昨年、クラウドゲームマシン“G-cluster”(ジークラスタ)を発売した、Gクラスタ・グローバル。発売から約半年を経て、どのような展開を見せていくのか? 同社取締役会長の橋本太郎氏に話を聞いた。
テレビへの組み込みなども含めた3本柱で大台を目指す
――昨年はG-clusterのサービスがスタートしました。今年はどのように展開されていくのでしょうか。
橋本太郎氏(以下、橋本) スマートTVなどへの組み込みが進んでいて、テレビを買うとG-clusterをすぐ遊べるというモデルが、今年1年間で100万台ほど出荷されるはずです。そこで、そのうちの何割ぐらいの方に使って頂けるか。ブロードバンドに繋ぐこと自体は一般化してきているので、そこのマーケットを狙っていくと。
我々の事業としては、IP放送の事業者と組む、テレビ内蔵、そして自社端末(ハードウェアとしてのG-clusterを経由したサービス)、世界中でこの3本立てで進めていくことで、どこかでパッと火がつくようなタイトルをズラッと投入できれば、大きな数字も夢ではないかなと、そんなビジネスモデルを考えています。
PS Nowの登場は好機
――今年のCESでは、ソニーがGaikaiの技術を使って“PlayStation Now”というクラウドゲームのサービスを開始することが発表されています。それについてはいかがですか?
橋本 すごくいいニュースだと思っています。要するに、(G-clusterは)実際に触ったり見たりして頂いた人は驚くことなんですけども、コンシューマーブランドではないので、なかなか火がつきにくい。でもソニーさんが真剣に取り組むことでそちらに目が行って、(クラウドゲームサービスとして)比較してもらえるようになる。
Gaikaiはキャリア(直接消費者にサービスを提供する)としてのビジネスをやっていませんでしたが、我々は通信技術も含めてエンジニアに自信がありますし、実際にこうして世界中で動くものをすでに提供していますので、非常にいいのではないかと思います。
――クラウドゲーミング自体にスポットライトが当たるようになると。
橋本 そうなんですよ。結局、1社で全世界を取りに行けるかと言うと、お客様が覚醒するにはどうしても時間がかかる。でも大手が入ってくると一気に進むので、そこで拮抗できれば我々にとっては大勝利。そんな風に考えています。(クラウドゲーム自体が広まり)「テレビを買ったらクラウドゲームがついてる」という世の中になればビジネスチャンスは増えますので。
ゲームをしなくなった人にも、もう一度家庭のテレビでのゲーム体験を
――初期のスマートTVなど、“そのために作ったようなゲーム”が入っていて、遊んでみて「うーん」というところはどうしてもありましたが、そこにちゃんと作られたゲームを提供できるという強みは感じてらっしゃいますか。
橋本 そうですね。何と比べるかによって違ってくると思うのですが、例えばこのサービスとプレイステーション4を比べるかというと、そういうものではないじゃないですか。
でも、かつてゲームをやっていたけど、すでにやらなくなった人というのは沢山いるわけです。麻雀とかブラックジャックをちょっとやるとか、そういうライトな感覚で、もう一度ゲームに接してもらう。今の子供はDSやiPhoneでこう(視線を下に落として一人で)ゲームをやっていますが、もう一回家庭にゲームを一台、家庭のテレビでゲームを遊ぶ、家族一人一人が遊べるゲームがそこにあるというのをひとつの目的としてやっています。
――海外にいると、親があげたタブレットで子供がゲームを遊んでいる姿などをよく見かけました。それはそれでいいのですが、居間のテレビでゲームというのは、それとは別の良さもありますね。
橋本 “子供に一緒にゲームを遊ぶ”ことが、今は子供が遊んでるのを横から親が覗き込む形になってきていると思うんです。昔は居間で子供が『信長の野望』を遊んでいるのを後ろから見て「お前、城の守りも大事だから。攻めればいいってもんじゃないんだよ」なんて言ったりしてたのが、我が家では貴重な経験でしたね。
橋本 ただ、(かつてゲームを遊んでいた層が気軽に遊べる)簡単なタイトルはすでにそれなりの数あるのですが、ゲーマーが来ると「全然だめじゃないか」という話になる。そこのバランスをやっぱり考えなければならなくて、それなりのAAAタイトルをこれからも出していきますし、満遍なく皆様に愛していただけるサービスを目指すのは、やはりやっていかないといけない。そこに気をつけてやっていくのは初期の反省点ですね。
――そうして拡充していくことで、サービスもすでに動いているし、テレビメーカーにも導入するメリットになると。
