“ゲーム実況”の現在と未来を考える

“黒川塾(十参)”開催 “ゲーム実況”の登場でゲームは遊ぶものから見るものに変化したのか?_01
▲黒川文雄氏

 2013年11月1日、エンターテインメント業界の各所で活躍してきた黒川文雄氏が主催するトークイベント“エンタテインメントの未来を考える会”(黒川塾)の第13回が開催された。
 今回のテーマは“ゲーム実況者たちに訊く……”。黒川氏が今回のテーマを選んだきっかけは、先日開催された東京ゲームショウ2013での“インディーゲーム×実況”イベントのあまりの盛況ぶりから。400~500名ほどが集まり、またその人たちの関心の多くが“ゲーム実況者”に向けられていたことから、ゲームの新しい楽しみかたが生まれたと感じたのだそう。そこで今回の“黒川塾(十参)”では、ニュースサイト“ねとらぼ”の記者で、早くから“ゲーム実況”に注目していた池谷勇人氏、実況プレイヤー代表として、はるしげ氏、ガッチマン氏、実況者:ヒラ氏(最終兵器俺達)が出演し、“ゲーム実況”の過去、現在、そして未来への展望を語った。

“ゲーム実況”は昔からあった不変のもの

 最初に池谷氏から、現在一大ムーブメントとして捉えられている“ゲーム実況”についての分析が行われた。。TGSでの“インディーゲーム×実況”、ニコニコ超会議での“超ゲーム実況”、ほかにも公式のゲーム実況番組や動画プロモーション、プロ実況プレイヤーの誕生、新世代機のプレイステーション4やXbox Oneなどでも動画シェアが標準機能として搭載されることなどから、単なるニコニコ内のムーブメントだけにとどまらなくなってきていると分析。
 ただし、“ゲーム実況”の根底にあるものは、友だちの家に行ってファミコンゲームをいっしょにプレイしたり、学校でゲームについて話したり、またアーケードゲームでのギャラリーといった存在と近しいもの。それが、『ゲームセンターCX』でエンターテインメントとして認知されるようになり、さらに、PeerCast(オープンソースのストリーミング配信ソフトウェア)やニコニコ動画、ニコニコ生放送、Ustream、Twitchなど、インフラの充実が個人レベルでの動画配信を促進し、昨今のムーブメントに拍車をかけているという。なぜ“ゲーム実況”がおもしろいか、その例えとして池谷氏は、吉田戦車のマンガの有名な一コマ「やらずにすむゲームはないか?」を挙げたが、自分で遊ぶことだけがゲームのおそしろさではなく、またゲームもプログラム単体では完成していない=プレイヤーが遊んでこそ、ゲームとして完成する、ということだ。
 一方で問題点も指摘された。他人のプレイ&実況により、見ただけでそのゲームに満足してしまう人が増えたり、ネタバレの問題もある。そして、いちばんの問題は法的問題だろう。池谷氏によると、“ゲーム実況”による著作権侵害は親告罪にあたり、厳密にいうとアウトだが、現状はゲームメーカー側が黙認しているケースがほとんどで、逆に少しずつ公認する動きも出てきている。次世代機においては、動画シェア機能が標準となり、ごくふつうに動画をシェアする時代になるため、これからは、法的問題も含め、“ゲーム実況”側とゲームメーカー側との上手な付き合いかた、距離感が重要になってくるだろうとまとめた。

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▲スライドを使って、“ゲーム実況”の実情を分析。
▲左から、はるしげ氏、ガッチマン氏、実況者:ヒラ氏(最終兵器俺達)。

