今回のゲストも超大物! はたしてどんなトークが!?

 2013年11月21日、エンターテインメント業界の各所で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“エンタテインメントの未来を考える会”の第14回が開催された。
 今回のゲストは、先日、クラウドファンディングサイトKickStarterで約4億円もの出資を集め、『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』の制作を進めているcomceptの稲船敬二氏。そして、北米でPS4の歴史的好発進とも言える抜群のロンチを成し遂げたソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイドスタジオの吉田修平氏だ。

 まさに旬のふたりを招いて行われたこの日のトークテーマは、“革新者たる所以(ゆえん)”。かたやコンソール業界の最前線で最先端のソフト開発部隊を束ねる吉田氏。かたや、大手パブリッシャーから独立し、comcept代表としてパブリッシャーと組んでの家庭用ゲーム開発や、独自のモバイル向けゲーム開発、クラウドファンディングを活用したインディーゲーム制作などを手がける稲船氏。対照的ながら、いずれもゲーム開発の最前線を走るふたりから、果たしてどんなお話が飛び出したのか……? 詳しくリポートしていこう。

“黒川塾(14)”開催 目下絶好調の稲船敬二氏と吉田修平氏が登場、“シリーズもの”ばかりになる理由、PS4の現状、その他アレコレを語る!_01
“黒川塾(14)”開催 目下絶好調の稲船敬二氏と吉田修平氏が登場、“シリーズもの”ばかりになる理由、PS4の現状、その他アレコレを語る!_02
“黒川塾(14)”開催 目下絶好調の稲船敬二氏と吉田修平氏が登場、“シリーズもの”ばかりになる理由、PS4の現状、その他アレコレを語る!_04
▲黒川文雄氏。今回もMCとして、鋭い分析を交えつつ、ゲストのふたりから多彩なトークを引き出した。
▲SCEワールドワイド・スタジオ プレジデント
▲comcept CEO/コンセプター 稲船敬二氏

ゲーム熱は世界隅々まで拡大中

 トークは、稲船氏のクラウドファンディングにまつわるお話から、世界のゲーム事情へと広がっていった。稲船氏によると、『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』では約7万人から、約4億円の出資があったそうだが、その大半は日本以外からのものだったそうだ。中心となったのはアメリカ人で、ヨーロッパ、南米、中東、アジアからも広く出資があったが、日本からのものは、アジアの中でも少ないほうだったという。

 とくに稲船氏が強調していたのは、中東からの支援が厚かったこと。吉田氏も、中東のゲーム熱が非常に高いと同意した。
 ただし、稲船氏が中東のゲームショウに招かれてバーレーンを訪れた際には、「SCEさんのブースがあって、後はコーエーテクモゲームスのブースがあっただけ」だったそうだ。稲船氏は、「まだ日本のパブリッシャーがそこまで行き届いていないけれど、でもすごく熱いです。これからもっともっと盛り上がると思う」と語る。
 吉田氏も、「PlayStation Networkでも、アラビア語が母国のユーザーさんが増えています」と語る。ただしPS3はシステムでアラビア語をサポートしていない。そこで、現地のゲームファンたちが、プレイステーションのアラビア語サポートを! ……と大キャンペーンを行ったりもされ、「私のTwitterにも、英語とアラビア語で、たくさんの書き込みがありました(笑)」(吉田氏)。

 かように、近年とくに欧米に押されっぱなしの感がある日本のゲーム業界だが、「いままではあまり見込めなかった国などでも盛り上がってきているし、世界では盛り上がっているんですよね。最近、コンソールってどうなの? と言われますが、やっぱり、まだまだ」(稲船氏)と、コンソールの可能性を語る稲船氏。「中東や南米などでは、日本のゲームに対するリスペクトがすごいんです。僕らももっとがんばってコンソールゲームを作っていかないと。いまよりも、もっと世界に向けてね。あんまり世界世界言っていると叩かれますけど、世界の稲船を目指しています(笑)」(稲船氏)と、冗談めかしながらも、世界に向けたゲーム作りの重要性を改めて強調した。

