VRディスプレイ機器“Oculus Rift”を使ったアマチュアのプログラミングイベントをリポート
2013年11月9~10日、東京都渋谷区のGMO Yours!にて、VR(バーチャルリアリティ。人工現実感の意)ディスプレイ機器“Oculus Rift”を使ったアマチュアのプログラミングイベント“第1回 Oculus Game Jam ~未来のゲームはここで創られる!?”が開催された。その模様をリポートしよう。
■VRディスプレイ“Oculus Rift”とは何か?
“Oculus Rift”とは、アメリカのOculus VR社がバーチャルリアリティ技術を用いて開発した、ヘッドマウントディスプレイのこと(立体視とモーション検知に対応)。他のVR機器と違い、“Oculus Rift”はゲーム向けに特化した性能と周辺環境が整っていることが特徴。汎用部品を使うことでこの種のデバイスとしては驚きの安さ(開発向けキットが300ドル程で入手可能)を実現したこと、容易に3Dプログラミングができる次世代の開発環境として話題の“Unity”を用いて手軽に立体視のアプリケーションが作れるといったことと相まって、世界中の新しいガジェット好きを中心に、大きな話題を呼んでいる機器なのだ。
■2日間でVRを使ったゲームを作ろう!
今回開催された“Oculus Game Jam”は、会場に集まったメンバーで少数のグループを作り、この未来のデバイスを使ったゲームを2日間で作ってみるという、有志主催の制作イベント。さながらバンドのジャムセッションのように、同じ場所にいる人とチームを組みその場でゲームを作るという趣のものだ。
イベントは9日の午前、事前に参加者から募ったゲームの企画案メモをホワイトボードに書き出し、全員で「どの企画に、どの役割で参加したいか」、「どう具体的にしていくのか?」ということを話し合う、チーム結成とブレインストーミングのセッションから始まった。採用された企画=結成されたチーム数は14。そして、ほぼ2日間(夜も会場に滞在して作業が可能!)に渡るゲーム開発が始まった!
「会場でチームを組む(もちろん初対面どうしのチームも多い)」、「期間は2日」、「その場で作る」というルールなので、さまざまな形の“想定外の出来事”に出くわすことも。その都度、どのチームも「仕様を変更する」、「当初の企画案から大きく変える」というような対応でピンチを脱出(?)していたようだ。「“Oculus Rift”でいかにおもしろいことをするか」という目標があるからこそ、緊張の中にも時おり笑いが起こるいい雰囲気で開発が進む。各チームの作業場を見てみると、役割分担や、進行管理の工夫も見られて、思わず「なるほど!」と思うことも。
■各チームの成果を発表!
そして、10日の17時に開発時間が終了! 余裕のチーム、規模縮小の英断を下してどうにか修正を間に合わせたチーム、最後の最後までチューニングをしていたチーム……さまざまな顔がうかがえたが、終了直後は長丁場の検討を称える拍手に包まれた。ここからは各チームの成果を発表するプレゼンテーションの時間へ。
和気あいあいのムードで、各チームが作品を発表。「初日の企画案決定から、実際にはどうなったのか?」という結果に会場にいる全員が興味津々で見入る。中にはとんでもないアイデアで爆笑が起きたりと、各チームのクリエイティビティとスキルとネタ(?)を楽しむひとときとなった。
■遊ぶ楽しさと作る楽しさ。ゲームとの関わりの新しい形
各作品の体験会を兼ねた懇談会が始まり、会場に居た全員が作られた作品を実際に楽しんでいた。記者も試してみたが“Oculus”の立体視とモーションセンサー搭載という特性を存分に活用した作品が揃い、いかにゲームというエンターテイメントにマッチしているかが体で実感できた。(ゲームの中で)壁に激しくぶつかり、思わず声を上げて赤面したゲームもあったことをここで密かに告白しておこう……。この人工現実感ならではの別世界の感覚を、文字ではどうしても的確に伝えられないのが惜しい。
主催者の中心人物である伊藤周氏に話を聞いてみた。じつは、伊藤氏はUnity Technologies Japan合同会社所属の“Unity エバンジェリスト”。ふだんはUnityの普及活動を展開している人物なのだが、今回の“Oculus Game Jam”の趣旨は、Unityを世に伝えるということ以上に「ゲーム作りが本来持つ“楽しさ”が体験できる場を作りたかった」、「“Oculus Rift”を使ってみんなとおもしろいことがしたかった」想いが強かったという。
ゲームの大規模化、作業の高度な分業化にともない、個人が趣味でゲームを作る機会を得ることは困難になったと言われて久しいが、しかし、ここ数年でアマチュアでも参加しやすい新たな導線が広がりつつある。伊藤さん曰く「“Oculus Rift”という安価で手に入るユニークなデバイス、そしてUnityという誰でも手に入れられるツールで、いまの世代はその楽しさが昔以上に体験できるのです」という。この伊藤さんのアクションにインターネット事業を展開する企業、GMOクラウドの関係者が賛同して社内施設を借りることができたとか。
確かに、この“ドゥ・イット・ユアセルフ”感覚溢れる、遊びを自分たちで考えて実際に組み立てるというワクワク感は、取材していた記者にも強く伝わった。VRデバイスと開発環境の普及が導いた、ゲームというエンターテインメントとの新たな関わりの形。この日、渋谷に集ったアマチュアが2日間で作った14の作品には、イベントのタイトル通りの“ゲームの未来”が詰まっていた。
(取材・文 ライター/大瀬子 ヤエ)