インディーズゲームについて深く語り合う
2013年10月20日、注目の新鋭同人ゲーム作家から、さまざまな形態のゲーム開発現場に携わってきたベテランゲームクリエイターが一堂に会してゲーム製作談義をくり広げるイベント“インディーズゲーム・トークライブ番外編「東京ゲームショウの続きやります!」”が、お台場のイベントハウス・東京カルチャーカルチャーにて行われた。
本イベントは、言うなれば東京ゲームショウ2013の一般公開日(9月21~22日)に行われたイベント“インディーズゲームフェス2013”内の1コーナー“開発者トーク”の仕切り直し版である。
新作アクションゲーム『Mighty No.9』の開発資金調達を“Kickstarter”で行い大成功を収めたcomceptの稲船敬二氏、スマートフォン用ゲームアプリ開発会社の大手・コロプラの創業者、馬場功淳氏といった、いまをときめくビッグネームを交えて行われた“開発者トーク”だが、40分という制限時間内では収まりきらず、最終的にはホール内に響き渡る“蛍の光”に音声をかき消されながらの進行となった。
“インディーズゲームフェス2013”を主催したユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏にとって、今回の“番外編”はもっとトークを聞きたかった人たちへのアフターサービスであり、自身のリベンジの機会でもあるのだろう。
当日の参加ゲストは、大前氏を含む10人。“インディーズゲームフェス2013”ではたびたびステージに上がったもののトークには参加しなかった、人気同人サークル“上海アリス幻樂団”のZUN氏も加わった。
トークイベント参加ゲスト
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン代表。プログラマーとして『アーマードコア4』『 Demon's Soul』などの開発に携わった。
ゲーム開発会社アクワイア社長。代表作に『立体忍者活劇 天誅』シリーズ、『勇者のくせになまいきだ』シリーズなど。
ゲーム開発会社ビサイド社長。代表作に『どこでもいっしょ』『週刊トロ・ステーション』など。
チーム・グランドスラム所属のゲーム作家。代表作に『アクアノートの休日』『巨人のドシン』など。現在製作中の『モンケン』では企画、仕様設計を担当。
インディーズゲームメーカー「NIGORO」代表。代表作に、2Dアクションゲーム『LA-MULANA』。プロデュース、ディレクションのみならず、グラフィック面全般を手掛ける。
同人サークル上海アリス幻樂団代表。弾幕シューティングゲームである『東方』シリーズの製作をすべてひとりで手掛けている。お酒が大好き。
某ゲーム会社を退社し、同人サークルえーでるわいすを設立。現在シューティングゲーム『アスタブリード』を鋭意製作中。
シューティングゲーム『∀kashicverse』を製作した同人サークル、エンドレスシラフのメインスタッフにして、現役の大学生。
オニオンゲームス代表のゲームクリエイター。代表作に『moon』『チュウリップ』など。現在、ゲーム談義を中心とした生放送番組『ポリポリ☆クラブ』をUSTREAMにて配信中。
トークテーマその1 “僕らのゲームをお客さんに届ける方法 ~結局、ゲーム実況は宣伝になるの?~”
まずは、“インディーズゲームフェス2013”で試みられた、ニコニコ動画の人気実況主によるインディーズゲーム実況プレイステージについて、オニオンゲームスの木村祥朗氏からやや厳しめの感想が。イベント時、ステージ脇の特設ブース“ZUNの部屋”にてZUN氏と実況トークをしていた木村氏は、ステージ前に押し寄せた観客の盛り上がりを目の当たりにし、実況主のファンとインディーズゲームファンの乖離を痛感したという。
■“インディーズゲームフェス2013”より。イベントステージと人気ゲーム実況主用の実況ブース、世界から集まった総勢41のインディーズゲームディベロッパーの出展ブースが設けられ、それぞれ盛況を見せていた。ステージでプレイされたインディーズゲームは出展ブースでプレイ可能……というのがウリ(?)だったが、実際はステージイベントをいい場所で観続けたい観客が動かず、理想的な人の流れができたとは言い難かった。
「インディーズゲーム実況を楽しんだ人たちが、そこでプレイされていたゲームを買うのか? そもそもどこで買えるかわかっているのか? といったように、イベント全体を一括りにした時、繋がっていない感がある」(木村氏)という指摘に対し、大前氏は「いままで僕らのお客さんになかったタイプの人たちが来てくれたのはよかった」と前置きした上で、作り手からユーザーに近づいていく姿勢の重要さを訴えた。
