プレイステーション4がもたらすゲームの未来とは?

 いよいよ、新世代のゲームマシン“プレイステーション4”が日本での発売を迎える2014年。PS4がもたらすゲームの未来や、日本での展開などについて、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(SCEJA)の河野弘プレジデントにお話しを聞いた。

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ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア
プレジデント
河野弘氏

昨年からはSCEJAとなってアジア展開を視野に

――昨年から御社はSCEJAとなり、アジア地域も含めた展開を行うようになりましたが、どんな変化がありましたか?

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河野弘氏(以下、河野) まずひとつは、日本のスタッフたちに、アジアを視野に入れて活動するという意識が出てきました。また、アジアでキャリアを積めるチャンスが生まれたことで、モチベーションも高くなりましたよね。それはアジア担当のスタッフたちも同様で、日本のビジネスの経験を積めることが、大きなモチベーションになっています。

――社内の士気向上という点で大きな効果があったわけですね。ビジネスとしても重要な意義があったのではないですか?
河野 はい。アジアのマーケットのポテンシャルが大きいのは明白で、将来の有望な市場として、我々がつねにアジアを視野に入れて、経営のリソースを、アジアの成長のために投下していくことは、大きな意義があります。ゲームメーカーさんと話をするときも、日本での展開と同時に、アジア展開のお話を持ちかけることができるようになりましたからね。

――近年では、アジア展開を意識されるゲームメーカーが増えていますよね。
河野 そうなんです。我々も、“ジャパンアジア”になることで、アジアでの展開やマーケティングを、きちんとプレゼンテーションできるようになりました。最たるものは、昨年12月に開催したPlayStation Award 2013ですね。まずは門戸を開いて、アジアからの投票を受け付けてみたところ、本当に大きな反応がありました。始めたばかりで、まだまだこれから、という部分はありますが、今年はもっと積極的にやっていきたいと考えています。

欧米でのPS4の好発進が日本のゲーム業界も元気づけた

――昨年はPS4にとって大事な1年だったと思います。ここまでを振り返っていかがですか?
河野 まさに2013年は、PS4の仕込みをやった年でした。SCEのグローバルな視点で、PS4をどうやってデビューさせるか、かなり議論を重ねました。結果的に、課題はいろいろありますが、描いたシナリオの通りに、着実に遂行していくことができたと考えています。

――先行して発売された欧米では、発売直後から爆発的に勢いが出ましたよね。その要因をどのように分析されていますか?

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▲北米での発売日の様子(現地時間2013年11月15日)

河野 やはり、PS4を遊んでくださるユーザーさんが、何を望まれているのかをしっかり意識して戦略を立てることができたからだと僕自身は思っています。そこはずっと社内でも議論を続けましたし、いままでの発表の場でも表現することができました。そして何より、PS4を、ユーザーさんが望むことを実現できる仕様にできたこと。それが大きいですね。

――それが順当に結果として表れた、と。
河野 はい。リリースをされたように欧米でも販売は順調ですし、その数字以上に、私たちが「こんなふうに遊んでほしい」と願った通りに、ユーザーさんが遊んでくれて、盛り上がってくれていることも、とても実感しています。じつは日本のゲームメーカーさんからも、「非常に元気づけられた」と言っていただくことが多いんですよ。これから家庭用ゲームがどうなっていくのか、また勢いが出てくるのか、不安な部分もある中で、PS4がこれだけの勢いを作ることができたことで、多くのゲームメーカーさんが、「俄然やる気が出てきました」と。これは本当にうれしいことですね。

2013年はPS Vitaが“活性化”ユーザー層は大きく拡大

――2013年は、PS Vitaにとっても、大きな成果が得られた1年だったのでは?
河野 昨年のPS Vitaについては、“活性化した”という表現が正しいと思います。非常に完成度の高いハードとしてデビューしましたが、そこからファンを増やすうえで、更に幅広い層のもっと女性の方や、若い方たちに買っていただきたいという思いがありました。そこで秋にカラーバリエーションを増やし、軽量化した新型PS Vitaを発売したところ、全PS Vitaユーザーの10%ほどだった女性ユーザーが、20%程度にまで増えてくれました。従来より若年層の方が手に取ってくれるようになったというデータも出ていますし、目的を達することはできたかな、と思っています。

