『ドラゴンクエスト』が スマートフォンに あらわれた!
多くの人に驚きを与えた、『ドラゴンクエスト』(以下、『DQ』)ナンバリング作品のスマートフォン展開。プロジェクトのキーマンである、スクウェア・エニックスの三宅有氏と藤本則義氏に、プロジェクト開始の経緯や狙い、『DQ』へのこだわりなどについて聞いた。
※本記事は、週刊ファミ通12月19日号(2013年12月5日発売)に掲載されたものと同内容です。
※インタビュー実施日は、11月15日です。
三宅有氏(右)
スクウェア・エニックス プロデューサー
藤本則義氏(左)
スマートフォン版『DQ』は、2年前にすでに始まっていた
──本プロジェクトの狙いを、ズバリ教えていただけないでしょうか。
三宅有氏(以下、三宅) できるだけ多くの方に、手軽に歴代ナンバリング作品を遊んでいただける環境を作ること、ですね。じつは、スマートフォン版の『DQVIII』は、2~3年前には作り始めていたんですよ。
──えっ、そんなに前からですか?
藤本則義氏(以下、藤本) 『DQVIII』がスマートフォンで動くね、というところから始まりました。スマートフォンに移植するうえでいちばん大きかったのは、タッチ操作の存在です。とくに『DQVIII』はカメラを自由に動かせるので、それをいかに快適に遊べるようにするかという研究に1年以上かかりました。そのままだと容量もメモリも足りず、最新のスマートフォンでもようやく追いつくかな、という感じでした。それをスムーズに動かすまでがたいへんで……技術的にも、スマートフォンでプレイステーション2(以下、PS2)レベルのものを動かすというのは、けっこうすごいことだと思います。
──スマートフォン市場が広がったからというわけではなく、技術的な検証が先行していて、後から情勢が追いついてきた、ということなのですね。『DQVIII』は、たとえばリメイク作品として家庭用ゲームで出せば、100万本以上は見込めるタイトルだと思います。それをあえてスマートフォンに出すというのは、非常に大きな決断だったのでは?
三宅 スマートフォン市場は、大きな可能性を持っていますし、ゲームが動く最大のプラットフォームでもあるわけで、そこで展開することは必然でした。また、いままでの家庭用ゲームでのリメイクは、新しい要素やリメイク版ならではの遊びを入れていたので、非常に時間がかかっていました。本当は、過去作を含めて、『DQ』シリーズを1ハードで全部揃えたいと昔から思っていたのですが、そういった意味で、いつも間に合わなくて……。今回はがんばって、「まとめてやるぞ」と。10年後、スマートフォンがどうなっているかわからないし、毎年1タイトルずつでは遅いですしね。
藤本 「スマートフォンでやるんだったら本気出してみようぜ!」と。『DQVIII』くらいのクオリティーのゲームをスマートフォンで動かせたら、すごいインパクトですよね。
三宅 『DQVIII』自体が、シリーズ初のフル3Dという、グラフィック面でのインパクトを売りにしていました。ゲーム自体も、あの広い世界を走り回って冒険を楽しんでもらおう、という作りかたなので、ひさしぶりに『DQ』シリーズを遊ぶ方や、初めて遊ぶ方は、非常に入りやすいんじゃないかと思います。
──では、『DQVIII』で、いちばん注目してほしいポイントは、どこでしょうか?
藤本 スマートフォンでも変わらない『DQVIII』が遊べる、という安心感です。インターフェースはPS2版と異なりますが、『DQ』シリーズらしさは前面に出せているかなと思います。
──『DQ』シリーズらしさについて、意識された点などはありますか?
藤本 僕らはいろいろなゲームを見てきているので、「これくらい、ユーザーさんはわかるよね」と、つい作り手側の目線で見てしまいますが、堀井さん(堀井雄二氏)は毎回、初心者の気持ちでプレイされるので、打ち合わせのたびにハッとさせられますね。
三宅 スマートフォンを舞台にするにあたり、いままで一度もコントローラを握ったこともないような方々も対象になってきます。そういったユーザーさんにも違和感なくゲームに入ってもらえるよう、スムーズに冒険に出られるような流れを作りたいなと。それこそが『DQ』シリーズらしさだと思っています。
藤本 とはいえ、いま、このインタビューを読んでいる方々は、ガッチリとゲームをやる層のユーザーさんだとは思いますが(笑)。
──スマートフォン版に関して、堀井さんは全体的に監修をされているのでしょうか?