木村氏のような意見がある一方で、NIGOROの楢村氏のように「バナー広告を貼ってもらうよりPVが40000ある実況主にプレイしてもらった方が宣伝効果がある」と、ゲーム実況の“恩恵”を実感したクリエイターも。チームモンケンの飯田和敏氏は、2009年にリリースしたWii Ware用ゲーム『ディシプリン*帝国の誕生』の、発売前にエンディングまで見せてしまう公認実況プレイ動画の配信騒動を振り返りながら、「権利問題などあって社会的に大っぴらに認められる手段とはいえないが、多くの人に知ってもらう手段として(ゲーム実況は)有効」と語った。
ビサイドの南治一徳氏からは「むしろ実況されることを前提としたゲーム作りも考えられるのでは」との意見も。インディーズ規模ではなかなか難しいことだが、楢村氏は、プレイヤーが攻略ヒントをネット上で得ることを前提に自社ゲームの難易度を難しめに調整したところ、結果的に実況プレイ向きのゲームになった例を明かした。
ゲームをどうやってユーザーに届けるか? という談義の中で印象的だったのは「そもそもゲームを遊べるスキルを持っている人自体、それほど多くないのでは」という大前氏の指摘。シューティングなど、一部のコアなファンしかゲーム本来の楽しみを享受できないジャンルほどそうした傾向が顕著で、えーでるわいすのなる氏も「あくまでも同人ゲームファンの規模で“より多くの人”に遊んでほしい」と、控えめなトーンで目標を語っていた。作り手の「自分自身が納得いくゲームを作りたい」という気持ちと、「より多くの人に遊んでほしい」という気持ちのジレンマ。これを解消する環境作りがインディーズゲームの命題であることが浮き彫りとなった。
トークテーマその2 “お金と人と時間のお話 ~理想のゲーム開発体制とは?~”
「ゲームってどう作るのがいいの?」というストレートな切り口で、それぞれの立場でベストだと思う開発体制について語られた。
アクワイアの遠藤氏は「いいものを作るには人がいる。人がいるからお金は必要だねってのが現実。まず会社を商業として成り立たないといいものは作れない」と経営者寄りの意見を述べるに留まったが、会社に所属し、さまざまな体制でのゲーム製作に携わったゲストの多くは、5~10人程度の小規模なチームに魅力を感じていることを明かした。
南冶氏
「半年の製作期間で、7~8人で作るのが理想ですね。ひとりはしんどい。会話のキャッチボールの中でゲームがよくなっていく感じが好きですね」
飯田氏
「僕も6人くらい。時間もお金も、あればあるほどいいです。その代わり、お金の管理は誰かにしっかりしてほしいですね」
木村氏
「ゲームを作る時、最初は何がおもしろいかに集中している。それをどう作ろうかという話になった時に、せいぜい10人くらいだと分担をぱんぱんと割り振れるんです。ところが人数が増えると、管理しなければならなくなる。管理の手間でどれだけゲームのクオリティーが上がるかというと、微妙だなと」
木村氏はまた、チームが大きくなることで「ゲームを作りたいのか作りたくないのかよくわからない、もや~っとした人が増えてくる」と語った。100人規模のHDゲーム製作現場を経験した末にたどり着いたのが「ドット絵で3人くらいで作ろうという状態(木村氏)」という点が、実に興味深い。
3人の仲間と設立した会社でインディーズゲームを製作する楢村氏は、作りたいものを作ることと利益を出すことの板挟みの中、理想の開発体制を模索中とのこと。
「性格的にはひとりで全部やりたいんですけど、プログラムをやってなかったので、プログラマーがいないとただの黒歴史ノートを書き続ける人になってしまう(笑)。いまの状態はやりたいことをやるために必要なチーム編成ですが、その一方でスタッフひとりひとりの生活もあるし、儲けなければという気持ちもあります。どうすればこれまでの方法を上回る開発体制にできるか、それ自体も楽しんでいるところです(楢村氏)」
その点、同人というフィールドで作品を発表しているゲストたちの姿勢に迷いはない。
なる氏
「同人の場合、自分たちで作れるものは自分たちで終わらせるのが基本的な考えかたです。本当は1本半年くらいで完成させたいけど、前のゲームが3年半で、いまのゲームが2年半かかってます」
Nicolai&hart氏(エンドレスシラフ)
「僕らはまだ学生なので、時間だけはあります。大学のほかのゲーム製作サークルの仲間と協力するのもいい経験になっています。何事も経験重視ですね」
ZUN氏に至っては、「ゲームはひとりで作るのがいいよ」と会場の誰もが予想できた前置きをした上で、「クオリティーを犠牲にしてもひとりで作りたい。自分が最低限出したいところまで出せればいいんです」と持論を展開した。お金、技術、チームワーク……ないものはないと自覚した上で「自分が作りたいものを作る」という意思を貫けるかが同人ゲームの強みであり、特有の魅力だ。
トークテーマその3 “僕らは何故ゲームを作るのか!?”
