。これからはHDタイトルであっても、必ずしもディスクセールスは想定せず、それ以外のセールスモデルをどう作っていくかを試行錯誤中だという。つまり、いままでにない手法でHDゲームでの“勝ちパターン”を見つけるということが重要となってくる。「まだ答えは見つかっていません。スクウェア・エニックスは、今年もHD作品で新たなチャレンジをしてくれるはずです。試行錯誤することは当然ですが、いまはそこからの学習速度を上げるしか方法がないんです。ですので経営的には、もう少し、月額課金型のMMORPGやスマホ向けアプリなどに支えてもらわないといけない。そういった体制を敷いていたので、『旧FFXIV』の不調は、ものすごいダメージだったんです」(和田)。


■スクウェア・エニックスのお家芸の“RPG”の先行きは?

 スクウェア・エニックスといえば、『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズに代表されるRPGがお家芸。そのRPGはこれからどうなっていくのか。RPGの進化の先にあるものとは?

 「RPGは、没入できるだとかお客様に長い時間遊んでもらえる、という点ではすばらしいジャンルです。ただ、ひとつ思うのは、ゲームデザインの基本構造は同じになってしまう。そう見えないように工夫するには、ものすごく技術がいるんです」(和田)。同時に、ゲームのメカニズムはハードに依存する。そのハードで何ができるかでゲームのメカニズムが決まってくるという。つまり、プレイステーション4、Xbox Oneでは、新たなデザインのRPGが出てくる可能性はある。

■いまやトレンドはすぐに変わる。流行っているものをモチーフにして作る時代ではない

 ゲームの黎明期、『ドラゴンクエスト』も『ファイナルファンタジー』も、ある程度のヒットを見込んで作られたのだろうが、社会現象となるほどの大ヒットを目指していたわけではないはずだ。『ポケットモンスター』も『モンスターハンター』も同様だろう。そういう意味では、次の10年を支えられるようなコンテンツをどうプロデュースするのか。そう考えた場合「参考事例はないのでは?」と山本氏。

 これには和田氏も同意で、「ゲームをどうヒットするかなんて、ロジカルに説明することは絶対不可能」と断言。そこで必要となってくるのが「コンテンツを分散させること」(和田)。「何が当たるかわからないので、散弾銃を撃ち続けるしかない。そして、当たったときはスナイパーライフルに持ち替えて狙い撃つ。最初からスナイパーで狙っても当たるわけがないんです。また、ずっと散弾銃だと事業は拡大していかない」(和田)。ただ、他が当てたものを狙っても、「けっこう当たらない(笑)。本家のクオリティーに勝てない(ことが多い)」(和田)。自分(自社)で当てて、自分で狙い撃つ、ということがトレンドの移り変わりが激しいこのご時世では重要だという。山本氏によると、とくにソーシャルの場合、当っても8ヵ月ほどで廃れていくとのこと。つまり現在は、ヒットしたものを追いかけても、追いついたころには旬は終わっている、ということだ。


■今年から来年にかけて、ゲーム業界にどんな変化が起きるのか

 最後に、今後のゲームビジネスの展望について語られた。和田氏は、スマホやタブレットなどの世界的な普及、プレイステーション4、Xbox Oneといった新世代機の登場により、ユーザーの裾野が広がり、フロンティア(開拓できる市場)が広がってることは確実だと語る。「そのフロンティアを本気で開拓しようとし始めたのが、ほんの2~3年前。そろそろその練度が高まって、今年から来年にかけて、仕込んだものの芽が出てくるころでしょう」(和田)。

 加えて、作り手側にも変化が出てくるという。プラットフォーマーがインディー系開発に目をかけはじめた、というのはそのひとつ。また、クラウドファンディングという新しい資金調達手段も出てきた。ゲーム新興国の作り手も、ゲーム先進国の作り手と肩を並べるくらいのレベルになってくる。世界的に作り手の厚みが増す。

 また、クリエイターのコミュニティが発達し、ネットを通じて多国籍で開発する“クラウドワークス”といった作りかたも、今後はもっと増えていくだろうとのこと。これは、実際に会ったことのない国も地域もバラバラな作り手たちが、Skypeなどを通じてコミュニケーションを取り、クラウド上でゲームを制作するやりかた。つまり、一箇所に集まってゲームを作る必要性はなくなり、クリエイターどうしのコラボのようなことも簡単に可能になるのだ。「これはある意味、(メーカーにとって)脅威となる話ですけれど、チャンスにできる話でもありますよね」(和田)。山本氏によると、実際にそういった多国籍のチームがすでにあるのだとか。そういった開発手法が当たり前になってきたとき、日本のメーカーはどう立ち回ればいいのか。「多国籍の特殊なチームは、物語性があるものを付与するなど、ユーザーの心を掻き立てる工夫はできないケースが多いんです。そこはパブリッシャーの議論じゃないですけど、プロデューサー機能をメーカー側でこだわってやれる部分です。今後、アニメなどといっしょで、作画などアニメーター的の機能は外部に出ていくかもしれないけれど、ストーリーテリングの部分であったり、世界観を作り込むといった部分は、日本人の妙なこだわりでやっていける」(山本)。言い換えれば、そのこだわりもなくなってきたら、日本のゲーム産業は、いよいよ厳しい、ということだ。


 結論めいたものはとくになく、山本一郎氏らしい過激なモノ言いに、和田氏もたじろぐ場面も多々あった今回の黒川塾(十六)。ただ、おふたりの共通認識としてあるのは、今年から2015年にかけて、コンシューマに限らず、PC、スマホ、タブレット向けなどを含めたゲーム産業は、大きく変化していくだろうということ。いまはまさにその過渡期。そんななか、スクウェア・エニックスはどう立ちまわっていくのか。筆者個人的には、スクウェア・エニックスらしいAAAクラスのHDゲームのビジネスモデルがどう確立されるかが非常に気になるところ。新世代機であるプレイステーション4、Xbox Oneが国内に登場する2014年以降、どんなゲーム体験をもたらしてくれるのか、楽しみにしたい。