“黒川塾(14)”開催 目下絶好調の稲船敬二氏と吉田修平氏が登場、“シリーズもの”ばかりになる理由、PS4の現状、その他アレコレを語る!_05

圧倒的ロンチとなったPS4、その舞台裏は……

 さてコンソールの可能性を如実に示すトピックと言えば、北米で先日発売され、24時間で100万台の実売を達成したPS4をおいてほかにないだろう。
 吉田氏によると、「実売で100万台ですから、出荷はもっとしています。でも、(在庫の)ほとんどは、予約していて、取りに来られていない方の分しか残っていない状況ですね」と、驚異的な人気ぶりなのだそうだ。これは吉田氏を始めSCEのスタッフにとっても予想以上だったとのこと。発売日の2日後に、100万台突破のリリースが正式に発表されたが、これも「予約がアメリカで100万台を超えていたので、1週間くらいで実売が100万台に届くかな、と予想していたら、1日でした。そこで、みんなで慌ててメールをやりとりして、(100万台突破のリリースを)発表しよう、と」(吉田氏)と、舞台裏はドタバタだったのだという。
 稲船氏の「これ、ゲームハードとして最速なんじゃないですか?」との問いに、吉田氏は、「そうだと思います。私も記憶にないですね。PS2でいちばん盛り上がった年は、ブラックフライデーを含む1週間で100万台でした。後は日本の発売時で、3日で100万台でしたね。1日で、というのは初めてです」。

 また、2013年11月29日にはヨーロッパでの発売を控えているが、「需要としては、だいたいアメリカと同じくらいですね」(吉田氏)と、ヨーロッパでもPS4には大きなニーズがあるのだそうだ。

 ここまで好調だと、今後が気になるところ。しかし黒川氏の、「3月までに500万台は固いんじゃないですか?」という鋭いツッコミには、吉田氏は「そういうことは発言できません(苦笑)」と煙に巻いた。
 ただし、ここで稲船氏が「でも生産がね……。日本中が期待していますけど、北米があんまり好調なので」と、日本のゲームファンの不安を代弁したような質問をぶつけると、吉田氏からは「ちゃんと取ってあります」と力強い回答が。「生産計画が地域ごとにあって、この時期は北米向け、この時期は欧州向け、と。ちゃんと日本向けのキャパも用意されています」とうれしい情報が語られた。

“黒川塾(14)”開催 目下絶好調の稲船敬二氏と吉田修平氏が登場、“シリーズもの”ばかりになる理由、PS4の現状、その他アレコレを語る!_03

『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』に新たな動きが!?

 日本では未発売ながら、海外では絶好のスタートを切ったPS4。ハードが好調となると、やはり気になるのはソフトのほうだ。PS4用ソフトと言えば……ということで、話題は再び、約4億円の出資を集めたことにより、PS4での開発も決定した『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』のお話に。PS4での開発が確定した募集期間最終日には、吉田氏のTwitterにもたくさんのツイートが来たそうで、「リンクつきで、これをサポートしろと。私も忙しく返答しました(笑)」と、大きな反響があったのだという。
 稲船氏自身、全部のハード、全部のユーザーに届けられるということには大きなこだわりがあったそうで、4億円を達成したときには、大きな喜びを感じたそうだ。

 なお『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』はゲームファンの出資によるプロジェクトだけに、ユーザーからのリクエスト、意見は数多く寄せられているとのこと。これに対して稲船氏は、近日中にWebサイトを立ち上げて、ユーザーとコミュニケーションを取る場にするための準備を進めていることを明らかにした。

SCEがインディーに注力する理由

 そして話題は、インディーゲームのお話に。昨今SCEがインディーゲームのサポートに注力しているのはご存じの方も多いだろう。これを黒川氏は、初期のプレイステーションのころのように、業界外からでも新しいクリエイターを発掘しようとする、ある種回帰的な試みなのではないかと指摘する。
 それに対する吉田氏の回答は、「もう世の中がそうなってきているんです」というものだ。いまは世界のどこにいても、ゲームを作りさえすれば、デジタルネットワークで世界に販売することができる。かつてはインディーと言えば趣味的なニュアンスがあったが、いまはビジネスとして成り立つようになり、大成功を収める人も現れている。そこで、「若い人、学生上がりの人というより、十何年もゲームを作り続けた経験のある人が、いまなら自分の作りたい好きなものが作れる、となって、非常にクオリティーの高いものが生まれるようになっているんです」(吉田氏)というわけだ。
 また、家庭用ゲームの規模が大きくなっている昨今、投資金額が大きくなるぶん、どうしても堅いジャンルや、シリーズ物でないと企画が通りにくくなってしまうのは必然だ。そんな中で、「我々が社内で、企画書が回ってきても、絶対やらないようなことってありますよね。でも逆に、それが小さなインディペンデントのものなら、“これはうちじゃ絶対にやらないことだから、サポートしよう”となるんです」(吉田氏)。

 ちなみにインディーゲームに対する吉田氏の思想は、ファミ通.comが以前掲載したインタビュー記事に詳しい。そちらもぜひご覧いただきたい。
※【関連記事】ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオプレジデントの吉田修平氏に直撃!【TGS2013】→【コチラ

シリーズものだらけの現状、望んでいるのは……?