最後は、会場に集まったお客さんの質問アンケートに答えつつ、各ゲストがゲームを作り続けられる理由を語り合った。
遠藤氏
「自分は天職だと思ってゲーム作りをやっています。作っている最中は辛いですけど、できた時の快感が、次に繋がる原動力ですね」
南治氏
「僕はこれを作りたい、というよりは、作っている時が楽しいタイプです。「うまくピースがはまって最高!」っていう瞬間は結構ありますね」
飯田氏
「RPGとかクリアーすると“俺すごいな”って気持ちになるじゃないですか。操作しているゲームキャラがというよりは、俺がすごいんだと。この感覚、知らない人はかわいそうだよね(笑)。それは錯覚かもしれないけど、自分に対する絶対的な肯定感を得られるカルチャーは、ゲーム以外にはありえない。その感動の延長でゲームを作っているから、やめられないですね。ゲームを作っていて良かったのは、『ゼビウス』の作者の遠藤雅伸さんなど、憧れていた人と会えたことです。これからも尊敬している人と会うためにも、自分も尊敬されるゲームを作り続けたいですね」
ZUN氏
「僕は今回、インディーズゲームって括りでは話してなくて、立ち位置はあくまで同人ゲームなんです。ゲームを作りたいって動機は、本当に「作りたい」だけしかない。こういうゲームがあったらいいっていうのを本当に作ってしまうのが我々なんです。それで結果的にお金が儲かってもいいわけですが、お金のために同人ゲームを作っている人は少ないと思います」
楢村氏
「僕が美術大学にいた時は、ちょうどパソコンが導入されてインタラクティブデザインがどうとか言われていたころで。クリックすると違う画面が出て“すげーだろ”って講義で言われても、ゲームのほうが全然進んでいるじゃないかって思っていました。そんな大学生時代に出会ったのが『ロマンシング サ・ガ2』。夜中、ひとり暮らしの部屋で七英雄を倒した直後、立ち上がってガッツポーズした時に、ビジネスとかデザインうんぬんじゃなくて心を直接動かすものがゲームにあるなと思いました。現在もいろんな仕事をしていますが、ゲーム作りの時が一番自分の力を発揮できますね」
なる氏
「完成したゲームを公開することが嬉しいんです。僕はゲームを作る以外のことを全部捨ててきたので、ゲーム製作以外に存在価値が何もない。作っている時ははっきり言ってしんどいだけですが、しんどければしんどいほど価値があると思っています」
Nicolaii氏
「小学生の時は、ノートによくわかんないルールのすごろくを作ってクラスメートにやらせていました。そういうのが、いまのゲーム作りの原点になっています。大学に入って東方シリーズに出会って、こういうゲームを作れたらいいなというところからゲーム製作を始めたんですけど、いろんな反応が返ってきたのは嬉しかったですね」
木村氏
「ゲームを作る過程がおもしろい。なのに、終わった時には二度とやりたくないくらい苦しい経験になっている。そこを往復している感じですね。自分の心の中を整理していると、中学時代のプログラム体験までさかのぼるんです。アルファベットの“A”が移動するプログラムを最初に作った時の、生き物を造ったような喜びが原体験になってますね」
過去の強烈なゲーム体験を追い続ける、ゲームを作りたいという気持ちに素直に従う……など動機づけはさまざまだが、ゲスト全員に共通していたのは、ゲーム製作は何か他の目的のための手段ではなく、それ自体に意味がある行為だということ。
実際、テレビゲームと人生を密接に重ねた発言は、イベント全編を通してさまざまなゲストから飛び出した。
「会社を辞めたきっかけは、一緒にゲームを作る仲間ができたこと。これならいけると思った半面、いけなかったらもういいや、死のうと(なる氏)」
「僕は『テトリス』が好きだったんですけど、大学でのテストが始まる直前に、いままでで一番いいプレイができていた。そこでプレイをやめてテストを受けるという選択ができなかったですね。その後いろいろ苦労しましたけど、後悔はしていません(飯田氏)」
「作るのも遊ぶのもゲームしかない。同人ゲームを作っている人はそういう人が多いんです(ZUN氏)」
「いま自分がいいなと感じているものは、皆ゲームのおかげだと思っています。ひとりでゲームを作ることは孤独です。ゲームを完成させないと、人と作り上げる関係が一切ない。人と触れ合った瞬間、ゲームを作って良かったって思いますね(同)」
