当たるか当たらないかはともかく、議論の土台にするにはいい感じ
2013年11月5日、アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで、ゲーム開発者向けのカンファレンス“GDC Next”が開幕した。
GDC Nextは、毎年カリフォルニア州サンフランシスコで行われる本家GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)のスピンオフ版。今年が第1回目で、アプリ開発者向けのADC(APP Developers Conference)と共催の形となっており、次世代ゲームやVR/ARなどのゲーム関連の先端技術、そしてインディーゲームなど、メインストリームだけでは追い切れない、次代を担うテーマを積極的に扱う形で行われている。
初日に行われたStarr Long氏による講演“Nine Trends for the Next Decade of Video Games”は、まさにこのテーマにドンピシャの“次の10年にゲーム業界で起こるかもしれない9つのトレンド”を示したものだ。
同氏は『ウルティマオンライン』でプロジェクトディレクターを務めたほか、最近では『Shroud of the Avatar』のエグゼクティブプロデューサーに就任するなど、主にリチャード・ギャリオット氏と行動を共にしてきた人物。「自分は科学者でもリサーチャーでもないので、あくまで自分の意見」としつつ、業界20年以上のベテランが考えた未来のトレンドとは?
・マッシュアップとクロスオーバー
まず挙げたのが、デジタルとフィジカル(物理的アイテム)、そしてUGC(User Generated Content。ユーザー作成のコンテンツ)と3Dプリンターなどによる、コンテンツの融合だ。
Activisionの世界的ヒット『スカイランダーズ』シリーズや、そのフォロワーであるディズニーの『Infinity』、そして 『Angry Birds Star Wars II』のTelepodsなど、トイ製品(フィギュア)とビデオゲームが融合した製品はすでにある。
これがさらにもう一歩進み、3Dプリンターや3Dスキャナーなどと結びついて、ユーザーが実際にフィギュアを作ったりしたものが、ゲームと結びつくことが起こりえるのではないかというのが氏の考えだ。
現在は3Dプリンターは出力物の強度の点などで、まだまだ発展途上な部分があるとしつつも、マーケットの拡大や、現在行われている新素材の研究などが進むにつれて、こうしたことが現実化するのではないかと述べていた。
・インターフェース/ディスプレイ/ウェアラブルデバイスの激増と進化
「これらの進化は狂ってるほどのスピードだ」とLong氏は語る。Kinectはもちろんのこと、タッチパネルに触感を加えるハプティック技術などもあるし、水面や霧にプロジェクションを組み合わせたようなもの、Google GlassのようなARメガネ、脳波デバイスなど、プロトタイプ段階のものも多いが、新たな体験をもたらすインターフェースへの試みは多い。
これらを利用することで、ゲームクリエーターがこれまでにないユニークな経験を提供する可能性を大きく広げる可能性があるとのこと。
・より深い没入感と、よりライトなゲーム
カジュアルゲームやスマートフォン向けのライトなゲーム体験の流行が広がる中で、『グランド・セフト・オートV』の販売数が2900万本に達していることにも触れ、どちらか一方が他者を駆逐するのではなく、両者は共存できると主張。スマートフォンにせよ、PCにせよ、コンソール(家庭用ゲーム機)にせよ、「そのゲームが表現したい世界を覗くための一番よい窓”であれば成功する」と語った。
そして、(スマートフォンなどの性能の進化によって)今後はディープな体験も、よりマルチデバイスに提供できるようになるため、より(軽い体験とディープな体験を)ブレンドしたものが提供できるようになるのではないかとの考えを示した。
・どこでも、どのデバイスでもプレイ
これは前項ともつながってくる部分だが、ゲーム体験がデバイスや場所に依存しないようになる傾向がさらに進むとする。「今持っているデバイスがサポートしてないから遊べないといったことはいずれなくなる」、「人々はそれを望むようになるから(その欲求に対応しないわけにはいかなくなる)」とLong氏。
・開発者の民主化
App StoreやGoogle Playなどの直接パブリッシング可能なデジタル配信の進化、“ゲーム開発の民主化”を進めるゲームエンジンのUnityや、クラウドファンディングのKickStarterの成功などを踏まえて、ソフトウェア開発だけでなく、ハードウェア開発さえもより民主化が進むとしている(OUYAなどで既に萌芽はある)。
・ゲーミフィケーションの増大
ゲームの仕組みを教育や広告などに応用するゲーミフィケーション。こういった試みはさらに増大すると述べた上で、これは良くも悪くもなる可能性があると指摘。単にゲーム風の仕組みを入れただけのつまらないコンテンツが増大した場合、全体の質の低下により、ゲーム業界がゲーミフィケーションという重要なツールを失いかねないと警鐘を鳴らしていた。
・マネタイズモデルと価格破壊
Long氏は、カジュアルゲームやスマートフォンゲームの拡大により、誰もがゲーマーになった現在では、コストが上がるのとは裏腹に、プレイヤー1人当りの収益は下がっているとグラフで説明。
これに加えて、従来の家庭用ゲーム機のパッケージタイトルのような1本あたり50ドルや60ドルという価格は、他のホームエンターテイメントと比較しても高価であり、従来のハードコアゲーマー以外にとっては高すぎるものであると指摘し、さらに、ゲームを作る人も増えており、今後の競争はますます厳しくなると述べた。
・新たな認識
『ポータル』や『Braid』を例に挙げて、ああいった、やってみないとわからない新たな経験は、ビデオゲームによってまだまだ発見されるだろうと語った。ちなみに、例のひとつとして挙がっていた『PERSPECTIVE』はフリー公開されているので、気になる人はチェックしてみて欲しい。
・デジタル社会と複数の意味あるアイデンティティ
『League of Legends』を例に挙げて「10年前、5人のプレイヤーが2チームで戦っているのを5万人が観に行くと言われても、笑い飛ばしたろうね」と語ったほか、リビアのアメリカ大使館襲撃で亡くなったショーン・スミス氏が、『EVE ONLINE』の有名プレイヤーVile Ratとしても多くのプレイヤーに知られており、ゲーム内で死を悼む行動が広まったことなどにも言及。デジタルなアイデンティティが年々重要になっていき、時に現実よりも重要になるだろうと述べた。
いかがだったろうか? すでに進んでいるものもあるし、「そりゃあそうだろうなぁ」というものから、「そこまで行くか?」というものまで、いろいろあると思う。Long氏も冒頭で断っていたように、全部が当たると信じているわけでもない。しかし、ゲームの未来がどんなものになるのか考えるにあたって、これを叩き台にして考えていくと、いろいろ面白いのではないだろうか。