藤本 そうですね。「今日は『DQ』と『DQIV』と『DQVIII』の監修をお願いします」という感じで、ほぼ同時にお願いしています。いままでではあり得ないですが(笑)。
三宅 「このままの画面でプレイすると目がチカチカするね」というようなプレイ感までこだわっていらして(笑)。昔の作品は中間色がないのですが、最近のスマートフォンは解像度が高くて発色がいいので、きつい色に見えたりするんですよ。また、これは堀井さんとも話していたことですが、『DQ』シリーズのリメイクや移植をするとき、“ユーザーさんが気づかない”こと、“ユーザーさんがプレイした思い出に合わせて直す”ことが重要だと考えています。ちなみに、スマートフォン版『DQVIII』では、タッチの回数を減らすために、“ルーラ”のショートカットボタンや乗り物に乗るボタン、目的地までオートで走る“オートラン”を入れています。あとは、主人公もAI(人口知能)で戦わせられるので、バトルをひとつのボタンで進めることも可能です。細かく調整していますが、そういう点に気づかれないことが、いちばんいいかな(笑)。
──たとえば新キャラクターや新シナリオを追加、というようなわかりやすい部分ではなく、操作性や細かいゲームバランスにこだわっているということですね。
三宅 はい。PS2レベルのゲームがスマートフォンでそのまま動くということ自体が大きなインパクトですので、あとはそれをスムーズに遊んでいただく調整だけかなと。とくにPS2版で遊んだ方々は、「これで長時間、本当に遊べるの?」という風に、懐疑的だと思うんです。スマートフォン用にオリジナルで作ったゲームと比べても遜色がないように、可能な限り調整を行っています。
──縦持ちに決定されたのも、そういうこだわりがもとになっているのでしょうか?
藤本 UI(ユーザインタフェース)の研究のときに、いろいろなパターンを試したんです。横にしたり、両手で持ってみたり。だけど最終的には、「やっぱり縦持ちのまま“気軽にできる『DQ』シリーズ”がいいね」と落ち着きました。
三宅 電車などでスマートフォンを触っている方は多いですが、、つり革を持つと、両手で遊べないじゃないですか。ですので、いつものとおりメールを見ているかのように(笑)、『DQVIII』をプレイしてもらえればと思います。
藤本 『DQ』シリーズの戦闘は、敵が奥にいるので、縦向きのほうが合っていると思います。何よりも、操作が複雑ではないところが『DQ』シリーズのよさですし、それなら片手で遊べたほうが、当然いいですよね。
──では、気になるスマートフォン版の料金形態を教えてください。
藤本 完全なアプリ買い切り型です。最初に購入していただければ、もちろんエンディングまで遊べますし、追加でシナリオを購入、というようなことはありません。
三宅 価格設定に関しては、ユーザーさんからどのような反応がくるのか、少し不安なところもあります。アプリのランキングで、無料や100円の作品に混ざって何千円、と出てくるので、飛び抜けて高く見えると思うんですよ。ただ、“買い切り”でやろうと思ったのは、ユーザーさんがコンテンツの中身をご存じだというところが大きいですね。「『DQVIII』ならしっかり遊べるよね。それがこの値段なら、買おうかな」という判断をしてもらえると思ったので。完全オリジナルタイトルで、最初から数千円という価格をつけて買っていただくのは、さすがに相当きびしいと思います。
スマートフォン版購入は、まずはポータルアプリから
──実際にスマートフォン版『DQ』シリーズを購入する際の流れを教えてください。
三宅 買い切りで、ある程度の価格を付けたタイトルですので、若干のハードルはありますよね。でも、できるだけ多くのお客様に遊んでもらいたいので、購入の手前の段階で、『DQ』歴代ナンバリング作品が順次配信されることを知っていただくために、無料のポータルアプリを作りました。12月5日の時点では、Google PlayやApp Storeで配信されている予定で、いわゆるプッシュ通知で新情報を随時更新していきます。ですが、ただのポータルアプリだとダウンロードしてもらえないだろうと考えたので、最初だけ思い切って、500円で販売する予定の『DQI』を無料でつけちゃおうということにしました。『DQI』が無料になるのは先着100万名様限定(※)ですので、お早めに。
※11月28日より配信開始された『ドラゴンクエスト ポータルアプリ』は、配信初日で100万ダウンロードを突破。これを記念して、『DQI』の無料ダウンロードは期間制に変更され、12月10日まで無料で配信することが発表された。(現在は終了しています)
藤本 まず『DQ』シリーズがどういうものかわからない、お金を払ってまでプレイするのは気が引けるという方は、まずポータルアプリをダウンロードしてみてください。それで『DQI』を遊んでみてもらって、感触をつかんでいただければと思います。
三宅 「『DQ』シリーズってこれだったんだ」、「ホイミってこれのことか」と(笑)。逆にお聞きしたいのですが、どれぐらいの方がダウンロードしていただけると思いますか?