橋本 はい。かつてこういったサービスも、独自の圧縮技術とかを作って、更地から端末も作らなければならなかった。Onlive(クラウドゲームのメーカー)もコーデック(ゲーム画面をストリーミングするための圧縮方式)が独自のものだったから、対応できる端末がなかった。それでは専用機と一緒ですよね。
そうではなくて、そういう部分はジェネリックなものを使う。(デモ機を指して)今これも独自なのはG-clusterのアルゴリズムの部分で、コーデックはH.264で動かしています。だからあらゆるセットトップボックスに実装してきましたし、スマートTVにもすぐ載せることができる。そういうアプローチでやってきました。
――メーカー側が「これに載せたい」と思った時にすぐに載せられる形態にしておくというのは、最初から狙っていた部分なのでしょうか。
橋本 そうです。なぜかと言うと、今でこそ自社端末を作っていますが、当初は世の中に出ているセットトップボックスに実装して通信キャリアに持っていったものの、採用してくれなかった。そこでキャリアが採用したセットトップボックスに導入する形に切り替えて今日に至っています。
ゲーム機のプラットフォーマー並みに独自に大々的にローンチさせるとするとなかなか大変なのですが、すでにIP放送の端末が世間にたくさん出ていますから、そこで「面白いね」と思った人が入ってきてくれる。
――気がついたらそこにあるという状態。
橋本 いずれはそこにたどり着きたいと思っています。ただ、このタイミングでテレビメーカーさんに採用して頂けるようになったのは、自社端末を出したことが大きいんです。「これは本当に来るんだ」というのがわかったから導入して頂けた部分もあると思うんですね。なのでこの端末は、コンセプト証明の一環、プロモーションの一部にもなっています。
そうやって広まって、実際にはIP放送を契約したら、テレビをブロードバンドに結線したら遊べるということでも構わない。
――必ずしも自社ハードウェアに固執するのではなくて、デジタルプラットフォーマーとしても機能できると。
橋本 そうなんです。Cox(アメリカのケーブルテレビ事業者)などでは劇的な短納期でスタートできました。それは輸出の形で、(自社端末と)同じ端末を使ったんです。トップが「こういうことをやりたい」と思ったら、2・3ヶ月でスタートできる仕組みにしていまして、世界中のオペレーターさんと話をしています。すぐにスタートできるのも強みですね。
――今年のCESもお忙しいのでは?
橋本 明日などはスケジュールがグチャグチャしていますが、とにかく人を集めて理解してもらうという段階ではなくなって、話が進んでいる先が多いので、去年と比べると大分まったりしていますね(笑)。
ちなみにNVIDIAさんのブースに出展されているShield(携帯ゲーム機型のAndroidマシン)なども、大半がG-clusterの技術で動いています。
――NVIDIA GRID(クラウドゲームのサーバー側技術)のプレスリリースを見た時にGクラスタ・グローバルの名前が入っていて、最初見たのが英語資料だったので「この“G cluster Global”って、もしかして?」と驚いたのを記憶しています。
橋本 こういう技術は最後はチップレベルの所が大事ですので、やはりチップメーカーさんとは仲良くさせて頂いていますね。CPUもそうですが、中でもサービス全体にとってGPUはとにかく重要な部分なので。
――話は変わりますが、独自のゲームも作られていますね。スマートフォンをサブデバイスとして使えたりもする。
橋本 今考えているのが、スマートフォンのゲームだと、マルチプレイなども出来ても、(テレビを指して)このサイズの画面ではできないし、無理やり出力してもそんなに面白くないじゃないですか。
でも例えば麻雀なら自分の牌がスマートフォンの中にあって、テレビの画面を見るとみんなが何をやっているかがリアルタイムに合成されて出ていたりすると、結構なにをやっても面白いなって気がしていますね。
――それは環境としてユニークですね。
橋本 開発するためのSDKなども配布に向けて作業を進めています。コンパクトかついい形のものにするのに時間がかかっていますが、今年配布するところまで持って行きたいですね。今は開発にあたってGクラスタ側で結構サポートをしなければいけない状態なのですが、面白いプラットフォームなので広げていきたい。コンテストなどもやりたいですね。
――サービスとともにコンテンツの幅も広げていくと。
橋本 昨年は自分たちが想定していたより早く思い描いていたものを実現できた1年だったので、その流れを止めずにやっていきたいと思います。