――PlayStation Vita TV(以下、PS Vita TV)という新ハードも登場しました。
河野 PS Vitaのシステムを使用しながら、テレビでゲームやビデオサービスが楽しめる、おもしろいマシンですよね。発売後は、ゲームはもちろん、ビデオサービスを利用される方も増えているんですよ。お客様に長く楽しんでいただける商品だと思いますし、私たちとしては、“TVにつないで遊べるオモチャ”として、みんながTVに集まってくるようにしたいんです。そのために、今後もコンテンツを強化していきたいと考えています。最先端のゲームの楽しみを突き詰めたのがPS4だとしたら、ゲームも含めたプレイステーションのエンタテインメントを幅広い層の人達にカジュアルに楽しめるようにしたのがPS Vita TVです。正反対のようなハードですが、どちらも、プレイステーションの最良の提案だと考えています。

PS4の“SHARE”機能から新しい遊びが生まれる

――改めて、PS4の魅力を教えてください。
河野 まずは正統進化ですよね。グラフィック能力などの進化については、非常に高く評価していただけています。もうひとつは、やはり新しさがあることです。ネットワークを使って、ソーシャルネットワークと連動したり、多彩なデバイスとの連動ができる。とくに、発売後に多くのお客様が、「改めて楽しさを認識した」と言ってくださっているのが、ゲームプレイなどをブロードキャスト(生配信)できることです。これはユーザーさんはもちろん、日本のゲームメーカーさんにも、おもしろいと言っていただけています。

――ブロードキャストは、ゲームを供給する側の目線でも、おもしろい機能なんですね。

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▲SHAREボタンを押し、配信先を選択するだけで、すぐにブロードキャストを開始することが可能。

河野 ええ。当初は、権利問題などで心配されていた方もいたと思いますが、配信不可の部分を指定できるようにするなど、事前にしっかり対応をしましたので、安心していただけたというのもあると思います。そして実際に欧米のユーザーさんが本当に、楽しそうに反応しているのを確認して、改めてブロードキャストの魅力を実感していただけました。いまは、この機能をどうやって活用していくといいのか、皆さんといろいろと議論をしているところですね。

――実際、欧米の皆さんは、発売直後から驚くほど積極的に活用されていますよね。
河野 皆さん、楽しまれていますよね(笑)。おもしろいのは、生配信している人はもちろん、見ている側の人の動きも、非常に活発なんです。ライブを見ながらたくさんコメントを付けたり、別の人が新しいタイトルの配信を始めると、今度はそちらにわーっと人が流れたり(笑)。

――カメラで顔を写して、マイクで実況しながら配信している人も多いですね。
河野 じつは欧米発売後に、日本でのカメラつきの本体の予約が増えているんですよ。実際に体験することで、カメラがつくことのバリューが具体的に見えたというのもあるのではないかと思っています。

――欧米ではアグレッシブな人が多いぶん、親和性が高い機能だと言えるかもしれませんね。日本では少し事情が変わる面もありそうですが?
河野 でも私は、とても期待していますよ。誰かが新しいことをやり始めて、スター、オピニオンリーダーが生まれるかもしれない。

――新作を真っ先に生配信してくれる人などは、有名人になれるかもしれませんね(笑)。
河野 「あのゲームは誰が最初にプレイ映像を共有するんだ?」といったワクワク感はありますよね。

――感覚としては、ひとつの機能というより、大きなコンテンツになっている感じですね。
河野 本当にそうですね。新しい遊び、コミュニティーが生まれつつあると思います。主役はユーザーで、ユーザーさん次第で、もっともっと、遊びを編み出すといいますか、遊びかたを創り出していけるものだと思います。

ユーザー、制作者からスターが誕生する予感

――PS4では、PS Vitaやスマートフォンなどとの連動機能も、大きな注目を集めているポイントですよね。

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河野 そうですね。私は、PS4が出たことで、プレイステーションの核がはっきりしたと考えています。いままでは、PS3はPS3、PS VitaはPS Vita、そしてPS Vita TV……と個別に見えていたのが、いまはPS4が中心にあって、いろいろなデバイスが連動し、遊び方とその価値が連動するということがとてもクリアになりました。

――PS4は欧米では最大の商戦期に発売されましたが、PS Vitaの売り上げも上がっているそうですね?
河野 やはり、PS4との連動の楽しさをわかっていただけたからではないかと僕自身は思っています。「PS4を中心にプレイステーションの世界が広がっていく」というのは、PS4が日本でデビューする今年、プレイステーションの世界を語っていくうえで、非常に重要なメッセージですね。

――クラウドサービス展開についても、もう少し詳しく教えていただけませんか?
河野 現時点では、まだ具体的にはお知らせできません。情報は随時発信していきますので、まずはそのほかの遊びを楽しんでください。