──少なくとも、100万ダウンロードはすぐに超えると思いますよ!
藤本 12月5日の段階では、もう先着100万名は終わっているかもしれませんね。
三宅 これを読んだら、すぐGoogle PlayやApp Storeを覗いてみてください(笑)!
──(笑)。さて、たとえば歴代ナンバリング作品をすべてダウンロードした場合、スマートフォンの容量的にはいかがでしょうか。
藤本 最新に近いスマートフォンであれば足りますよ。『DQI』~『DQVIII』をすべて足して6GB前後かと。『DQI』は30MBと小さいですが、『DQVIII』は1.6GBと、飛び抜けて膨大なデータ量になっています。
三宅 余談ですが、当初は歴代ナンバリング作品を順番通りに出すかどうかで迷ったんです。ですが、他社さんからも新しい作品はどんどん出てきますので、いちばんインパクトのあるものを、なるべく早い段階で出したいという結論に至り、『DQVIII』を最初に発表することにしたんです。それ以降は、まだ順番は決めていませんが、タイトルごとのタイミングを考慮して出そうと考えています。
──なるほど。海外展開などは視野に入れていらっしゃいますか?
藤本 もちろん、海外にも出していこうとプロジェクトを進めていますよ。アジア展開もしていこうと考えています。
コアなファンも納得のコラボ端末が発売
──さて、いよいよ12月7日に、『DQ』シリーズのコラボ端末がドコモから発売されます。改めて、本端末の魅力を教えてください。
三宅 単純にキャラクターを乗せるだけ、といったファンアイテムにはしたくなかった。こちらもゲームを作っている人間ですからね。ですので、中身の部分から関わらせていただき、コンテンツや外側の仕様を含めて、かなりガッチリやらせていただきました。本体価格が高めになってしまいましたが、その値段を払ってくださったユーザーさんにも納得していただけるような中身になっていると思います。
──『いつでも冒険ダイス』は、本端末でしか遊べないアプリなのでしょうか?
藤本 そうです。本端末のためだけに作った特製アプリなので、ほかでの配信予定もありません。本格的なゲームと言うよりも、日々の生活に合わせて、ちょっとした変化や、おもしろいことが起きるという感じです。暇な時間があると、ついスマートフォンを見ちゃうじゃないですか。そのときに何も変化がないと、少し寂しいですよね(笑)。ちょっとした変化というところもポイントで、大きな変化がドーンとあると、1週間で飽きてしまうと思ったんです。それこそ2年間くらい、微妙な変化がずっと起こり続ける……というような方向性を狙ったアプリになっています。
──ファンにとって、垂涎の一品ですね。
三宅 そうなってくれれば、非常にうれしいですね。ガッツリとゲームを遊びたい方は『DQVIII』をプレイしてもらい、あまりゲームはやらないという方でも、スマートフォンという身近なアイテムで『DQ』シリーズの世界観を楽しんでもらえると思います。
──『DQ』シリーズはキャラクターの魅力も大きいので、そういうところで手軽に楽しみたいという方も多いでしょうね。ところで、スマートフォン向け新作タイトルの『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』については、いかがですか?