「いま作っているゲームは、これまでに手掛けたどのゲームよりも小さい。でも、他の仕事をしながらやってるので、時間は非常にかかっている。これは俺に課せられた謎のハードルで、すごく大変だなと思っているけど、同時にすごくおもしろがっているんだなと(木村氏)」
これらは度が過ぎた“ゲーム馬鹿”だからこその、非現実的なコメントなのだろうか。私はそうは思わない。インディーズゲームの枠内からはやや外れたフィールドでゲーム製作をしている遠藤氏は、トークライブ中はあまり積極的に発言する場面はなかったが、イベントの最後にこんなことを言った。
「今日のイベントで“人生がゲームだ”って話が出たけど、実は僕も中学の時にそう思ったんです。ゲーム作り以外のこともゲームだと思って取り組んだら楽しいんじゃないかと」
エンターテイメントやホビーのいちジャンルとしてだけではなく、“自身の人生の捉え方のひとつ”としてゲームと向かいあった時、目の前にどんな世界が広がっているのか──今回のトークイベントは、それらを垣間見ることができる、非常に意義深いものだった。
イベント終了後の大前広樹氏へのインタビュー 「ゲームを作って生きていくことの意味を共有していきたい」
──“インディーズフェス2013”、そして今回の番外編を企画・主催した狙いは?
大前氏 気鋭のインディーズゲーム制作者を「この人たちが新しいスターだよ」と認知させたかったのが、もともとの動機です。ここ10年くらいの東京ゲームショウって、ステージに上がる開発者がだいたい一緒じゃないですか(笑)。そこに新しい人たちを送り込みたかったんです。じゃあどういう風に見せればスターと認知されるか。稲船さんのようなすでにスターな方と同じステージに並べばいいのでは……ということで、あのような形になりました。
── “インディーズゲームフェス”の開発者トークでは、稲船さんが「みんなで力を合わせてインディーズを盛り上げて、でっかいやつに勝ちましょう」と仰っていました。こうした活動には、“インディーズゲーム”といういち勢力を確立する意図もあるのでしょうか?
大前氏 そういった業界戦略的なことは考えていないですね。僕らの会社(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)の目的は「誰でもゲームが作れる世の中にすること」なんですけど、これからゲームを作りたい人にとって、現在メディアに登場するゲームクリエイターは遠過ぎて、目指す対象にならないんじゃないかと思うんです。映画にたとえれば、フランシス・コッポラが新作会見をやっても映画を撮ってみたくなる人はいないでしょっていう(笑)。もっと手前の、「小島(秀夫)監督は無理だけど、楢村さんみたいにならなれるかも」という感じになってほしいですね。
──前回そして今回と、参加したクリエイターの方々の経歴は幅広く、“インディーズゲーム開発者”とひと括りできないのでは、という顔ぶれでした。そのあたりの微妙な違和感が、今回のZUNさんの「インディーズゲームという言葉を使っている人は、同人ゲームと呼ばれたくないだけなのではないか」という発言に繋がったように思います。
大前氏 僕も同人活動に参加したことがあるんですけど、同人とインディーズの違いって、オフラインのイベント中心の活動を大切に考えるか、オンライン中心にお客さんを考えるかというマーケットの話でしかないと思っています。僕自身のインディーズゲームの定義は、マーケットがどういうゲームを望んでいるかではなく、「僕はこういうゲームが作りたい」というところから企画され、できた作品からそういうゲームが好きでしょうがない思いが溢れているものです。そこに合致するゲームを作っている人だったらみんな呼んじゃえということで、あえてZUNさんやなるさんたちにもお声かけしました。
──同人ゲーム対インディーズゲーム、ではなく、インディーズゲームという概念の中に同人ゲームも含まれている……というイメージでしょうか。
大前氏 そうですね。同人ゲームは“同人マーケット”という固定化された独自マーケットとの結びつきが強いですが、インディーズゲームはもう少しふわふわした定義で使われていいと思っています。
──今後こういったイベントは?
大前氏 やります。やりますし、いろんな角度でゲーム開発者の方々を支援していきます。11月にはユニティのインディーズゲーム開発プログラムを始めますし、地方イベントもたくさんやります。「ゲームを作って生きていくってどういうことだろう?」というテーマを共有していくことも含めて、皆さんのお手伝いをしたいなと思っています!
(取材・文/ライター:戸塚伎一)