――PS4では、インディーゲームにも力を入れていくとのことですが、改めてその狙いを教えていただけますか?
河野 私たちは、プレイステーションの世界に、いろいろな人たちが入ってきやすくなるようにすることが重要だと考えています。ユーザーさんに、プレイステーションを身近に感じてもらえるようにするための努力は、つねに続けていますが、より活性化させるためには、ゲーム制作者が入ってきやすくすることも不可欠です。その点、インディーゲームのポテンシャルはとても大きいですし、どんどん入ってきてもらいたいですね。

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▲E3 2013では、大手メーカーの大作と同列に、有望なインディーゲームも紹介された。

――先ほどブロードキャストからスターが誕生する可能性を指摘されていましたが、インディーの世界でもスターが誕生する可能性はありそうですね。
河野 生まれてほしいですよね。そうなれば、ゲーム業界全体が賑わいます。そのために、日本の制作者が欧米でデビューしたり、その逆ももっとやりやすくなるように、リリースのプロセスもできるだけ簡略化していきます。そこはグローバルで変えているところです。

――無名だった人が、一躍世界的なクリエイターに、というのは夢がありますね。
河野 いまはそういう時代ですよね。才能はあるけれど、表現のしかたや、公表のしかたがわからないせいで埋もれていたような人でも、いまはいろいろなデビューのチャンスがある。世界各国に、いろいろな才能があるわけですから、それを拾い上げられるプレイステーションにしたいと思っています。“ゲームやろうぜ”でいろいろな人たちがメジャーになっていったように、プレイステーションはもともと、そういう試みを続けてきたプラットフォームなわけですから。

ゲーム業界を楽しい場に それがみんなをハッピーにする

――昨年はXbox Oneも発売となり、新世代の家庭用ゲーム機が出揃った形になりました。PS4が絶好調のスタートを切ったとはいえ、ほかのプラットフォームの動向は意識されているのでしょうか?

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河野 この業界にいる限り、やはりすべてのプラットフォームに対する意識はありますよ。でも、直接の競争として、勝った負けたとか、シェアが高い低いといったことは、意識しない……というと嘘になりますが(笑)、それがすべてではないんです。いちばん大事なのは、業界が伸びて、広がること。そして、つねに楽しい場であることなんです。

――ゲームファンにとっては、間違いなく、それがいちばん理想的な状況ですね。
河野 楽しいことを、各社が各プラットフォームでもたらして、お客様が目移りするほど楽しいのならば、それはとても健全ですよね。これがITの世界だと、“勝者がすべてを手に入れる”というのが当然の考えかたになるのかもしれませんが、ゲームはそういう世界ではない。いまよりももっと、各社から楽しさの提案が各社から出てきて、それをお客様が楽しめること。それが最終的に、みんながハッピーになることにつながると思っています。

PS4は地域間で奪い合いの状況 予約の数が重要に

――いよいよ今年は、日本でPS4が発売されます。待ちわびていたゲームファンも多いと思います。
河野 発売タイミングは、かなり真剣に、深く議論しました。日本の発売日がほかの地域よりも後になったことについては、皆さんがとてもがっかりされたことはよく理解しています。社内のスタッフたちも、プレイステーションを愛している、ある意味でいちユーザーの集まりでもあるわけですから、「日本で最初に発売しよう」という意見も、とても強くありました。みんな悩み抜いたうえでの結論です。でも決めたからには、あとは、日本のお客様を大事に思っているということを、アクションで伝えていかなければいけないと。この努力は、これからもまだまだ続けていこうと思っています。

――発売日を2月22日とゾロ目にしたのは、とてもプレイステーションらしいですよね。
河野 じつは、数字の並びは意識せずに決めたんですよ。まず今年度中には絶対に、ということと、土曜日に発売する、ということは大前提でした。そこから、年明け早々の1月では準備が難しいし、かといってあまり遅くなってもいけない。それなら2月だろう……と絞り込みを進めていくうちに、この日になりました。

――昨年の10月から予約受付が開始されましたが、予約の状況はいかがですか?