三宅 いま、すごくがんばって作っています。
藤本 いま主流の『パズル&ドラゴンズ』などを好きな方々には興味を持っていただけると思いますし、モンスターを集めて、配合して、強くして……という、『ドラゴンクエストモンスターズ』シリーズならではの楽しみもあります。『ドラゴンクエストモンスターズ』シリーズのおもしろさと楽しさを、凝縮して抽出したような感じでしょうか。
──なるほど。“スーパーライト”というのは、プレイ感覚的な意味で、構えず気軽に遊べますよ、ということなんですね。
三宅 はい。ブラウザゲームの『ドラゴンクエスト モンスターパレード』、スマートフォンでのリメイク版、そしてスマートフォンに特化した新作と、それぞれのユーザーさんに合ったコンテンツを、今秋から来年にかけて、徐々に出していこうと思っています。
──『DQ』という大きなコンテンツを、PCやスマートフォンにも投入するというチャレンジャブルな展開を、早いタイミングで行われているのは、本当にすごいと思います。
三宅 そんなに早いですかね?
──軽めに展開されているところはあっても、ここまで本格的な展開というのは、なかったという印象です。
三宅 やはり、ユーザーさんの期待を考えると、変なことは絶対できないですしね。『DQ』の名を冠しているタイトルを遊んでもらって、「スマートフォンのタイトルだからこんなものか」と思われてしまってはいけない。そこはもう、ひとつひとつ全力で作っていますよ。
藤本 守りに入りすぎず、新しいことにも挑戦する、ちょうど「バッチリがんばれ」のスタンスですね(笑)。
三宅 とにかく一度やってみないと、ユーザーさんの反応は、正直わからないですしね。ユーザーさんの数もそうですし、どういった形で遊ばれるのか、過去作や『DQX』などをプレイしているユーザーさんがどう見るか。それぞれのコンテンツごとに分断された形で遊ぶのかもしれないし、各コンテンツを滞留するのかもしれない。ひと通り全部用意してみないと、そのあたりが実感できないので、全部一気にラインアップさせることにしたんです。
──たとえばですが、『DQX』などをプレイしつつ、合間にスマートフォンをいじりながら歴代ナンバリング作品もプレイする、という人も出てくるかもしれませんね。
三宅 それは、なかなか忙しいですね(笑)。
藤本 パーティーを組んで、ボス戦の時に反応が遅れると、ほかのプレイヤーから何か言われそうですね(笑)。
──とにもかくにも、スマートフォン版に対するユーザーさんの反応が楽しみですね。
三宅 楽しみですが、不安でもあります(笑)。
一同 (笑)。
三宅 いまはF2P(フリー・トゥ・プレイ)全盛期という感じで、「買い切り型はダメだろう」というような流れがあると思います。しかし、基本無料や課金という形態に加えて、しっかりと作り込まれたコンテンツを適切な価格で販売する、といった市場も育ってくれるといいなと思います。
──今後の買い切り型市場を変えてくださることに期待します。では最後に、『DQ』シリーズのファンの方々に、メッセージをお願いします。
藤本 ファンの方に対しては、お待たせしました。『DQ』シリーズの歴代作品が、スマートフォンで順次遊べるようになります。思い入れのあるタイトルはもちろん、それ以外のタイトルも堪能してください。『DQ』シリーズを触ったことがない方へは、いまはサクサク遊べるカジュアルゲームが主流ですが、壮大な冒険RPGも気軽に遊べるんですよ、というところで、これを機に『DQ』シリーズに触れてもらえるとうれしいです。
三宅 まずは遊んでみてください、ですね。あと、家庭用ゲームのほうもちゃんと作っていますので、ご安心ください。ただ、家庭用ゲームの新作は時間がかかります(笑)。そのあいだ、スマートフォン版を始め、そのほかの展開で楽しんでいただければと思います。
(11月15日 スクウェア・エニックスにて取材)