 欧米では毎週のように、クオリティーの高いインディーゲームがリリースされている。それを日本でも同じようにリリースされるように力を注いでいるという吉田氏。しかし黒川氏が「でもインディーは、日本ではなかなかフォーカスされませんよね」と言うように、インディーゲームが完全に浸透しているとは言えないのが実情だ。
 これに吉田氏が「日本の方は、シリーズものが好きな方が多いですよね」とコメントすると、稲船氏も、「世界と比較すると、保守的というか。みんながいいというものや、ブランドがあるものとか、そういう方向に行きやすいのは確かだと思います」と同意する。その要因として稲船氏は、「日本では、“どこが作ったのか”が重視されて、“誰が作ったか”があまり見られないんですよね。海外だと逆で、“どこが”よりも“誰が”が強い」と語る。「インディーズって3人くらいで作っていたりしますが、その作品が気に入ったら、そのつぎも、“こいつらが作ったのなら”と買ったり。そうなってほしいと思いますが、なかなか……」(稲船氏)。

 また稲船氏は、「みんな、ずーっと何年も毎年出てくるようなゲームを、まだやるじゃないですか。どのタイトルとは言いませんけど、毎年出ていて、もうこれ何作目?みたいなゲーム(笑)」と、日本のゲームファンの姿勢について言及しつつ、しかしそれは作り手の側にも問題があると指摘する。
 稲船氏が言うには、ヒット作を作ると、当然経営側、パブリッシャー側からは、「続編を作ってほしい」と要望される。ここで日本のクリエイターは、「はい、続編を作ります、となる」(稲船氏)。対して海外のクリエイターの場合は、ヒット作で会社の信頼を得たことを武器に、「俺はすごいだろう、つぎの新しいものを作らせろ、となるんです」(稲船氏)。稲船氏の主張は、ヒットしたことでわがままを言える立場になったのに、それを続編作りに費やすのはもったいない。「わかった、続編も作る。そのかわりにこれも作らせろ、と言えるはずなんですよ。確かに、成功したのに、失敗する可能性のあるものにチャレンジするのは怖いだろうし、続編を作ったほうが安全ではあるでしょうけど」(稲船氏)。

 つまり日本においては、“冒険したくない”という点で、ユーザーと(一部の)クリエイターで、ある意味、利害が一致してしまっている部分がある、ということかもしれない。このあたりの意識を変えていくのは、なかなかに難しそうだが……インディーゲームの隆盛が、この状況に変化をもたらすことを期待したいところだ。

“黒川塾(14)”開催 目下絶好調の稲船敬二氏と吉田修平氏が登場、“シリーズもの”ばかりになる理由、PS4の現状、その他アレコレを語る!_06

『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』とPS4の今後は!?

 最後に、ゲストのふたりから締めのメッセージが。まず黒川氏から、「『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』は2015年完成ということで、期間の長さや、出資した7万人の期待など、大きなプレッシャーがあると思いますが……?」と話を振られた稲船氏は、「早く作りたいという気持ちはありますが、追い立てられる感じではないです」とキッパリ。「まずは出資してくれた7万人が、100点と言ってくれる作品を作れれば合格です。これがSCEさんと作っている『ソウル・サクリファイス』だと、不特定多数、もしかしたら100万、200万という知らない人たちに向けて作っていくという手探り感がありますが、今回は7万人の声を聞いて、この人たちさえ満足すれば合格ですから。でも、やっぱり7万人だけじゃなく、その十倍二十倍に売れてほしいので、より多く満足してもらえる作品を作っていきます。そういう考えかたができるので、おもしろいゲーム作りができるな、とワクワクしています」(稲船氏)。

 そして、2014年2月22日のPS4日本発売について、SCEのソフト開発部門のトップとしてコメントを求められた吉田氏は、「準備万端です。ロンチタイトルは、現時点では19タイトルですが、マスターアップしないとわからないので、増減はあるかもしれません。でも、たくさんの日本のタイトルも、パブリッシャーさんが用意してくださっていますし、海外の人気タイトルもあって、ラインアップとしては満足できるものになりました」と自信のコメント。
 これに稲船氏が、「その一年後には『『Mighty No.9(マイティーナンバーナイン)』も出ますしね。……まぁ、ほかのハードにも出ますけど(笑)」と会場を笑わせて、イベントは閉幕となった。

“黒川塾(14)”開催 目下絶好調の稲船敬二氏と吉田修平氏が登場、“シリーズもの”ばかりになる理由、PS4の現状、その他アレコレを語る!_07