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河野 想定通りですね。以前プレコミュでお伝えしましたが、昨年中にご予約いただいた方には、必ずお約束通り、発売日にお届けできるように調整しています。これは「努力します」ではなく、“約束”です。

――欧米ではかなりの品薄になっているとの報道もありますし、それを聞いて安心したゲームファンが多そうですね。
河野 今回は、生産の状況が把握できていますから、PS3のときのように需要と供給のギャップによる大きな混乱は抑えられると思います。でも、確実に手に入れていただくために、購入を予定されている方は、予約をしていただいたほうがいいと思います。

――これから予約をしても、発売日に入手できる見込みはありますか?
河野 現時点ですと、できるだけお応えできるように努力します、としか言えないんです。生産体制を敷いて、可能な限り需要にお応えしていきます。

――発売日には、記念イベントなどは予定されていますか?
河野 賑やかにしたいですね。たとえば日経新聞などを見ると、重要なイベントのカレンダーがありますが、そこに、サミットや消費税導入などの出来事に混ざって、PS4の発売日もしっかり載っていたりします(笑)。それくらいの出来事ではあるのですが、発売を楽しみにしてくださってるユーザーさんと一緒に祝えるようなセレモニーにしたいと思っています。

PS4はゲームをさらに発展させる大きな“ニュース”になり得る存在

――本体と同時発売のソフトラインアップについては、どのように考えておられますか?
河野 同時発売で26タイトル(2014年1月7日現在)が揃いましたが、楽しみなのは、私たちが普段からお付き合いさせていただいている日本のパブリッシャーさんのタイトルから、欧米のタイトルまで、バラエティー豊かに揃っていることです。最近は欧米のゲームにもとても勢いがありますから、皆さんがどんなふうにタイトルを選ぶのか、非常に興味深いですね。

――その中で、河野さんがとくに期待しているタイトルはどれですか?

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『KNACK(ナック)』

河野 SCEワールドワイド・スタジオのタイトルでは、やはりPS4のFirst Limited Packに同梱される『KNACK(ナック)』です。総監督を務めたマーク・サーニーは、PS4のリードシステムアーキテクトで、いちばんPS4を知っている人物ですから、ほかのクリエイターから見れば、「ズルいよ」となるかもしれません(笑)。そして彼が作るタイトルは、つねにみんなに愛される、誰もが楽しめるものになります。ですから、期待はとても大きいですね。そもそもそれくらいの期待作でなければ、同梱ソフトにしようとは思わないですよ。

――ほかのゲームメーカーさんからリリースされるソフトも強力ですね。
河野 日本のゲームメーカーの皆さんには、PS4と同時発売できるよう、かなりの無理をしていただきました。その思いにはとても感謝していますし、私たちとしても、しっかりお客様にもお伝えして、ゲームメーカーさんの気持ちに応えたいという思いが強いですね。

――PS4発売日以降のタイトルラインアップについてはいかがでしょうか。継続して新作が発売されると期待してよいのでしょうか?
河野 コンスタントに発売されるように計画しています。3月にはKONAMIの小島秀夫監督が制作されている『メタルギア ソリッド V グラウンド・ゼロズ』が発売されますし、その後も、まだ発表できてはいませんが、いろいろなタイトルが控えています。これからどのように発表していくかは検討中ですが、楽しみにしていてください。

――PS4用タイトルでは、PS3とのマルチタイトルについて、アップグレードプログラムが発表されています。これは、今後継続的に適用されるものなのでしょうか?
河野 今後のことは、まだ最終決定ではありませんが、基本的には、導入時期のためのプランだと考えています。やはり私たちの気持ちとしては、PS4版で遊んでいただきたいので、そのためのお誘いのプランという位置づけですね。

――PS3は依然主力マシンとして、新作タイトルが絶えず発表されていますが、PS3とPS4の併存期間はどれくらい続くとお考えですか?
河野 難しいですね。ハードとソフトとを分けて考えると、PS3はあれだけの台数が普及しているわけですから、それに向けてソフトを提供するという選択は、ゲームメーカーさんとしては当然あるでしょう。ハードに関しても、基本は併売していきますので、あとはユーザーさんにどう選んでいただくかです。ただ私たちとしては、PS4を真ん中において戦略を立てる、と言う部分が強くなっていくのは確かですね。

――それで最後に、ファミ通読者にメッセージをお願いします。
河野 本当にお待たせしてしまって、申し訳ありません。待っていただいただけの準備はできましたし、安心して遊んでいただける環境になりました。プレイステーションの据え置き型ゲーム機としては7年ぶりの発売日ですから、ぜひカレンダーの2月22日にマークをつけて、この日をイベントとして楽しんでください。最近では、「家庭用ゲーム機はスマートフォンにシフトしていくのか?」といったことも言われますが、私たちは、それだけではないと考えています。もっとゲームを発展させたいという思いを持っているクリエイターさんはたくさんいますし、それを盛り上げていくためには、ニュース”が必要です。PS4には、それをもたらせる可能性があります。ぜひ皆さんもいっしょに、大きな盛り上がりを生み出していきましょう。