ゲーム実況者のタイプも千差万別

 続いては、古参のゲーム実況者である、はるしげ氏が、自身の経験も交え、歴史とゲーム実況スタイルについて分析した。
 “ゲーム実況”の創世記は2007年以前にまでさかのぼり、PeerCastでのゲーム配信など。そして2007年、ニコニコ動画にゲーム実況動画が投稿され始め、2009年ごろがニコニコ動画でいちばんのブームを迎えたという。その後、メーカー公式でのゲーム実況やプロ実況者などの新しい試みがあり、今日のブームを迎えた。
 はるしげ氏の場合は、プレイの記録をつけていることから“ゲーム実況”へ発展していったのだが、ここでガッチマン氏と実況者:ヒラ氏の、“ゲーム実況者への道”も語られた。現在は公式のゲーム実況者としてもひっぱりだこのガッチマン氏は、ホラーゲームが苦手な友人の女性に、そのゲームの魅力を伝えようとしたことがきっかけとのこと。ただ、ゲームをプレイしている動画を見せても怖がるため、何かしゃべりながらプレイすればいいと思いついた。自身の実況スタイルを“プレゼン実況”とする、ガッチマン氏らしいきっかけと言えるだろう。一方の実況者:ヒラ氏の場合は、現在彼が所属している人気ゲーム実況グループ“最終兵器俺達”のもともとのファンで、臨時で参加するなどしながら巻き込まれるような感じで“ゲーム実況”を始めることになり、いまや「かわいい系」(はるしげ氏)として人気を誇るようになった。
 はるしげ氏が考える“ゲーム実況”のおもしろさは、「プレイしている人自体がおもしろい、かっこいい、かわいい」、「もともとのゲーム自体がおもしろい」、「プレイ内容がおもしろい」、「プレイログとして残ることによる物語性」、「一視聴者のコメントでおもしろさが広がる」などが挙げられ、これらの要素が複数絡み合うことで、よりその実況がおもしろくなる。また、“ゲーム実況”のタイプとしては、大きくつぎのような3タイプに分けられると分析。
<ゲーム実況タイプ:タレント型>
・実況者自体に魅力があり、話す内容やリアクションががおもしろかったりするタイプ。
<ゲーム実況タイプ:紹介・解説型>
・おもしろいゲームの紹介や、攻略方法ややり込み方法など、ゲームの魅力を伝えるタイプ。
<ゲーム実況タイプ:企画型>
・“縛りプレイ”や特殊な条件などの変わったプレイ方法で、テレビ番組のようなおもしろさを見せるタイプ。

 そして、“ゲーム実況”の今後について好例の企画として、プレイステーション3版『テラリア』の先行プレイ企画でのゲーム実況を挙げた。これは、スパイク・チュンソフトが行ったプロモーションで、ゲーム発売前にプレイ動画を投稿してくれるプレイヤーを募集し、ダウンロードコードを配布、発売日当日にプレイ動画をアップしてもらうというもので、当日にアップされた動画は10本ほどだったものの、ゲームのおもしろさは確実に伝わり、最終的に『テラリア』関連のプレイ動画は1000本近くになったという。

“ゲーム実況”とメーカーとの付き合いかたは変わるはず

 ここまでの内容を受け、黒川氏が挙げた“ゲーム実況”的なプロモーションの例が、映画のテレビCM。最近の傾向として、ダイジェスト映像に試写会等での来場者のコメントを加えるという手法で、単なるハイライトムービー以上に説得力があると説明。さらに、任天堂のテレビCMの作りかたも“ゲーム実況”的なもので、タレントや有名人、またはごくふつうの家族が楽しそうに任天堂のゲーム機やタイトルをプレイすることで、視聴者が共感を覚えていると、映画やゲームのプロモーションでならした黒川氏らしい解説があった。
 実況者の3人からは、ゲーム実況動画を作るときの注意点が話された。例えば、発売されたばかりの新作はプレイしない、テキストアドベンチャーは避ける(メーカー側から実際に訴えられたケースがあったそう)、ネタバレは避ける、といったもので、これらはとくに規定されているものではないが、ゲーム実況者の心得・マナーとして、根付いているものだという。また、ガッチマン氏のように、導入や盛り上がり部分を考えて入れるなどの構成をあらかじめ考える人も多く、そのために何度も撮り直すこともザラだそうだ。
 “ゲーム実況”の未来像については、全員「なくなることはない」という意見で一致したものの、このままでは、いずれ有名人やしゃべりのうまいタレントにとって変わられるという危機感も抱いていて、現在はなにをしたらいいかと試案・施策している段階。メーカーとの付き合いかたについては、これまでは「ゲームを使わせてもらっているにも関わらず、実況側には排他的なところもあった」(ガッチマン氏)そうで、独立性を維持しつつ、メーカーとの協力体制も考えなければならない時期なのかもしれない。
 黒川氏によると、「いつもの来場者より、明らかに年齢層も下がったし、女性も増えた。それだけゲーム実況者の人気は高い」。一大ムーブメントでもあり、岐路に立っているともいえる“ゲーム実況”が、今度どうなっていくのか、注視したいところだ。

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